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欠陥だらけの天才魔術師(副題:天災魔術師になった天才魔術師はスローライフを生きて行けるか?)  作者: Seisei
第一章 レベルアップ編

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026ー2 お前ら最弱モンスターだったんじゃねぇか? 2

要塞ようさいの中にて】


 翔は、アルマが連れてきたS級ランクパーティー“火神マルスの杖”のメンバーを見渡した。


────アリス。S級って大したことがないな。


 正直に口に出して言うわけにもいかないのでアリスに語りかけた。


《はい。翔様と比べたら皆、大したことが無いと感じられるでしょう。翔様が凄すぎるのです》


────しかし、俺の事よりも、メロを始め、アメリア、イリス、レイラ達はなかなか才能がある。どうしてS級なんて言ってる割にこいつらはこんなに実力が無いんだ?


《修行の質がまるっきり違うのと、皆さんの素質の問題でしょう》


────アメリア、イリス、レイラはそもそも人間じゃないから素質が違うのも当たり前だが、メロはどうなんだ?


《その事には私も驚いています。一つには翔様から移譲された精霊魔法の効果かもしれません。あるいはレベルの低い間に摂取した魔核やその後の魔精結晶の影響も否めません》


────どちらにせよ。ユグドラシルの冒険者は弱すぎるな。


《翔様達が異常に強すぎるのです》


「S級ランカーが二つも揃うのは魔王討伐みたいですわね」


 イリスは翔の腕に捕まりながら、半分身を隠しながら言った。


「お前。なに隠れてんだ? 冒険者が怖いのか?」


「自分が狩られるのを想像してしまったのですわ」


 イリスは翔に色っぽい眼差しを向けて言った。


「イリス。ダメ」


 二人の間にメロが入ってきて、二人を引き剥がした。


「そんなに色っぽいのは、翔を獣にしてしまう」


「おいおい。俺は色情魔しきじょうまですか?」


 翔はメロを睨みつけながら言った。


「西から来たそうだな」


 翔達が馬鹿話をしているので仕方なしにアメリアが尋ねた。


「ああ。君らは? 凄いレベルだね」


 聞いたのは“火神マルスの杖”のリーダー、ラビノビッチ・バシコフだ。


「俺達は、今度、“剛腕”のサブメンバーに入れて貰った、元A級ランカーのメンバーでメロ。アメリア。イリス。レイラ。それと俺が翔。宜しく」


「俺は、S級ランク“火神マルスの杖”のリーダーのラビノビッチ。それから、メンバーのヨナタン。ララ。カミーラだ。ちなみにおれの職業は戦闘魔術師。ヨナタンが召喚師。ララが剣士・魔術師のダブル。カミーラが魔法剣士だ。君達の職業を聞いてもいいかい?」


「俺は創造師クリエーター。メロは神使いと魔術師のダブル。アメリアは至高者オプティマスと魔術師のダブル。イリスは魔物使いと魔術師のダブル。レイラは半神デミゴッド戦乙女デミヴァリキュリーのダブルだ」


「すまない。それはどんな職業なんだ?」


「まぁ簡単に言うと、俺は魔術師で槍使い(ランサー)。メロは精霊魔法使いで魔術師。アメリアは妖精魔法使いの(治療師)ヒーラーで剣士。イリスは暗黒魔法使いで重剣士グラディエータ。レイラは神聖魔法使いで騎士ナイトと言った方がわかりやすいか」


「俺達も長く冒険者をやっているが君達のような冒険者は初めて見るな。アメリアは妖精エルフなのかい? 妖精エルフには至高者オプティマスと言う妖精の王族がいると聞いた事がある」


 ラビノビッチが尋ねた。


「詮索はそれぐらいにしてくれ。それよりも、ラビノビッチはどうしてゴブリンどもの群れているところへ?」


 剛腕のアルマが二人の話に割って言った。


「ああ。俺達は偵察のためだ。西からの連絡が途絶えたって事だった。さすがにゴブリンがあれ程溢れかえっているとは思わなかった」


 ラビノビッチが答えた。


「翔。ゴブリンは三十万を下らんそうだ」


 アルマが付け加えた。


「“火神マルスの杖”。あんた達の見た感じ、ゴブリン共には王が降誕したと思うか?」


 翔は尋ねた。


「分からんが、プリンスよりも大きい勢力なのは間違いない。伝説に聞くプリンスは十万の軍を率いていたと聞いた事がある。今度のはそれよりも大きい」


「俺の知識では、ゴブリン将軍ジェネラルは何度か現れているらしいな。しかし、今回はゴブリン将軍ジェネラルが同時に二人も現れている。昔現れたというゴブリンプリンスの時でさえ従者にしていたのはゴブリン貴族達だった様だ。つまり今回のゴブリンのトップは、軍の数、部下の質の二つでプリンスを上回る事が明らかなようだ。ゴブリンキングが降誕したと見るしかないな」


