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第四十四話 冥界の裁定

「何だあの子は? いきなり出てきたぞ・・・・・・」

「お前聞いてないのか? あの子は転移魔法は凄く得意なんだよ」

「しかし悪霊祓いに来たら・・・・・・まさかここで指名手配犯の捕り物が見れるなんてね・・・・・・」

「勝太郎さんが捕まえたんだよな? あいつ今までどこに隠れてたんだ?」


 その日、天勝寺の前ではちょっとした騒ぎになっていた。寺の前で大勢の人が、水奈子のお祓いを受けるために並んでいる所に、突然勝太郎達がジェーンを連れて現れたのである。

 そしてここに医者と警察を呼ぶよう、水奈子に頼んできたのだ。ちなみジェーンは、現在気を失っていて、あの天幕の布を切って作った縄で、拘束されている。


 お祓いの最中に急に犯罪者の見世物場所になった境内。村の方から次々と、お祓い以外の理由での客が集まっている最中に、ようやく待っていた者達=警察と医者達がやってきた。


「これは・・・・・・成る程、よしすぐに手錠を! そして皆さん頼みます!」

「はいっ!」


 日和の要請の元で、白い着物と頭巾を被った者達=村の病院の者達が、即座に警察に手錠をかけられたジェーンに集まる。

 彼女の容態はかなり悪い。すぐにでも輸血が必要であろう。看護師達がそのジェーンを担架に乗せようとしたところ。


「ううっ・・・・・・うはっ!? うわぁああああっーーーー!」


 突如その場で発せられる奇声。それと同時に、今までお気楽に見物していた野次馬達も、皆一気に険しい顔を見せる。

 なんとジェーンを担架に詰めようと看護師が触れた直後に、ジェーンが目覚め暴れ出したのである。俯せに倒れ込んだ姿勢のまま、手錠をかけられた手を、がむしゃらに動かして、赤子のような体勢で暴れ始める。

 最も激しく動いているが、相変わらず彼女の顔色は悪いまま。半狂乱になった彼女の行動は、間違いなく自身の命を縮めている。


「皆さん、離れろ!」


 看護師達は一斉にジェーンから離れ、警官達が少し離れた位置から、一斉に彼女に武器を向ける。警官も、野次馬や僧達も、皆かなり緊迫した様子だ。

 こんな状況でお気楽に写真を撮っている者もいるが、あれはどうやら報道者のようだ。


「どうしましょう!? 殺しますか!?」

「急に物騒な事言うのわね。とりあえず眠りの魔法で・・・・・・あら?」


 日和が睡眠魔法で彼女を黙らせる提案をしている中、その暴れているジェーンに、自分から近づいている者がいた。それは勝太郎であった。


「来るな蛮族共・・・・・・俺に触れるな・・・・・・」

「おいっ、ジェーン。俺だ・・・・・・判るか? まだ意識ははっきりとあるか?」


 起き上がり様に暴れながらも、すぐに体力が尽きて、動きが鈍くなってきたジェーンに、勝太郎がそっと声をかける。

 半狂乱になっていたジェーンも、人から声をかけられたことで、若干落ち着いたのか、彼女はゆっくりと彼の方に目を向けた。


「勝太郎・・・・・・貴様私をどうするきだ!?」

「俺はどうもしない。最初は病院で治療を受けて、その後は警察の仕事だ。悪いがお前を国に連れ帰る約束は果たせない。それとお前の身体、かなり状況が悪いから、少し大人しくしてろ」

「ああそうかい・・・・・・あれだけ鼻の下伸ばして、俺が敵と知ると国に売るか・・・・・・。だったらそんなことせずに、さっさと殺せばいいだろう!? 貴様ら蛮族の汚れた手で生き延びるぐらいなら、死んだ方がマシ・・・・・・がほっ!」


 大きく声を上げようとして、急に咳き込んで弱々しくなるジェーン。元々限界だったのに、無理をしている証拠だ。

 そして今のジェーンの声に、その場にいた者達から、一気に敵意の視線が広がっている。


「蛮族か・・・・・・はっきり言うが、そういうロア教の教義を信じるのはもうやめろ。ディークの方でも、あの教義がインチキだって事は、殆どの民が気づいている。そして国の奴らも、殆どの奴が、その教義を本気で信じていない。もしロアのご加護とやらがあるなら、あの国があんな無様な様になったりしないし、お前もあんな酷い目にあったりしないだろう。そうやって、死にかけたディーク政府の操り人形になって、いいように扱き使われて、国の道連れになって死ぬのが、お前は本望なのか?」

「・・・・・・・・・・・・」


 勝太郎の言葉に、ジェーンは何も応えない。何か共感することがあるのか、それとも弱って声を上げられないだけなのかは不明だ。


「お前だって直に体験しただろう? お前に取り憑いたあの悪霊達・・・・・・あれが名誉の戦死を遂げた、ディーク兵達の・・・・・・お前の同胞達の姿だ。あんな醜い化け物になった奴らを、お前は神聖な存在に見えるのか? そしてお前は、死んであんな姿になりたいのか?」


