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004 天才を気取る魔女っ子はドジっ子

【修正履歴】

2019年11月10日

一部文章を訂正しまたした。

大きな変化は有りません。

 翔の危惧は、残念ながら現実のものとなってしまった。


 その次の日、翔は、アリスの勧めでコウモリ型の魔獣を三百匹ほど退治したため、レベルは、順調に4に上がった。


 マジックバッグも有ったので、狩ったコウモリは、全てギルドに持ち帰る事ができた。


 コウモリの魔物は、魔法で音波のようなものを出して飛んでいた。翔は、この音波を、口笛を吹いて、音を狂わせることで破った。


 今回は、全く簡単な魔物退治だった。アリスは《口笛で魔法を破るなんて》と賛嘆しきりだった。


 しかし、退治した数が良く無かった。しかもコウモリの皮は、結構高く売れるのだ。三百匹ともなると金貨三枚にもなると言う。


 ギルドでも新記録だと大騒ぎになってしまった。


 翔は「たまたまのまぐれだ」と言ったが、もはやその言葉を信じる者は、いない。これでは、悪目立ちしすぎだった。


 案の定、金貨三枚をもらって、ギルドを出たところで、翔は三人連れの冒険者に囲まれてしまった。


 三人連れの一人は、男の剣士。安物の剣、安物の防具をつけている。レベル13だった。


 二人目は、祈祷師職の女性だった。レベルは16で一番強そうだ。


 最後が僧侶の男。レベルは14だった。


「何だ? 俺に用か?」


 翔が尋ねた。


「悪い事は言わない。稼ぎを置いて去れ」


 剣士の男が言った。


────なるほど、追い剥ぎって訳だ。アリス。こいつらはってもいいのか?


《殺すのはまずいです。翔様が変な注目を受けるのは最悪です。天界は人の世界の有名人に関心を持つものです》


────そうなのか。しかし殺せないとなると少々面倒だな。こつらの方が、かなりレベルが高いからな。


 金を出して、無難に終わらせるという発想は下策だ。なぜなら、今後もずっと恐喝され続けるからだ。そんなことがプライドの高い翔に、我慢ができる筈がない。


「あんた。何とか言いなさいよ」


 翔が動ずる訳でもなくて、いつまでも黙っていたからか、苛立った女祈祷師が叫んだ。


 翔は、アリスと頭で話し合っていて妙な具合に黙っているように見えてしまうのだ。この娘は、顔は可愛い方なのだが、残念ながら、下品が全身に、染み込んでいて見るに耐えない女の子だった。


────アリス。『精霊魔法』で対応するしかないな。最初に精霊を呼ぶのだな。


《精霊は、神、天使、元素精霊、妖精、幽霊、魔、妖気、邪気、鬼気、悪魔の八精霊がいます。

 翔様のお好きな精霊を呼んでください。相手を殺さないのであれば小妖精がいいでしょう。精霊魔法では、精霊にMPを渡す事で魔法を発動します》


(俺の世界では精霊魔法と言うものが無い。精霊魔法と召喚魔法の根本的な違いはなんだ)


《精霊魔法は、精霊を現世に呼び出す魔法です。召喚魔法よりも強力な精霊を使役する事ができるのが特徴です。今の翔様には精霊魔法の能力により精霊が見えるはずです。その精霊に直接服従を命じてみてください》


────ああ。いつも鬱陶しく飛び回ってる奴か。分かった。じゃあ、アリスのお勧めの通り、僅かだがMPの値も上がった事だし、それを解放して小妖精を呼ぶことにするよ。


 翔は、この時、MPが8になっていた。 


 そして、そこらじゅうを、飛び回っているチビの妖精ぐらいならMP1もあれば十分使役できるだろうと、それぞれを八つのMP1に分けて小妖精を呼んでみた。


 どのように呼んだら良いのか分からないが想像はできたので、ぶっつけ本番でやってみた。


 翔は、精霊魔法は、初めてだが現代魔法による召喚魔法は、当然マスターしていた。


────召喚魔法の場合は、魔法陣と詠唱の複合術式で、精霊を召喚するのだが……さて、どうやって呼ぶかだな。


 精霊への服従命令は、どのようにするか分からないが天才魔術師として、召喚魔法の知識を応用して頭の中に魔法陣をイメージし、術式を展開して、辺りに飛んでいる小妖精に服従を命じた。


 ところが、翔が咄嗟に行った、この命令方法は、彼が意図した以上に強力な物となってしまった。可愛らしい小妖精が八匹、翔の前に燦然さんぜんと姿を表した。


────おお、上手く行ったぞ!


