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第四十五話 爆撃

 アマテラス大陸津軽王国にて、ディーク兵ジェーンの捕り物騒動が終わってから二日後のこと。

 場所は遙か彼方まで離れて、アマテラスより遙か彼方の、ゼウス大陸ディーク王国内の領土でのこと。


 そこは殺風景な村であった。古めかしい民家が、土地の中央に建ち並び、その周辺に広大な農地が広がり、更にそれを囲うように、一帯に森林が広がっている。

 その農地は所々荒れているが、多くの農産物が育っている。だがよく見るとそれらは、少し見た目が悪くなっているようだ。もう収穫する時期を越えて、育ちすぎている作物が多くある。

 まだ育っている最中の作物も、生えてきた雑草がそのままになっていたり、虫食いが酷くなっている物も多い。その農地は、もう結構な日数放置されているように見えた。


 実際の所、今この村には、全くと言っていいほど人気が無い。家畜の姿すら見かけない。どうもつい最近廃墟になったばかりのように見える。

 よく見ると各地の家屋が、壁や窓に大きな穴が開いていたり、火事でもあったのか墨を被ったように黒くなっている所が多い。まるで空襲でもあったかのように、損害がちらほら見かける。

 しかも各地の地面や壁に、血痕のようなものが、大量に付着していた。ある程度経験のある人が見たら、この村の風景を見てこう思っただろう。ここで戦が行われていたのかと?


 ちなみにこの村の入り口付近には、少し汚れた国旗が、場違いな雰囲気で立て掛けられていた。それはかつて、ある男が立ち小便をした、別な意味でも汚れた国旗である。


 さてそんな殺風景な村の集落地から、少し外れた位置にある畑の中。そこには一戸の、キリスト的な雰囲気の教会があった。

 ただしその教会は、外見がぼろいだけでなく、壁に大きな穴と瓦礫があったり。近くの地面に、隕石でも堕ちたかのような穴ぼこや、大地震が起きたかのような深く長い亀裂があったりと、村の集落地以上に荒れた雰囲気であったが。


 その悪魔でも住んでいそうな廃教会に、突如姿を現す者がいた。

 道を通ってそこを訪れたのではなく、空から着陸したわけでもない。空間を飛び越えて、何も無い場所から、光のうずと共に現れたのは、二人の人影だった。


「ふう・・・・・・またこの忌々しい国に戻ってきたわね・・・・・・。あれから一ヶ月くらいかしら? 向こうの生活が充実しすぎて、何だかすごく空気悪く感じるわね」

「そうかい。まあ俺には何も見えないから、久しぶりって感想も出せないが。まあ戻ってきたんだな、この村に」


 それは聖騎士の鎧を着た少女と、目隠しをした侍の少年。ラチルと勝太郎である。

 そして今更言うまでもないが、ここは以前勝太郎が訪れ、そしてラチルと出会い、ディーク軍と大騒ぎを起こした、あのディーク来訪第一の村であった。

 ちなみにウィリアムは、現在アマテラスの天勝寺で待機中である。まだ子供であるということもあって、彼は今でも向こうで勉強中であろう。


「それで三人目の聖者はどうやって助ける? どこにいるかあてはあるのか?」

「判らないわね・・・・・・ウィリアム君もそうだったけど、別に聖者全員と顔見知りじゃないし・・・・・・。とりあえず人を探して情報収集しましょ。あの後この辺りで、何があったのか知りたいし。まあ勝太郎さんがいれば、王都に乗りこんでも力尽くで挑んでも大丈夫でしょ♫」

「へいへい・・・・・・便りにされて何よりだよ」


 そんなこんなで二人は村の集落地へと向かっていった。勝太郎には集落の方向が判らないので、ラチルが先に歩き、その足音と鈴音を探って、勝太郎が後ろへとついていく。






「さて来たはいいが、どうもだ~~れもいないみたいだな。死体の臭いもないみたいだが。まさかあの後、全滅したのか?」

「ええ、そうね」


 そして辿り着いたのは、戦場の跡地な雰囲気の、無人の集落。勝太郎には村の様子は見えないが、人の足音も呼吸音も一切聞こえないので、ここには自分たち二人しかいないことは判る。

