第四十七話 万能武器を持ったサムライ
今話より前作の「冥界を出たら万能武器になった男」のキャラクターが登場します。
「今の聞こえたか? 魔人が出たってさ」
「うん? それたった今聞こえたわ」
最初は超感覚の勝太郎にしか聞こえなかった声。だがすぐにそれはラチル含め、その場の全員にその情報が飛んできた。
「もう来たのか!? あのサムライの女は今どこにいる!?」
「おい、どうするんだよ! あいつらが戻ってくるのを待つか!?」
「待ってられるか! とにかく逃げるんだよ!」
遙か彼方のパニックが、伝染するようにこちらに波打って来ているようだった。
どこに逃げようかも判らず、そもそも魔人がどこから襲ってくるかも判らないのだ。中には大慌てで城門まで走り、上の櫓の兵から発砲される者までいた。
「くそっ、声が騒がしくて、敵がどの方向か判らん! ラチル、またお前に気配を探れないか!?」
「ええ~~また魔人と戦うの? もうやめようよ勝太郎さん。そんなことしたって・・・・・・」
ダダン! ダダン!
ラチルがやる気のない声で、勝太郎の申し出を拒否しようとしたときだった。この時勝太郎の耳に、またおかしな音が聞こえた。
それは二連に発射される、銃声のような音。それが森の中のある方向から、継続して聞こえてくる。
人々の喧騒のせいで、ラチルは気づいていないが、勝太郎には確かに聞こえてきた。
「銃声!? あっちか!?」
「えっ!? ちょっと! おおおおっ!」
それは城の方とは違うところから聞こえてくる銃声。もしかしたら誰かが魔人と戦っているのかもしれない。
非武装と思われた避難民達に、銃を持っているの者がいたというのは意外だが、とにかく戦場はそっちに違いないだろう。
走り出す勝太郎。勿論ラチルも一緒に連れていくのも忘れない。
勝太郎に横抱きされる体勢に、歓喜の声が上がりながら、二人は林の木々を駆け抜けて、その銃声の音源へと向かっていった。
ダダン! ダダン! ダダン!
「「ピギィイイイッーーー!」」
あっという間にその戦場へと辿り着いた勝太郎。場は同じく城壁付近の林の中である。
この辺りの避難民は当に逃げたのか、それとも最初からこの場に滞在していなかったのか、ここにいる人間は、今到着した勝太郎達を含めて、四人しかいなかった。
ただし人間以外の者なら沢山いた。勝太郎には、人間とは違う奇異な呼吸音と、その足音にとても聞き覚えがある。それは魔人の群れに相違なかった。
林の中の木々を掻き分け、こちらに突進する数十の魔人。そしてそれらに対して、銃を撃つ人物。
それより少し離れた所に、もう一人の気配を察したが、その人物は何をするわけでもなく、そこで待機しているようだった。
「今撃ってるのは誰だ!? 村人か!? それとも城の兵士か!?」
「ううん! どっちとも違うわ! あれは・・・・・・アマテラス人よ!」
「えっ!?」
勝太郎の問いに対する、意外なラチルの返答。ラチルが目撃した、今魔人と銃で戦っている者は、どう見てもこの国の者ではなかった。
それは二十歳前後と思われる若い女性だった。やや背が高めで、黒い短髪で、髪の後ろには白いリボンが巻かれている。
服装は明らかにディーク人の物とは違い、それは日本では和服と呼ばれる、この世界ではアマテラス式の着物であった。
薄い青色の着物で、下には濃い青色の軽衫が履かれている。これだけ見ると和服女子だが、履き物は何故か勝太郎の世界にもありそうな、スポーツシューズのような靴であった。
そして彼女が着ている着物の、首後ろにはフードのような頭かけがついており、一見改造和服のよう。ただしこの世界のアマテラス大陸には、こういった着物は珍しくはないが。
そして彼女の腰には、サムライらしい日本刀が一本差されていた。ただし現在それは抜いておらず、前述したとおり、魔人と戦うのに使っているのは銃であるが。
ディーク人と異なるのは、服装だけではない。彼女の身体的特徴も、基本純人だらけのディーク人とは違った。
彼女は獣人であった。勝太郎は鶏型の獣人だが、こちらはどうやら爬虫類型のよう。それは津軽王国の国民の大多数を占める、鰐型の獣人である。
