015ー4 やっと『始まりの街』だそうで、、、
2019年9月6日第015話があまりにも長かったので八話に分割しました。
見渡す限りの田園風景の中に『始まりの街』が小さく見えてきた。この田園は、『始まりの街』の人々に食料を供給する穀倉地帯になっているのだろう。
それからかなりの時間歩いたが、遥か彼方に黒いシミのようしか見えない『始まりの街』は一向に大きくならなかった。
痺れを切らせた翔は、畑の中で働いている人に、『始まりの街』まで歩いてどれくらいかかるのか聞いて、驚いてしまった。
「おめえさんら、あそこの街影は、蜃気楼だ。しっかり歩いても、夜まで着けねぇだろうなぁ」
農家の人が親切に教えてくれた。
「それは堪らん。メロ、クーシーを呼び寄せろ。乗って街まで行こう」
翔は、堪らなくなって、メロに命じた。目的地が見えてからの半日の工程は気分的に辛い。
メロは、翔に言われた通り、魔犬クーシーを呼び出した。
突然現れたクーシーに、農夫が驚いて腰を抜かしてその場に座り込んだ。
翔は、農夫に驚かせて済まないと謝罪してから、使役獣だから安心するように言った。
それから、農家の人に礼を言って、驚かせたお詫びに、メロの為に買ってあったお菓子を渡すと、農家の人は酷く恐縮していた。
翔達は、クーシーの背中に乗ると軽快に走り出した。
慣れない魔物の背中は、実際には歩くよりもかなり疲れるものの、人の足で半日の工程もクーシーなら二時間程で着くだろう。
街に近づくと往来に、人が増えてきた。
クーシーに乗った翔達を見た往来の人は、いきなり現れたクーシーに驚いて叫ぶ者もいた。
「よし、メロ。人も増えてきたのでそろそろ歩いて行こうか」
☆☆☆
『始まりの街』は、ミッドガルドで第二の大都市だった。人口は優に百万を越すメガポリスである。
幾つもの巨大な神殿があり、神殿の規模に応じた高さの尖塔が建てられていた。
尖塔は街のどこからでも見ることができた。
また、『始まりの街』は様々な人種が入り乱れる国際都市だった。亜人種、獣人、妖精などユグドラシルの生物が一堂に会したかのようだ。
翔はキョロキョロと都会に出てきた田舎者の兄ちゃんのようになって、周りを見回していた。
翔は、アリスのおかげで、道を歩く人々を見ているだけで、頭が痛くなってくるほど情報が流入して来ていた。多くの情報が溢れていて、溺れそうだ。
街の往来にいる群衆は、ほとんどが冒険者のようだ。レベルは、翔達よりも上位の者がほとんどで、中にはレベル30を超える者達もいる。
しかも、冒険者達の多くはランク持ちのパーティーに所属していた。
ところで、翔は冒険者達を見ていて気になる事があった。それはアリスが情報として付けてくれる吹き出しの記述の中に見た事がないものがあったからだ。
────アリス。表示している吹き出しに、見たことが無いクラン名と言うのが出てきたが、このクランってのは何だ?
《はい。翔様。ユグドラシル世界では、冒険者は、職業、クラン、ランク、パーティで区分するのです》
────どう言う事だ?
《冒険者は、組織を作る事が出来ます。一番大きな組織は、冒険者ギルドです。冒険者ギルドは別格ですが、広い意味では職業ギルドです。職業ギルドも例えば魔術師ギルドは数十万人もの人が所属する、大きな組織です。
冒険者ギルドにしろ、職業ギルドにしろ神々が様々な恩恵を授けてくれますので、教会とも深い繋がりがある公式の組織なのです。
一方、冒険者は任意でクランとパーティーを作る事ができます。クランは言わばパーティーの集合体のような組織です。
ゴブリンの大軍の討伐など大きな人数でしか果たせないクエストを集団で受ける時など、集合体として登録する事ができます。
クランには、このように、臨時で作るクランと、常時開設されている任意団体の常設クランがあります》
────クランにもパーティーのランクが有るのか?
《ランクなどはありません。しかしクランの組織を形容する様々な言葉があります。有名クラン。仲良しクラン。戦闘クラン。レベラークラン。ルート攻略クラン。魔王討伐クランなどの言葉です。冒険者の一部の者はクランに大きな意味を見出しているようで特別な階級を設けているクランの団体もあります。クランを形容する言葉の詳しい意味や用法は、様々な場所で、いろいろな意味を持つようです。私には分かりかねます》
────職業ギルドは神様も関係する公式組織、クランは自由度の高い組織、クランはパーティーの大きな奴みたいな感じかな。
《その定義では計れない形態のクランが存在します。例えば、ユーリ王国は、英雄王ユーリがクラン長だったものがそのまま大きな勢力となり、立国した王国です》
────国まであるのか?
《翔様もいずれ、独自のクランを作られてクラン長となられる事でしょう》
────クランの長? 気が進まんな。話は変わるが、アリス。初心者、中級者、上級者と言う括りで、分けるとすると、冒険者のレベルは、各級で、大体どれぐらいのレベルなんだろうか?
《はい。だいたいレベル15ぐらいまでが初級でしょうか。レベルが20あればそこそこの冒険者と見なされます。同じくレベル28ぐらいまでが中級者です。レベル30を超える者は、皆の目標となる上級者と言えます。と言いますのは、レベル30を超すと冒険者ギルドから年金がもらえるのです。皆はそれを励みに頑張ります。またレベル35を超えると騎士に叙勲される場合がありますし、レベル40を超えれば貴族になる事も有るかと思われます》
────冒険者のレベルが立身出世の道具になるのか?
