023ー1 まぁまぁかな?
翔達は最後のトライアルルートのサバン魔峡に入った。
サバン魔峡に入るに当たり半神英雄のロスバイセは、次のように言った。
「サバンのクリア条件は、魔物を全て退治する事よ。サバンには約三千種類の魔物が発生するわ。
魔物の強さは、あなた達が一番最初に、サバンに入った時の、あなた達の強さに合わせて調整されます。
魔物の出現数は五十万体キッチリよ。ここの魔物は、あなた達が魔峡に入った時に、全部が一度に発生する設定になっているわ。
いい事、あなた達が一度でも死ぬと、魔峡の魔物は、リセットされて五十万体に戻る。死なずにサバン魔峡全ての魔物を狩る事が、あなた達の目的ね。
魔峡にはランダムな位置に魔精結晶が、発生します。それぞれの魔精結晶には、一体のボスとそれを守る複数の魔物が配置されています。
魔峡での真の目的はレベル上げね。あなた達は神々のレベルの恩恵をあまり受けずに実力をつけているようだから、ここでレベルの恩恵を充分に受けるのね。
それと、一つ忠告しておくわよ。ここは神々が魔精結晶を採取する所でもあるわ。あなた達以外の神々を見ても決して話しかけたり、間違えても攻撃なんてしないでよ。強い神々の不興を買うと、ブルュンヒルデ様やヴェルダンディ様に掛けていただいている復活の恩恵が無効になって、本当に死んじゃうわよ。
ここには試練の間も無いし、いつでも好きな時に魔峡谷を出入りてきるので、一度、気晴らしに街にでも遊びに行くと良いわ。でも気をつけてね、サバン魔峡の魔物の出現は一年でリセットされちゃうの。だからクエスト開始から一年以内にクエストを完遂してね、じゃ皆さん頑張ってね」
ロスバイセは、美しい青い瞳をキラキラさせながらそう言って、笑いながら昇天して行った。
☆
サバン魔峡は、一言で言えば魔物の巣窟のような峡谷だった。急峻な山々が所狭しと詰め合わされたような峡谷には、無数の魔物がうようよしていた。それらの魔物は、レベルも大きさも種類も様々だった。
☆
蛇のような魔物が四体現れた。
『アプス。レベル40、レベル42、レベル46。【弱点】物理攻撃。【特徴】レベルにより『眠り』または『死』の視線を持つ、コブラに似た蛇型魔獣。敏捷で牙に毒がある。 レベルが上がると皮膚、吐息、視線に毒を持つようになり。レベル60の究極のキングアプスになると、石化の視線を持つようになる。恐ろしい魔物』
────ほぇ〜。キングアプス怖えぇ
翔は、片手でアプスを屠りながら思った。
振り返ると、黒いロングヘアーを宙に広げてイリスは、翔の創ってやった大剣を振り上げているところだった。
凄い素早さだった。イリスが攻撃している魔物は、巨大な熊のような魔物だった。
翔はその魔物のステータスを確認してみた。
『熊豚。レベル46。【弱点】精神系魔法。【特徴】体長は三メートルを超える。鋼鉄の毛皮を持ち、物理攻撃を跳ね返す。炎息の特技を持つ』
今まで戦ってきた魔物と比べ、かなり強い魔物だった。しかしイリスは一撃で鬼豚を退治していた。
アリスの強烈な斬撃は、鬼豚の顔面を簡単に貫いていた。
────物理攻撃は効かないはず.......
