第六十四話 巨人対大翔
(何だよ、あの金属の巨人? ゴーレム・・・・・・にしては何か変だな。変身とかするし。いやそもそもあれは敵なのか?)
現代人ならば、あの姿を見れば、真っ先にロボットという感想を抱くだろう。だがやはり大翔は、SF系の絵や写真を見たことがないのか、それが機械の人形(正確には魔法によるコピー物体)という認識がないらしい。
彼は歩み出て、動揺して尻込みする兵士達の前に出る。真っ先にあのロボットと、対峙するつもりだ。そして塔のロボットからは動きはなく、その代わりに拡声した真澄の声が鳴り響く。
『私はアマテラスのサムライで、縁あって今王都の者達と関わっている者だ! ここに勝太郎という鶏人の子供が囚われているはずだ! そいつをこっちに渡して欲しい! 後ついでに、お前達には軍をこの国から退いて欲しい!』
ロボットが喋ったことで、ますます軍が動揺している中で、大翔が全く恐れず、つかつかと近寄ってくる。
彼の勇敢な行動を兵士達が賞賛する中、大翔とロボットに乗る真澄が、正面から対峙した。
「何だよお前は? アマテラスのサムライ? 西の大陸じゃ、お前みたいなでかい人間が住んでるのか? ちょっと聞いた話しと違うんだが・・・・・・」
『私が大きいんじゃない。私が乗ってる、この乗り物が大きいんだ』
操縦席の蓋を開けて、大翔に姿を現す真澄。最初は困惑していた大翔も、この巨人=乗り物と認識して納得する。
「あなた誰? 勝太郎さんと似てるけど・・・・・・あなたが大翔?」
ロボットの足下近くで、初めて大翔の姿を見たラチルが、そう問いかける。この勝太郎と似ているようで、色んな部分が違う少年の姿に、若干だが驚いているようだ。
ラチルに続くような形で、真澄の方が相手が応える前に、操縦席から見下ろす形で、次の質問をしてきた。
「お前が大翔で間違いないようだが・・・・・・やはりお前も、カーミラの研究の協力者なのか?」
「ああ、そうだよ。あの勝太郎って男も、そうらしいがな。最も俺の方が強かったが」
「そうか・・・・・・私の乗っているこれもそうだ。カーミラが作って、知らぬ間に私が研究に協力させられていたが」
「へえ、お前もかい。あの女、色んな所に手をつけてるんだな」
「そういう話はいいのよ! 勝太郎さんを返してよ! まだ生きてるんでしょうね!?」
会話の最中に、ラチルが激昂して叫ぶ。今の状況では、勝太郎の安否は何一つ判っていない。
「そう怒らなくても、あいつならまだ生きてるよ。あいつらの邪魔しようとしたから、俺が蹴散らして捕まえただけだ」
「なら早速、返してもらいたいんだが・・・・・・」
真澄の要求に、大翔が呆れ気味に首を振る。
「やれやれ・・・・・・こういうのは、あちらの上官に言うべき事だろうが・・・・・・俺としても、討伐軍と縁が出来たからな。悪いが俺の方から先に言っておくよ。そんなことお断りだ。だって解放したら、お前ら討伐軍の邪魔するだろう?」
「まあ、恐らくはそうだろうな。この後すぐに、あいつらには帰ってもらうつもりだからな。ていうかどうして、お前が彼らの協力をする? 人を助けるなら、以前の植民地解放で充分だろう? もうこの国にいた他国の奴隷は、皆祖国へと帰ったという。もうここに救うべき民はいないぞ」
「救うべき民はいなくても、殺すべき民はいるだろう? 今まで散々、他国を蹂躙した富で、のうのうと暮らしていた、この国の屑共がよ!」
「この国の民ならば、もう自分の間違いを知って、ちゃんと反省しているぞ。それに本当の悪であった聖王は、もうこの世にいない。悪を倒すのが目的なら、もうその大義を果たすべき相手はいない」
聖王が死んだ今、諸国と正式に交渉できる者はいない。だがその事実を隠したからと言って、どうにかなるものでもない。真澄から聖王のことを聞いた大翔は、若干驚き、そして直後に落胆した。
