第六十六話 断罪
バタバタバタバタッ!
王都上空に、再びニンジャの羽ばたき音が鳴り響く。これに道行く人々は、一時上空に注目し、何故か一斉に歓喜の声を上げた。そして次々と、人々が王城の元へと走り込んでいく。
王城内の宮殿に、ニンジャが着陸する。ヘリの羽音が聞こえた辺りで、彼らの帰還を知った者達が、一斉にその離着陸場所に使っていた庭園に集まっていた。
ニンジャに乗っていたのは、前後部座席に真澄とラチル。そして何故か勝太郎は、ヘリの尻尾の部分に、蝉のようにしがみついている。まさかここまで、ずっとしがみついて来たのであろうか? 勝太郎だからこそできる、何という荒技の搭乗方法であろう。
降りてきた一行を、ルチルが聖者達を代表するように、駆け寄ってきた。
「皆さんお帰りなさいませ! 勝太郎さんもご無事で良かったです! ・・・・・・しかし何故そんなところに?」
「いや操縦席の中が狭すぎてな。だったら俺はこっちに引っ付いた方が楽かと思ってこうしたんだが」
二人乗りの狭い操縦席に無理矢理乗りこむよりも、外で機体表面にしがみついて飛ぶ方が、ずっと肉体的疲労度が大きいのでは?と、その場の誰もが思ったが、ここはあえて誰も追及しない。
勝太郎達に労いの言葉をかける前に、いきなりラファエルが話しに割って入ってくる。
「あなたが勝太郎様ですか!? お急ぎお頼みしたいことが・・・・・・」
「うん? お前は誰だ?」
「失礼、私はディーク神聖王国元宰相のラファエルと申します。以後お見知りおきを・・・・・・」
「・・・・・・宰相だと?」
随分と慌てた口調で、急いだ口調で自己紹介するラファエル。そしてその自己紹介を、勝太郎は不快そうに・・・・・・いや明確な怒りの感情を向けて聞いていた。
「宰相が俺に何の用だよ? お前に頼まれる事なんてないぞ?」
「えっ、いえ・・・・・・実はこの王都が少々厄介なことになってまして、早いところここから脱出した方が良いと。それで是非勝太郎様の、転移魔法の力をお借りしたく・・・・・・」
「うん? 何があった?」
ラファエルとは話しなどしたくない様子の勝太郎は、彼からはすぐに顔向きを変えて、ルチルに問いかける。ルチルの方はと言うと、こちらも困った様子であった。
「それが・・・・・・この王都に諸国の討伐軍が迫っていることが知れ渡ってしまったんです。しかもどこから洩れたのか、聖王が殺されたことと教皇が逃げたことも・・・・・・。その話で、この王都の民達が大混乱してるんです」
「大混乱? 俺は空から王都の上を通ったが、そんなことあったか?」
「あったよ。お前には見えてなかっただろうが、街のあちこちから火の手が上がって、戦でも起きてるみたいだったよ」
真澄も悩ましげに応える。勝太郎には光が見えないし、ヘリの音と風で、街の混乱など何も判っていなかったが。今現在、この王都は暴徒と化した民が、各地で派手な祭りをしている最中だ。
教会や軍施設なども襲われて、この夜空の上で、綺麗で大きな焚き火の場となっている。食糧を手に入れようと、各商店や倉庫を襲う者。街から脱走しようとして、城門で兵士達と衝突する者もいる。
これらは以前ピッグの街で見た混乱とは、比較にならない騒ぎである。この話を聞いて、勝太郎も随分と困ったように息を吐いた。
「まいったなこんな事態になるとは・・・・・・まあ討伐軍を追い払ったからって、どうにかなるわけでもないだろうが・・・・・・。教皇の居場所は分からないのか? 聖王がいないなら、そいつを捕まえて、民に訴えさせる手は?」