翔は、イリスがあまりにあっけなく魔物を倒すので、そんなツッコミを心の中でしていた。
「『爆炎!』」
後ろからメロが得意の魔法を発動した声が聞こえた。
爆炎は、ユグドラシル基準で第六グレイドの範囲魔法だ。同じ系列の『爆発』よりも威力も難易度も高位の魔法である。
現在のメロが使う事ができる、最高難度の魔法だ。
メロの両手から、何重もの魔法円が美しい花弁のように広がった。魔物の上に、大きな魔法陣が開くと、そこから炎の柱が何本も出てきて渦を巻くように、魔物に向かって伸びた。
さらに突風が吹き始め、炎の柱が次第に巨大化しみるみる勢いをますと、炎の竜巻となった。火炎旋風と言う現象だ。
炎の竜巻の中で三体の魔物が悲鳴をあげていた。
『キマイラ。レベル48、レベル49、レベル51。【弱点】炎。【特徴】多種類の魔獣の母エキドナの子孫。様々な魔獣の細胞を融合。細胞は個体で生きているためなかなか死なない厄介な魔物』
メロは魔法【爆炎】でそんな不死身のような魔獣キマイラ三体を燃えかすのようになるまで焼き尽くしていた。金剛迷宮のラストボスクラスの魔物を三体も一網打尽にしていたのだ。強くなったものだ。
翔がアメリアの方に視線を向けると、彼女は巨大な鳥と交戦していた。
『ジズ。レベル42、レベル44、レベル46。【弱点】電撃。【特徴】神により創られた世界で一番大きな鳥の種族。嘴、鉤爪、羽矢攻撃などの特殊技を持つ厄介な魔獣』
アメリアは、速度と俊敏性で明らかにジズ達を上回っていた。クルクル小回りする事でジズの連携を打ち破り次々に羽を切り落として行く。羽を切り取られたジズは悲鳴を上げながら地上に落下した。地上に落ちたジズは、イリスが止めをさしていた。
随分、皆実力がついた。ゴブリンのような弱小モンスターに手こずっていたのが嘘のようだった。
☆
「翔、約束。今度、大爆炎を見たい」
メロは、翔の腕にぶら下がりながらおねだりをし始めた。
「待て待て。そんな約束をした覚えはないぞ」
「翔は、前に『ここは迷宮だから無理だ。今度してやる』って言った」
メロは、自分の全ての体重を翔の右腕に乗せてブラブラ揺れながら言った。
────確かに面倒だから言ったような.......
翔は、いい加減な言い訳をしていたのを思い出した。
「何でそんなに大爆炎が見たいんだ?」
改めて尋ねてみた。
「翔は、『爆発』のすっごい魔法を教えてくれた。『爆炎』も教えて欲しい。でも、それならいっそ、もっと上の『大爆炎』を習いたい」
「趣旨は分かるが、俺もまだ『大爆炎』も『大爆発』も、うまく使えない。使えない魔法を無理やり披露しても参考になんだろう?」
「しかし、それは、翔の世界の『大爆炎』や『大爆発』の事。ユグドラシル基準の第八グレイドの『大爆炎』や『大爆発』は、もっと規模が小さいので大丈夫。翔のできる最高の魔法を見せて。今後の参考にする」
確かにメロは一度術式を見ただけで、翔が発動した『爆発』の魔法をマスターする程の天才だ。
水晶迷宮で失敗したとは言え、翔の『大爆発』を目の当たりにして相当感動し、第六グレイドの『爆発』の上位魔法である第七グレイドの『爆砕』を殆どマスターしつつあった。
『大爆発』よりもさらに高度な『大爆炎』の魔法を見てみたいと言う欲求を持つのも当然なのかもしれない。
「分かった、分かった。しかし、さっきも言ったように大爆炎程度の魔法は、まだまともに使えない。俺のみっともない魔法などものの役に立つとは思えんがな。とにかくやってみよう」
そう言うと翔は、腕にぶら下がっているメロを下ろし、その手を前に突き出した。その手から無数の魔法術式が開いて魔法円となり、そのまま前方の空に駆け上がって行った。