 翔は、頭の中で歓声を上げた。


 この時、自分達の事を全く無視する翔に、3人連れは、痺れを切らしてしまったらしい。彼らは、互いに合図をし合って、皆嫌らしい笑みを浮かべつつ、翔を取り囲んできた。こいつらには、妖精が見えないようだ。


 妖精などお構い無しに、攻撃をし始めた。


 女祈祷師は、真っ先に、呪術の詠唱を始めた。


 その時だ、翔の全く予想外な事が起こった。眼前の祈祷師とは比較にならないぐらいの大きな魔力を背後に感じたのだ。慌てて翔は、後ろを振り返った。


 見ると、ギルドの出口で小柄な女魔術師が、杖を天にかざして魔法の術式を編み上げていた。その術式は、追い剥ぎの冒険者達とは桁の違うレベルの魔法だった。


────こいつはまずいか。


 翔は、新たに現れた女魔術師の魔法の規模に、感心しつつ、独りごちた。


 すぐに、使役し始めた八匹の小妖精達を防御に利用するために集めた。強力な魔法の術式を編み上げて、精霊に魔法を組み上げるように命じた。


 しかし、この時になって翔は、女魔術師が構築しつつある、この途方もない魔法が最初に感じたイメージとは、少し違う事に気づき、緊張を解いたのだった。


────何だ? これでは、様子が違うじゃないか。


 翔は、心の中で独りごちた。


 その女魔術師の魔法は、大仰ではあるが、全く殺意が感じられなかったのだ。しかも発動の対象が、なぜが大空になっているではないか。


 追い剥ぎ達もさすがにこの時になって、巨大なエネルギーの奔流に、気付いたようだ。


《翔様。警戒基準のエネルギーが感じられます。危険です》


 なんと、アリスまで、騒ぎ出したでは無いか。


────アリス。心配するな。あれは大仰だが危険ではない。こちらには飛んで来ないよ。


 翔は、見世物を見るような気持ちで、エネルギーが集積して空気が白熱化し、遂には、恐ろしいプラズマの火花が周囲を照らし出す様を、のんびりと見物していた。


────この女の子は、荒削りだが、なかなか面白い。


 翔は、感心して、心の中で呟いていた。


 追い剥ぎ達は、恐ろしい魔力で作られた、エネルギーの本流を見て、なんと腰を抜かし、その場にくずおれるように四つん這いになった。


爆炎フラミス!」


 女魔術師が叫んだ。


 巨大な爆発が空に向かって放たれた。爆風が辺りを吹き荒れる。


 恐ろしい爆発音と閃光が辺りを圧した。


 巨大な爆裂魔法を発射した女魔術師は、ぶっ放した魔法に満足したのだろう。大きく頷いて、ガッツポーズをしていた。


 女魔術師は、そのまま何事もなかったかのように杖を地面に付きながらカツカツと翔達の方に歩いてきた。翔の横を通り過ぎる。チラリと翔に視線を当てたが何も言わず。三人の冒険者の前に立った。


