021ー3 新たな仲間
【修正履歴】
2019年10月9日
○第21話を4分割しました。
○分りにくい表現を訂正しました。
○少し加筆しています。
○主人公等の思考を表す表記の方法を以下のように変更しました。
(主人公等の思考)
↓
────主人公等の思考。
なお、この変更は、順次行っています。
表記がしばらく混在しているので、お許しください。、
【試練の間】
戦乙女のレイラ・リンデグレンは憂いを含んだ瞳でイリスを覗き見た。
少し青ざめた顔色で、翔達四人から視線を外した。唇に指を当てて考え込んでいる。
「レイラ。お願い。助けてあげて」
アメリアが珍しく強い口調で頼んだ。
しかしレイラは、視線を下に向けたまま考え込んだ。
「レイラ」
改まった口調で、翔は、レイラに呼びかけた。
レイラは、その呼びかけに視線を移した。翔は、レイラの肩に手を置いた。
「レイラ。お前の危惧はよく分かる。イリスは、ユグドラシルを滅ぼすかもしれない蝕から生まれた魔王の候補者だ。掟では殺すしかない。そんな者を見過ごしにできないと言うことはよく分かる。しかし、見ての通りイリスは完全な蝕の形態を取れなかった。見逃してくれないだろうか」
レイラは、物憂げな視線を翔に向け、それからイリスを少しだけ見たが、レイラの方をじっと見ているイリスの視線を受けて、慌てて視線を避けるように落とした。
「ごめんなさい。私の一存では……。ブリュンヒルデ様に尋ねてみないと……」
「もちろんだ。我々もブリュンヒルデさんにお願いするさ」
翔は答えた。答え方は軽かったが何者にも動かされない強い意思が感じられた。
翔の様子を見てレイラが小さなため息を吐いた。
「今、ブリュンヒルデ様をお呼びします。少し待ってくださいね」
レイラは片膝をついて祈りの姿勢になりながら言った。
翔達もそれに倣う。アメリアはイリスに耳打ちしてイリスを同じような姿勢にさせた。
しばらくして、巨大な画面に戦女神ブリュンヒルデが姿を現した。
生き生きとしたブリュンヒルデは、美しく健康そうだった。
「レイラ。どうしたのだ?」
ブリュンヒルデが尋ねた。
「ブリュンヒルデ様。実は……」
レイラが事情を説明した。翔とアメリアもレイラを助けつつ説明をした。
黙ってレイラ達の説明を聞いていたブリュンヒルデは、厳しい眼差しでイリスを見つめていたが、全てを聞き終わると厳しい口調でイリスに問いただした。
「イリスとやら。お前は、今後何を目指す?」
「私は……」
そこでイリスは、言い淀んでしばらく考えた。翔はイリスの痩せた背中を優しく撫でてやった。
イリスはしばらく考えていたがおもむろに、話し始めた。
「私は、この私の存在意義を探してみたいと思います。出来損ないとして生まれ、死ぬべき命だったのか。世界から忌み嫌われるラグナロクの因子でしかないのか。無意味な存在だったのか」
「それは、大層な目的だな。しかし出来損ないでしか無いお前一人が、その目的を達成する事が可能だと思うのか?」
ブリュンヒルデが少し面白がって尋ねた。
「いえ。私には、私を必ず助けてくれる仲間がおります」
イリスはそう言うと、翔達を見回した。
「翔、メロ、アメリア、そなた達もそれで良いのだな?」
「しかたない」
「うん」
「うむ」
三人がそれぞれに答えた。
ブリュンヒルデが笑い出した。
「私は、お前達に大いに期待している。近年のユグドラシル全体の堕落した風潮を打ち破り、半神英雄を大勢導き出す楔となってくれる事をな。未だかつて、蝕を取り込んだ英雄はいなかった。お前達は蝕を取り込んで、この先どのように強くなるのか楽しみだ」
「それでは」
勢い込んで尋ねたのはレイラだった。
「まて。簡単に思い通りになると考えるな。そもそも、今回の事で、折角のトライアルが台無しになっているのは見過ごせない。世の中には無茶な願いと言うものがある。叶わぬ事を願う事だけが無茶と言うのではないぞ。
