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第五十四話 聖王

 意外なことに、彼女に用があったのは、新任居候の真澄であった。そして水奈子が手に持っていたのは、その今届いたという手紙。

 皆が何事だろうと、不思議そうに見る。特に彼女の人間関係を殆ど知らない、勝太郎とラチルはそうであった。


「おいおい・・・・・・」


 そして当人の方は、差し出された封筒を手に取り、その差出人の名前を見て、露骨に不快な表情を浮かべていた。

 その手紙には「酒井」という、真澄と同じ姓が書かれているのにラチルは気がついた。


「それ、誰からの手紙? 親戚?」

「ああ、私の父親からの手紙だ。何であいつ、ここに私がいること知ってるんだ?」


 手紙の内容より、まずそっちの方に気がかかる様子。本来ならば彼女は今、ディーク大陸の方に渡っていることになっており、勝太郎の転移でこちらから自由に出入りされていることは、あまり知られていないはずであった。


「ああ、私の方から、真澄さんのご実家に連絡したんですよ。一応あなたの無事は、ご家族に知らせるべきと思いまして・・・・・・」

「お節介なことをしてくれる・・・・・・」


 ますます不快感を高めた様子の真澄。彼女は封筒を乱暴に破って、中の手紙を読み通す。しばしして真澄は、不快から変わって、実に呆れかえった様子で、その手紙を閉じた。


「何て書いてあったんだ?」

「ああ・・・・・・私に許しを請うてきたよ。そんでその気になれば、いつ家に帰ってきてもよいとさ。いつだって私を受け入れる準備はあると・・・・・・」

「許しを請う? 珍しい家族問題があるようだな」


 勝太郎の知識では、ドラマなどで子が家を出るときは、大方子の方が親から責め立てられて、追い出されるケースである。だが今回の真澄の方では、それとはかなり事情が違うようだ。

 これまで真澄の身の上など、全く聞かなかった勝太郎とラチルは、かなり興味ありげに聞き入ってきた。


「そっちの事情、聞いてもいいものか?」

「ああ、いいぞ」


 真澄はこれといって迷う様子もなく、その問いに返答した。


「まあ簡単に言えば、向こうが一方的に言い掛かりをつけたツケだな。昔私が、殺人未遂の冤罪をかけられたことがあったんだ。その時あの親父、私のことを一切信用せずに、頭の腐った奴だとか、ほんの僅かでも良心があるなら嘘を言わずに正直に罪を認めろとか、そんなことを言ってきて勘当してきた」

「随分互いを信頼してない親子だな、おい・・・・・・」

「そんでそんな風に散々私を罵ったすぐ後で、私の冤罪が晴れたわけだがな」


 それを聞いて勝太郎とラチルは大層呆れた。確かにそうなると、釈放後に親の子に対する面子など、全くないだろう。


「その後、その父親とは和解できなったのよね? 向こうは一言も謝らなかったの?」

「いや、碌に話しもしない内に、私は家を出たからな。そんでしばらくしてルチルと一緒に家に帰ったら、あいつ今度は私を異人を誘拐しただろとか言ってきた。ルチルが否定しても、全く相手にせず、ルチルを脅して言わせただろとか言い出してきてな」

「大した父親だな。適当な言い掛かりで、自分の失敗を揉み消そうとしたのか?」

「そういうわけだ。しかもその後がお笑い草でな。あいつ当時津軽に侵攻しようとしてた、ディークの総大将にまんまと騙されてやがった。あいつに散々貢いだ挙げ句裏切られて、実に無様な姿を見せてくれたもんだ。まあ結果私とラチルが助けてやったが、あの時のあれは傑作だったな」

「ええ本当に・・・・・・言葉に言い表せないぐらい救いようのないお方でしたね」


 ルチルがその時の事を思い出して、聖者の装いに似合わない、小悪魔のように笑う表情を見せる。

 さておおよその内情を話し終えたところで、真澄はもういらないと言わんばかりに、その手紙を水奈子に差し出した。


「悪いがこれ捨てといてくれ。私らこれから、魔人狩りで忙しいからな」

「真澄さん・・・・・・せめてお父様に、一度話しをしてみたらどうですか?」


 静かにその手紙と破れた封筒を受け取る水奈子は、何故か真澄に対して、まるで攻めるかのような視線と口調で問いかけた。何故かこのような態度をとられたことに、真澄は眉を潜める。