「お前達。危うく命が危なかった。行け」


 女魔術師が言い放つ。


 三人の追い剥ぎ冒険者達はたぶん女魔術師が何を言っているか理解できなかっただろう。翔も、全く意味が理解できなかった。


 しかし、三人の冒険者達は、ただただ慌てて逃げて行った。


 女魔術師は、くるりと踵を返して翔に向き直った。良く見ると、初見で感じたよりも、かなり小チビだった。顔は整っている方だが、少しばかり子供っぽい。


「随分と派手な登場だな」


 翔が言った。


「私は、この街で最強の魔術師。メロ・アルファード。あなたはいにしえの精霊魔法をどの様にして手に入れた?」


 女魔術師はふんぞり返って翔に宣言するかの様に聞いた。変な態度だった。


────おいおい。またまた。レリエルみたいなのが出てきたよ〜


 翔は、頭を抱えるような思いで考えた。


 メロ・アルファードと名乗った女魔術師は、翔の顔をふんぞり返って見ながらさっさと返事をしろと言わんばかりにアゴをしゃくった。


 しかし、翔は、その変な女魔術師を全く無視する事にした。


────アリス。行こうか。


《はい。その方がよろしいかと》


 どうやらアリスも翔と同意見のようだ。


 翔は、そのまま、少女を無視して歩き始めた。


「あっ」と、驚きの声をあげたメロ・アルファードだ。「どうして無視する」


 その声を、翔は、完全に無視して、歩き続けた。しかし、メロは慌てて翔の後を追い始めた。


────アリス。いきなりさっきみたいなのを後ろから、かまされたらたまらんな。


《はい。この子メロ・アルファードは、この街でも有名な魔術師のようです。マッドスペルキャスターと言う異名があります》


────気違い詠唱師だと? 滅茶苦茶じゃないか。


 翔は、ため息をついた。


────ユグドラシルにはまともな奴はいないのか?


「お前。少し待て」


 背後でメロが小走りになって翔について来ながら叫んだ。


────何か言ってるぞ。


《構ってはいけませんよ》


 アリスの言葉が無くとも構う気など無い翔だった。


 一方、メロ・アルファードは「まて」「おい」などと呼び続けたが一向に無視続ける翔の態度に次第に不安になってきた。これほど徹底して完全無視されるとは考えなかったのだ。


 メロは、巨大な魔法を放ち颯爽と登場したつもりだったのだ。偉大な魔術師として尊敬を受けるとばかり想像しての行動だった。


 しかし、効果がなかったばかりか逆効果だったようだ。さすがにお腹が空きすぎて目が回ってきた。


「待って。助けてください」


 メロは初めて弱音を吐いた。


 実はその言葉『助けて』と言われる事に、翔はとても弱かったのだ。スクッと翔は立ち止まってしまった。


「助けてくれとは?」


 翔はそう言って振り返った。


 女魔術師メロ・アルファードは、安堵でため息を吐いた。


「あんな魔法を使っちゃうと、しばらく魔法が使えない。さっきの奴らが追いかけてこないか怖い」


 メロ・アルファードは、ぜぇぜぇ肩で息をしながら訴えた。


「お前の言っている事は、支離滅裂だぞ。いきなり馬鹿でかい魔法をぶっ放しておいて、MPが無くなるなどと訳がわからんぞ」


「貴方が、いにしえの精霊魔法を使っていた。負けられないと思った」


 このメロ・アルファードの答えに、改めて翔は唖然とした。


「勝負かい!」


 翔が突っ込んだ。


「まともな魔術師ならMPは必ず温存する。お前のような事をする魔術師はどれほど凄い魔法を使えたとしても三流だ」


「はぅ」


 女魔術師メロ・アルファードは、翔の追及に狼狽うろたえたように唸った。


 それからさらに数秒黙っていたが翔が顔を覗き込んで見ていると「ごめんなさい。怖くて」と白状した。


 その一言で、翔は理解した。戦いの時、緊張で頭が真っ白になるタイプの人間が存在する。


 このメロ・アルファードという魔術師はそんな種類の人間に違いない。


 翔は眼前の欠陥品をどうするかで、悩んでしまった。


「お前、そんなに戦い下手で、良く生きてこれたな」


「苦労していますぅ〜」


 メロ・アルファードは、しょんぼりと答えた。


「お前は、そんな欠陥があるならパーティーになど入れなかっただろう」


 その翔の言葉に、メロはプクリと頬を膨らませた。


「誘いはある」


 メロが憤慨したように言った。


「しかし、入れなかったんだろうが」


 翔は追い打ちをかけた。


「はぁぁ」


 メロは途端に、元気がなくなりため息をついた。


 こいつのこの性格にも問題がある。自分の欠陥を分かろうとしないから欠陥が直らないのだ。


「お前。俺の弟子になるか?」


「古の精霊魔法師エレメンタリストの弟子にですか」


「俺を単なる妖精使フィアリーテイマーのように言うな」


「いえいえ。精霊魔法は、妖精使いとは全く違う。現存の古文書では精霊魔法を使える人族は、第七の土用どようしょくの時に現れた英雄パーティーの魔術師が使ったとの記述が最後」


