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第四十六話 領主の街

「うう・・・・・・いったい何?」


 倒木の間に挟まれながら、どうにかそこから這いだし、土埃だらけのラチルが起き上がり、そしてそこで最も疑問を口にした。

 いつの間にか勝太郎も、彼女の側に全身を土で汚れながら寄り添っている。


「今空から何か来たみたいだが・・・・・・ラチルには何が見えた? あれは竜だったのか?」


 勝太郎は音は聞こえたが、空にいた者の姿を見ることはできない。それでラチルに聞いたのだが、彼女も首を傾げていた。


「さあ・・・・・・何だったのかしらね? 見えたの一瞬だったけど、竜とも違うような気がしたわ。空から凄い勢いでこっちに近づいてきて、そこから分裂かしら? もう一つもっと速いのが出てきて、こっちに落ちてきたみたいだけれど・・・・・・」

「そうか・・・・・・それで魔人は・・・・・・もういないみたいだな」


 勝太郎は先程まで魔人達激戦を繰り広げていた場所。あの空から飛んできた爆弾の着弾点に顔を向ける。目隠しているため見えないが、大量の土と煙の臭いが感じられた。

 各地から熱い空気が流れているので、周辺各地で火事が起きているのも読み取れた。そして今この場所で、動いている生物は彼ら二人しかいない。


「すごい爆発だったからね・・・・・・どうも魔人は今の全部死んだみたいだわ」

「魔人ってのは爆撃でも殺せるものなのか?」

「そうなんじゃないの? たしか津軽王国にも、これと魔人と同じような怪物が出たけど、確かそいつらは目が・・・・・・」

「ああ、そういえばそんな話しだった。忘れてたよ・・・・・・」


 以前勝太郎が魔人と戦ったときは、どんなに殴っても倒せず、大分苦戦していたが、どうやら爆発などで、全身木っ端微塵にしても倒せるものであったようだ。

 まあこれは、アマテラスの津軽王国で聞いた話しで、大体判っていたが。


 ともかくあの魔人を全滅させた、未確認飛行物体に対して考え込む。それはラチルも同様だったが、彼女にはその正体に、全く見当も付かない様子。だが勝太郎は違っていた。


(この世界に戦闘爆撃機か・・・・・・まあアマテラスじゃ異世界と交流があるというし、おかしい話しじゃないな)


 以前寺の学校の生徒らが、ハイテクの電子ゲームで遊んでいたことを思い出す。そのことを考えてみれば、戦闘機自体が出たことは、さほど驚くほどのことでもなかったのかもしれない。


(しかし戦闘機を買い込めるほどの金持ちで、そして遠く離れたこの大陸で魔人狩りをしてるのか。戦闘機はともかくそっちの方は謎だな)


 ふと勝太郎は、先程の飛行機音が飛び去る音が聞こえた方角に首を向ける。そしてそっちを指差して、彼はラチルに聞いてきた。


「なあラチル。あの方角には何があるんだ?」






 勝太郎は走っていた。あの戦闘機が飛んでいったと思われる街へと辿る道を。

 田畑を抜け、森の中を通る街道を、自動車のような速さで、勢いよく飛んでいく。それは以前、村からアドレー砦へと、道筋も判らず走ったときと同レベル。

 ただ以前と違うのは、彼は今背中に大きな荷物を背負っていることである。それは現在勝太郎に背中に、肩代わりしてもらっているラチルであった。


「凄い速さ・・・・・・周りの景色がどんどん変わっていくわ。これならあと1時間も持たずにつくかも」


 そう口にするのは、両脚を勝太郎の肩に乗せて、馬乗り状態のラチル。

 乗っているのは馬ではなく人なのであるが、彼女が身に受けている風圧は、馬どころか自動車に乗ってるほどの勢いで、彼女の髪の毛が旗のように揺らめいている。

 ちなみにラチルの体格は、勝太郎よりも大きい。その上彼女は重い甲冑と剣を持っている。それにも関わらず、勝太郎はそれを苦にする様子はなく、軽々と背負って走り抜けている。


 何でこんな事をしているのかというと、ラチルと一緒に徒歩で歩くよりも、こうやって勝太郎がもう一人を運んだ方が、手っ取り早く進めるからだ。

 生憎ラチルには、勝太郎ほどの超人的な体力・身体能力はないために。


「そうかい? しかし・・・・・・それでも転移でいけないところでは足で行くのは面倒だよ。さっきの飛行機の奴に会ったら、今度あちこち乗せてもらうよう頼んでみるか? 一度行ったことのあるところなら、転移でいつだっていけるしな」


