022ー3 金剛の間
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【最下層の一つ前499層】
金剛迷宮の最下層には、いわゆるダイヤモンドでできた、大きな部屋があった。それを『金剛の間』と呼んでいた。
499層は、その『金剛の間』の入口にある小さな洞窟だった。
翔達は、そこまで行くのにたったの八度しか死ななかった。たったそれだけでここまで来れたのはレイラから迷宮の詳しいガイドブック『金剛迷宮の手引き』をもらっていたからだ。
翔はそのガイドブックをよく読んで作戦を立て、それを皆に説明して迷宮の制覇に必要なノウハウを叩き込んだ。そのガイドブックは迷宮の攻略本だったのだ。水晶迷宮で死ぬ程苦労したのに比べて、これ程簡単に攻略できるのだと目から鱗が落ちるような思いだった。
そう言えば、スタバンゲル街道を歩く冒険者達は、ガイドブックを片手に歩いている者が多かった。彼等は、ガイドブックに従って、冒険を繰り広げていたのだと改めて分かった。
水晶迷宮は言わば、この金剛迷宮での冒険をより有効なものにするために、翔達に迷宮攻略の怖さや難しさを身体に染み込ませる為の前哨戦のような役割だったのだろう。
ここにきて翔はアリスの存在がどれほど大きかったかを身にしみて感じたのだった。
しかし、この金剛迷宮でもアリスはあまり翔達に干渉しようとはしなかった。恐らく女神ブリュンヒルデに慮ってのことだろう。
金剛迷宮の魔物は、レベルが30から45までの魔物が中心だった。流石にレベル40を超える魔物が四体以上出てくると苦戦する。そんな時はガイドブックに従って『やり過ごす』のがベターだった。
例え闘うハメになったとしても足止めをして逃げる事が上策で、翔達のように死んでもやっつけると言うのは下策も良いところだそうだった。
レベルアップには、魔物を殺す事が必要だと思い込んでいた翔達の完全な失敗だった。
強い魔物をうまく処理して逃げるか足止めをしたりしてやり過ごす、あるいは罠に嵌めたりする、そのような作戦を絡めた戦い方全てができることがレベルアップの条件と言う訳だ。知識と経験こそレベルアップに欠かせない要素だった。
最初ガイドブックを読んだ翔は、狂気のように大笑いし、次には、相当ふさぎこんでしまいアメリアに慰めてもらったほどだ。
ガイドブックでは、それだけでなく様々な技や魔法などの修得本になっていた。ガイドブックには、効率良く闘気を身につける特訓なども入っていて独学の闘気を微調整するなど本当に有意義であった。
「このガイドブック、手取り足とりとは、このことだなぁ」
翔はしみじみと言ったものだった。
それから、ガイドブックの指示に従って地上階に向かうのだった。
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【金剛の間】
金剛迷宮最下層『金剛の間』に入った。三度往復してから入るのは水晶迷宮と同じだが、三度の往復がこれほど楽とは驚きだった。
五百層もある迷宮の三往復は想像したよりも早く終わった。ニドベリルの剣の修行の期間を省いても、水晶迷宮の五分の一程度の時間しか掛からなかった。
しかも三度の往復でレベルは三つも上がっていた。サクサクレベルが上がる感じだった。
金剛迷宮では、ラストボスは、レベル50もあるキマイラ(トラ、ヘビと何者か不明の生物との混合生物)だった。
アメリアは飛翔術が得意なのと素早さが断トツなので前衛に、イリスと翔が中衛、メロが後衛だ。
キマイラはガイドブックによると体を変形させて攻撃するらしい。
イリスはユグドラシルのダークサイドの情報から、キメラは、細胞一つ一つが生命体と言う厄介な魔物で、核となる部位を焼くなどの攻撃が有効だろうとの情報を持っていた。
イリスが理知的なのはアリスと同じような情報端末を持っているからなのかもしれない。
翔は、新しい魔法を学ぶためにガイドブックに掲載されているユグドラシル基準の第三グレイド魔法『炎突風』をガイドブックの説明に従って術式構築してみる事にした。
『炎突風』は、炎を含んだ突風らしい。ユグドラシル基準の第六グレイドの魔法『爆発』と比べると地味な魔法になるのだろうと想像しながら魔法を構築してみた。簡単な魔法なので直ぐに魔法の発動が可能になった。
「『炎突風』!」
翔は、発動因子のみを口にすることで魔法を発動してみた。
火炎の渦がキメラを取り巻き恐ろしい勢いで、炎が立ち上がった。最初オレンジ色だった炎は次第に青い色になり火炎を巻き上げる恐ろしい轟音を発した。
キマイラは青い炎の中でもがいていたが直ぐに動かなくなった。
「翔。そんな極大魔法を使って一人でやっつけなくったって良いでしょ。せっかく初のレベル50台の魔物だったのに」