「あれは水奈子さん達と同じ、鰐人ね。確か大陸にはいない種族の獣人の筈だし、あの服だし、間違いなくアマテラス人だと思うけど・・・・・・。しかし変な形の銃ね」
ここにアマテラス人がいるのも驚きだが、ラチルはその次に、彼女が持っている銃にも注目した。
彼女が持っている銃は、全長一メートルほどの、黒塗りの長銃である。だがその形は、この世界の銃とは、大分異なっていた。
銃口部分が銃身に比べて、急に細くなっている。また銃を掴む握り部分が、何故か前後に二つある。そして銃の後部からは、何の為にあるのか判らない、魚の尾ビレのような部品が取り付けられていた。
知識がある人物が見たら、すぐに気づいたであろう。あの銃は日本自衛隊が使っている、89式小銃に似ていると。
勝太郎にその辺の知識があるのかは判らないが、例えあっても原物を見ることができない彼には、絶対に気づけないだろう。
「凄い腕前だけど銃なんかじゃ魔人には・・・・・・あっ、倒せてるわ」
さらにもう一つ驚くべき点があった。彼女の射撃の腕前は凄まじく、そちらに突進している魔人の群れ一匹一匹に、百発百中で命中している。
そしてその銃弾を受けた魔人は倒れ込み、そのまま動かなくなり、そして全身が泥のように溶けて、やがて灰色に変色していった。要するに魔人が、神聖魔法ではなく、銃で殺されているのである。
その鰐人の女サムライの小銃は、一回に2連射で撃ち続けられている。途中で弾切れを起こすと、素早い動きで弾倉を取り替える。
この替えの弾倉を、どこから出しているのは判らない。見ると一瞬で、どこかから瞬間移動しているように見える。
そしてそれらの銃弾は、全て魔人の眼球に命中していた。正面の顔の真ん中にある目に穴が開き、そして後頭部から飛び出した銃弾が、魔人の頭を弾け飛ばす。
魔人はそれによって、次々と死に絶えているのだ。
「倒せてるのか? 別に神聖魔法は使ってないよな?」
「ええ、やっぱり目が弱点だったんだ。じゃあさっきまでの私達の苦労って・・・・・・」
実は以前にアマテラスで、この魔人と同種と思われる“眼妖”という魔物が現れたことがあった。
この魔物は神聖魔法が弱点であったが、それ以外にも眼球を撃ち抜くことで、倒せるとのことであった。
どんどん数を減らしていく魔人達。だが仲間の死骸を乗り越え、死兵となって突進してくる魔人の群れは、数を減らしながらも、徐々に女サムライとの距離を詰めていた。
やがて群れと女サムライとの距離が、残り数十メートルにまで達してしまう。
(やはり銃一丁じゃ無理か。しょうがない!)
このままだと間合いに詰められた女サムライはやられてしまう。そう思った勝太郎が、そこへ飛びだそうとするが、その前に別の者の救援があった。
「ホーリーライト!」
「「!?」」
そこへ放たれる、神々しい白い光。それに再度驚く二人。勝太郎にはその光は見えないが、感じられる魔力と、その聞こえてきた技名は知っている。
それはラチルやウィリアムが使っている、神聖魔法と同じであった。
太陽のような輝きが林内を包み、女サムライに接近していた十数匹の魔人が、あっというまに泥となっていく。
これはこれまで聖者達が魔人を倒すのと、全く同じ現象である。
「あの子は!?」
ラチルが凝視したのは、女サムライの後方に控えていたもう一人の人物。それは十代半ばぐらいの小柄な少女であった。
金髪碧眼で、少しラチルに似通った雰囲気の少女。彼女の仲間と思われる女サムライと違い、彼女は純人のようである。
白いシャツ・赤いネクタイ・白いブレザーと青いミニスカートを着ており、そしてその上に、青いマントを着込んでいた。頭には銀色の意匠がある、白いベレー帽のような帽子。
そして手には、ウィリアムの物と同じデザインの魔道杖が握られている。その魔道杖の先端から、先程魔人達を滅した、あの神聖魔法の光の残り香があった。
「まさかあそこにいるのは聖者か?」
「ええ、そうみたい・・・・・・」
助けるべき聖者の手がかりが全くなく、先程まで行き先に関して迷走していた二人。だがここで急に、その聖者ご本人と遭遇である。
