019ー5 失敗魔法
【修正履歴】
2019年9月24日
○第19話を7分割しました。
○分りにくい表現を訂正しました。
○少し加筆しています。
○主人公等の思考を表す表記の方法を以下のように変更しました。
(主人公等の思考)
↓
────主人公等の思考。
なお、この変更は、順次行っています。
表記がしばらく混在しているので、お許しください。
「おい。翔。何をボンヤリしているんだ? 次のお客さんだぞ」
アメリアの声で、翔は、現実に引き戻された。見るとスケルトンが何十体もゾロゾロと洞窟の中から出てくるところだった。
「メロ。レベル15程度の精霊を呼べるだけ呼べ。
アメリアは、白魔法の初級魔術、破魔光の光を小さな十字の形にして、光がたくさん迸るような感じをイメージしてみろ。さらに熱の術式で、このような感じで、術式を織り込んでみろ。
それからこうやって、範囲攻撃の術式を織り込んで展開してみるんだ。
最後に、白魔法系の魔力だけを注ぎ込んで魔法を発動させるのだ」
「うん」
メロは頷きながら翔の指示に従って魔法の詠唱を始めた。
「そしてアメリアには別の魔法だ。これが、神聖魔法の浄化炎の術式だよ。奴らには堪らん聖の炎だ」
「分かった。やってみる」
アメリアは、翔の説明の通りに術式を展開し、白魔法を注ぎ込んでみた。
しかし、アメリアが今迄経験した事がないほどの魔力量を注ぎ込んでも発動しない。
「アメリア。お前の術式はここが可笑しいぞ」
翔は、アメリアの作った術式に、介入して術式の誤りを訂正してみせた。訂正箇所を分かりやすく色彩を変更する事で際立たせて見せた。
本来魔術の術式に、変な色を付けるなど有り得ない。しかし、今は、魔法の効果よりも、アメリアの術式への理解が最も大切だ。
翔が術式を訂正すると、その効果は直ぐに現れた。アメリアの開いた手の平から大きな光が迸り出た。アメリアの魔法が発動したのだ。
見るとその光は、小さな十字架の形をした輝きが、蝶々の群れのように無数に広がって行って、光の洪水となって溢れ出し、それがスケルトンに降り注い行った。
その光を浴びるとスケルトン達は、呆気なく風化するように、次々と消えて行くのだった。
☆
一方のメロは、翔の命令に従って木の精霊アルラウネを呼んでいた。
魔力を多少多めに注ぎ込んでアルラウネを五十体も呼んだのだった。
メロは、呼び出したアルラウネに、直ぐにスケルトンを攻撃するように命令を送った。
アルラウネは、メロの命令を受けると、各自が精霊攻撃を唱え始めた。
下級とはいえ、五十体もの精霊が一列に並び、攻撃魔法を唱えているのは、見ていて壮観だった。
さすがに魔法巧者なアルラウネはであった。魔法が次々にスケルトンに向けて放たれると、無数のスケルトン達は、どんどん消して行くのだった。
☆
翔は、六角の金棒の先端を巨大な筒に変えた。
六角の棒を火炎放射器の魔法アイテムに、変化させたのだ。
このアイテムが普通の魔法の違うところは、幾つもの魔法を物理現象に変えて、効果を強力にすることができることをだ。
翔は、ようやく手に入れた魔力を惜しみなく魔法アイテムに注ぎ込んだ。
翔が発動した魔法は、爆炎の魔法だ。
魔法アイテムを使う事で威力を増したのだ。
翔は、科学の知識を応用して火炎放射器の先端に、空気魔法で大量の酸素を送り込む魔法術式を組み込んだのである。
そうすることで、炎の威力を増大させたのである。
そうやって作られた青い炎をスケルトンの集団に向けて、無造作に放ったのであった。
青いジェット噴射のような炎が、金棒の先端から迸り出て、スケルトンの集団を丸々飲み込んだ。
こうして、スケルトンの集団は、翔の火炎放射器の炎、メロの召喚した精霊アルラウネの攻撃、アメリアの浄化炎の魔法によって次々に消滅させれられて行ったのだった。
「このまま前進するぞ」
翔は、そう言って前進したのだった。無数のスケルトンなど物ともせずに、どんどん前進する翔達だった。