「無理ですよ。教皇の居場所は知れないし、判ったとしてもあの人が役に立つとは思えません。民はもう完全にロア教を見限ってますし、教皇の方も危険を冒してこの事態を抑えようと考えてはいません。無理矢理突き出しても、ただ泣き叫んで民の前で命乞いをするだけでしょうね」
そう教皇の話しをしてきたのは、この場にルチルと共に集まった聖者の一人であった。聖者達はもう、大分落ち着いたようで、教皇の話しも随分と冷静に聞いている。
人目見れば聖者達と判るこの一同。だが勝太郎には、見た目では何者か判らないようだ。
「お前は何者だ? まさか貴族院の奴らか?」
何者か判らない、この場に集まった多勢の人物に、勝太郎はラファエル同様に、敵意を感じる声で問いかける。その威圧的な口調に、聖者達もやや身じろぎした。これにルチルが慌てて、説明を入れる。
「違います勝太郎さん! この人は私達と同じ聖者です。さっき色々あって、皆もうこの国の虚構を知りましたから。貴族院の方々なら、私達が攻め込んだ後で、皆姿が見えなかったので、多分城の外に逃げたのかと・・・・・・」
「ああ、そうか・・・・・・すまんな疑って。てことはこれで、ラチルからの頼みは解消か・・・・・・」
ルチルの説明に、即座に警戒を解く勝太郎。安堵の息と共に出てきたのは、これで彼らを天勝寺に送り届ければ、最初のラチルの頼み=聖者達を救い出す、という目的が完全に達成される現状であった。
「ただ問題なのは、例の討伐軍なんだよな。まず聖者達を先に救出するとして、この王都をどう守るかだが・・・・・・」
「えっ? 勝太郎さん、あの討伐軍追い払うのはやめたんじゃ?」
「おいおい・・・・・・誰がそんな事言ったよ?」
「でもあの大翔って男と、戦うの止めてこっちに来たじゃない・・・・・・」
「まあ、確かに俺も一時期諦めかけたが、だが最後にカーミラが言ったことが、どうしても引っかかってな。ラチルお前は・・・・・・」
勝太郎とラチルが、討伐軍に対して、手を引くか否かの話しをしているとき、ラファエルが何やら急かすように話しかけてくる。
「そんなことはいいですから、早くここからアマテラスまで逃げましょう! 民衆達もいつこの王城に乗りこんでくるか判りませんよ!」
「うん、まあそうだが・・・・・・何でお前がそれを言ってくるんだ? 別にお前を連れて行く気はないぞ」
勝太郎が当たり前のようにいった言葉は、ラファエルにとっては実に衝撃的な、とてつもない発言であった。彼にとっての救いが道が、完全になくなったのである。
「ちょちょちょ・・・・・・ちょっと待って下さい! 何で私だけ!?」
「俺が助けると約束したのは聖者だけだ。そもそもお前・・・・・・別に今まで、教会と王政府に騙されてたわけじゃないだろう? この腐った政府の中で、今まで侵略と植民地の圧政に、荷担して奴を、何故助けにゃならん?」
これにはラファエルも言葉に詰まる。その言葉通り、彼はもう10年前から、この王政府に仕え、他国の迫害にそれなりに関わってきた。それまでのこの国の蛮行に、特に反感などを持っていたわけでもない。
「いえ、そういうわけでは・・・・・・でも私だって、今までのことは、きちんと反省してるんですよ! だから聖者の皆様を助けるために、それなりに働いて・・・・・・」
「ただ反省するだけで全てが済まされるほど、お前らの罪は重くないんだよ。自分が弱い立場になったからって、掌返して被害者ぶるんじゃないよ。お前らみたいなゴミの存在のせいで、どれだけの犠牲が出たと思ってるんだ? 果たしてお前には、そいつらに全てを返せる力があるってのか?」
特に因縁があるわけでもないのに、勝太郎のラファエルに対する、敵意と憎悪の感情は凄まじい。ディークのこれまでの蛮行は、これまでも何度も聞いていたが、彼の独自の正義感だろうか?
