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006 助けてあげて

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 この日も宿で部屋を二つ取るか取らないかで一悶着があった。


 翔にしてみると、メロは女の子だし、自分も一人の方がゆっくりできるので部屋は二つにしたいところだった。


 しかし貧乏性が染み付いたメロにしてみると、部屋代の大銀貨二枚がどうしても許せない。


 普通の高校生の男子ならメロのように可愛い女の子と同じ部屋に寝ると言うのは中々スリリングな事のはずだ。


 しかし、翔の場合、自分の姉妹達の存在が、翔にそんな甘い考えを持たせなかった。姉妹達の存在は、翔から女性に対するあらゆる幻想を消し飛ばすのに十分な理由となっていた。


 だから、たとえ女の子と同じ部屋に寝ると言っても、それが即、甘い夢に繋がるとは全く考えられなかったのだ。


 逆にメロと寝るのは、どちらかと言えば遠慮したいぐらいだった。


 最後は、翔がメロの部屋代を持つと言ったが「一人が怖い」のメロの一言で一つの部屋を取ることに決したのだった。



☆☆☆



 この後、数日して、翔のレベルは、6になった。


 武闘家として、必殺技『闘魂キック』を覚えた。このスキルのおかげで貧弱レベルの魔物なら蹴り殺せるようになった。


 武闘家の良いところは、素早いところだ。体が軽くなり他にも覚えたスキル『闘魂防護』をまとえば、生身で魔物の攻撃をしのげるようになった。


 メロは、まだまだ魔物を怖がっているが、次第に魔物と闘うことにも慣れてきた。


 翔は、メロが超基本スキルを修得する事に、懸命に取り組んだ。


 メロが、洗練された魔法を構築するためには、どうしてもメロの荒削りの魔法スキルでは、小技が効かず、うまく翔が教えた術式が構築できなかったからだ。


 ちなみに、翔は、高度な魔法知識で、どんな魔法でも使えるのだが、MPが、たったの12しかなかった。さらに、使えない属性もあるため、魔法を使えるようになったとは、言い難い状況が続いていた。


 一方、メロの方は、翔から、伝説の大技を教えてもらえると信じていて、翔の命令通りに基礎練習を素直にやっていた。


 小技の練習は、新米料理人のジャガイモの皮むきのような、地味な鍛錬だったが、翔の予測に反して、メロは、一言も不平を言わなかった。


 逆にメロは、口の悪い翔の意外な教え方のうまさに、感動していたのである。


 翔の事は、早くも「翔様」ではなく名前で呼ぶようになっていた。翔としてもその方が良かったのでそのままにしていた。


 さらに、メロは、翔の横柄な態度に、突っ込んでみたり、ふてくれてみたりするようになった。友達感覚というやつだ。それは今までアイドル扱いされていた翔には初めての感覚で少しだが楽しいと感じさせてくれるものだった。


 古い由緒ある魔術師の家系に生まれたエリートの翔にしてみると家族でさえ競争相手なのだ。こんな女の子を何故助けたのか翔自身でも不明なことだった。メロの庶民感覚に惹かれたのか? メロの天真爛漫さに惹かれたのか? 本人にも答えを出す事はできないようだった。



「お前、昨日教えた術式は、マスターしたんだろうな。のろまな亀では俺の弟子は勤まらんぞ」


 翔が怖い顔をわざと作って見せて言った。


 しかしメロは全く動じず、反論した。


「私は、翔の弟子じゃない。翔は家庭教師」


 そんな間柄が出来上がっていた。


 イーブンな男女関係と言うのは翔には新鮮で楽しいものだった。


 しかし、メロには、当然の感覚だ。仮に翔がスーパーイケメンだとしても、メロは翔に媚びへつらったりしなかっただろう。


 メロが翔の言いつけを守らずに、術式の練習をしていないのには理由があり、その事は翔も充分に理解していた。


 メロは、『精霊魔法』の修得がしたいのだ。その為に昨日から、精霊召喚をした精霊を相手に四苦八苦しているメロだった。


 召喚魔法は、一種の技能なので、召喚の魔法陣と召喚呪文さえ正しければある程度の魔法使いなら誰にでも可能だ、翔はそれをメロに教えてやったのだ。早速召喚に成功し、精霊を召喚したが精霊がなかなかメロの命令に服さないのだ。


