015ー7 最強(ばけもの)達の宴
【修正履歴】
2019年9月6日
第015話があまりにも長かったので八話に分割しました。
2019年10月26日
文章を一部手直ししました。話の内容に大きな変更は、ありません。
【翔がそのまま歩いて受付のカウンターに到着した頃。ギルド本部のとある会議室では.......】
そこは翔が向かったギルドのカウンターから更に奥の方、ギルドの建物の中のほぼ中央付近に位置するところにある部屋だった。
そこは、巨大な円形の会議机が置かれた、重厚な作りの部屋があった。
その部屋の扉には、冒険者ギルド本部理事会と銘打たれた看板が掲げられていた。
円形の会議机には、十二の座席が置かれており、冒険者ギルドで最高の地位の理事達が座っていた。
円形机の中央には、司会係の美しいキャリアウーマン風の女性が立って魔法アイテムの拡声器で話していた。
「議題の一番目です。蝕の現況をお知らせします。今回発生したのは蝕としては規模が小さすぎるため、蝕とはみなされませんでした。幼生化した魔精結晶は魔界貴族程度にしかなれないとの判断で討伐は見送られました。度重なる討伐で会員の皆さんはとても疲弊しているのです」
そこで司会役の女性は言葉を切って、理事席に座る皆の反応を伺った。
彼女は、冒険者ギルドの理事長の秘書で今年24歳になるリナ・カルミィコフという。
いわゆる理事達のお気に入りのマスコット的存在だった。彼女は表情が豊かで周りを明るい気分にさせる才能を持っていた。
冒険者ギルド本部の理事達は最強の理事長を始め、あまりにも癖があり過ぎて手綱を握れる者がいないのだ。
リナは、そんなお偉い爺さん達に人気が有った。そこで運営の少し偉いおじさん達は、リナを司会進行としてこの場に立たせるようになったのだ。
「次の蝕の兆候の魔精結晶が幼生化する時期ですが、運命女神の一人、トゥラン様の従者である天使ラサス様から、『破の月』との御神託を頂いております」
「破月だと。来月じゃないか」
発言したのは、ライザー・アルニノンと言う。十二人の理事の一人。ドワーフの長老だった。長い白ヒゲが印象的な人物だ。短気なドワーフの中では穏健派と言われている。
「蝕の兆候が頻繁するのう。しかし、そう度々蝕の兆候が起こっても対処しきれんぞ。いっそ、魔界の奴らに狩らしたらどうだ」
「老人。馬鹿な事を言うもんじゃない」
ここで、一人の理事、ジークムンド・ノルドハイムが遮った。
「魔界の戦争狂共に一度でもミッドガルドの地を踏ませようものなら、二度と魔界になど戻ろうとせず、そのままラグナロクの戦争に突入するに違いありません」
ジークムンドは、九回目の蝕の魔王を退治した英雄フィガロ・コレステローテンの一番弟子だった。ちなみに彼の師匠フィガロ・コレステローテンは昇天して、今では天使キサエルとして神界の住人になっていた。
「小僧。分かったような口を聞くな」
ドワーフの長老ライザー・アルニノンが噛みついた。
「わしらは、この二百年もの間に二度も蝕に見舞われ災厄を経験した。そもそも、魔界の奴らの安寧のために、なぜ我らの地下世界ニダベリールの英雄達の命を注ぎ込まにゃならんのか理解できん。奴らにも手伝わせれば良いのじゃ」
「正論だな。アルフヘルムの同胞も、老人の主張と気持ちは同様だ」
そう主張したのは火の妖精種ユッシ族の長で理事のベルンハルト・シェーペリだ。彼は炎の妖精らしく赤いオーラを発してる。彼のオーラで薄暗い部屋が明るく照らされていた。
「ドワーフの隣人アイザー殿も、アルフヘルムの妖精ベルンハルト殿も発言感謝する。わしらもお二人の申すように愚痴りたいことは山ほどあるのう」
そう発言したのは、最強と言う異名をもつ理事長オロフ・グルブランソンだった。
「ジークムンドの坊主は、真面目過ぎだ。お二人とも許してやってくれ。皆さんの要望に則って魔界の奴らにもそれなりに代償を要求していこう。さらに良い戦士がいるなら差し出させれば良い。しかし誰が誰に要求するかじゃが」