《純粋に強くなるのが楽しいという冒険者も多いようです。この街にいる冒険者は、復活都市の冒険者とは違い、戦女神が作った支援ルートをクリアする事を第一の目標としている冒険者が多いようです》
────そう言えば、お前が進めてくれた『レベルアップ・トライアル・ルート』とは別のルートがあるとか言っていたな。参考にどんなルートがあるか教えてくれ。
《戦女神達は古くから多くの支援ルートを作って来ました。しかも、時代と共にルートは改良されています。現在良く使われているルートは、全部で五つに分かれています。各ルートと戦女神が設定したレベル帯をお示ししましょう》
アリスはそう言うと翔の頭の中にルート名と設定レベルを表示してくれた。
《○スタバンゲル街道
超初心者ルート
対象レベル1〜15
始まりの街からスタバンゲル地方までの全百二十キロのルートでスタバンゲル街道の魔物を退治することでレベルアップを図ります。因みに、どのルートにも戦女神の恩恵で復活魔法がかけられています。
○ベルゲン山脈越え
初心者ルート
対象レベル16〜20
始まりの街からベルゲン山脈を越えてスタバンゲルまでの百三十八キロのルートです。超初心者ルートよりも魔物のレベルが上がります。
○ストルバーゲン迷宮
中級者ルート
対象レベル21〜25
ベルゲンの西にある迷宮ストルバーゲンです。全部で四十二層のダンジョンです。四十二層までの往復と迷宮にある魔精結晶を摂取する事を目的とするルートです。魔精結晶は、翔様の魔核に良く似たもので、迷宮の精力みたいなものが固まったものです。これが大きくなると蝕になると言われています
○巨人の都メルダル
熟練者ルート
対象レベル26〜30
ストルバーゲン迷宮からカナン高原を抜け北の荒海と巨人の国ガルガンチュア帝国の首都メルダルをモデルに作られたリトル・メルダルまでの約百八十キロ。
○アスケー大迷宮
達人ルート
対象レベル31〜35
ユーリ英雄王国の北西にあるアスケー大迷宮。八十四層の深層までの往復と魔精結晶を摂取することが目的のルートです》
《しかし、戦女神の設定は現実の冒険者には少しばかり厳しいみたいです。戦女神は苛烈な戦の神なので死をも恐れずレベルアップを図ることを信条としているのです。しかし冒険者も復活するとは言え死ぬのは精神的な負担が大きいので死は避けようとするようです。戦女神の設定通りにレベルアップを図らず、大抵の冒険者はある程度のレベルになるまで超初心者向ルートの数十キロのあたりまでと『始りの街』とを往復してレベルアップを図っているようです》
(成る程。それでこの街にはそこそこのレベルの冒険者が多いんだな)
《冒険者の最初の目的がスタバンゲル街道の制覇です。ルートをクリアした者をルートマスターと呼びます。初心者達の最初の目標です》
────俺達もそっちを目指した方が良いんじゃないか?
《何を仰っているのです、翔様達は、復活魔法も無いのに街道をずっと旅してこられたじゃ無いですか。今更、スタバンゲル街道を往復しても大きなレベルアップは期待できません》
────はぁ? じゃ復活都市の人間はなぜこっちに来てルートに入らないんだ?
《普通の冒険者はルートで死ぬと復活都市で復活して直ぐにこちらに戻ります。復活都市にずっといるような連中は、街道を翔様達のように旅するのが怖いのです》
────成る程。復活都市にいた奴らは、超初心者ルートですら制覇できなかった腰抜け共なのか。
道理で、いろんなクエストをクリアーした時、彼らの風当たりが強かったはずだ。
翔達は、『始まりの街』に入ると、アリスの案内で、とっとと冒険者ギルドに向かっていたが、あまりの人の多さにアメリアが参ってしまったようだ。
「翔。私は人に酔ってしまったみたいだ。こんなに大勢の人に会ったのは初めてなのでな」
翔もたくさんの情報が入ってくるので疲れていた。人の世界での経験が少ないアメリアなら尚更だろう。
「よし。少し休んで行こう」
とは言え。どこで休めば良いのやら。翔は困って周りを見る。
翔達がいるのは、街の東端の比較的賑やかな所だった。繁華街と言ってもいいだろう。しかし、異世界の街であるこの『始まりの街』のどこに行けば、休めるかなんて分かるはずもない。
分からないことは人に尋ねるのが一番。周りに聞きやすそうな人を探す。ぐるぐる見回しているとちょうど気の良さそうな女の子を見つけた。
『イレーネ・ハウザー。16歳。騎士。レベル18。クラン名“F旅団”。ランクD。パーティ名“Fとお供”』
見るからに人の良さそうな女の子だった。育ちが良く、明るい雰囲気の娘だった。
着ている胸プレートがカッコ良かった。高価な剣を下げているのが良家の子女らしい上品さを見せていた。しかも急いでいる感じでないのがいい。可愛い顔だが気取ってもいない。この子なら大丈夫だろうと翔は声をかけてみることにする。
「こんにちは」
翔は、躊躇うことなく、話しかけた。
その女の子、イレーネ・ハウザーは怪訝な顔をして、翔の方に視線を向けた。可愛い顔だ。
「すまんな。この女性が気分が悪いと言うのだ。どこかに休めるところはないかな」
アメリアを示して言った。
イレーネ・ハウザーは、とっさにアメリアの青白い顔を見て納得した。彼女は、さっとアメリアに駆け寄り、肩を貸そうとさえした。
アメリアは、さすがに遠慮した。
「有難う。慣れない旅の疲れと大勢の人に酔っただけだ。大丈夫」
「直ぐそこに、料亭があるけどそこで良い?」
イレーネ・ハウザーが尋ねた。
「ああ。すまんな。案内してもらえるか?」