 ちなみに、メロが召喚したのは精霊パック。可愛らしい男の子の顔に下半身は山羊か羊の脚のような格好をしている精霊だ。こいつはイタズラ好きの陽気な精霊だ。


 パックは、さすがに魔法生物だ。見てくれは貧弱だが魔力はあるらしい。魔力が強力過ぎてメロではうまく扱えないのだ。


「そんな小精霊で何をもたもたしている」


 翔が鼻で笑った。


 それを見たメロは、プックリと頬を膨らませて見せた。


「このパックは、小精霊じゃない。この精霊は、とても素早く仲間に勇気を与える精霊」


「何が勇気だ。ただの道化だろうが」


 さっきから、パックはメロの周りを歌いながらぐるぐる回っているのだ。


「鬱陶しい奴だ」


 そう言うと翔が実体の無い霊魂のはずのパックをどうやったのか素手で捕まえた。


「ギャ〜」とパックが叫び、山羊の脚で翔を蹴ろうとする。翔は慌てて避けると躊躇することなくパックを地面に叩きつけた。今度こそ本当に悲鳴をあげてパックが目を回した。

 

「ほら。そいつが伸びている間にとっとと捕まえて痛めつけてやれ」


 翔が言った。


 しかしメロは慌てて伸びたパックに駆け寄ると翔に鋭い視線を向ける。


「何をする! 可哀想」


 メロが非難の目を向けて言った。


「馬鹿め。そんな野蛮で馬鹿な小精霊如きに可哀想とは何だ。それで本当に強力な精霊や悪魔が使役できると思っているのか。さっさと隷属規約の紋章を書き込め」


 容赦なく、翔は、命じた。


 しかし、メロはジト目で翔を睨みつけた。


「信じられない」


 メロはそう言うと、翔にイーと歯を見せた。


 気持ち悪い小精霊のパックなど翔には、魔物とどこが違うのか分からなかった。少しも可愛いとは思えなかった。


 すぐにパックは気が付いた。メロが治療の魔法をかけてやったみたいだ。


────勿体無い事をする.......


 翔は眉をしかめながら思った。


 パックは、翔を恐れてメロの背中に隠れた。


「翔。ダメ」


 メロは、翔がパックを捕まえようと動くのをけん制するために怒鳴った。


「面倒な小精霊など役に立たん。さっさと解放するか頭から食べてしまえ」


 翔は、からかって言った。


「ヒェ〜」


 翔の脅しに恐怖した小精霊パックが悲鳴をあげた。


「解放!」


 パックがあまりにも可哀想なので慌ててメロは、パックを解放したのだった。


 すると、パックは、メロの前に回り込んできて、足元にひざまずき、頭を下げたではないか。


 解放されて自由になると翔など眼中にないという態度だ。それから、何かをメロの足元に置いて水になって消えた。


「何だ?」と、翔がパックの残した物を拾い上げる。


────アリス。これは何だ?


 翔はその丸い小さな宝石みたいな物を見ながらアリスに尋ねた。魔核に似ている。


《精霊のかくですね。メロさんに、お土産として置いていったのでしょう。それを飲むと『精霊魔法』が使えるようになります。メロさんは最初から魂である精霊が見える様ですから、きっと良い精霊魔法の使い手になるでしょう》


「メロ。喜べ。お前の優しさの賜物だ。これを飲めば『精霊魔法』が使えるようになるそうだぞ。これは小精霊の核だ」


 さっそく翔が教えてやる。


「え? 『精霊魔法』が?」


 メロは翔から小精霊の核を渡されると大事そうに両手で持った。


 メロは、いきなりの贈り物に驚いた。翔は、何でも惜しげも無く彼女に与えてくれる。決して気前が良いわけでも優しい訳でも無さそうなのに、翔には一切の屈託が感じられない。本当に翔には器の大きさを感じさせられた。


「翔。本当に私が飲んでいいの?」


「パックは、お前に置いていったのだ。当然お前が飲め」


 翔が言った。


 メロは揺るぎない翔の言葉に大きな安心のため息をついた。メロは、嬉しそに小精霊の核を飲んだ。


 メロの嬉しそうな姿に、翔も微笑んでいた。


「翔。精霊魔法、開花した!」


 メロが大声をあげて喜んだ。


 メロは、翔に感謝の視線を向けた。


────翔。こんなに優しいのに。どうして精霊達に冷たいの?


