025ー3 ポップ、ステップ、大要塞 3
【修行履歴】
2019年11月4日
①25話を6分割しました。
②文章の訂正をしました。
③主人の思考を表す、表現方法の変更をしました。
バッシュは、走りながらそこはかとなく後悔の念が沸き起こってくるのを抑えきれないでいた。
バッシュは、“剛腕”アルマに、ずっと憧れていた。冒険者に成ったのも同じ時期、実力も伯仲していた。しかし今やピークを過ぎたA級と、さらに上を目指すS級に別れてしまった。正直なところ、少し格好を付けて斥候の命令を承諾してしまったってとろだ。
目標の砦の周囲には、一目見て、『ヤバイ』って言葉が出てくるほどに強い魔物の魂が立ち込めている。あそこにいるのはレベル50を超える恐ろしい魔物達だ。
魔物にもランクが付けられている。レベル50を超えるとダブルS級と呼ばれ、ギルドのガイドブックには、絶対に近づいてはいけない魔物だ。
そんな、事が有り得るはずがないが、どうも魔物達が、砦を守るように整列しているように見えた。
────まさか。魔王じゃ無いよな。
嫌な予感がバッシュの頭をよぎった。
魔王には、魔物を支配するという不思議な力があると聞いていた。レベル300なんて言う伝説級の魔獣を操るなどと聞いた。バッシュはその話を鼻で笑ったものだ。
大抵の人間は、レベル50にもなれずにピークが終わる。しかし“剛腕”のアルマは、50を超えても成長が止まらないようだ。
それに比べてバッシュのレベルは、45で止まり、先日レベル44にダウンしたところだ。自分の限界を痛感している。まだまだ若いつもりだったが『隠退』の二文字が胸にくっきり刻まれてしまった。
いくらなんでもレベル300なんて言うのは、馬鹿馬鹿しいと噂話を聞いた時には、鼻で笑ったものだ。
それを思い出してバッシュは、また鼻で笑った。しかしその笑いは、自嘲と呼ばれる種類の笑いだった。
「隊長。流石っす。こんな時でも余裕で笑うんっすね。アルマの姉御に良いところ見せましょうぜ」
盗賊職のラルフが笑いながら言った。
「馬鹿を言え。そんな事になったら俺はあいつに食べられちまわぁ」
「へへへへ。それがお望みなんじゃ無いっすか?」
ラルフが嫌な笑いを放ちながら言った。
「馬鹿を言え。行くぞ」
ラルフとのその短いやり取りでバッシュは勇気を得た。
“稲妻”のメンバー達は、このラルフのようにバッシュに憧れてメンバーになった者が多い。弱気な事を言っていては申し訳が立たない。腹に力を込めてバッシュは走った。
☆
「こいつは、いよいよおかしいな。これだけ俺達が近づいても何の反応も無いぞ」
バッシュは囁いた。
「本当っすね」
ラルフも同じ意見の様だ。
砦を取り囲む魔物達の中には、レーダー役の大コーモリや目玉などの探索系モンスターも混じっているのだ。未だに、バッシュ達の事を気付いていないとは思えないのだ。
草に隠れ隠蔽魔法を使っているからと言っても砦と彼らを隔てるのはまばらに生えた木が数本だけだ。見つかっているに違いない。
その時だ、ラルフが指差したのだ。
その方向を見ると森の辺りから、ゴブリンの軍が出てくるのが見えた。しかも凄い数だ。
バッシュは身を固くしてそのゴブリン軍を見た。
「あいつらが、クエスト対象だな」
次の瞬間だった。砦の周りにいた魔物達の約半数が瞬間移動のような速度でゴブリンめがけて急襲をかけたのだ。
魔物の強さは、人間のレベルに換算すると何割増しから、倍までも強いと言われていた。
バッシュは、レベル44だが同じ44の魔物は、人間のレベル60ぐらいの強さと考えたらいいと言う訳だ。
それは、冒険者の常識だ。魔物は、大きいし、牙や角などの武器を生まれながらに持っている。素早さもずっと早い。人間よりも魔物の方が強いのは当たり前だ。所詮人間はか弱い動物だ。それが世間の常識だ。
しかし、逆に、翔達のメンバーにとっては、同じレベルの魔物は、凄く弱く感じのである。その違いは、翔達のように実力が遥か先に行ってしまっているのと、実力よりもレベルが遥か先に行ってしまう普通の冒険者との違いなのだ。
バッシュの目の前の草原を百余の恐ろしい魔物が風のように走り去って行った。魔物の中にはバッシュ達が草の中に潜む辺りに目を向ける魔物も少なくない。