聖王がいない今、彼のこの国への敵意の感情は、全てこの若き宰相に向けられているようだ。そしてその様子に、真澄たちも聖者達も、これといって反感を抱くことなく、黙って様子を見ていた。
「ていうか逃げるって言ってるけどさ。暴徒からお前らの為に、この王城を守ってくれてる兵士達はどうする気だよ? まさかそいつらを置き去りにして、自分だけ逃げる気じゃないだろうな?」
「えっ、いえそのつもりでしたけど・・・・・・たかが兵士達ぐらい、そんな気にかけることなんて・・・・・・」
「ふざけるなよ! 結局自分の為に、他人を平気で犠牲にする屑じゃないか! それのどこが反省してるってんだ!? 結局ただ利用するだけの相手が、国外から国内に変わってるだけじゃねえかよ!」
突然人道説教され初めたラファエル。このまま彼に取り入って付いていけば、自身の安全は保障されると思ったら、まさかの事態に混迷しきっていた。
「そっ、それじゃあ私はどうすれば?」
「どうにかしたいと思ってるなら、この場で死ね。おい、誰か銃かナイフを持ってないか? こいつが償いたいと言ってるから、何でもいいから死ねる道具をくれ」
「しっ、死ぬ!? いや、そんな・・・・・・冗談でしょう!?」
「冗談なもんかよ。じゃあ代わりに、俺が介錯をしてやろうか? この手で、その首をへし折って・・・・・・」
勝太郎の手がラファエルの首に伸びてくる。彼の放つ殺気は、どう見ても冗談には見えない物だった。それを見て、少々やばい物を感じたのか、ルチルが手が動き出した。
「ちょっと本気ですか!? そんな無茶苦茶な!? ちょっとやめ・・・・・・他の償いなら、いくらでもしますから、お金なら城の金庫から・・・・・・がふっ!?」
「無茶苦茶なもんかよ。どれだけ金を出そうが、失った命は帰ってこないんだ。人を殺した罪は、きちんと死んでおかないと、償えないんだよ! 現に俺は、そのために一度自殺してみせたんだからな!」
「ちょっと止めて下さい勝太郎さん! さすがにそれ以上は駄目です!」
ラファエルの首を握りつぶしかける勝太郎の手に、ルチルが必死でしがみついて、その動きを静止する。それを見て、勝太郎の手が緩む。それにラファエルは、息苦しくしながらも、一時安堵するが・・・・・・
「命をとるやり方は駄目だってのか? そんな綺麗事・・・・・・」
「そんな事言いませんよ! 私もこの人には、是非死んで貰うべきだと思います・・・・・・。でも今ここで、直接因縁があるわけでもない、勝太郎さんが引導を渡すのは駄目だと思うんです! どうせなら、今外で暴れている国民達か、もしくは討伐軍の方に任せて、思いっきり世間に晒し者させて、もっともっと苦しんでから、死んで貰うべきだと私は思います! それがこの方にできる、ただ一つの償いの方法かと・・・・・・」
「ちょっと助けてくれるんじゃ・・・・・・?」
結構怖いことを、全く迷いなく、純心で真面目な表情で語るルチル。これにはラチルは爆笑しかけて腹を押さえ、真澄と聖者達は何やら引き攣った笑顔を見せていた。
「そうか・・・・・・じゃあこいつの他に、貴族院と聖王の側室も捕まえて、討伐軍に突き出してみるか? それであいつらの怒りが収まればいいが・・・・・・」
「あっ、ラファエルが逃げたぞ」
パン!
彼らは自分にとっての救世主でないと知ったラファエルが、大急ぎでどこぞへ逃げようとしたところ、真澄がゲンイチを拳銃に変身させた。
周囲に暴徒の元気な声が響く中、王城内には一発の銃声が綺麗に鳴り響いた。