願いを叶えるための代価が、あまりにも不釣り合いな願いもまた無茶な願いというのだ。お前達は、イリスを助ける事に対してどんな対価を支払うというのだ?」
「女神様は、どのような対価をお望みですか?」
レイラが尋ねた。
「命には命で贖うものだ。代価とは、お前達がレベルアップ・トライアル・ルートを命懸けでクリアすれば許そう」
「女神様。誰一人クリアした者がいないこのトライアル・ルートをクリアせよと仰せですか?」
レイラが尋ねた。
「そうだな。クリアが条件とまでは言わぬ。しかしトライアル・ルートは誰もクリアした者は無いが、そもそもクリアできないという訳ではないのだ。何しろ、このトライアル・ルートでは、死なないのだからな。しかし、死の恐怖は時には、闘志を挫くかもしれぬ。もしお前達が真剣に殺してくれと願うほどまで疲弊困ぱいするまでトライアル・ルートをクリアしようと努力したのであれば許してやろう」
ブリュンヒルデはそう宣言するように言った。
「女神様。では、イリスは、この者達のパーティーの一員として入れる事をお許しいただけるのですね?」
レイラが尋ねた。
「私も、この者達の魔族の命ですら助けたいと望む優しさを全て否定している訳ではないのだ。レイラ、だから試練を与えるだけでは、公平ではないことも承知しているぞ。
だから恩恵も与えてやろう。イリスがレベルアップするのに支障となる欠陥を排除し、普通の冒険者と同じように職業に就くことがきるようにしてやろう」
ブリュンヒルデは、そこまで言うと画面に運命女神のヴェルダンディが現れた。
「こんにちは、皆さん」
ヴェルダンディは、そう挨拶をした。気さくな性格が現れた優しい笑顔だった。
「私も横で聞いていたわよ。貴方達は本当に楽しい人達ね。見ていて飽きないわ。折角最下層まで行って、そんな拾い物をして、サッサと帰ってくるんだものね。『脱出』はクリア条件が台無しになってしまうって分かっているわよね」
「もちろんです」
翔が答えた。
「本当に面白い子達ね。じゃ私から贈り物ね。イリスちゃんには『魔物使い』って職業を上げましょう。サブ職業を『魔術師』にしてあげるわね」
ヴェルダンディは、笑いながら言った。
「こら。ヴェルダンディ。良いところだけ持っていくな……」
ブリュンヒルデがヴェルダンディを画面の外に追い出した。
「お前達。イリスは“賢人会”の監視下に置くことがイリスを助けるもう一つの条件だ。もし、イリスがラグナロクの因子と判明したら全力で排除することを命ずる。いいな」
そう言うと、厳しい表情のブリュンヒルデは一瞬かすかに笑い、画面が消えた。
レイラの大きなため息が聞こえた。
「貴方達は本当についているわね」
レイラは、そう呟いた。
「この子の事は冒険者ギルドでも話題になっていたとブリュンヒルデ様は私だけに伝えてくれたわ。蝕の規模が小さいから不問にされたのね。そうでなければ、この子はとっくに征伐されていたらしいわ」
「蝕が発生すると分かるのか?」
翔が、尋ねた。
「蝕の規模にもよるけど普通のは、蝕の影響でいろいろな現象が起こるから分かるわ。でも、そもそもいつも運命女神様達が御神託をしてくださるの。分からなことなんてほとんど無いわよ」
「なるほどな。神々は、全てお見通しって訳か」
翔は、ふむふむと頷きながら言った。翔の手は、無意識に、レイラの肩に置かれていた。
「翔。その嫌らしい手を離しなさい」
メロは、頬をプクリと膨らませながら叱った。
「いや。久しぶりにレイラがあんまり可愛いんで」
翔は、笑いながら手を離した。
「じゃ。レイラ。まずイリスにレベルアップ・トライアル・ルートの概要とクリア条件を説明してやってくれ。それから、最初の『試練の間』から始めようか」
翔は、改めて、言った。
試練の間で、レイラと翔達の四人のメンバーによる闘いが始まった……。