 メロはそこが不思議だ。


 そんなメロに反して。


────精霊をれば精霊の核ができるのか?


 一方の翔は、そんな物騒な事を考えていたのである。


《いいえ。殺しても取れません。そもそも精霊は殺せません。

 それに精霊魔法には、魔法能力のような属性が有りません。あるのは熟練度ステータスのみです。

 このため魔核のように精霊の核をたくさん飲んでも意味がありません。翔様の場合は精霊魔法の熟練度ステータスは、私が可能な限り高く設定しましたので非常に強力な精霊魔法をレベル1から使えましたがメロさんはたくさん精霊を使役して、熟練度ステータスの値を上げないと高度な精霊を使役できるようになれません》


(そうなのか。たくさん精霊を使役すればステータスが上がるのだな)


 翔は、念を押した。


《ただ使役するのではなく、出来るだけ強力な精霊を出来るだけ難しい仕事に使役させようと努力すればステータスが上がります》


────なるほど.......


 アリスのアドバイスは本当に役に立つ。


────分かった。アリスありがとう。


 翔はアリスに感謝して、珍しく礼をいった。


「メロ。精霊魔法は、出来るだけ強いやつを呼んで、難しい仕事をさせると精霊魔法の熟練度ステータスが上がるそうだ。お前は、そんなに精霊魔法が好きなら、せっせと練習し、ステータスを上げるんだな」


 翔がアリスから教わったことを教えてやった。


 メロは、瞳を輝かせてウンウン頷いた。仕草が可愛いが、なんだか不安になる翔だった。


────こいつ大丈夫か?


 メロの様子に不安を持った翔が心配していると。


「イフリート!」


 突然メロが精霊魔法を発動したのだった。


 メロが呼び出そうとした精霊は、炎の精霊では最強クラスの神級の精霊だ。


 そんな強力な奴は翔でも手が余るだろう。さすがに翔も呆れてメロの顔を見た。


 次の瞬間だった、小規模だが充分に威力の強い爆発が起こったのである。そして、メロは、目を回してしてその場にへたり込んてましまった。


 どうやらイフリートに拒絶されたようだ。


────こいつは本当に天然だ!


 と翔は呆れながら、治療魔法をメロにかけてやった。


 翔の雀の涙ほどのMPがごっそり減ってしまったのであった。


 メロは目を覚まして、「ふー。ビックリした」と呟きながら、どこまでも天真爛漫ぶりを示した。


「おい。少しは考えて精霊を選べよ。お前はMPが豊富だから、MPで釣れば、少々、立派な精霊も呼べるかもしれんが、レベルの高い精霊を呼ぶのは、もう少し熟練度が上がってからにしろ」