 翔はキッパリと断言した。


「それで、この城にはどれほどの軍が駐留しているんだい?」


 “火神マルスの杖”リーダー。ラビノビッチ・バシコフが尋ねた。


「ここの戦力は人でなく、召喚した魔物や妖精が中心だ。今、ギルド本部には応援を頼んでいるが、ゴブリン軍は足が速いので戦端が開かれるまでに応援は間に合わないだろう。今の戦力で戦うしかない」


「ここに来るまでにデュラハンの部隊を見た。あれが召喚した魔物か?」


 ヨナタン・ピョルグンドは、興味津々と言った雰囲気を漂わせていたが、尋ねたのはそれだけだった。


 このメンバーはS級に相応しく、統制の取れたメンバーのようだと翔は感心して、火神の杖(マルスのつえ)達を見た。


「そうだ」


 翔は短く答えた。


「教えてくれ。あれほどの高レベルの魔物をどうやって召喚するのだ?」


 ヨナタン・ピョルグンドは我慢できないと言う感じになって、言いにくそうにして尋ねた。


 彼は国でも最も優れた召喚師サマナーの一人だ。彼はイレーネ達の召喚師サマナーのリディア・シュトローメンなどよりも格上の召喚師サマナーなのだった。


「あいつらの召喚はイリスだったな。お前の知りたいのはイリスの『魔物使い』の技か、デュラハンの召喚の方法か?」


「ま、待ってくれ。お前の言ってることがさっぱりわからん」


 ヨナタン・ピョルグンドは遂に悲鳴を上げた。


「俺にもイリスのやっている魔物の支配という奴は良く分からん。そいつが知りたいならイリスに聞くしかない。しかし、召喚魔法を教えろと言うのであれば容易い事。今は戦時中なので教えてやろう」


「君も召喚ができるのか?」


「つまらん質問はするな。時間の無駄だ。そもそも召喚とは……」


 こうして翔の定評のある教授が始まった。


 見ると、彼らの仲間であるはずの女の子達の四人が一番熱心に聞いているようだ。


 ヨナタン・ピョルグンドはこの日、本当の召喚魔法とは何かが初めて理解できた。この少年の説明は驚くほど分かりやすく実践的だった。


「……と言うわけだ」


 翔はそう締めくくった。


 しばらく、ヨナタン・ピョルグンドは口もきけず黙り込んでしまった。ある日を境にして世界観が全くちがうものになる事があるが、ヨナタン・ピョルグンドにはそれがこの日だった。


「そんな!」


 “火神マルスの杖”のメンバーの一人、ララ・ラッセはメロから話を聞いていたが、あるところで叫び声を上げた。


「どうした? ララ」


 リーダーでもありララのパートナーでもあるラビノビッチ・バシコフが走り寄った。


「この子達、レベルアップ・トライアル・ルートのルートマスターらしいわよ」


 ララが恐るべき事実を伝えた。


 その声で、“火神マルスの杖”のメンバーだけでなく、“剛腕”のメンバーまでもがララ達の方に走り寄った。


「誰が、ブリュンヒルデルートのマスターだって?」


 剛腕のアルマが走り寄りながら尋ねた。


「アルマ。あなた達のサブメンバーはあのルートのマスターなのよ。知らなかったの?」


 ララはメロの肩を抱きながらアルマに説明した。ララは翔の授業に飽きてフラフラしていたメロを捕まえていろいろ話していたのだ。メロとララはすでに相当仲良しになっていた。メロがララに笑いかけていた。


「何をそんなに騒いでいる?」


 今度は翔が、彼らの傍まできて怪訝な表情で尋ねた。


「お前達は、レベルアップ・トライアル・ルートのルートマスターなのか?」


 アルマが少し興奮して、翔に詰問するかのように尋ねた。


「そうだが。それがどうしたと言うのだ?」


 翔は怪訝な顔になって、冷めた口調で聞いた。


「何を言ってるのだ。私達、S級以上のランカーの者は皆、レベルアップ・トライアル・ルートのサバン魔峡まきょうで魔精結晶の採取を許されている。お前達はあそこの恐ろしい魔物を全部狩り取ったのだろう。それでは私達などが敵うわけがない」