「話しって何だよ? この忙しいときに、わざわざ外ヶ浜まで行って、あちらを笑いに行けばいいのか?」

「そうではありません・・・・・・いい加減、お父様のこと、許し上げてはどうかと言ってるんです。あなた方親子のことは、こちらも以前から聞いていました。あの人はもう、あなたを信じなかったこと、きちんと反省して、あなたと本気と打ち解けることを望んで、今までできなかった謝罪も、きちんとするおつもりのようですよ」


 自身の口調がよくないことに気づいた水奈子は、すぐに口調を変えて、諭すように真澄にそう語る。

 正直他人の家庭の事情に口を挟むのは、水奈子自身もどうかと思ったが、だがどうにも真澄の今の説明を聞いて、どこか気に入らないものを感じたらしい。


「だから何だよ? 前は私に謝罪できない奴は家にいらんとか言っておいて、今更になって随分と勝手なもんだな?」

「それも含めて、あの人はあんたに対する考えを改めているんですよ・・・・・・。それにあの時のことは、あなただけが悪いわけではないでしょう? 正直言うと、あなたが捕まったときに、お父様があなたを信じ切れなかった理由、私は少なからず理解できる気がするんです。だってあなた幼い頃・・・・・・」

「もういい! 勝太郎、さっさと行くぞ!」

「うん? ああ・・・・・・」


 途中の水奈子の言葉を遮るように、真澄がそう声を荒げる。何か言われたくないようなことでもあるのかと、勝太郎が怪訝に思う。だが追及することなく、勝太郎達は皆と共に、さっさと転移してしまった。

 あっというまに水奈子以外誰もいなくなり、静かになった境内。そこで水奈子は一人、悩ましい顔をして嘆息していた。






 一方その頃、場所はディーク神聖王国の中枢である、聖王の住まう王宮。絢爛豪華な王城の中にある、この白い石造りの宮殿の中。その中にある、王座の間にて。

 軽くサッカーの試合ができそうなぐらいの、実にだだっ広い大広間。周辺の壁には、白い石柱が肋骨のように立て掛けられ、大理石製の床には赤い実に高級そうなカーペットが敷き詰められている。

 天井には幾つもの巨大なシャンデリラがぶら下げられていて、その天井には女神ロアを象った、美しい女性の巨大な絵画が描かれていた。


 その部屋には三十人ばかりの文官達が、部屋にいる主達に向かって平伏している。衣装からして、皆裕福な貴族なのだろうが、しかし国家中枢部に集まる者達にしては、やたらと人数が少ない。

 さてその者達の見上げる先、ここから少し床が高くなっている、部屋の斎奥の位置に、この国の最高権力者が畏怖堂々と座っていた。


 金銀があしらえた玉座に座るのは、ロア教神官の法衣を若干模様替えしたような服を着て、頭にロアの印が刻まれた王冠を被っている、初老の白人男性。

 この男こそが、かつて大陸中を制覇し付くさんと、そして今高速没落中のこのディーク神聖王国の主である、イネス・ディーク聖王である。


 この静かな王座のまで、不敵不遜な様子で、堂々座っている聖王に、一人の若い文官が手に持った報告書を読み上げる。


「・・・・・・と言うわけでありまして、現在この国の各地に蔓延していた魔人達は、二人のアマテラスのサムライと、ラチル・ルチル聖者姉妹によって、信じられない勢いで駆除され、現在その数を急速に減らしているとのことです。現在魔人の範囲は・・・・・・」


 文官が報告しているのは、今まさに勝太郎達がしていることの成果である。当然のごとく、国内であれだけ派手にやっていれば、当然その行動は聖王の下へと届くであろう。

 そしてはっきりした事実だが、やはりラチルとルチルは姉妹であったようだ。重々しく語る文官の報告に、聖王は見た目と違って軽い口調で話しかける。


「ふむ・・・・・・まさか奴らがここまでしてくれるとはな。聖者達をこの国に集めて、さてこれからどうしようかと考えていたところで、これは何という朗報か。しかしあのラチルという愚かな娘、確か我らに憎みきって裏切ったのではなかったのか?」

