026ー1 お前ら最弱モンスターだったんじゃねぇか? 1 *
【修行履歴】
2019年11月10日
①26話を2分割しました。
②文章の訂正をしました。
③主人の思考を表す、表現方法の変更をしました。
④剛腕アルマのイラストを追加しました。
ランクS級“火神の杖”のリーダー。レベル52。戦闘魔術師。ラビノビッチ・バシコフは第五グレイド魔法『落石』を唱えた。
見事な短唱技術で魔法術式を展開し、発動するまで三分程度まで時間を圧縮した。
見るとゴブリン共は、相当な距離まで近づいていた。
魔法が発動し、無数の岩石がゴブリン達に降り注いだ。ゴブリン達は、悲鳴を上げて行軍を止めた。
ラビノビッチ・バシコフは、振り返って合図を送った。
ヨナタン、ララ、カミラの三人が一度に第四グレイドの魔法『炎嵐』を唱えた。
「いいタイミングだ!」
ラビノビッチ・バシコフが叫んで賞賛した。
三人の唱えた『炎嵐』が発動し、ゴブリン軍の前方に大きな炎の壁ができた。
「よし! 走れ!」
ラビノビッチ・バシコフが命じた。
ラビノビッチ・バシコフは、指で走る方向を指し示した。
メンバー達は疾風のように走る。大群に囲まれた時は高い場所から全貌を把握する事だ。
彼らが目指したのは、前方の小山だった。登りにくそうだがその方がゴブリン共に追いつかれ無くていいだろう。
直ぐに頂上に着く。見渡すと森林の遥か彼方まで見る事ができた。
「これは……」
絶句したのは、“火神の杖”の召喚師。ヨナタン・ピョルグンドだった。
「ララ、カミーラ。これは天地がゴブリンで溢れかえってるんじゃないか」
「大変だわ。リーダー。この数は尋常じゃ無いわ。軍は、東を目指しているわ。この数では南北に逃げるのは、危険ね。私達も彼らよりも早く東に逃れるしか無いわね」
カミーラが囁き声で言った。
「早く逃げましょう」
ララも囁き声で言った。
一刻でも早く移動したかったのだ。
「リーダー。あれは、どれくらいの数になるんだ?」
「みたところ十万は軽く超すな。十万の数倍はいるだろうな。全体が見えないから確かな事は言えないが少なくとも二十五万〜四十万ってところだろう」
「ここから西は、全滅しているかもしれん。取り返しがつか無いな」
ヨナタン・ピョルグンドは、ため息まじりに言った。
「とにかく、一刻も早く王国に知らせる必要があるだろう。もはや冒険者ギルドでは、対処しきれんだろう」
ラビノビッチ・バシコフは、暗澹とした口調で、言った。
☆
ラビノビッチ・バシコフ以下、“火神の杖”のメンバー四人は、風のように走った。魔術系の彼らは走るのは不得意だったが、そんなわがままを言っている時では無い。
「もう少しで森林を抜けるはずよ」
レンジャー職のララは、周りの地形から、頭の中の地形の情報を照らして、言った。
森林を抜ければ逃げるスピードを上げることができる。一挙に突っ走り、『始まりの街』まで行くのが彼らの目的だった。
彼らの視界を遮っていた森林の木々が、まばらになり視界が広がった。
「何だあれは?」
叫んだのは、ヨナタン・ピョルグンドだった。
他のメンバーは、あまりの光景に口をパクパクさせてその場に立ちすくんだ。
彼らの眼前には、天を覆い尽くすような巨大な城が、聳えていたからだ。
その巨城は、高さ数百メートルの崖の上に建てられているようであった。しかも巨城の周囲には、ざっと幅が二百メートル、深さは、見た感じでは、底が見えないほどの奈落の、巨大な堀が巡らされていた。
その巨大な堀から崖の上にある城には、美しい曲線を描いて、大きな架け橋がかけられていた。
‘火神の杖’のメンバー達は、その橋の巨大な事にも、驚かされた。美しい架け橋のフォルムや、橋が、どのような材質できているのか、見た事も、聞いた事もない物だった。まるで、それは、天空にある城に向かってかけられた天の架け橋のようだった。
「ここは、『始まりの街』の南方の街道だったはずだが? どこかで方向を誤っていたか? 誰か、あの巨城の事を知っている者がいないか?」
リーダーのラビノビッチ・バシコフは、早口で尋ねた。切迫した状況に頭が混乱したのだ。
「あんな建造物が有ったら、誰でも知っているだろう。これは夢に違いない」
召喚師ヨナタン・ピョルグンドが呟くように答えた。
彼らが見たその建造物は、翔の作った要塞だった。
森林を出ると平原のはずなのに巨大な自然の要害と建造物がそびえていたのだ。驚くのが当たり前だ。
「おおーい」