「何だよそれ? お前がやったのか? 一番美味しい獲物を、先にさらいやがって・・・・・・。どんな風に苦しめて、どう晒し者にしてから、殺してやろうかと考えて、ずっと楽しみにしてたんだぜ! なのに・・・・・・ああ、すげえ腹が立つ!」
「それはご愁傷様だったな・・・・・・だがもう倒すべき敵がいないんだから、もういいだろう? お前ももうこの件から手を引け。討伐軍の奴らには、私からよく言って・・・・・・もし言うことを聞かなかったら、力尽くで故国に送り返す」
「駄目に決まってるだろうが。まだ屑国民共が残ってるんだからよ! ていうかなんでお前が、このゴミみたいな国に肩入れすんだよ!」
「虐殺を行われようとしているのを、見過ごす道理はない。これは一般的な善意だと思うがな。そういうお前はどうなんだ? さっきまでの話しを聞いてると、人を助けるとかいうことじゃなくて、ただ殺しを楽しんでいるだけに聞こえるが? はっきり言って、そんな汚れた動機は・・・・・・」
「ああん!? 汚れていて何が悪い! 死んで当然の屑共を、俺がお楽しみついでで、代わりに始末してやってるだけだ! 実際今までこの国で俺がしてきたことは、罪のない民というやつらからは散々感謝されてきたんだぞ!」
真澄の言葉に、大翔は苛立ちから、はっきりとした怒りの声を上げ始めた。どうやら彼の逆鱗に触れる言葉であったらしい。この様子を見ていたラチルが、恐る恐る真澄に話しかけてきた。
「ねえ・・・・・・軍を追い返すのは諦めて、勝太郎さんだけを返して貰うよう言いましょうよ。こいつに勝太郎さんと同じぐらいの強さがあるんなら・・・・・・こんな無意味なことでぶつかるのは馬鹿な事よ」
「馬鹿なことじゃない! こんな人殺しの危ない奴を野放しにできるか! ラチル、ちょっとどいてろ!」
操縦席の蓋が即座に閉じて、真澄の姿が隠れる。そして今まで手にかけていなかった、刀の柄に手をつけた。
どうやら大翔とぶつかる気まんまんらしい。そして敵の強さが判っているので、出し惜しみなく、ロボットの得物を抜き放った。
「上等だ! その変な乗り物、ぶっ壊してやるよ!」
しばししてラチルが討伐軍とは、反対側の大地で様子で、成り行きを見守っている。ラチルと討伐軍の面々、両者の視線が合わさる中で、大翔と真澄が激突していた。
ドン! ドン! ドン!
真澄の刀が、何度も地面を打ち据え、大地に地割れのような深い切れ込みができていく。別に意味もなく大地を刀で耕しているのではない。
己より遥かに背が低い、大翔が立っている地面を斬り付けているのだ。自分より遥かに小さい敵を、ゴキブリを新聞紙で追っているかのように、細やかな攻撃を何度も繰り返す。
(くそっ、当たらない! 何て素早い奴だ!)
真澄の乗るロボットの、それらの攻撃は、先程から大翔には一撃も当たっていない。大翔は鼠のように、実に細やかに動き、前後左右に走り回り、時には飛び跳ねて、それらの攻撃を回避していった。
彼が攻撃を躱す度に、振り下ろされた刀の一撃が、大地に土埃と轟音を立てて、そこに新たな地割れを作っていく。
(やばそうな斬撃だな・・・・・・あんなでかい刀で斬られたら、マジで死ぬかもな)
かくいう大翔の方も、余裕があって戦っているわけではない。この巨大な敵の動きは、彼からすれば読みやすい。だが不注意があって、あの斬撃を一撃でも受ければ、致命傷になる可能性がある。
紙一重で躱すという達人技はなく、彼は焦りながら、かなり距離を開けて回避行動を取っていた。今まで戦ってきた、どんな敵とも違う、このロボットの攻撃に、大翔はかなりの恐怖を感じていた。
この緊迫した戦いに、彼が今までに、弱者をいたぶる戦いで感じていたような、快楽感は一切なかった。
(こんなつまらない戦い、一気に終わらせるぞ!)
大ぶりに降られた刀の一撃に、僅かな隙が出来ると、その間に大翔はその攻撃の合間を走り抜ける。先程まで、怯えながら避け続けた彼としては、かなり勇気がいる行動であった。
ロボットの足下にまで間合い詰めた彼は、その巨大な脚の踵を、思いっきり蹴りつけた。
(いてえ!? 何て硬さだよ!)