メロが、翔の腕を取ると頬をプクリと膨らませて怒りながら引っ張った。
「いや。あれはお前らのユグドラシルの第三グレイド魔法『炎突風』だぞ。あのキマイラが弱っちぃんじゃ無いか?」
翔は、不思議そうに言った。
「あれは『炎突風』とは、似ても似つかない魔法だったぞ。グレイドが三以上違うはずだ」
「え? このガイドブックに忠実に従って魔法を発動しただけだぞ。ここを見てくれ」
翔は、メロにガイドブックを指して言った。
「ふむ。ふむ。このガイドブックのどこに火炎が竜巻になって青い炎を発する。なんて書いてるの?」
「だから。炎の柱をイメージしてそれが混ざり合うように強い風を吹き付けて炎をより強くする」
────まさにその通りだよな。
「だから。突風が強烈なあまり、竜巻となって炎が青く燃え上がる、なんて記述じゃ無いじゃないの。翔の魔法は何ランクも上の強力な魔法になりすぎちゃうのよ」
「俺のイメージがダメなんだな」
「最初のトライで想定さているよりもずっと強い魔法になるなんて素晴らしい事じゃないか。そのどこが不満なんだ?」
アメリアが言った。
「俺は、お前達ユグドラシル世界の魔法のグレイドをキッチリ把握しときたいだけだ。もし、お前達の言うような情報3つも上のグレイドで、この『炎突風』を発動するとしたら、こんな感じになるな」
翔は、そう言うと試しに魔法を発動してみた。
直ぐに、火炎が何十本も立ち上がった。それから部屋全体が強風で煽られたかのように強力な風が唸りを上げ始め、どんどん勢いよくなった。炎が金剛の間の遥か彼方の天井にまで達し、天井の金剛が赤熱し始めた。
巨大な火柱は、さらに規模を増大させてどんどん広がって行った。
「まぁ。こんな感じだ。これ以上したら金剛の間が溶けて崩れてしまいそうだ」
「翔! メチャクチャしないでよ。私達まで溶かすつもり」
メロは、怒りながら叫んだ。
「ああすまん。最近少し思ったよりも魔法の威力が増しすぎるんだ。だから、試しにユグドラシル基準の第三グレイドぐらいの魔法を使ってみたんだよ」
翔が言い訳のように説明した。
「今後は翔が考えるよりもずっとずっと小さな些細な魔法から試す事。いい? でも、翔は思う通りガイドブックの魔法を自分の発想で発動してみて、それを全て私に教えること。それは至上命令」
メロは、自分に都合の良いように言った。
「メロ。お前だけずるいぞ。翔。お前の独自路線の魔法をそのまま、私にも教えてくれ。翔がガイドブックを読んで考える通りの魔法をネオ魔法とでも言おう。それを我々全員に、しっかり叩き込んでくれ。我々には最初に翔が放った方の魔法程度しか使え無さそうだが、今よりも相当に威力のある魔法が使えるようになるだろう」
アメリアが言った。
「そうだ。私にも翔の魔法を教えて欲しいわ。凄く勉強になるもの。貴方の魔法は規格外だわ」
イリスも目を輝かせて言った。
「それよりも、俺にユグドラシル基準をちゃんと教えてくれ」
翔は、悲鳴を上げるのだった。
☆
結局、翔はガイドブックに掲載されていたユグドラシル基準の第三グレイド魔法、全てを翔の考えのみで実演してみる事になった。
ガイドブックには攻撃系の魔法だけでも炎属性魔法として『炎突風』『大炎』の二つの魔法、風属性魔法では『刃突風』『嵐』『氷嵐』の三つ。氷属性魔法では、『氷結柱』『氷弾幕』の二つ。水属性魔法では『津波』『大洪水』の二つの魔法がガイドブックに掲載されていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【試練の間】
翔達が『試練の間』に入ると、レイラではなく別の女性が立っていた。その女性は、一目で人を超えた存在だと分かった。彼らに友好的な笑顔を向けている。彼女はどこかブリュンヒルデと似た雰囲気があった。美しい金髪がより彼女を美しく見せていた。
「レイラは?」
翔が尋ねた。
「レイラは、ブリュンヒルデ様と特訓中よ。私は、半神英雄のロスバイセよ。貴方達のお目付け役として今後は私が厳しく導いてあげるわ」
その女性はそう言った。アリスの情報を見るとロスバイセは信じられないレベルだった。
『ロスバイセ・アルデバラ。レベル380。戦乙女。半神英雄』
恐ろしいレベルだ。レイラとは比べ物にならない。
「レイラは、どうして特訓なんかしてるの? あんなに強いのに」
メロが尋ねた。
ロスバイセは含み笑いを押し殺してメロに優しい笑顔を見せた。
「あの子は素質はとてもあるのに、頑張りが足りないのね。あの子は自分は、人間以上って気持ちが強のかもしれないわね」
「人間以上?」
「そう。あの子は生まれながらの半神だもの。お父さんは、曙神デルングと人間のハーフゴッドなの。もちろん素質は普通の人間とは、比べられないほど高いわけね。でもそれが返って彼女の修行の邪魔になっているって感じなのね」