 現在の勝太郎の目的は、あの謎の飛行機を追いかけること。次の聖者の居所が分からない以上、今は目の前の謎を追うことを優先したようだ。


「そうね・・・・・・まあこんな風にして、勝太郎さんと二人で走るのもいいけど」


 なおこの時のラチルは、勝太郎の首に手を回し、何やら幸せそうな様子だった。







 ちなみに勝太郎がこの大陸に再訪したのは朝方。そして今は昼前の時間。快晴の空の上の太陽が、空の天辺にもうすぐ辿り着く頃のこと。二人は呆気なく目的地に着いた。


「止まって! もう着いたわ!」

「そうか!」


 そこで高速走行していた勝太郎が足を止める。その急ブレーキで、若干地面が削れて粉塵が上がった。

 森の中の林道の通る先。その先に森の中を切り開いて作られた、一地区を覆い尽くす巨大な城壁。それは以前、アドレー砦の騎士が、通信で勝太郎の件を報告した、あの領主のいる街であった。


「ここね。私も初めてくるけど、確かここがアドレーの領主がいる街・ピッグよ」

「そうかここか・・・・・・確かにここの中心都市だけあって、人の気配がいっぱいあるな」

「人の気配? ・・・・・・ううん、多分それ違うと思うわ」


 生憎ピッグの街は、街全体が城壁で覆われていて、その街の人々の姿や気配など、全く見受けられない。

 だがその街の城壁周辺には、何故か本来人が住んでいるはずのない場所に、多くの人の気配があった。


 二人は街道をゆっくり歩き、城門前まで近づく。生憎城門は、まるで敵軍から立て籠もっているかのように、固く閉ざされていた。

 上の櫓には、いつ不法侵入を試みるものが現れても言いように、銃や魔道杖を持った兵士達が、ずっと怖い顔で城壁下を監視している。まるで戦争の最中のような物騒な光景だ。


 二人は早々に城門を抜けるのを諦め、門前で街道を逸れる。そして彼らは、城門を見張っている兵士ではなく、その城門周辺の木々の下にいる者達の元へやってきた。


「あっ、あんたディークの兵士か!?」

「違うわよ。あなたたちはこの辺りの村の人かしら? ちょっと話しを聞かせてもらっていい?」


 木陰で覆われて薄暗い林の中で、多人数で座り込んでいた者達は、鎧姿のラチルを見て、若干怯えた様子であった。

 皆薄汚れた服を着ていた。精一杯持って行ける分の荷物や、鶏などの家畜を隣に従えて、天幕もない粗末なキャンプ生活を、この林の中で過ごしている様子。

 こんな所で泊まり込んで、雨が降ったときはどうなったのであろうか? 林の木々の枝葉では、十分な雨よけはできないだろうに。しかも夜の冷え込む時間を、どう過ごしているのか?


 そんな健康に良くない野宿生活を送っている者達の数は、今ラチルの視界にいるだけでも二百人以上。木陰で見えない、もっと向こう側にいる者だと、更にその数倍はいるかも知れない。


「何だこの林? 何日も風呂入ってないような奴らが、随分沢山居着いてるみたいだが?」

「獣人!? またアマテラスのサムライか!?」

「いや、違うぞ(・・・・・・また?)」


 そんな彼らの存在を感じ取って、困惑している勝太郎を見て、またこの難民(?)もまた困惑している様子。中には困惑以上の驚きを示している者もいた。


「あっ、あなたはあの時のサムライ様!?」

「戻って来られたのですか!?」


 大勢の難民の中で、また違う反応を示す者達がいた。数人の年配と思われる男女。彼らの声は、恐怖も敵意もなく、そこには喜びと敬意が感じられた。

 勝太郎の元に大慌てでやっている彼ら。その彼らに、二人は未だに困惑している。


「誰こいつら? 勝太郎さんの知り合い?」

「さあ? 俺には顔が判らんからな。声は聞き覚えがあるような、ないような・・・・・・」

「私は前に、砦に捕まっているところを、サムライ様に救われた者達です! あの時は本当に、感謝の仕様が判りません!」

「ああ、そうか・・・・・・」


 そこで勝太郎は思い出した。以前ウィリアムを救出しに、砦を攻め込んだときに、地下牢から解放した村人達である。

 あの時は彼らを檻から出して、傷を癒やしたが、その後でウィリアムが絡まられたの制止して以降、それっきりであった。


(まさかの再会だな、ウィリアムを寺に置いてきたのは正解だったかも。こうなるとラチルが聖者だってのも、黙っておいた方がいいか?)


 ここに来て意外な人物達の出会い。だがそこで不思議に思うことがある。あの後砦を陥落して以降、彼らは何故こんな所にいるのだろう?