「ええ、それは我々も不思議に思っていることでして、これは一体どうなっているのでしょう・・・・・・。純粋な善意で、この国の民を助けているというなら良いのですが、色々嫌な予感があるもので・・・・・・。私の方も直接接触して真意を問いただそうとしましたが、彼らは一区画の魔人を殲滅すると、どんな道を辿ったのか、あっという間にどこかに姿をくらましていまして」


 本来ならばこの国に反逆した筈のラチルとルチル。その彼女が、成り行きでディーク国民を助けている様子は、彼らには不思議なことのようだ。


「一体どんな経路を使って、これほど素早く各地を回っているのか? これも今だ調査中です。出現地区付近で、飛竜らしきものが飛んでいるのを見たという証言もあるので、もしかしたら飛竜に乗っている可能性もありますが、それにしてもここまで早く各地を移動する竜などいるものだろうかという疑問もあります」


 どうやら彼らが、空間転移をしているという発想には至っていないらしい。文官は彼らの動機以上に、これに関して困惑している。まあ彼らが日帰り、遙か彼方の大陸を行き来しているなどと、誰も思わないだろうが。


「そうか・・・・・・しかもアマテラスの蛮族と共にとは、奴は何を考えているのか?」


 軽く考え込むような仕草を見て、何故か遙か彼方の者を嘲笑っている様子の聖王。そんな君主に、この若き文官がおそるおそるといった様子で問いかける。


「確かに彼らの行動は不可解な点が多いですが、しかし彼らのおかげで、この国に多くの民が救われているのも事実。この際我々も、積極的に各地に兵を送り、困窮している民の救助に向かうのはどうでしょう?」

「うむ・・・・・・そうだな。救助の意味があるのかは知らんが、遅れている税の徴収と、新たな徴兵は必要だ。すぐに魔人が減少した地区に、使いを送れ。奴らが何か企みを起こす前に、直ちに軍の再編を急がせろ」


 魔人によって済む土地を追われ、衣食住に困窮した大勢の民。それへの救済を提案したつもりが、何故か聖王からは、それとは真逆の負担の命が下ってしまった。

 これに若き文官は顔をしかめる。後ろにいる者達には、聖王の言うとおりだと賛同の意思を見せる者と、聖王の言うことが信じられないと当惑している者の、二通りの反応があった。


「えっ・・・・・・ちょっと待って下さい! 彼らにはもう支払える税など・・・・・・いやそもそも軍の再編とはどういうことです!?」

「何をそんなに慌てている? そんなこと蛮族共に奪われた植民地を取り戻すために決まっているだろう? やつら今は我々を出し抜いたつもりでいい気になっているようだな。すぐにその愚かな考えを、我らが聖なる教えの元で正してやらねばな」

「そんな無茶な! 二年前のアマテラス攻略の失敗で、この国はもう殆ど力が残っていないのですよ! 無理をして軍を立て直したからといって、その力は以前よりも遥かに劣る者になります! それでは植民地で武力を蓄えている反対勢力を退けることなど・・・・・・」


 聖王の言葉に、責め立てるように荒げた声を上げる若き文官。途中で自分の無礼な口調に気づいて、段々勢いが削がれていったが。

 これに聖王は、不愉快そうな表情をしながらも、まるで諭すように応える。


「馬鹿者めが・・・・・・誰が二年前の軍と同じ物を作れと言った? 機械兵器の軍隊など役に立たぬ事、二年前の失態で私も充分判っておる。魔人を主力とした、新たなる軍を作れと言うことだ」

「魔人の軍隊・・・・・・それはもう失敗したものでは?」


 そもそもディーク領内が魔人の巣になった原因は、ディークが魔人を兵器として利用しようとして、失敗したことにある。彼はこの時の失敗をまた繰り返そうというのか?


「あれはまだ、魔人の兵器投入に、研究が足りなかったからだろう? 確か魔道研究部の方で、魔人を召喚獣にして操る術を、実戦投入したと聞いたが? それに確か“ロア型”とか言う新型もあるとか聞いたぞ」


 聖王が言っているのは、ルーカスやピッグが使った、あの黒い球を魔人に変える技のことだろうか?