喜ぶべき事だが、あまりに奇異な状況に、二人はしばし困惑していた。
「よし終わった」
ここで初めて聞いた女サムライの声。見るとこの聖者の少女が倒しきれなかった分の魔人を、素早く弾倉を取り替えた彼女が、全て撃墜したところであった。一先ずここで起こった驚異を退けたことになる。
そして敵を片付けた女サムライの二人組が、目隠しサムライ二人組に目を向ける。こちらの姿を見た二人は、少し意外そうな顔でこちらに声をかけてきた。
「おや? ここでアマテラス人に会うとは意外だな」
「ああ俺も意外だよ」
鰐人の女サムライと、鶏人の目隠しサムライが、そう互いを評価しあう。
「その装い・・・・・・もしかしてあなたは聖者ですか?」
「ええ、あなたもそうみたいね」
一方のラチルと聖者の少女も、お互いを不思議そうに見ながら声を掛け合っていた。
この異国の地で、二人のサムライと、二人の聖者が、同じような組み合わせで、この異国の地で遭遇したという珍事。状況が読めずに、互いに顔を見合わせたまま、しばし沈黙する。
この様子は、以前勝太郎とラチルが、初めてあったときと似ていた。するとふと何かに思い至ったかのように、女サムライが口を開く。
「ああ、思い出した。あんた確か、少し前にディーク植民地の砦を沢山襲いまくって、つい最近じゃ、この辺りの砦を潰したっていうサムライか。初めまして、私は酒井 真澄だ」
「後半の方は間違いないが、前半の方は全く覚えがないな。まあ俺は山田 勝太郎だ」
「お前は“大翔”じゃないのか? かなり似ているんだが・・・・・・兄弟か?」
「博人? いやそんな奴知らんし、兄弟もいないよ。そんなことより、さっき難民が言ってたサムライってのはあんたか」
見た目通りの男勝り口調の女サムライ=真澄の自己紹介に、勝太郎も同じく自己紹介。どうも相手側から、何か誤解を受けていたようだが?
一方で聖者二人も、互いに自己紹介を始めたところであった。
「よかった・・・・・・やっと会えました。話しを聞こうにも皆、私が聖者だと知ると、全然相手してくれなくて、まさかこんな所で、私以外の聖者が見つかるなんて・・・・・・」
「ええ、私もよ。一人目を見つけてから、全然手がかりがなくてさ。まさかここで会えるなんてね・・・・・・」
「私は元ロア教司祭のルチル・パイパーです。ロア教はこの国は危険です。私達と一緒に、アマテラスに来て下さい!」
「私は元ディーク聖騎士のラチル・パイパーよ。ロア教はインチキ宗教で、これ以上付き合っちゃ駄目よ。私らと一緒にアマテラスに付いてきてちょうだい!」
「えっ?」
「んっ?」
二人の聖者の対面から始める、自己紹介と互いの要求。その双方に、互いは当惑した。それは隣で聞いていた、サムライ二人も同じであった。
何故か互いに言ってることが、名前も要求することも、殆ど同じだったのである。
「ラチル・パイパー? ルチルと名前が似てるな」
「ああ、そうだな。こういう名前って、この国じゃありがちなのか?」
ややこしくなるので説明を保管するが、これまでの物語で、勝太郎と共に旅をしていたのが、ラチル・パイパー。
そして今日出会った、三人目の聖者の名前が、ルチル・パイパー。
容貌だけでなく、名前も一字違いでそっくりである。しかも相手に要求する内容も全く同じなのだ。意外すぎる展開に、聖者達はますます混乱しているようだった。
「ええとお前ら要するに、そっち側の聖者はもう、ロア教に見切りをつけて、アマテラスの方に帰化済みと言うことでいいのか? ルチルの方はそうなんだが」
このややこしい状況に、察しのよい真澄が、素早く的確な説明をくれる。この言葉にようやく聖者側も、状況を理解し始めたようだ。
「ええまあ・・・・・・私は聖者達がディークの奴らに良いように操られてるの知って、それで皆を助けようと思って、この国に戻って、他の聖者を探してたんだけど・・・・・・もしかしてルチルさんもそうなの?」
「ええ、そうなんです。私は前に一度アマテラスに渡ったんですが、この国で起きてることを知って、それでまたこの国に戻ってきたんですけど・・・・・・ラチルさんもそうだったんですね」