 アルマはそう説明した。S級と言う冒険者の頂きにいる彼らだけがサバンナ魔峡での魔精結晶の採取を許されているのだと、翔は初めて知った。


「そうなのか。確か神々もサバン魔峡で魔精結晶の採取をするとか言っていたな。邪魔をするなと警告された」


 翔は魔峡での様々な事を思い出しながら言った。


「あそこは魔精結晶のおかげでみるみるレベルアップして楽しかったな」


 その言葉にS級ランカー達全員が絶句した。


「お前達、あそこを楽しんで攻略したってのか?」


 ラビノビッチ・バシコフは叱責するかのような勢いで言った。


「あそこはS級以上のランカーにとっては恐ろしい思い出しかない。魔精結晶を採取しても大抵は全滅させられるのが普通だ。復活障害を考慮に入れて、魔精結晶との効果と比較考慮してあそこに入るのが普通だ。それほど魔精結晶は魅力的だが」


「これがそんなに魅力的か?」


 翔はマジックバッグから魔精結晶を取り出して見せた。


「それは魔精結晶なのか?」


 震える声で剛腕のアルマが尋ねた。


 翔のてのひらには直径五センチ程の魔精結晶が握られていた。


「こんなのは飲むのも辛いので袋に入れていたのさ」


 冒険者達は翔のてのひらの魔精結晶を食い入るようにジッと見入った。


「翔。私はあんたらよりも弱いから我慢するが、そんなものをチラホラ見せたら命がけで奪おうとする奴らが絶対にいるぞ」


 アルマは忠告した。

「目の毒だからさっさとしまっておくれ」



「そんなに欲しいならやろう」


 翔はそう言うと、マジックバッグを両手でゴソゴソして次々に魔精結晶を取り出すと、S級ランカーの冒険者達に投げて渡した。


 魔精結晶を投げ渡されたS級ランカー達は目を白黒させて、それを見つめている。


「俺達はそいつを採取しすぎたんだろうな。今では、ちっとやそっと飲んでも何の変化も出なくなったな。マジックポイントの補充ぐらいにしかならん」


 翔がそう言ってる間にも、五センチもある魔精結晶を皆、慌てて口に含んでいる。あまりにも大きいので飲み下せず、口の中でガリガリ飴のように噛んで飲んでいる。目が何かに取り憑かれたようだ。


「おお。これは凄い!」


 アルマは絶叫を上げた。


「力が漲る」


 ラビノビッチも絶叫を上げた。


 その他のメンバーもそれぞれ叫び声を上げたり、吠えたりしていた。


 魔精結晶には、レベルアップした時と同じようにステータスを底上げさせるという効果がある。それだけでなく肉体の強化や精神の強化など根本的な強さを底上げさせるのだ。


 S級ランカー達は、翔に涙を流さんばかりに感謝した。それほど魔精結晶は上を目指す冒険者には貴重品なのだ。


 “火神マルスの杖”のラビノビッチ・バシコフは、夢のような心地でメンバーと翔達、“剛腕”サブメンバーを見回した。


 ほんの三十分前には考えられなかったことが次々に起こっていた。中でもヨナタン・ピョルグンドなどは、召喚魔法を根底から変えると狂気のように叫んでいる。


 その時、彼らの狂騒に関心を持った冒険者達が集まって来た。彼らを見たラビノビッチ・バシコフは、違和感がその時に最高潮に達していた。


 ここにいる冒険者達は、何故これほど装備が凄いのか。ラビノビッチ達S級ランカーなど足元にも及ばない、見事な武具ばかり身につけている者ばかりなのだ。


 ラビノビッチは、どの冒険者達の武具をみても欲しくて仕方がないような武具ばかりなので頭が混乱した。


「おい。お前達! 彼らの武具を見てみろ」


 ラビノビッチの指摘に、他のメンバーの注意が周りに集まった冒険者達の武具に向けられた。


 “火神マルスの杖”のメンバー達は皆が皆、素晴らしい武具を付けている事に初めて気付いたようで、彼らの武具を見てため息をいた。


「お前達は魔王城でも攻略してきたのか? 何て武具を付けてんだ!」


 ヨナタン・ピョルグンドが涎を流さんばかりに叫んだ。


 そして、彼らの疑問はその直後に解消される事になる。


 この日“火神マルスの杖”のメンバーは一生ものの武具を手に入れたのだった。


 後になって、ラビノビッチ達はこの日のこの瞬間を何度も語ることになる。この日を境にして彼らの冒険者人生が大きく変わることになったからだ。そのきっかけは、無名の五人のサブメンバー達、つまり翔達だった事は言うまでもない。


 歴史に名を連ねる『ゼノ要塞城の狂騒』が始まっていた。



026 了


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