 忠告と訴えというより、彼女の会心を期待するような勝太郎の言葉。それにジェーンは、しばらく黙った後で、短く小声で呟いた。


「俺は怪物なんかにならない・・・・・・ロアの元に・・・・・・死後の楽園で幸せになる・・・・・・」


 ジェーンの言葉はそれだけだった。その後は、彼女はずっと黙り込む。

 ジェーンが大人しくなるのを見て、警官と看護師達が近づき、彼女を慎重に担架に乗せていった。ジェーンは一切抵抗せず、されるがままに病院へと運ばれていった。

 神社の境内から、彼女が存在がいなくなったのを見て、緊張状態だったその場が緩み、安堵の息が流れていった。


 水奈子にお祓い続きをしてもらう者や、そのまま村に変える者、その場に留まって先程の顛末について世間話をする者。

そんな人々が行き交う中で、勝太郎は落胆した様子で、ジェーンが運ばれていった方向に顔を向けている。

 もう彼女と彼女を運ぶ警官達の姿は、こちらからは見えないが、彼にはそれが判らない。そんな様子で黙り込んでいる勝太郎に、ラチルが後ろから声をかける。


「残念だわ勝太郎さん・・・・・・でもあれが現実よ。ディーク神聖王国も、それに信じた人達も、もうほとんど救いようがないわ。後はただ無様に滅んでいくところを見送るだけよ。まあロア教の嘘で、罪を犯したところは哀れだけど、所詮罪は罪だからね。もうあれは自業自得だし・・・・・・」

「それはお前達だって同じだろう?」


 諭すようで、かつ祖国を見下す声を上げるラチルに、何故か勝太郎が、苛ついた声でそう返してきた。その雰囲気に、ラチルはやや戸惑う。


「えっ!? いやまあそうだけど・・・・・・でも私は最初から正しい心を持ってたし・・・・・・勝太郎さん?」


 その場で急ぎ足で逃げるように離れていく勝太郎。彼は真っ直ぐに、宿坊の自分の部屋に向かっていた。


(あいつらだって、本当は他人事にできないんだよ・・・・・・。死後地獄に送られるのは、聖者だって同じなんだからな・・・・・・)


 彼はカーミラに召喚され、新しい肉体に転生される前に、この世界の本当の神である、鬼神達と会っていた。そして彼女らから、この世界に冥界について、あることを聞いていた。


『まあ、そういうわけでね・・・・・・ロア教の横暴のあまりの酷さに、私ら冥界も完全に怒っててね。それでロア教を信仰して、奴らの横暴を賞賛したり手を貸したりしたら、全て死後地獄に送ることが、上のご意向で決定済みなのよ』

『ロア教の全てをか? 皆騙されていただけだろう?』

『そんなことは言い訳にもならないわ。皆ロア教とディークが、異民族に何をしたか知ってたしね。例え知らなくても、ロア教に大きく協力した者も、同じく地獄行きよ。当然ロア教の屑の加護の元で、英雄気取りになってる聖者達もね。・・・・・・ああでも一人だけ例外がいたわ。今アマテラス大陸の津軽王国に住んでいる、ルチルっていう子だけは、地獄行きから逃れられるわ。あの子、ディークにそれほど大きく貢献する前に、ディークとロア教の本性を知って、そちらから離れていったしね。それにあの子、アマテラスを救うのに、結構頑張ってくれたし、充分恩赦があるわ』


 とまあこんな説明があったのだ。ロア教に協賛・協力した者は、全て地獄行きというやるせない話し。それはつまり、今ディークを敵視している聖者達=ラチルとウィリアムも、死後地獄に行かされるということである。


 そのことを、あのジェーンの言葉を聞いたときに、彼は気づいたのだ。勝太郎はこの話しを、実に理不尽に思い、そしてラチル達を何としても、そこから救いたいと考えていた。


(あいつらの地獄行きを止めさせるには・・・・・・あいつらに恩赦を貰えるぐらいの功績を立てるしかないのか? 亡霊を対峙した件と、ジェーンを捕まえた件で足りるだろうか? どのみちこれからディークで何かするときに、あいつらにも働いてもらった方がいいな・・・・・・)


 もう彼女達は、彼にとって赤の他人ではない。それはジェーンとて同じだが、彼女を救うことはできなかった。

 彼としてはかなり真剣に人助けを考えながら、とりあえず一休みしようと彼は宿坊に歩いて行った。


「勝太郎さーーーーん! 私先にお風呂入ってるねぇーーー! 一緒には入りたかったら、いつでも言ってーーー!」


 そんな最中に、後ろからかけてきたラチルの声に、勝太郎は脱力して少しずっこけた。


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