 そんな風景を見ても、二人は別に驚かない。最後にこの村を転移で発った直前に、「魔人が出た!」という村人の悲鳴を聞いていただけに。


「とりあえずここには誰もいないみたいだし、別の集落を探すしかないわね。・・・・・・まあ今のこの地域に、住んでる人がいるかは知らないけど」


 そう言って村の中央から、四方に伸びる村道を見回すラチル。道が通る農地の向こう側は森で、その先には何があるかは、こちらからは全く見えない。


「ラチル、ここから一番近い集落はどこなんだ?」


 その問いにラチルは、とある村道の方角を指差した。反響でその動きを読んだ勝太郎が、まるで見えているかのように、その方角に首を回す。


「あっち側に別の村があったはずよ。まだあるかは知らないけれど。でも今はちょっとあそこは避けた方がいいかも」

「何でだ?」

「あの方角の森から、良くない気配が感じられるのよ。多分あっち側の森の中に、魔人達がうようよいるわ。もしかしたら村人の死体も、あの森の中にあるかも」

「何だ? だったら尚更、行かなきゃならんだろう?」

「えっ、何で?」


 勝太郎の疑問の言葉に、何故か疑問で返すラチル。これに勝太郎は、若干の困惑が出る。


「いやいや・・・・・・人を襲う化け物が沢山いるんだろう? だったら早い内に、狩っておかないと。・・・・・・あの時はめんどくさがって、さっさと村を出たが、この状況を見ると、少し悪いことした気分だし」

「いや別にいいじゃない放って置いても、むしろあいつらには、もっと沢山ディーク人を狩ってもらいたいぐらいだし」


 相も変わらず聖者以外のディーク人全般に、随分冷たい対応のラチル。ディーク人は見捨てるのが当たり前といった感じの彼女の態度に、勝太郎は驚きも惑いもせず、ただ呆れていた。


「おいおい・・・・・・何物騒な事言ってんだ? とにかく一緒に来てくれよ。お前がいないと、俺は魔人を倒せないんだからさ!」


 ラチルの手を引き、今度は勝太郎が前に進む。これにラチルもあまり乗り気でない表情をしながらも、途中で道を外れそうになった勝太郎の足行きを正して、二人は共に魔人が蠢く森へと向かっていった。






 ドドドドドドーーーー!


 十数分後には、その森の中は激戦の場であった。二人の人間と、何百という数の魔人達。

 数の上では圧倒的な差異がある二つの勢力が、森そのものが壊れそうなほどの激戦を繰り広げていた。


「早くやってくれ!」

「ちょっと待ってよ! ホーリーライト!」


 ゾンビ映画のクライマックスシーンのごとく、大勢の黒い人型が、一斉に勝太郎達に襲い来る。

 勝太郎は豹よりも俊敏な動きと、熊を越える怪力で、それらを次々と粉砕していった。何度も魔人の身体を殴り続けた勝太郎の全身は、既に返り血の魔人の体液で、黒く濡れていた。

 そんな彼が粉砕し、一時行動停止した魔人達を、ラチルが神聖魔法で浄化していく。


 魔人達の姿には二つの種類があった。


 小ぶりな人型の、小鬼のような姿の魔人。身長は百五十㎝前後と小柄だが、一つ目の異形な容姿と、剣や斧と武器を手に持って振り回し、明らかに物騒な外観である。


 一方で人の姿をしていない者もいる。それは手足すらなく、長い胴体と一つ目と牙のある顔を持つ大蛇のような姿である。

 ゾウさえ絞め殺せそうな大きさで、それらが地面を高速で這い進みながら、集団で二人に何度も迫り来る。


「だりゃあ!」


 勝太郎が迫り来る大蛇の牙を躱し、その長く太い横腹を蹴りつける。その衝撃でバランスを崩した大蛇は、突撃方向が逸れて、そのまま勢いのまま近くの樹木の幹に正面衝突した。

 その衝撃で決して細くはない幹が、小枝のように簡単にへし折れ、大蛇はそれと一緒に倒れ込む。

 その衝撃で大蛇の顔が少し凹み、蹴られた腹の一カ所が砕けてその部分だけ胴体が細くなっていた。

 だがこれで大蛇が死ぬことはなく、しばらくして起き上がろうとする。そこをラチルが神聖魔法で傷口を撃ち抜いた。


 それらのゴブリンと大蛇の群れのような魔物の群れと交戦する二人。敵の数は確実に減らしているが、それが最後まで持つか不明だ。

 勝太郎の方は余裕ではあったが、もう一人は違う。


「きゃっ! ていっ!」


 勝太郎が格闘戦をしている後ろで、後方から神聖魔法で支援していたラチル。だがその彼女が、背後から小鬼魔人に斬りかかられる。

 勝太郎が倒した残骸を浄化するの必死だったラチルは、その攻撃をまとも受けてしまった。


 だが大丈夫。戦士系能力者のラチルの強靱な肉体と、彼女の纏っている高級品の鎧のおかげで、背後から斧で叩きつけられた身体が、倒れることはなかった。

 即座に背後に振り返り、今自分を斬り付けた小鬼を聖なる斬撃で斬り伏せる。


(ふう・・・・・・ちょっときつくなってきたわね。ていうか勝太郎さん、眼妖の話し忘れてない?)