────こいつ。魔法の事に関してはそれなりの見識があるようだな。


 翔は、メロの話を聞いて感心した。


「分かった風に言うが、俺が今使役したのは妖精の中でも可愛らしい奴だぞ」


 翔は、面白そうに指摘した。


「それはおかしい。妖精使フェアリーテーマーは、妖精と友好関係を築き術者の魔力を対価として魔法を成就させる魔法。いくら小妖精でも使役などできないはず」


「そうなのか?」


 逆に翔が驚いて聞き返した。


 妖精如きを使役もできない妖精使いとは何と低レベルなんだと呆れていた。


「そうなのかって。あなたは、そんな事も知らないのに弟子になれと?」


「俺が知らないのは、お前がどれほど無知かと言うことだけだ。小妖精如きは使役できて当たり前だ。しかし、それで可能になる魔法如きはたかが知れているだろうが。真の魔法は、自分の魔力を完全に支配して、発動する芸術的な術式による魔法だけだ」


 翔は、メロ・アルファードの生半可な知識を一蹴いっしゅうした。


「お前のように才能を垂れ流して、無様な姿をさらけ出している奴を見ていたら虫酸むしずが走る」


 メロ・アルファードは、翔の滅茶苦茶なこき下ろしに一瞬絶句する。


「生意気。私は、偉大なる魔術師に師事し、若くしてこの街一番の魔術師となった。魔法を追及し魔法の深みを把握するために日夜研鑽してきた。あなたは高々、レベル4の武闘家にすぎない。

 確かに精霊魔法は使うが、たったそれだけであらゆる魔法を知っているかのように豪語する。正気とは思えない」


「お前如きがこの街一番の魔術師というのが本当ならこの街の魔法レベルが幼稚すぎるのだ。それを魔法を知り尽くしたような物言いは不遜を超えて道化だぞ」


 自分の不遜さを棚に上げて翔は、言い放った。全く容赦がない。しかし翔の発言は、余りにも自信に裏打ちされているため言葉に力があった。


 逆にメロ・アルファードは、実力も才能もあるのだが自信が欠如しているために翔の言葉が本当のように聞こえてきた。


「レベル4の武闘家に本当に弟子入りしろと?」


「俺の気まぐれで弟子にしてやると一度言ってしまったので、なりたくば弟子にしてやる。嫌ならさっさと断れ。いっそ断ってくれた方がありがたい。さっさとどっちか答えろ」


 翔は、既に本気で面倒くさくなっていた。弟子にするとの思い付きは、この少女の才能がもったいないと感じたための気まぐれだった。


 メロは、遂に決心して翔の方を見た。


「私の師匠は、一人。彼女は恩師。育ての母。絶対に彼女を裏切る訳には行かない。本当の師をその人1人と思っていても良いなら弟子入りしてやる。しかし弟子になったとして、師にふさわしくなかったら直ぐに去る」


 メロは小声で言った。


「お前がどの師を慕おうが知ったことではないし、お前が俺を見限れば師弟関係が終わるのも当たり前の事だ」


 翔は面倒な事になったと思いながら言った。


「それでは、私、メロ・アルファードはあなたの弟子になる。まずは名前を教えて欲しい」


「翔だ。ショー・マンダリン。いずれ話す事も有るだろうが、ある事情でマンダリンと名乗っているがタチバナと言うのが本名だ。いろいろ面倒なので翔と名前で呼べ」


「よろしく頼む」


 メロ・アルファードは、ちょこんと頭をさげて言った。弟子になっても話し方はぶっきら棒なままだ。翔の傲慢な話し方よりは、明らかにマシだが丁寧とは言えなかった。


 翔は、少女の頭から足元までの全身を、じっくりと眺めてみた。少女は、不思議なトンガリ帽子から白っぽい感じの金髪を覗かせて、透き通るような青い瞳をしている。北欧というよりもギリシャ風の華奢な感じの外国人という外見だ。日本人の翔には相当美しい少女に見えた。


