021ー2 魔人イリス
【迷宮の底で】
アメリアが奏でる妖精のサーガは、地底の庭園に寂しくも美しい旋律を響かせた。
その歌声に導かれるように、翔の手の中で暴れていた少女――イリスの瞳から狂気が消え、彼女は吸い寄せられるようにアメリアの前に座り込み、その歌に聴き入った。
メロは、なされるがままのイリスにマジックバッグから出した服を無理やり着せた。
「お前の名は?」
アメリアの問いに、少女は「イリス」と答えた。
彼女は、魔力が集積して生じる「蝕」によって生まれた不完全な魔族だった。本来なら五百層を越える迷宮で一万年の歳月をかけて生まれるはずの存在。この若き水晶迷宮で生まれた彼女は、いわば「魔王になれなかった出来損ない」の成れの果てだった。
「俺に、こんな可愛い子を殺せと言うのか?」
脳内アシスト・アリスからの「ユグドラシルの掟に従い処分すべき」という勧告を、翔は一蹴する。
イリスもまた、最初は三人を利用して逃げ出すつもりだったことを告白するが、翔の「俺も殺す気はない。助けてほしいという言葉には弱いんだ」という本音に触れ、その瞳に涙を浮かべた。
翔は仲間に加わる条件として三つの約束を提示する。
一、女神たちの試練に付き合い、処遇を仰ぐこと。
二、三人の特殊な事情と目的に付き合うこと。
三、共に過酷なレベルアップに励むこと。
一方、メロとアメリアが提示した条件は――
「翔は女好きでエッチだから、変態的な視線とソフトタッチは許してやってほしい」
という、翔の尊厳を粉砕するような内容だった。
「おい、俺は変態マスターかい?」
「そう」「うむ」
二人の即答に肩を落としながらも、翔はイリスの頭をぐりぐりと撫で回した。
「不満があるなら、いくらでも変わればいい。お前はお前だ」
こうして、黒髪黒瞳の少女イリスが仲間に加わった。
一行は第百層の探索を一時中断し、『脱出』の魔法で一度地上へと帰還するのだった。