 ラチルの身体は出血はしていないが、鎧越しに叩きつけられた斧の衝撃は、彼女の身体にかなり響いている。

 しかもそれを受けたのは今回が初めてではない。人海戦術のごとく、無数に攻め込んでくる敵の群れを、勝太郎は全てを捌ききれず、何体かが後方支援のラチルに向かってくるのだ。

 そのためこれまで何度も、ラチルは敵の攻撃に晒され続け、着実に痛みと体力消費が、積み重ね始めている。


(もう! 私はさっさと聖者の皆を助けたいのに、何でこんな無駄な戦いを!?)


 彼女にとって意味があるとは思えない戦いをしていることに、内心強い不満を抱くラチル。だが勝太郎がそれを望んでいる以上、彼女には真っ向から断る気にはなれなかった。

 勝太郎達が倒した魔人は、既に三百を超える。だがまだこれで半数だ。果たしてラチルの力が、そこまで持つであろうか?


 戦いの影響で、多くの樹木が倒木し、既にこの辺りの森林地帯は、空の鳥から見ると丸見えになるほど、開けた土地となっていた。


「おや?」


 ふとそんな時だった。三匹の小鬼の腹、横凪の蹴りで吹き飛ばした勝太郎が、ふと何かに気をとられたのか、動きを止める。

 その隙を突いて大蛇が、丸呑みにせんと襲い来るが、すぐに活動を再開した勝太郎の拳で、下顎が粉砕された。

 そんな風に戦いを継続させながらも、勝太郎は何か気にかかる様子。それは彼の耳に届いてきた、奇怪な音に原因があった。


(この音の方向は・・・・・・空か? 何で空から・・・・・・まさか!?)


 この聞き覚えのある音を聞いた勝太郎の脳裏に、本来この世界にあるはずのない音源に思いついた。

 だがそれは彼を、相当困惑させるものである。


 ゴゴゴゴゴゴゴーーー!


「何この音!? あれは・・・・・・飛竜?」


 それはやがて、勝太郎程の超感覚を持っていない、ラチルにも届く。その音源の空のある方角を見て、彼女は驚愕した。


 雲が少なく、綺麗な青が広がる朝の空。その中にくっきりと映る、異端の存在。それは目の見えない勝太郎には、確認できない物が移っていた。

 それはこちらに向かって近づいてくる。鳥のように空に浮かぶ存在。距離的に影のようにか見えず、一瞬鳥かとも思われたが、それはすぐに違うと判った。

 それと同時に、ラチルにはまだ聞こえないレベルの音で、また別の音が勝太郎の耳に届く。


(この音は映画で良く聞くような・・・・・・まさかミサイルの発射音か!?)


 それに気づいたときに、勝太郎は素早く行動を切り替えた。敵の攻撃を躱し、そしてそこから逃亡を謀った。


「えっ、ちょっと!?」


 空に気をとられているラチルを掴み、横抱きしてその場から走り出す勝太郎。その後を追って、魔人達の群れが走り出す。

 だがそこから両者の追走劇は始まらなかった。空から舞い降りてきた、鳥ではない何かが、それを強制的に終わらせたのだ。


 それは鳥と言うには速すぎて、砲弾と言うには大きすぎて、隕石と言うには落下の軌道がおかしい物体。巨大な棘のような形で、後部からは花火のように無数の炎と煙を噴出する物体。

 その竜をも串刺しにできそうな、巨大な矢のような物体が、飛ぶ方向を真横から後方に軌道を変えて、ついさっきまで勝太郎達が戦っていた、森の中の開けた土地。その中の凝り固まった魔人達の群れのど真ん中に、勢いよく突っ込んだのだ。


 ドオオオオオオオオン!


 地面に突き刺さるかと思われたその物体は、とある大蛇の胴体を潰し、地面に直撃した直後に、勢いよく爆ぜる。

 その瞬間に、その森の中で、太陽のように凄まじい光と、火山火口のような強大な熱が放出され、この森の一カ所を跡形もなく消し飛ばした。


「ふあっ・・・・・・」


 ラチルが小さな悲鳴を上げ、勝太郎と共にその爆風に煽られて、吹き飛ばされていく。

 小柄な女性とはいえ、甲冑を見に纏った重量の身体が、突風に煽られた木の葉のごとく、軽々と勢いよく飛んでいく。


 それは彼女よりも軽量と思われる、勝太郎も同様であった。勝太郎の戦闘時には、まだ無事であった、戦地周辺の木々も次々とへし折れていった。中には幹ごと爆風で飛んでいったものもある。

 大量の粉塵・小石・枝葉・倒木の欠片も、暴風雨の滴のごとく、無数に散乱しながら、爆発点を中心に一斉に彼方へと飛んでいった。その中には、群れの中心を爆撃されて、粉微塵になった魔人達の肉片もあった。



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