 しかし、その一方で、彼女の服装には呆れてしまった。


────アリス。この娘の格好は民族衣装か何かなのか。こんな派手な色合いの服では目立って仕方がない。


《翔様。まさかこんな趣味の悪い衣装が民族衣装であるはずがありません》


────お前もこの娘がかなり趣味が悪いと?


《最悪です》


 アリスは、きっぱりと言った。


 アリスとしては、この娘を弟子にするのも反対なのだろう。しかし、アリスは翔が聞かなければ余計な意見は述べない。


────アリス。この娘を分析してみろ。


《メロ・アルファード。ボルホイ火山の魔女。マッドスペルキャンサーなどの通り名がある冒険者です。ソロで活動。年齢十六歳。レベル15。ステータスは頭脳、魔法系の属性ステータスがレベルに比してかなり高く、戦闘系が普通と言った感じです。総じて優秀な素質を持った魔術師でしょう》


────こいつも俺のレベルや職業を言い当てていたが、世界樹ネットの会員さんか?


《この娘には、人のレベルなどを見る特殊能力があるのだと思われます》


────なるほど。そこそこのレベルだからな。俺の事はどれくらい分かるんだ?


《レベルと職業は分かるでしょうが、属性ステータスの詳細までは分からないでしょう》


「おい。俺はこれから宿を探すが、お前はどうする?」


 翔は、メロに尋ねた。


「弟子ですから一緒に」


 メロはそう言ったが、何故かモジモジしている。


 翔は不思議に思ったがメロは所持金が無いので宿に泊まるのは敷居が高いのだった。しかし、恥ずかしくて言えないのだった。


 しかし翔は、メロの態度から女の子として身の危険でも感じているのかと勘違いした。


「俺は女としてのお前の身体には特別興味は無い。師弟と言うからには女とも思わん。ここは大きな都市だから部屋まで一緒にしろとは言わん。しかし、これからは二人きりになる事も有るだろう。もし、俺と二人きりになるのが恐ろしければついてくるな」


 翔には無理やり女の子を我が物にするという獣のような趣味はない。どうするかは彼女が決めればいい。とにかく身体目的で弟子にしたと思われたくない。


「もし、送って欲しいところがあるなら送って、そこでさよならしても良いぞ」と、付け足した。


────至れり尽くせりじゃないか……


 翔は思った。


 メロは、そこで自分の躊躇ちゅうちょしている理由を翔が誤解していることに気づいたのだ。。


「ふぃぃ。そういう事ではなく、私は、帰るところの無い風来坊。宿もお金がもったいない。同じ部屋の床に寝かせくれれば助かる。宿代などは少し待って欲しい」


 メロ・アルファードが言った。


 所持金が無く困り果てて今日もどこかの軒先にでも野宿する予定だったなどとはさすがに恥ずかしくて言えない。


 お腹も空いてきた。今のメロは、何もかも翔に助けて貰わねばならないほどに困窮しているのだ。しかも頼みの綱のMPも使い果たし、まともなMPになるには後何時間も時間がかかる。


 偉そうな受け答えをしていたが、弟子にしてやろうとの申し出は心底ありがたいのだ。


 ここで、翔もメロの発言を頭で整理して、メロが相当窮乏していることに気づいた。


────そんな状態なのに、人助けで虎の子のMPまで使い果たしてしまう、この娘は何てお人好しなんだ。バカかもしれない。


 翔は呆れてそう疑った。


「よし。お腹が空いただろう。何かご馳走してやる」


 その言葉にメロは、満面の笑みを浮かべた。

2019年8月4日、一部訂正し、読みやすくしました。

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