十分ほど攻撃したところで翔のレベルが上がった。何とも呆気ないレベルアップだ。
────こいつはなかなか良いぞ。
翔は、火炎放射器を左右に振ってスケルトンを焼き払いながら進みつつ思った。
「おお。翔。私のレベルが上がったぞ」
アメリアも言った。
「私も上がった」
メロだ。どうやら全員、レベルアップしたようだ。
翔達は、スケルトンの大群を薙ぎ倒しながら、迷宮をどんどん進んで行った。
十数分して翔は、更にレベルが一つ上がった。それから十数分後にメロ、アメリアのレベルも上がていた。
────こいつは、中々順調じゃないか。
翔は考えるより易いと、密かにほくそ笑んでいた。
見ると、メロもアメリアも嬉しそうだ。今迄の苦労が報われた感じがする。
ようやく、魔物をなぎ払いレベルアップする時がきたのだ。
翔達は、退治しても退治しても現れるスケルトン達を機械的に次から次に倒していった。
それからも無数のスケルトンは途切れる事なく現れた。
しかし無限にいるかと思われたスケルトンの数が次第に減ってきた。
「そろそろ終わりのようだな」
翔が言った。
スケルトンの最後の集団百体程を撃退すると迷宮が急に静かになった。
時間にして約一時間半ほどになるだろうか。翔はレベルが四つ。メロとアメリアは三つレベルアップしていた。
「ふー。これで終わりじゃないよな」
翔は、そう言うとその場にうずくまった。
メロも翔に倒れ込むように背中を預けてきた。
「何匹やっつけたんだろうか?」
アメリアも翔達に身体を預けるようにもたれてくる。
しかし、彼らの休息は直ぐに中断されたのである。
「前方、レベル12スケルトン多数。レベル12不死熊多数。レベル10死霊多数。レベル11バンパイア。多数出現」
メロが、翔に習った感知魔法を発動していたのだ。感知した情報を早口で知らせた。中々様になってきたメロであった。
「おいおい。よくもこんなにゾロゾロと現れるもんだな」
翔は、呆れて呟いた。
「皆んな。魔力が半分以下になったら言えよ。俺はさっきの防具や武器の改造にMPを大分持って行かれたから半分を切った。お前達はどうだ?」
「私はまだ、七割」
メロが答えた。
「私は六割だ」
とアメリアだ。
「分かった。それならもう少し戦ってから『リセット』魔法を使って『始まりの部屋』に帰るぞ」
見ると魔物混成部隊だ。数えられないぐらいの多さだ。翔は全体を見渡してどんな魔物がいるのか確認した。
『不死熊。レベル11〜13。熊のアンデッド。【弱点】炎。弓矢。【特徴】力が強く、体当たり、前足攻撃、嚙みつきなどの攻撃技を持つ。物理攻撃に強く魔法耐性も高い厄介な魔物』
『吸血鬼。レベル10〜12。【弱点】日光。炎。流水。十字架。ニンニク。白木の杭。【特徴】神祖。ヴラド公爵によりバンパイア化した魔物から何世代も派生を繰り返して誕生した劣化バンパイア。物理攻撃が効かない魔物』
『死霊。レベル10〜12。【弱点】炎。首の切断。頭。心臓。【特徴】死体がゾンビ化した魔物。嚙みつき。引っ掻きで敵に即死を与える。物理攻撃き強くなかなか死なない恐ろしい魔物』
どいつもこいつも、その姿のおぞましさは表現できないほどだ。特に死霊は生半可に内臓やら肉などが身体に残っているためおぞましさは半端ない。
────おえっ。なんてキショイ奴ら……
思わず翔は口を押さえた。
「翔。怖い」
メロが翔の後ろにしがみつきながら言った。
「翔。この臭いは何とかならんか。吐き気がするぞ」
アメリアが堪らずその場に跪く。必死で痙攣しそうになるお腹を押さえていた。
「アメリア。無臭化の魔法をかけるが後はお前達の精神力だ。死体如きは平気にならんと闘えんぞ」
そう言いながら、翔は皆に無臭化の魔法をかけた。
臭いを嗅げないのはある種両刃の剣だ。しかし、この鼻が曲がるような悪臭では、仕方あるまい。
「すまない。多少マシになった」
アメリアは、膝に両手を突っ張って立ち上がりながら礼を言った。