 他の難民達も、事の成り行きから、二人が敵ではないと認識できたのは、黙って成り行きを見守っている。


「あの時は俺の目的があって、砦に来ただけだ。お前らを助けたのは、単にことのついでだから、そう気にするなよ。そんでどうしてお前らはここにいるんだ? 他の村は、お前らを受け入れなかったのか? そう言えばさっき行った村には、誰もいなかったが」


 元より魔人に村を追われた彼らが、あの後どうなったなど全く知らない。思い起こしてみれば、あの森の中に、村人らしき死体はなかったことに、今になって勝太郎は気がついた。


「それは・・・・・・」


 そこで言い淀む元囚人達。それは言いにくいというより、何かやりきれない思いを感じさせる。それは周りにいる他の難民達も同じ様子であった。


「もうこの地は駄目なんです。私達を受け入れるどころか、まともに人が住める場所さえ・・・・・・。あれから程なくして、魔人達がどんどん増えてきて、皆村を捨てて、ここに集まってるんです。もうまともに残っている集落なんて、この城壁で守られたこのピッグぐらいしか・・・・・・」

「そうか・・・・・・」


 どうやらここにいるのは、皆魔人達に土地を追われ、ここまで逃げ込んできた者達だったようだ。そしてその理由である、魔人が増えた原因に、勝太郎には一つ心当たりがあった。


(魔人が増えた原因は・・・・・・魔人排除をしていたウィリアムを、俺たちが連れ出したせいか? ・・・・・・まあ別に俺は悪くないよな? あいつだって国に騙されてたんだし、それを救ってやったんだし・・・・・・)


 その心当たりに、若干後ろめたいものがありながらも、誰にも何も言われてないのに、彼は心の中で自己弁護をしていた。


「それで私達も含めて、大勢の人達が、この城壁の守りが堅い、この街に集まったんですが・・・・・・」

「それで入れてもらえなかったのか?」


 これは聞くまでもないことだったのかもしれない。今現在、大勢の難民が、この城壁を囲って居座っており。彼らを敵軍のように、きつい目で大勢の兵士達が、城壁の櫓で武装して監視しているのだ。

 この言葉に、他の難民達も、忌々しく頷いていた。


「ええ・・・・・・ここまで避難してきた私達を、まるで賊徒みたいに言ってきたわ。私達みたいな下民を守る義務なんてないなんて。それどころかさっさと村に帰って、仕事の続きをしろと。魔人達は自分たちでどうにかしろって。このまま仕事場から離れて、税を滞納するなら、魔人の前に我々がお前らを殺してやるなんて・・・・・・」

「聞き飽きたわね、そんな話し」


 領主兵のあまりの横暴の告白を、ラチルは実につまらなそうに、そう応える。彼女からすれば、こういった話しは、今のディークでは頻繁に聞く話しでどうと思うことでもなかったようだ。


「貴方たちの境遇なんてどうでもいいわよ。それよりさ、この辺りに大きな空飛ぶ乗り物が来なかった? 竜とかじゃなくて、何かゴーーー!て音を立てる、三角っぽい変なのだけど」

「えっ、えええ~~!?」


 難民達の話しもそこそこに、率直に自分たちがここに来た目的を尋ねるラチル。同情をもられるかと思った難民達は、一瞬呆けるが、しばしして気を取り直した。


「いえ、私はそのようなものは・・・・・・皆、心当たりはあるか?」


 一人の難民が、他の仲間に問いかけるが、皆が首を横に振る。どうやら誰も、あの戦闘機を見ていないらしい。


「本当に、音だけでも聞いてない?」

「いえ、全く・・・・・・ここでは鳥の鳴き声ぐらいしか」

「じゃあこの辺りに、すごく開けた所とかない? 飛行機が降りるには“滑走路”ていう広場が必要らしいけど」


 二度目の問いにも誰も応えられなかった。そもそも戦闘機ほど大型の物、この辺りに着陸したら、どうしても目立つはず。

 どうやらここにあの飛行機は来ていないと判って、ラチルは落胆し、勝太郎に向き直る。


「残念だけど、ここは外れみたいだわ。てことは、あの飛行機はあの後、道を変えたのかしら?」

「そうなるんだろうな。しかしこの街のことも、それ以上に深刻だな。どうしたものか・・・・・・領主を殺せばどうにかなる話しでもないし」

「ええ~~またそういう話し? 別にいいじゃない、この国の屑共なんて。こんな奴らを助けるのも、勝太郎さんがやりたがってる善行に入るの?」


 周囲に広く聞こえるような大きな声で、難民達を指差して、そう口にするラチル。その屑発言に、難民達が騒ぎ出すなど、全く気にも留めない。

 一方の勝太郎も、そんな周りの反応など無視して、この難民達を救う方法を、真面目に考えていたが・・・・・・


「大変だ! 東の方から、魔人の群れが来てるぞ!」


 勝太郎の耳に飛び込んできた、少し離れた所から発せられる悲鳴。どうやらここに来てまた、新たな騒ぎがやってきたようだった。


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