 彼らは何れも、召喚した魔人に、首を斬られたり踏みつぶされたりして、碌な目に合っていないのだが、生憎そのことを突っ込んでくれる者はいなかった。

 そして何故か、彼らが崇拝している女神の名の魔人まで出てきている。


「いやあれは・・・・・・研究部の者達は、随分自信満々でしたが・・・・・・私にはとても信用できるようには・・・・・・。それに魔人が神聖魔法でなくても倒せることは、もう諸国の者達の間にも広がっているようですし・・・・・・」

「何だその自信のなさは? 全く情けない奴よ。ならば今王都に集めている、聖者共も戦力として連れて行けばいい。どうせ邪魔な暴走魔人はいなくなっているのだ。ならばあいつらには別なことに役立ってもらうことにしよう」

「えっと・・・・・・それは魔人を駆使する部隊に、聖者を同伴させろと? そんな無茶な! そんなことをすれば、魔人を作ったのが王政府であることが、奴らにばれます! 戦力を増やすどころか、還って敵を増やすことになりますよ!」


 文官の言葉はもはや悲鳴になっていた。ラチル・ルチル・ウィリアムは、魔人の正体を知ったことで、このディークを裏切ったのである。

 そして今度は、この国にいる全ての聖者に、それをバラそうというのだ。これでは返って事態を悪化させるのが、目に見えている。


「それでラチル殿下が、我々を裏切ったのをお忘れですか!?」

「そのラチルは、今この国のために随分と働いてくれているではないか? ならばどうとでもなろう」

「どうとでもって、何を言って・・・・・・」

「はん! そんなのこれもロアのお導きだとか、魔人はロアの元に跪いたとか、言っておけばいいだろう。やつら信仰馬鹿だから、それっぽいことを言えば、すぐに信じるだろう」


 信仰馬鹿。ロア教の最高峰である国の長として、決して言ってはならない言葉である。

 だが生憎、そのことを咎める者はいない。聖王を咎めようとすれば、いったいどんなことになるのか、誰もが判っている。


「無理です! 以前聖者達の宿舎に行きましたが、既に皆この国に疑念を抱いているようでした! もうこれ以上彼らを騙し続けるなど・・・・・・」

「ああ、やかましい! これで何度目だ!? 私の完璧な計画に、細々と文句を言いよって! お前らは私の言うとおりにしていればいいのだ! それともお前も、父親と同じように、断頭台に首を晒したいか!? だいたい・・・・・・」


 ここまで言われてしまっては、もう彼も何も言えない。そのまま聖王の癇癪は、やがて文官達は追い出されるように、王座の間から出て行った。


(もう駄目だ・・・・・・とっくに判っていたが、もうこの国は終わりだ。ラチル姫殿下が動いてくれたときは、僅かでも希望が出たと喜んだが、これでは・・・・・・。あんな成功する筈のない計画を実行したところで、いったいどうなることか? 上手く魔道研究部か、軍の者達に責任を負えれば良いが。だがあの様子では私も処刑されかねん。・・・・・・だからといって、この国を出たところで、今度は諸国の者達の報復で殺される・・・・・・。一体私はどうすればいいんだ?)


 二年前のアマテラス侵攻失敗で、この国の全てが狂い始めたときから、この王城で働く者はどんどん減っている。何か失敗がある度に、聖王がことごとく関係者を粛正したからだ。以前は宰相を務めていた、この男性=現宰相の父親も、その一人である。


 国がどんどん追い詰められ、彼らが終わらぬ仕事に苦しむ中で、頻繁にこの国の現状など気にかけない何百人もいる王の側室や王子・王女達が、王城内で茶会を催している。

 ろくに働きもせずに、ただ城の者達に横柄に振る舞う彼らは、目障り以外の何でもないが、彼らにあがなうことすら彼らにはできなかった。


(この国から逃げることすらできないなら・・・・・・考えられる手は・・・・・・)


 宰相は少々良くないことを考えたようで、彼は小走りに聖者達がいる、王城の西宮に向かっていった。



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