「そう・・・・・・私以外にもいたんだ」
それを聞いて安心の吐息をするラチル。どうやら自分以外の聖者にも、ディークの本性に気づいていた者がいたらしい。
どうやらウィリアムの時のように、一々ロア教の虚偽に関する説明をする必要はないようだった。
「互いに込み入った事情がありそうだな。とりあえず一旦落ち着いたところで、自分らのことを話そうか? そろそろ難民達も落ち着き始めたみたいだし」
見ると林の向こうの難民達の間では、魔人が倒されていることに気づき始めたのか、喧騒が収まり始めている。だが勝太郎はまだ警戒しているようだった。
「まあ話し合うのは賛成だがな。それはもう少し仕事してからみたいだぜ。あっちの方から、大層な数の魔人の足音が、どんどん近づいているからな」
「何? そうなのか?」
真澄には聞こえていないようだったが、勝太郎には聞こえていた。それを聞いて神経を尖らせた聖者二人も、それに気づいたようだ。
「確かに・・・・・・もの凄い数の邪な気配が、こっちに近づいています」
「ええ、さっきまで戦っていた奴の三倍ぐらいはいるかもね」
どうやらさっきまでのは、まだ前兆レベルだったようだ。もっと大きな災いが、こちらに押し寄せようとしており、このままではまた難民達がパニックを起こしかねない。
「まあ、こっちには聖者が二人に俺もいるんだ。戦力としては充分・・・・・・むっ?」
そこで勝太郎は、反響でおかしなことに気づいたのだ。真澄が持っている銃の存在が消えたのだ。
あの銃身一メートルの、反響で取りこぼせるはずのない、それなりの大きさの存在が、全く感じられなくなる。
その銃が消えたという認識は事実であった。その光景を反響ではなく肉眼で、ラチルがしっかりと目撃している。
「えっ? 銃が石になった!?」
真澄が持っている銃が、突如淡い光に包まれたかと思うと、あっというまに縮小・変形した。
そして光が晴れたときには、そこには勾玉状の小石が、真澄の手に握られているのである。
手品とかで消えたのではなく、明白に超常的な事態が起きて、銃が消滅したのである。いやこの場合、銃という大型の物体が、別の小型物体に変身したと言うべきであろう。
「ああ、やっぱり驚くよな。これはゲンイチって言ってな。色んな武器に変身できる、魔法の勾玉よ」
真澄のその簡潔な説明の後に、その勾玉=ゲンイチが、二度目の変身をしたのだ。
真澄の手元から、浮遊して離れ、そこで再び光に包まれる。先程とは逆、光と共に大きくなっていくゲンイチ。
そしてそこにまた小銃とは違う、新たな武器が出現した。
「何だ? さっきよりでかいのが出てきたが、それも銃か?」
銃身は2倍近くの長さになり、先程の89小銃よりも明らかに大きな銃器。
反動止めの脚立で、地面に固定された、とてつもなく長いベルト型給弾型弾倉のそれは、ブローニングM20機関銃とそっくりであった。
ただし本物の規格よりも、取り付けられているベルト弾倉の長さが、遥かに長い。機銃弾が数百発分は繋げられているのではないだろうか?
そうしている内に、敵軍がどんどん近づいてきている。ずっと林の向こうから、僅かだが魔人達の黒い姿が、木々の隙間から見え始めた。距離はもう数百メートルぐらいだろう。
「お前らちょっと離れてろ。これ音が凄い上に、薬莢が滅茶苦茶飛び跳ねるから」
「おう・・・・・・まさかマシンガン出してきたのかよ?」
「えっ? 本当に離れればいいの!?」
「そうです! 早く一緒に来て!」
ルチルがラチルの手を引き、真澄から距離を取る。そして真澄が、林の向こうの魔人の群れ目掛けて、そのゲンイチが変身した機関銃の引き金を引いた。
ダダダダダダダダダッーーーー!
拳ほどの大きさの弾丸が、障害物となる木々の幹を、砂のように容易く粉砕し、音速を超えて一斉に飛ぶ。
先程の小銃弾とは比べものにならない、一発当たれば人体を粉々にしそうな大型銃弾の嵐。
それが正面から考えなしに突っ込んでくる魔人の群れに、秒速10発の連射で、一気に放たれた。