強固な金属製の足を、素足で蹴った大翔にも、相応な痛手を被ったようだ。だが一応、攻撃に成果はあった。
超人的な身体能力で繰り出した蹴りは、その巨大ロボットの地面に立つバランスを崩す。まるでバナナでも踏んだかのように、真澄の乗るロボットは、仰向けに盛大に転んだ。
(よっしゃ、これで終わりだ!)
空を見上げて寝転ぶ体勢になったロボット。そのロボットの腹の上を走り、真澄の乗る操縦席に接近する。
別にこの巨大な機体全部を破壊する必要はない。操縦席の蓋を外すか、又は破壊する化して、中にいる真澄を仕留めれば、この戦いは大翔の勝ちである。大翔の手が、今まさに操縦席に届こうとしたとき・・・・・・
バチン!
彼はロボットの手で払われた。顔に付いた虫を追い払うかのように、ロボットは平手で、自分の顔の近くまで寄ってきた大翔を、思いっきりはたいたのだ。
自分の何百倍もの質量の手で、ビンタを受けた大翔。体制を考えれば、普通に拳や刀を繰り出すよりも、威力は落ちているだろう。だがこの体格差からすれば、彼からすればかなりの痛手であろう。
ロボットの平手打ちを受けた大翔が、思いっきり勢いをつけて、片側に吹き飛ばされていった。
「いてえじゃねえか、この野郎!」
地面を何度も跳ねて、再度起き上がったときには、彼の額からは一滴の血が流れていた。どうやら今の攻撃は、相当効いたようだ。
彼が起き上がると同時に、ロボットも既に立ち上がる。そして再度刀を振りかざす。それに大翔が、再度激突すると思いきや・・・・・・
「ひい・・・・・・」
まだ勝負の優劣が決まったわけでもないのに、何故か後ずさりする大翔。そして真澄のいる方向とは、全く異なる方向に走り出した。
『こら、逃げるのか!?』
「逃げねえよ! ただ痛いのはごめんなだけだ!」
捨て台詞と思いきや、何やら妙なことを言う・・・・・・と思ったら、彼の走る方向に、真澄が焦りだした。
『しまった・・・・・・』
「えっ・・・・・・きゃっ!?」
彼が走る方向には、先程戦闘の巻き添えを避けるために、真澄から距離を取ったラチルがいたのである。大翔の奇行に、ラチルが理解しきる前に、豹以上の速さで走る大翔が、彼女に手が届くのが早かった。
「ふぐぅ・・・・・・!?」
ラチルの身に飛びつき、その身体を押さえつける大翔。そして彼女の喉元を掴み上げ、真澄のいる方向に見せつける方に、ラチルを背後から持ち上げる。
喉元を掴みかかられたラチルは、必死に背後にいる大翔を、拳で叩きつける。だが彼の頑丈な肉体には、ラチル程度の力では全く動じる様子がない。
『貴様、どういうつもりだ!』
「見て判んねえのか? こいつの首を握りつぶされたくなけりゃ、その変な乗り物から降りな! そして生身で、正々堂々と俺と勝負しな!」
ラチルを人質に取り、憎らしげに笑う大翔。この行動には、討伐軍の方からも、良くない感じで、ざわめきが起こり始めている。
『ふざけるな! 人質とっておいて、何が正々堂々だ!』
「はん、そんな物騒な武器に乗って、生身の人間を相手してるんだ。このぐらいの卑怯じゃないだろう!」
『そのお前自身の身体も、カーミラから貰った武器も当然だろうが! 大体お前に敵対したわけでもない奴に襲いかかる行為が・・・・・・』
「うるせえ! 卑怯だろうがなんだろうが、俺が楽しめない戦いなんてやってられるか! いいからさっさとそこから降りろ! そしたら俺がしっかりお前を殺してやるよ!」
ラチルの首を握りつぶす音が、更に強くなり、指が食いこんだ首から血が流れではじめた。彼女の呼吸が今にも止まりそうだ。
手も痙攣し、今までしてきた必死の抵抗もできなくなってくる。彼は本気でラチルを殺す気だ。これは絶体絶命の危機と思われたが・・・・・・
「やめなさい、大翔! それ以上は契約違反よ!」
その場で飛び込んできた謎の声。それが大翔の指の力を緩めた。皆がその声のした方向には、先程は誰もいなかった草原の一カ所に、唐突に一人の女が現れた。