ドワーフの長老ライザー・アルニノンは、ギロリと理事長オロフ・グルブランソンを睨みつけた。話の内容から理事長の腹には良からぬ意図が隠されているのは明らかだ。
「オロフ理事長、もう良いぞ。ワシはそんな役回りはごめんだ。ただの愚痴だ。構わんからサッサと会議を進行してくれ」
ドワーフの長老ライザーはそう言ってオロフ理事長の機先を制した。
他の理事達から失笑が漏れた。
「ありがとうございます。それでは、会議を進めさせて頂きます」
理事長秘書リナ・カルミィコフがドワーフの長老に笑顔で会釈して会議を進める。
「破月に起こると予言された『蝕の兆候』には、ランクS“火神の“杖”とランクS“剛腕”の二つのパーティーに対処させる予定です。天宮に、英雄半神の応援を頼みましたから大丈夫だと思われます」
「天宮から誰が来てくれるんだ」
理事の一人、ゾングアルス・リルドベリが聞いた。
彼はつば広の三角帽子を被る見るからに魔術師の風貌の老人だ。彼は前回の蝕の魔王パバゾを退治したパーティーのメンバーの一人で、大賢者にして大魔術師の英雄だ。
「今回は、半神英雄コスナー・レストン様と伺っております」
「コスナーが降臨してくるのか? 会えるなら手筈してくれ」
ゾングアルス大賢者は、過去の同じパーティーの仲間の名前を聞いて喜んで頼んだ。
「もちろんです。そのように手筈する予定です。宜しければ大賢者様も幼生退治にご一緒されますか?」
「いや。わしは前の蝕で、大した働きもせんのに英雄と祭りあげられとるだけじゃ。前の蝕は魔王と言うには恥ずかしいような弱い幼生だった。半神に昇神したコスナーの邪魔になっては恥ずかしいからの」
ゾングアルスが答えた。そして、意味ありげに皆を見回した後、付け加えた。
「不発の蝕の次の蝕は、規模が巨大になると言う。今度の蝕がそうならない事を祈るだけじゃ」
「そんときゃ、わしらは総動員されるんじゃろう?」
ドワーフの長老ライザー・ラルニノンが、大賢者ゾングアルスに突っ込みをいれた。
「そうなるのだろうが、まずは、そうなる前に、理事長以下、魔王と戦ったことの無い若者チームを作り対処してもらう。それが蝕の時のしきたりみたいなもんだ」
ゾングアルス大賢者が少し笑いを含んだ声で言った。若者が頑張れと言いながら長老格の理事長が蝕の英雄に入っていないことを揶揄しているのだ。しかし不思議と悪意は感じられない。からかっているのだ。
「ゾングアルス大賢者殿。勘弁してくだされ」
最強と言うあだ名の男、冒険者ギルドの理事長オロフ・グルブランソンが声を上げた。
「確かにワシはゾングアルス殿よりは一回り若いかもしれんが、いい歳をしてジークムンド達と一緒に討伐なんぞ無理がありますぞ」
「しかし、ミッドガルド最強の冒険者が一度も魔王と戦った事がないなど宝の持ち腐れじゃぞ」
ゾングアルスが追い打ちをかけた。ゾングアルスは、レベル不詳の大賢者。謎の多い冒険者だ。レベルも含めてかなりの部分が謎に包まれている。
「本当に大賢者殿。勘弁してください。ワシのレベルなどはたかが知れておるのに」
理事長オロフ・グルブランソンはレベル280というとてつもなレベルだと公式に開示されていた。冒険者の中では世界最強という事で有名なのだ。
「ワシが最強な訳が無い。そもそも最近の若造共は、魔術魔術と猫もジャクシも馬鹿のように魔術ばかりに気をとられるから半端なレベルで行き詰まるんだ」
最後の方は老人の愚痴になっている。
「師匠、その辺で。会議を進めましょう」
そう言ったのは、先程から小僧小僧と馬鹿にされている理事の一人ジークムンド・ノルドハイムと同年輩の理事、アタナージウス・クラーレだった。彼は理事長の一番弟子で、ジークムンドと同じパーティーのメンバーだった。現在ミッドガルドで最強のパーティー“大鷲”のメンバーだ。