 翔は、さすがに目を怒らせて叱り飛ばした。


「ふぁぁい」


 しかし、メロは気のない返事を返すのだった。。



 メロはこの時、自分のステータスの値を魔法で確認して見て、驚いた。


 精霊魔法の熟練度ステータスが三つも上がっていたからだ。


 しかし、今回はさすがにやり過ぎだ、命がいくらあっても足りない。


────もっと気性の荒く無い精霊が良い。


 メロは、考えるやいなや叫んだ。


「クーシー!」


 懲りずに精霊魔法を発動したメロだった。ある種、メロの精神は、とてもタフなのだった。


 翔は、呆れを超えて、少し感心してしまった。


────こいつは、意外に才能が開花するかもしれないな。


 メロに呼ばれた精霊は、ぼやんとした緑のもやのような姿を表した。


 精霊の名前は、クーシー。緑色をした、番犬のような精霊だった。


 見た感じは、愛嬌があり、イフリートに比べたら人懐っこい性格をしているようだった。


 しかし、緑色のモヤのような精霊犬は、姿を現わすなり「バウバウ!」と吠え出したり


 そして、そいつは、いきなりメロに飛びかかるなり、噛み付こうした。


「きゃー!」


 悲鳴をあげたメロは、杖で自分の倍近くあるクーシーを押し戻している。


 悪戦苦闘しているメロを翔は、笑いながら見物していた。


「頑張れメロ。しばらくその子犬とじゃれていろ。俺は、道具屋に行ってくる」


「待って。私も道具屋に連れて行って欲しい」


 緑の大犬と格闘しながらメロは言った。


 翔との楽しいショッピングを逃してなるものかと必死でクーシーを調伏しようとすた。メロは、魔法の術式を構築して「小爆発エクストラバラス!」を発動した。


 爆発が起こり、クーシーは、ひるんだ。


 その時、翔が良い思いつきをした。


「クーシー。こっちに来い」


 翔は、緑色の精霊犬に命じたのである。


 途端に、緑の雲のようなクーシーが、よりハッキリした姿のかなり大きな立派な犬に変身した。アニメ風の犬が劇画風の犬に変わったような変化ぶりだった。


 そして、クーシーは、尻尾がちぎれんばかりに振りながら、翔の足元にやって来ると、お腹を上に向けて寝転がった。絶対服従の姿勢だ。


 それを見たメロは、精霊魔法のレベルの違いを、つくづく思い知ったのだった。


 もう少し弱い精霊から練習する必要があるようだと懲りないメロも思った。


「クーシー、伏せ!」


 翔が命じた。


 翔の命令に、クーシーは、飛び上がって、くるりと背中を上に戻して、立ち上がると、直ぐに四足を曲げて、伏せの姿勢でうずくまった。


「メロ。乗るぞ、道具屋までこれに乗って行こう」



☆☆☆



 翔は、道具屋に来たのには理由があった。治療薬を購入する為に来たのだ。


 イフリートに倒されたメロを治療するため、虎の子のMPをごっそり持って行かれたので考えを改めたのだ。


 翔は、そろそろ肩慣らしを終えて本格的にレベル上げを始めるつもりだった。


 しかし、今後も、天然のメロは、魔物との戦闘で、翔の想像もしない、馬鹿な事をしでかすに違いない。


 それに対応するためにも、治療師の仲間の居ないのが不安なので治療薬を購入する事にしたのである。


 さらに、メロには、多少お金がかかっても装備を整えてやる必要もある。


 武闘家の翔が持っている『闘魂防護』みたいな特殊技もなく、魔法防護も幼稚でまだまだ不安定なメロだったからだ。


 少しばかり、お金の余裕もできた。手持ちのお金は翔の魔核精製能力の副次精製物のおかげで金貨40枚ほどになっていた。


 これは、駆け出し冒険者としては、有り得ない破格の稼ぎだったが、翔には全く自覚が無かった。


 翔は、今日メロの装備を先に整えてやり、自分の装備は武闘家から転職した時に改めて買うつもりだった。



 二人はアリスのお勧めの道具屋に入って行った。


「親父。回復薬を金貨一枚分くれ。それと金貨三枚程度の手頃な防護効果のある派手なマントをこの娘にあてがってやってくれ」


 この言葉に、喜んでメロが驚きの言葉を上げた。


「翔。良いの?」


 しかし、メロの目は、欲しい欲しいと雄弁に語っている。


「お前にはそれなりに報酬をわたしているだろうが。下らぬサブカルチャージャンルの魔法書など買わずに、もっと実戦的なローブや杖を買え」


 一応、翔は叱っておいた。


「サブ? 意味は、分からないが、私の伝説の魔道書を馬鹿にするとは.......むむむ」


 メロがふんぞり返って反論した。


 メロは、翔から報酬を受け取ると、子供騙しの大変低俗な魔法本を買ってしまうのだ。出会った頃に無一文だったのもそれが原因だったようだ。全く無計画極まりないメロだった。


「お前に何を言っても無駄だな。困った奴だ」


 翔は、ため息をついた。メロが天然なのは見るからにだが、その上に金銭感覚まで故障しているとは呆れて物が言えない。


 そんな事も有って、最近では魔物を狩った報酬は等分にはしていない。メロにあまりお金を渡すと、とんでもない買い物をしてお金を浪費するだけなのでお小遣い制に変えたのである。


 お金に無頓着なメロは、貰う額が減ってもその事に気付いていないようだった。


 一つには、退治する魔物のレベルが上がっているため、クエスト収入が増えているからだ。


 メロには、週に大銀貨一枚程度を渡しておけば良いだろうと翔は考えていた。


 一方のメロは、定期的にお小遣いが貰えているので、単純に感謝していた。メロにとって、翔は貴重な保護者であって、甘えてスネをかじるための存在でしか無いのだった。


「やった! 翔に魔法のローブを買ってもらう」


 メロは、単純にはしゃいでいた。


「おお。こんなのはどうだ?」


 道具屋が出してきたのは赤紫のローブだった。


────今のショッキンググリーン色よりは少しはマシな色だが.......