バッシュは背中に冷や汗が流れるのを抑えられなかった。「危なかったらにげる」と言った自分の浅はかさが肝に銘ぜられた。あの魔物達が本気でバッシュ達を殺しにかかったら百メートルも逃げられなかったろう。
魔物達は、ゴブリン軍めがけて凄まじい勢いで攻撃を開始した。第五グレイドの高ランク魔法が、数え切れないほど炸裂し、ゴブリン軍はみるみる数を減らして行った。
バッシュは、もう、隠れるのも忘れて、草むらから立ち上がって、その様子を息を飲んで見つめていた。
ゴブリン軍は、瞬く間に数を減らして生き残りが四方に散っていった。バッシュは指を三本立てて逃げ走ってきたゴブリンを指差した。
ゴブリンを三匹捕まえろと言う合図だった。“稲妻”のメンバー達はバッシュと一緒に、直ぐに走って行って、ゴブリンの残党を捕まえに行った。
ラルフがゴブリンを捕まえるために一番遠くまで踏み込んで行った。バッシュが見ていると、見事にゴブリンを一匹捕まえてメンバーまで連れてこようと担いで走っている。
しかし運悪くラルフが捕まえたゴブリンを狙って迫る魔物がいたのだ。その魔物はレベル51キマイラだった。トラと鷹と蛇のキマイラだ。虎の四肢で恐ろしく俊敏な動きでゴブリンを追撃してきていたのだ。
バッシュは、ゴブリン目掛けて飛びかかる魔物を見たラルフがゴブリンを投げ捨ててキマイラに打ちかかる姿を、唖然として眺めていた。
その時だった。空中からピンク色の丸い物体が飛んできてラルフとキマイラの間に入った。
メンバーで一番素早いラルフの渾身の突きは定評がある。その突きを何事もなかったかのようにそのピンク色の服の少女は、杖で軽く受け流した。その光景も信じられなかった。
「ダメだよ。この子は、私が召還したんだよ。殺したら可愛いそう」
そう言ったのは、メロだった。
キマイラは、その少女に対して恭しく頭を下げてうずくまった。
少女は、端正な顔立ちで、目が透き通るように青かった。見た事がない衣装や山高帽子だが不思議なセンスの良さを感じさせた。
「あなたは、女神様ですか?」
バッシュは、空中に漂うように浮遊している美しい少女を、きっと神様だろうと思った。
「私は、世界で二番目に強くなる予定の魔術師。メロ。自称天才魔術師の翔の弟子だよ」
そう自己紹介しながらメロは、地上に降り立って、帽子を脱いだ。ニッコリと微笑んだ。
「あなた達は誰ぁれ?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
砦の中に入った、“剛腕”のメンバー達は、百名あまりの人間達が肩を寄せ合いながら小さくなっているのを見た。
その中に、顔見知りの冒険者を見つけた。
「セキ・コーエン。久しいな」
セキは、どこか気が抜けているような虚ろな眼差しで剛腕アルマ・ベストを見返した。
「大丈夫か。ランカー冒険者の魔術師様がゴブリン如きに肝を持って行かれたのか? 確かにゴブリン将軍が、現れたと言うのは流石の我々も情報不足だったが。ギルド本部には“稲妻”のバッシュ達に知らせに行かせたから安心しろ」
「あぁ。剛腕のアルマさんか」
セキは、無感動にアルマに答えた。
セキは、好奇心の旺盛な魔術師で、強い者が大好きな、筈だった。アルマには、セキから積極的に近づいてきたほどだ。その積極的なセキがおかしい。
「セキ。大丈夫か?」
心配になってアルマは、セキの顔を覗き込んで尋ねた。
「アルマさん。上には、上がいるもんだな。あんな女の子があれ程の魔物を召還するなんて、聞いた事もない。『神使い』と言う聞いた事もない職業だそうだ。しかも、召喚師ではなく、精霊魔法を使うのだそうだ。彼女は第八グレイドの魔法すら操れるそうだ。何もかも、私の常識は、おかしくなってしまった」
その話を聞いて、アルマは首を左右に振った。彼女も、セキ・コーエンの話を否定したいのだ。しかし、現実に、召還したと言う魔物の群れを見ているのだからセキの話は全て本当だろう。
「この砦もあの子が?」
剛腕アルマが尋ねた。
「いや。彼らは、五人のパーティーだ。あの子に引けを取らない外見の、可愛い女の子達が四人と一見パッとしない普通そうに見える男の子が一人。