「ああ。年寄りの繰り言だな。すまん。リナ勧めてくれ」
最強ことオロフ・グルブランソン理事長が素直に謝った。この柔軟さが彼が理事長となった最大の理由だ。
リナがニッコリと理事達を見回しながら微笑んだ。柔和な笑顔だ。こんなところが彼女の人気の秘密だろう。最後に場を取りなしてくれた理事アタナージウス・クラーレに軽くお辞儀をして礼をする事を忘れなかった。
美しい笑みを向けられたアタナージウス・クラーレは、蕩けた笑顔を返していた。一見、ただの助平爺のようだ。
「それでは、議題の二つ目に入らせてもらいす。議題の二つ目は、初中級冒険者の育成状況の報告です。
現在、ルーキーの中ではランクDの“Fとお供”が一番先行しております。同パーティーは、超初心者向ルートをほぼクリアしたようです。ほぼ確実に次回のアタックで超初心者向ルートを踏破するでしょう。そのまま、初心者向山脈越えに取り掛かるようです。彼らの平均年齢は二十三歳とルートマスターとしては、最も若いパーティーとなる予定です。
このパーティーはエステランド公爵の子息クリストファー・フェステン伯のパーティーです。ランクDは、公爵への配慮もあって付けたものでしたが、さすがに良い資質と豊富な資金でランクにふさわしいまでに著しく成長を遂げました」
「なんだか物たりんのだがなぁ。やはり今流行りの『命を大事に.......レベル上げ』が生温く感じるのかのう」
オロフ・グルブランソン理事長が呟くように言った。
「そうじゃな。ワシらの時代は、『復活障害』を覚悟で『ガンガンいこうぜ』って感じで、ルートのアタックをしていたもんじゃ。あれはレベルが下がるから辛いかったがのう」
理事長の話に追随したのは、ゾングアルス大賢者だった。
「死ぬのは、怖いもんじゃ。死の記憶は残らんが、一度でも死んだ者は恐怖感だけが残る。ワシも二度と復活宮殿には行きたくないのう。しかし、それが有るから真剣さが増す。そうすれば成長も早まるって事なんだがな」
「皆、分かっていても何度も死を経験する勇気は、なかやか持てませんよ」
ポツリと言ったのは、理事マルグレット・カルムだ。彼女もユグドラシル最強のパーティー“大鷲のメンバーの一人だ。偉大な魔術師にして魔術騎士であり、さらにその上に総大司教のトリプルだった。レベルは女性冒険者の最高峰89だ。
リナ・カルミィコフ理事長秘書は、マルグレットの発言の他に理事達から発言がないか少しの間を取って待ったが、発言がないようなので話を受け継いだ。
「次に、中級ですが、ランクC“大熊”は中級者向迷宮の十二層で断念しました。彼らは、中級者向迷宮から撤退して初心者向山脈でレベル上げを行い再度出直すとの事です。次にランクE“剣束”は、初心者山脈六合目をアタックしております。以上が中級者の各ランクのトップ状況です。次に上級のパーティーの近況報告ですが、大きな変化はありません。“早風”をランクAに昇格させます。彼らもそろそろ隠退ですし、この昇格は餞けです。“赤い竜”は、ランクSからAに脱落しました。残念ですが有力メンバーの一人が心傷で隠退したためです。以上の通りで上級パーティーの経過は決して芳しいとは言えません」
司会リナ・カルミィコフ理事長秘書が説明すると会議室は重苦しい空気に包まれた。
「年々、冒険者の質が落ちていると感じるのはワシだけかの」
呟いたのはオロフ・グルブランソン理事長だった。
「それは、数字でもハッキリ出ています。最近のランクE級以上のパーティー数は、二十五年前に比べて、十三コンマ三二ポイントも落ちています。これは由々しい事で、直ぐにでも手を打たないと、蝕の兆候である魔精結晶が幼生化した時に、討伐もままならず、強い悪魔の誕生を抑制出来ません。これでは、魔界の勢力をどんどん押し上げ兼ねません」
リナ・カルミィコフ理事長秘書が、説明すると会議室に、ため息がこだました。
「元凶は、死なないレベル上げじゃ」
オロフ・グルブランソン理事長が再度呟いた。