みるみる魔法円は巨大化、複雑化しより大きく複雑な魔法陣を形成した。
その魔法陣から巨大な火柱が地上に向かって降って来た。次の瞬間には、巨大な爆炎が何百もの炎柱となって、魔法陣が支配する全ての範囲の空間を埋め尽くした。
一度、地上に達した炎は、爆炎の塊となって、空に渦を巻きながら立ち上がって行った。その無数の爆炎は小さな山なら丸ごと飲み込むほどの巨大な大爆炎に成長した。
そして翔のコントロールで、その巨大な爆炎は、威力をさらに増して天高く吹き上げられて行った。
メロ、アメリア、イリスの三人は、炎や煙などが巨大な円柱になって遥かな天にまで立ち上る光景を口を開けて見とれていた。
「これほどとは……」
そう呟いたのはイリスだった。
「こんな魔法は、第九グレイドの『煉獄炎』、第十グレイドの『破滅炎』とも違う。聞いたこともない魔法ですわね」
「うむ。我ら妖精界最強の魔術師ですら、このような魔法を使える者は、いないだろう。翔の荒唐無稽な作り話がいよいよ現実味を持ってきたようだ」
アメリアもイリスの言葉を肯定した。
翔のその魔法に最も強く感銘を受けたのは、メロだった。
「翔。これでもまだ、翔の本当の大爆炎とは、言えない失敗魔法なの?」
「いや意外に使えたな。しかし複雑なところを省略したのも事実だ。もうちょっとってところだろう。
ついでに前に見せた大爆発よりも、少しましなのも見てみるか?」
翔は、冗談のように聞いた。
メロは、可愛い顔をコクコク縦に振った。嬉しいそうな顔だ。
翔は、ここで、メロに見せるために、改めて現代版の爆発系の上位魔法『大爆発』の術式を展開する事にした。
最初に、魔法の発動を加速させる術式を展開。
次に焦点を合わせ魔法の発動範囲を自分たちから前方に集中させる術式を展開。
さらに、魔力をエネルギーに変換する術式を展開。
その術式に翔の持っている魔力を注ぎ込んだ。
さらにエネルギーを倍加する術式を展開。
エネルギー保存則を無視し、エネルギーを何乗にも倍々に掛け合わせるように術式展開させる現代魔法の奥義である。元々、魔法術式が発達した現代魔法に於いても秘術中の秘術だ。
そして次こそが天才と言われた翔の真骨頂でもある。この複雑な術式を、何重にも重ねがけするのである。そんなことができるのは橘家の化け物な姉妹と彼ぐらいのものだ。
前には、これがうまく行かず重ねがけが中途で半端に終わったが今回は快調にどんどん掛け合わせてゆくことができた。
この重ねがけの回数を増やせば、さらに別のもっと高次元の翔の秘蔵のとある魔術になるのだが今回はそこまでせず、ある程度のところで魔法を発動させた。
メロは炎系の魔法が好きなのか、派手な魔法が好きなのか、爆発系列ではなく爆炎系統の魔法ばかりを使う。
しかし翔は、爆発系の魔法の方がスカッとしていて好きだ。
とは言え爆発系の魔法の場合、自分達が怪我しかねない危険性があることだ。
翔は大爆発が発動する直前に、強力な魔法障壁を展開するのを忘れなかった。
「『大爆発!!!』
翔の発動した大爆発の衝撃波が翔達を直撃したが、今回は何事もなく魔法の威力を受け止めていた。
────おお。できるようになったじゃんか。
翔は、成功した大爆発の結果を満足気に見ながら思った。
翔の眼前に有った山の峰が、綺麗に吹き飛ばされ、荒削りだが平らな荒地に変形していた。
「うむ。これが俺の本当の第六グレイド魔法の威力さ」
翔は、久しぶりに魔法の手応えに満足して言った。
《お見事です翔様。この威力はユグドラシルでは最高位グレイドに匹敵する威力です。このような魔法は、凄まじい魔力の拡散が発生します。少しの間、このような巨大な魔法は使われないことをお勧めします》
アリスが、珍しく忠告してきた。
────どう言う意味だ?