翔は、手をアメリアの脇に入れて立たせてやった。
アメリアの羽が元気がなさそうに垂れ下がっていた。
────こいつは仕方ないな……
「大丈夫だ。俺が何とかしてやる。お前達。もっと俺にしがみついてくれ。防御壁を作る。できるだけ小さい防御壁にしたいのだ」
翔は、二人の肩を抱くように小脇に抱えるようにした。
その姿で、魔法防護壁を発動し翔達の周りを強固な防護壁で包み込んだ。
魔法のバリアーが淡い光を発して発動した。
「お前達。最後の手段だ。俺はこの魔法を使ったら多分MPの使いすぎで使い物にならなくなる。魔物がいなくなったら『リセット』を唱えてくれ」
翔が二人にに命じた。
「分かった。どんな魔法を使うつもり?」
メロが興味深そうに目を見張って聞いた。
「まぁ、見ていろ」
翔は、そう言うと最初に魔法の発動を加速させる術式を展開した。一つの魔法を掛けるには、無駄な魔法なのだが、そうする事で魔法が円滑にどんどん発動できるため、今掛発動しようとしている複雑な魔法では返って効率的になるのだ。
次に攻撃先の焦点を合わせため、魔法の発動範囲を自分たちから前方に集中させる術式を展開した。
さらに魔力をエネルギーに変換する術式を、展開した。
これで準備は終わりだ。
複雑な魔法陣の図形が翔の周りに幾つも浮かび上がり美しく輝いた。
その複雑な魔法陣の集合を見て、メロが「ほぇー」と言って目を丸くした。
翔は準備の完了した魔法術式に、彼が保有しているほとんどの魔力を注ぎ込で行った。燃費の良い翔なので、注ぎ込む魔力量は普通の魔法使いに比べると比較にならないほどにわずかだった。
次に、後処理魔法だ。エネルギーを倍加する術式を展開した。エネルギー保存則を無視するこの魔法が、今回の魔法の中で最難関なものだが、現代魔術においては欠くことの許されない重要な魔法だ。
ようやく出来上がったエネルギー倍加魔法をコピーするとその術式を何重にも重ねがけした。
そのあまりにも複雑か術式にメロは、ショックを受けたように目と口を大きく開いて驚いていた。
────糞っ。たった六回で限界かよ……
しかし、翔は自分の能力の限界にほぞを噛む思いだった。もし本来の能力を持つ翔なら百回は重ねがけできるはずだと言うことが分かっていた。
もしそれが可能なら爆発は超新星になるだろう。このままでは不発の可能性すらあった。
仕方が無いので代用として、魔法の強化と魔法の適正化の術式を展開した。
────こいつを使うと発動に時間が掛かるし無駄なMPがかかっちまうがやむなし、、、
余裕が無くなった翔は、最終手段として、メロからMPを拝借する事にした。
「あっ」
メロが、MPを取られて顔を翔に向けた。メロの顔は翔が構築する複雑な術式と、その術式が展開されて空中に浮き出た淡く光る無数の魔法陣の大きさに驚愕し、翔の無断借用に対して珍しく黙っていた。
「何と言う魔法……」
アメリアが翔にしがみついて震える声で呟いた。
「大丈夫だ」
翔は、二人に力強く言った。
「『大爆発』!」
翔が高らかに発動因子を唱えた。
巨大な衝撃が魔法防護壁を通して伝わってきた。身体がビリビリと震えた。
────何と無様な。自分の放った攻撃でダメージを受けるか……
翔は呆れながら、失いそうになる意識を必死で繋ぎ止めようと苦闘した。
最初に閃光が走った。閃光を防御するシールドを張る余力が無かった。
────情けない……
翔は、薄れて行く意識の中で呟いた。
恐ろしい衝撃が迷宮の第一階層の大きな範囲に届いた。翔は、衝撃波をできるだけ側方と上方に反らせ、爆発の威力制限した。
翔の発動させた魔法が閉ざされた空間で荒れ狂い、迷宮が震撼した。
この魔法は、明らかに翔のミスだった。
最初に考えた効果の半分にも満たない魔法なのに、それを相殺する、自分達を守る防御魔法が、疎かになってしまったのだ。
これでは、メロを笑う資格がない。薄れ行く意識の中で翔は、自身の不甲斐なさに歯噛みしていたのであった。