「生温い修行が皆の質を下げているのは間違いないでしょう」
別の理事が言った。その理事は、普段は発言しない戦女神の代理人アデル・メイシーという名の半神英雄だった。
「常々、我らの主人達は、もう少し厳しい修行をお望みです」
「はっ!」
皆がサッと頭を下げた。彼女がほとんど発言しないのは、彼女が発言すると神威の発揚になり、皆がその言葉を受け入れるしかないからだ。
「アデル様からお言葉を賜りました。一堂、お言葉を謹んで拝聴いたしました」
リナ・カルミィコフ理事長秘書は、そう言って頭を下げると、皆もサッと頭を下げた。ここ、ユグドラシルの世界では、これは、最敬礼に当たる。
「リナ。メイシー様の御神託を冒険者達に、回覧するよう取り計らえ」
オロフ・グルブランソン理事長が秘書に命じた。
リナは、敬礼して命令を筆記した。
これで、この議題は終わりだ。神々の代理人が発言すれば、全てがその発言に縛られるのだ。
しかし、御神託の威勢も一般庶民には、効果が随分薄くなってしまう。戦女神からの度重なる修行を厳しくしろ、との御神託は守られていないのが現状だった。
ここにいる皆は、その事を十分認識していた。しかし、この問題が発生すれば、必ず、神々の代理人は、同じような発言を繰り返すだろう。
「次に第三の議題です。冒険者ギルド各支部の活動状況報告です。……」
リナ・カルミィコフが各支部の活動状況を読み上げ始めた。
「……。復活都市支部ではルーキー虐めが後を絶ちません……」
その後、これまでも、何度も出された、問題が議論された。
結論の出ない第三の議題が終わった時には、理事達の顔には、疲れの色が濃く出ていた。
「次に第四の議題です。第四の議題は、最近特に問題になっているテロ組織、闇クランについてです。復活都市に闇クランの一つである“壊滅党”の一味が潜伏し諜報活動をしていたとの報告が入っています。支部に夜間侵入し重要書類を持ち出したとの事です。復活都市支部の支部長レオン・ハルフォード辺境伯によりますと一味の一人、ゾリ伯爵の娘であり闇クラン“壊滅党”の幹部と目されるアンジェリーナ・ゾリは復活都市で情報を収集した後、『始まりの街』に向かったとの事です。同一味と目されるグアリテーロ・デ・ミータなど、隠れ蓑として作っていた“矢羽”というパーティーは十日ほど前から姿をくらましているとの事です。彼らも『始まりの街』に潜入しようとしているものと思われます。街の境界は、厳重に警戒網を敷いていますが、何しろ高レベルな彼ら悪魔崇拝者達には警備騎士程度では太刀打ちできないでしょう……」
リナ・カルミィコフ理事長秘書の説明が続いた。
☆
その時、ガタガタと会議中にもかかわらず、ドアにノックの音が大きく響いた。緊急の連絡があるのだ。
何事だろうと、皆がざわめいた。
オロフ・グルブランソン理事長がドア付近を護る警備兵にドアを開けるよう合図を送った。
ドアが開き、場違いな感じの受付嬢らしい女の子が飛び込んできた。
その場違いさで、一見するとこの娘が勘違いして飛び込んできたように、誰の目にもそう見えた。
一介の受付嬢が、理事会を緊急停止させるなどありえない。オロフ・グルブランソン理事長は、直ぐに目の前の受付嬢が、理事の誰かに、厳しく弾劾されるのではないかと気が気ではなくなった。
しかし受付の女の子は、明確で、分かりやすく報告した。
「私はエミナ・カーナと言う一般受付です。先程一般受付に『レベルアップ・トライアル・ルート』クエストの承認申請が出され正式に受理されました。このクエストには、即時報告規定がかけられておりました。調べたところ理事会が開かれてる時は間髪を入れず報告するようにと書かれていたため報告します」
「何!」
叫んだのは神々の代理人アデル・メイシー半神英雄だった。
「それは一大事だ。戦女神ブリュンヒルデ様に直ぐにお知らせせねばならん。その者の特徴は?」