「よく分からんが、レイラは、自分の意思でやりたい様にやっているってことで良いんだよな」
翔が尋ねた。
「ふふふ。もし無理やり彼女を拉致したって言ったら貴方達はどうするの?……はいはい。そんなに怖い顔をしないの。そんな事は無いんだから」
ロスバイセは、含み笑いを漏らしながら翔達をいじるのを諦めた。
「レイラは、貴方達の成長に脅威を感じたのよ。貴方達に負けてられないって。そう言って、もっと厳しい修行を頑張っているのよ。根が真面目な娘だものね」
「レイラは、十分に強いと思うがな。我々が束になっても全く敵わない」
「あの子は……そうね。強いわよ。でも、もっともっと強くならなきゃいけないのね。半神英雄は、普通もっと過酷な修行の末に、なれるものよ。昔は、何度も死ぬ、なんて当たり前だったわ。復活の指輪って言うアイテムが有ったのね。
今から考えるとオーディン様のお導きだったのかもしれないけど。私もブリュンヒルデ様やオルトヒルデ様、ゲルヒルデ様、ヴァルトラウデ様などの英雄譚に胸をときめかせて頑張ったものよ。あの子には、そう言った動機が無かったのがいけなかったのかもしれないわね」
「レイラは半分神様だから頑張らなくっても強くなるんじゃないのか?」
翔は、不思議そうに聴いた。
「確かにそのはずね。ブリュンヒルデ様もそこのところは悩んでたんじゃないかしら。あの子には、余りある時間があるもの。今のままでも時間が解決すると。でも、レイラは、あのままの修行しなかったら、それなりにしか強くなれなかったかもしれないわね。ブリュンヒルデ様は、貴方たちとレイラが、競い合ってお互いに強くなる事を願ったのだと思うわ。そう言う意味ではブリュンヒルデ様の思惑通りになったと言うべきね」
翔はロスバイセの話を頭の中で反芻するように考えてみた。
「もうレイラには、会えないのか?」
翔は、尋ねた。
「ちゃんとしたお別れをしてないんでしょ。だったら、また会おうって事なんじゃないの」
ロスバイセは、笑いながら言った。
「あんなに強いのに、もっと強くなるって事は、追いつくのは無理だろう」
翔は、言った。今まで目標にしていた目印がいきなり消えたような感覚だった。
「それはどうでしょうね。さらに強くするのが私の仕事よ。私もこうしてわざわざやって来た、貴方達が少しでも強くなれるように、いろいろ教えてあげるからかかって来なさい」
☆
ロスバイセの強さは想像を絶していた。巨大な岩と戦っているような感覚だった。
ここで、翔は久しぶりに『大爆発』の魔法を試してみようとしたが、最初に魔法をイメージした瞬間に、恐ろしい斬撃で意識を無くしていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【天界】
「ロスバイセ殿。ご苦労だった。彼らはどうだった?」
戦女神のブリュンヒルデが尋ねた。
「冷ってしました。あの少年はとんでもない魔法を使おうとしましたので、やむなく仕留めざるを得ませんでした」
ロスバイセは答えた。
「あの少年は異常だろ?」
ブリュンヒルデは、笑いながら言った。
「実力以上の魔法を簡単に使いますね。あれは、ブリュンヒルデ様じゃありませんが特別ですね」
「そうか。レイラも同じような事を言っていたな」
「あの少年の魔法は、悉く見た事がない威力を発揮します。『爆発』程度と思ってまともに受けたところ信じられないダメージを受けました。じっくり見ると術式が美しい上に様々な修正がされているのです。あんな事ができるのは普通、大賢者でもないと……」
「あの年で大賢者などとは、レイラも大変なライバルを持ったもんだ。彼等は、強くなりそうか?」
「あの少年に引っ張られて他のメンバーも恐ろしい速度で成長中です。ガイドブックがあるとは言え、本格的な迷宮をあんなにやすやすとクリアしているようですから驚くばかりです」
「金剛迷宮の設定は、彼等には低すぎたのか」
ブリュンヒルデは、少し心配そうに言った。
「彼等は、特別ですって。成長速度が速すぎるのでしょう」
笑って、ロスバイセは、答えた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【金剛迷宮クリア後の翔達のレベル】
○翔 レベル38
実力レベル55
○メロ レベル39
実力レベル50
○アメリア レベル39
実力レベル49
○イリス レベル36
実力レベル46
022 了
【修正履歴】
2019年10月22日
○第22話を3分割しました。
○分りにくい表現を訂正しました。
○少し加筆しています。
○主人公等の思考を表す表記の方法を以下のように変更しました。
(主人公等の思考)
↓
────主人公等の思考。
なお、この変更は、順次行っています。
表記がしばらく混在しているので、お許しください。