しかしその男の子が、リーダーのようで、皆に指図していた。この砦は、その男の子が、有り得事に、パッと作った。その男の子は空を飛んで一人でゴブリン将軍を倒しに行った」
セキ・コーエンの話は、興奮しているためか、ごちゃごちゃしていて分かりにくい。
「ゴブリン将軍を一人で? それは、自殺行為だ。なぜ止めなかった。ゴブリン将軍は、最低でもレベル50にはなるだろう」
剛腕アルマは、詰問口調で聞いた。
「何を。我々のそんな常識が通用するような連中じゃない。アルマさんは、その少年が第六グレイドの『爆発』で草原に大穴を開けて、その後にこれだけの施設を、どれだけいとも容易く魔法で作ったのかを、見ていないからそんなことを言うのさ。彼は、人知を超えた魔術師だよ」
「第六グレイド魔法を使う奴は、他にもいるだろう。私のメンバーの魔術師マリレーナも使える筈だ」
「私は、第五グレイド魔法までしか使えませんし、第六グレイドの魔法には、ずっと、憧れていますよ。私には、それほど第六グレイト魔法は凄い魔法のんです。
それをあの少年は、私が第一グレイトの魔法を使うよりも簡単そうに……あんな素早い『爆発』は、見た事がないし。普通の第六グレイド魔法にも見えなかった。
私には、あの男の子が魔法を発動するまでの準備時間がほとんど無かったのではないかと見ている。そんなことは不可能な筈だが……。
それから、この砦を、小さな指輪を作る、熟練した錬金術師よりも、簡単に、そして、それは、もう本当に鮮やかに、作り上げたんだ。信じられないだろうが、ほんの数分で、これ全部を作りあげたんだよ」
セキ・コーエンの話は、彼が言うように、到底信じられない内容だった。
振り返るとメロと言う召喚師の少女が、二人の美しい少女を伴って、近づいてくるところだった。
「アルマ。イリスとレイラだよ」
メロが紹介してくれた。
「私は“剛腕”のアルマだ。よろしく頼む」
アルマが自己紹介した。
「「こんにちは」」
イリスとレイラの二人が挨拶をした。美しい女性達だが、ただの美女じゃないのは、明らかだった。
一人は、黒髪に黒い瞳に、小さいが角まである。
これは、魔族の兆候だ。アルマは、前にも、魔族を見た事がある。強い亜人種だった。子供のようだが、戦闘力は、侮れないだろう。
もう一人は、明らかに普通の人間には有り得ない。有翼なのだ。その羽は、白鳥の羽だ。
有翼の亜人種は、たくさんある。普通に、見る種は、アールフ種だ。エルフと発音する者も多い。妖精とも、言われる種族だ。
魔法に長け、高いステータスを持つ種族だ。しかし、この目の前の有翼の美女は、神か天使しか持たないと言われる白鳥の有翼だった。
恐らくだが、天使族なのだろう。
アルマは、天使族は、英雄や半神英雄でしか見た事がない。しかし、悪の象徴の魔人族と、善の象徴の天使族が同じパーティーと言う事に、少し違和感を持った。
さすがに、特殊な種族の二人だ。冒険者なら、剛腕アルマに、会えただけで喜ぶ筈だが、この娘達の反応の鈍さに、アルマは少しの苛立ちと、寂しさを感じていた。
「アルマさん。イリスは魔王候補で、レイラは女神候補なんだよ。どちらが先になるか競走中」
メロが、そんな事を言った。
「メロ。そんな説明では誤解を生むわよ」
少女風のメロよりも、さらに幼い感じがするイリスが大人びた口調で、たしなめるように言った。
「ごめんなさい。アルマさん。私は魔人なのよ。魔王のなり損ないね」
イリスはその恐るべき事実を淡々と語ってみせた。
「む、やはり魔人なのだな。しかし、魔王のなり損ないとは?」
「でも、それは秘密なの。できれば話さないで欲しいわ」
イリスは、苦笑いしながら言った。
「そうだった。ごめんなさい。イリス。あっ。レイラも内緒だった。ごめんなさい」
メロは、秘密にしなければならない事をペラペラ喋っている事に気付いて、イリスとレイラに謝った。
「ふふふ。それ程、厳密な意味で秘密にしなければならないって訳じゃないから良いわよ。アルマさん。私はハーフの半神、戦乙女なの。イリスと同じで、内緒にして欲しいわ」
「なるほど。お前達が普通じゃ無いと言うのは、事実って訳だ。あと二人いるんだな」
アルマが尋ねた。戦乙女と聞いて、全て納得してしまった。