翔が心の中で問うた。
《翔様が発動される魔術は、既にレベル数百の魔術師でしか実現できないはずの魔法なのです。しかし未だに翔様の実力はレベル60程度に過ぎません。
本来このような不自然な事はあり得ない事ですが、高位魔法を使える事と本当に強い事には、微妙に違いがある事は既にお分かりでしょう。
いついかなる時にレリエル様が翔様の様子を伺うか分からない現状、あまりにも強い魔法を使うのは危険かと》
────レリエルにはまだ叶わないか?
いい所まで戦えるかもと思っていた、翔だった。
《大変申し訳ありません。今まで翔様の意欲を削がないよう黙っていましたが、レリエル様は順調に昇進され今では力天使になられたようです。レベル200を超えているでしょう》
翔の脳裏に、恐ろしい闘気を纏い、翔を圧倒しつつ、痛烈に罵倒しながら電撃を浴びせてかけた、あの美しいレリエルの顔が浮かんだ。
────糞っ! 絶対あいつより強くなってとっ捕まえてギャフンと言わせてやる!
翔はそんな事を心に誓っていた。
「早くレベルを上げて余生を楽して生きるぞ〜」
翔はそう宣言した。
「ダメ〜ェ。メロの敵討ちを手伝って」
「お前の敵討ちは手掛かりすらないしな。それよりもアメリアの敵討ちの方がまだ可能性がある。と、言っても相手が魔王級の悪魔公爵様だからな……」
翔は肩を竦めながら言った。
「第八グレイド魔法を簡単に使える冒険者が悪魔公爵ごとき何とかなるだろう」
アメリアは笑いながら言った。
「おれの魔法がレベル500の悪魔公爵に当たるとお前は本気で思うか?」
翔が真剣に聞いた。
「確かに素早さが亀とハヤブサほどちがうからな。大爆発を遥か彼方からかけたとしても魔法を発動した瞬間に酷い目にあわされそう」
アメリアも結果を想像してみて笑いだした。
「俺のもともとの魔術なら避けることも出来ずに蒸発しておだぶつなんだがかぁ」
翔が自嘲気味に言った。
「そもそも、翔は元の世界でどれほどのレベルだったの?」
イリスが尋ねた。黒い瞳が興味深そうだ。
「それだが、俺の世界にはレベルなど無かったから正確には分からないんだ。俺は魔術師の才能はまぁまぁだったと思うが、俺の姉などに言わすと根性無しのヘナチョコって事だからそれが俺のレベルだったのかも知れない。
そもそも俺ん家は、橘流と言う古武術が表の看板だったんだが、俺は頑張るのが苦手だったから全くやらなかった。
俺が橘流の武術の修行を頑張っていたらレリエルが転生車輪を使ってもこんな事にはならなかったのだろうな」
翔は、しみじみと言った。
「ちなみにアリスによると、俺はまだまだヘナチョコなので下手に高位の魔法を使うと、天使レリエルに察知されてしまうって事だ。暫く、ユグドラシルの第七グレイド程度までの魔法をうまく使う工夫をする。お前達も目先の高位魔法よりもレベルの向上を目指すんだぞ」
「え〜? つまんない。なら、第七グレイドの魔法をしっかり教えて」
メロが、がっかりして言った。
「そもそも、ユグドラシルの正式な魔法体系が分かってないんだから第七グレイドがどうのと言われてもな。ここのトライアルが終わったらキッチリと魔術学校にでも行かんとダメかもな」
「私も興味あるわね。私達の魔術の知識は少し偏っていると思いますわ」
イリスが言った。
「イリスの言う通りだな。俺達にはこの魔峡は最も適した場所だ。ロスバイセのおばさんは、街で遊ぶように言っていたが、サッサとレベル上げに邁進しよう」
翔は、そう言うと獲物を目指して歩き始めた。
獲物は直ぐに見つかった。
【修行履歴】
2019年10月27日に
①23話を3分割しました。
②文章の訂正をしました。
③主人の思考を表す、表現方法の変更をしました。
④イラストを追加しました。