その叫び声に我にかえったラビノビッチ・バシコフは、どうして今まで気づかなかったのか、遥か彼方に、恐ろしい魂を発する魔物の群れがいることに気付き、慌てて身構えた。
その魂は、ラビノビッチ・バシコフの背筋を一瞬で凍らせるのには、十分なほど濃厚で、強烈だった。
「おーい。“火神”のラビノビッチじゃないか?」
叫んでいるのは、ラビノビッチの旧知の剛腕アルマ・ベストのようだった。
「あれは、剛腕の姉御みたいだな」
ヨナタン・ピョルグンドが叫んだ。
「ヤバそうな魔物に囲まれているが大丈夫なのか?」
ラビノビッチ・バシコフも目を細めて見ながら言った。
みるみる距離が縮まって来る。
剛腕アルマと魔物達は、ラビノビッチ達、“火神の杖”のメンバーの直ぐ前まで来ると立ち止まった。
「アルマが乗ってんのは、首が無いし、鎧をまとっているし、もしかすると伝説のデュラハンの騎馬コシュタバワーじゃないか? そしてその後ろの首無し騎士達こそデュラハンそのもので、間違い無いだろう」
召喚師のヨナタン・ピョルグンドは、呟く様に言った。
「ヨナタン。あのデュラハンって魔物。ダブルS級の魔物よね」
メンバーの前衛を勤める剣士・魔術師のララが確認するように尋ねた。
剛腕アルマは、ラビノビッチの前までくるとデュラハンの騎馬コシュタバワーの鞍の上から彼等を見下ろした。コシュタバワーは巨馬で徒歩の彼等からはかなり高いところにいる様に見えた。
「“火神”達。西からか?」
剛腕のアルマ・ベストは、問いただした。
「そうだ」
火神のラビノビッチが答えた。
「ゴブリンどもがいただろう。奴らは、どれくらいいた?」
剛腕のアルマは、重ねて問うた。
「三十万はいたな。それよりもあれは?」
火神のラビノビッチが翔の作った要塞を指差しながら尋ねた。
「幻の城さ。あんなもんが有んのが、私にも信じらんないよ。今は、あたし達は、あそこに厄介になってるんだよ。しかし、ゴブリンどもめ。本当に三十万なんて、そんな数はあり得んのかい?」
剛腕のアルマは、顔を顰めて吐き捨てるように言った。
「詳しく説明するよ。あの城に、俺達も避難させてくれるか。生きた心地がしない」
ラビノビッチは、首をすくめながら言った。
「“火神の杖”らしくないじゃないか」
アルマは、怪訝な顔で聞いた。
「俺達は、命からがら逃げてきたんだ。『始まりの街』まで駆け通すつもりだった」
「“火神”の。S級で最もダブルS級に近いと言われてるあんた達らしく無いね。何匹いようが所詮ゴブリンだろう?」
アルマが突っ込んだ。
「剛腕の姉さんは厳しいな。そもそも俺達は、ゴブリン軍の様子を観察するクエストを請け負ってきた。しかし場合によっては、やつらの大将を討伐しても良いことになっていたんだ。しかし実際に来てみると、ゴブリン軍の大将どころか、ゴブリン軍の精鋭達に酷い目にあわされて命からがら逃げてきたって言うのが今の俺達さ。
レベル30を越えた化け物のような奴らばかりの何百もの群れに囲まれちまったんだ。奴らは、全員がゴブリン貴族以上の強さだった」
思い出すだけでも背筋が凍りそうになる。
「そんな強いゴブリン共が集団でいるのは、おかしくないか?」
アルマが不思議そうに言った。
「いやいや。奴らは既に普通のゴブリンじゃない。末端の兵達ですらレベル15以上あるホブゴブリンばかりだった。
さすがに俺達も、レベル30の魔物の群れの真っ只中に叩きこまれたら直ぐにでも全滅するだろうさ」
ラビノビッチは、ため息まじりに言った。
「そんな奴らが相手で良く生き残ったな」
アルマは、心底から感心したように言う。
「ああ。ギリギリ逃げ延びてきた。俺達は半日分の距離を稼いでここに着いたと考えている。半日後には、ここにあの怒涛のような大群が到達するだろう」
ラビノビッチ・バシコフは、息を切らしながら言った。
「それよりも、剛腕の。あんたは、あの城やこいつらデュラハンのような恐ろしい魔物と、どんな関わりがあるんだ?」
「あの要塞もこの魔物達も、私達の新メンバーの大魔術の成果さ」
アルマは、曖昧に説明した。
中途半端な説明で済ませられるような状況ではないが、そこをあえて曖昧に答えているのは、ラビノビッチ・バシコフにも分かった。
「何だい。俺達には内緒なのか?」
ラビノビッチ・バシコフは、不満そうに呟いた。
「ああ。話せる時になったら話してやるよ」
アルマ・ベストは、いつもの快活な笑いを浮かべながら言った。
「とにかく、要塞に入りなよ。ついといで」
アルマは、ひらりと、首無し馬のコシュタバワーから飛び降りた。