 翔は、そう考えて見ていると。


 メロは「少し地味」みたいな事をメロは言ったりしていたが、それなりに気に入ったのか、一度持ったローブを離そうとしなくなった。


 翔はその様子を見て、苦笑しながら道具屋の親父に金貨四枚を渡した。


「兄さん。掘り出しもんがあるんだがどうだい」


 道具屋がその場を立ち去ろうとしていた翔に言った。


「掘り出しものって何だ。親父」


「いや、物じゃ無いんだ。奴隷なんだよ。評判のルーキーの翔さんなら買えるだろう」


 道具屋の親父が猫なで声になって言った。


「何でも売りますと言う道具屋の決まり文句は立派だが、人間まで売るんかい」


 呆れて、翔が道具屋の親父に突っ込みを入れる。


「いゃぁ。エルフの女の子なんだが。訳ありの娘でね。有名なメロさんと仲良くできる兄さんなら飼い慣らせるかもとね。とにかくあのまま廃棄させるのが惜しくってね」


「訳あり? 廃棄?」


 翔が顔をしかめて呟いた。


────何かうさんくささが半端ないぞ。


 翔は耳を塞ぎたくなった。


 翔の躊躇するのを無視して、道具屋の親父は話を続けた。


「俺には、ちょい悪の叔父貴がいるんだが、叔父貴は人身売買なんかもやってるのさ。そこに、二ヶ月ほど前にエルフの娘が売られてきた。こいつがなかなかの美人で評判になったんだ。そこ迄は良かったんだが、その娘が売られた先で暴れてな、奴隷紋章の魔法が効いていて死ぬ以上の苦痛があっただろうに最後まで逆らったらいし。

 そんでもって、買主の貴族様の逆鱗に触れてしまったんだな。酷い拷問まで受けてポンコツになった娘を叔父貴に返品してきたってわけさ。しかも、その貴族は腹いせにその娘を第二級の強制奴隷に落とす罰を与えたから叔父貴も扱いに困って廃棄処分にするっていうんだよ。俺は綺麗な時の顔を見てるので可哀想でね」


 道具屋の親父が眉をひそめながら、言った。


「俺には関係無いな」


 にべもなく翔が言った。


────アリス。第二級強制奴隷ってなんだ?


《奴隷には階級のようなものが有ります。一つは、自分から奴隷となった自由奴隷です。こらは金銭で雇う形式の奴隷ですので、あまり強制的な扱いは出来ません。

 次に金銭で売買された第一級強制奴隷です。多少の強制的な扱いを受けます。女性なら性的な扱いはもちろん、強制労働なども。そして、買主から解放されないと奴隷から抜けられません。

 最後に罪などを犯して奴隷となった、第二級強制奴隷です。これになったら恩赦でもなければ奴隷から抜けられず、買主も解放できません》


 自分の思い通りにできなかった貴族が腹いせに奴隷を第一級から第二級に落としたということだろう。


 買主に楯突いてボロボロにされた奴隷が二度と売れる訳がなく、その上に解放すらできない奴隷となれば、廃棄処分と言う意味は殺されるってことだろう。


 可哀想だが、可哀想な人を全て助ける余裕など翔にはない。関わらないことが一番だ。


 その時、ずいっと翔の前に飛び出てきた者がいる。余裕など考えもせず直ぐに人助けしたくなる天然娘メロだ。


「おい。お前はしゃしゃり出てくるな、話がややこしくなる」


 翔がメロを引き戻そうとしたが、メロは一歩も引き下がりそうになかった。


 くるりと、翔の方を見て、翔の弱点である言葉を発していた。


「助けてあげて」


 翔は、この言葉に弱かったのだ。


 翔は、仕方が無いなぁとため息をついて、親父に向き直った。


「親父。その奴隷商の場所は?」


 翔は、そう尋ねていた。

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