馬に刺していた、巨大な剣を取ると、方から担いで、ニッコリと笑いながら、ラビノビッチ達の方に向いた。
そして、アルマは、案内をするために先に歩き始めた。
アルマの案内で要塞に近づいたラビノビッチ・バシコフ以下“火神の杖”のメンバー達は、巨大な架け橋の前まで連れられて来られた。
そして、そこには、大勢の人間がいた。
「あれは?」
ラビノビッチ・バシコフが尋ねた。
「難民だ。西はゴブリンの大侵攻でほとんど全滅したらしい。女は、子供から年寄りまで連れて行かれ、男は皮を剥がされた。彼等は命からがら逃げてきた難民さ」
剛腕のアルマは、暗澹とした表情で呟くように言った。
「難民達か? 対処に困るだろうな」
ラビノビッチ・バシコフは、困った顔で、囁いた。
「彼等は、あの城に収容して保護している。あの城は、その為に造ったものだ。城には数万の難民が収容されている」
ラビノビッチは、驚いて目を丸くした。
「そいつは、豪気な事だ。しかし難民を保護するなど聞いた事もないな」
「私の思いつきだったんだが……。しかし、今は正しい事だと思っている」
アルマが誇らしげに胸を張って、言った。
しかし、ラビノビッチは、笑って、首を左右に振った。
「やりたくてもできない事は、あるもんさ。金銭。武力。宗教。いろんな制約があり過ぎるだろう。数万もの難民を収容して、うまく統制がとれるのか?」
ラビノビッチ・バシコフは、心配そうに、聞いた。
「我々冒険者が運営を担当している。私は、この周辺にいた難民の取り残しを集めて、城に案内する係りだ」
「主催者は、どなただ? 神聖王国の聖騎士様でも、これだけの財力は、ないだろう? 国の将軍様でも派遣されて来ているのか?」
ラビノビッチ・バシコフは、尋ねた。
「私だ」
アルマ・ベストが軽く答えた。
ラビノビッチ・バシコフは、その答えに、一瞬眉間に皺を寄せて、アルマの顔を覗き込んだが、それ以上は、何も言わなかった。
“火神の杖”の他のメンバー達も油断なくリーダーに付いて歩くだけで、誰も口を開かない。彼らは、今見ているものが現実のものに見えなかったのだ。
狐に頬を摘まれたような顔をしてラビノビッチ以下のメンバーは剛腕のアルマに付いて行った。
彼等が、要塞城への渡り橋の近くまで来ると、そこには大勢の難民が不安そうにしているのが分かった。
難民を取り囲んで護っているのは、冒険者達のようだ。ラビノビッチは冒険者達が素晴らしい武具を付けているのを見渡した。
────精鋭を集めたんだな。
その時、ラビノビッチは、武具の素晴らしさだけで、彼らの実力を見誤って、そう考えていた。
難民達には、女子供も多く混じっていた。首無しの魔物デュラハン達を連れたアルマが近づくと悲鳴をあげるものもいた。
アルマは、デュラハン達に合図を送り、難民達を遠巻きに護るように指示を出した。
「了解した」
首無しのデュラハンの一人がどこから答えたのか、そう言って難民達から距離を取って整列した。
「アルマ姉さん。デュラハンはダブルS級。あんなのをどうやったら使役できるんです?」
聞いたのは召喚師のヨナタン・ピョルグンドだった。
「私の剛腕のメンバーに、暗黒魔法の使い手がいるのさ。彼女は魔物使いの名手でな。彼女に聞くといい。名前はイリス・マンダリンだ」
アルマが答えた。
ヨナタンは、聞き慣れない名前に、小首を傾げたがそれ以上聞かずに、頷いた。
「あれは何です。魔法装置ですか?」
“火神”メンバーの魔法剣士カミーラが、渡り橋の上の方を指差して尋ねた。
渡り橋の遥か上の方にゆっくり下がって来る大きな塊が見えたのだ。
「あれは、エレベーターと言う、魔法装置だ。私達のサブメンバーのショー・マンダリンが造ったもんだ」
「凄い!」
“火神の杖”の剣士兼魔術師のララ・ラッセが感嘆した声を上げた。
みるみるその装置は大きくなってゆくのだ。すごい速度だ。
「あれに乗って、要塞城まで行くのさ」
アルマは、少し得意げに説明した。
「見た事も聞いた事もないな。ここは天界なのか?」
ラビノビッチ・バシコフは、呟くように言った。
「アルマ。あんたら一体、何者なんだ? あんたは、本当に俺の知っている“剛腕”のリーダーなのか?」
「私はS級ランカー“剛腕”のリーダー。アルマ・ベストさ」
翔から口止めされているアルマは、ただそう答えるしかなかった。
すみません。本編のモブキャラのパーティー名が誤っていたので訂正させて頂きました。
火神はマルスでした。マーズでも良かったんですけど。正確にはマルスなので訂正させて頂きました。




