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011 ドワーフの爺さんは英雄だった件

ブックマーク。高評価。いいね。よろしくお願いします。

 翔は冒険者ギルドを出るとアメリアの横に立った。見るとアメリアは顔は真っ青だ。


「お前は、王族だと言っていたがどんな生活だったんだ?」


 翔が尋ねた。


「そうだな。お前達には、もう少し身の上話をしても良いだろう。まだ会って二日目だがそんな気になってきた。メロも聞いてくれ」 


 アメリアが自嘲気味に言った。


「うん」


 メロが翔とアメリアを挟むように並んで歩き出した。


「私は、エルフピラタの至高者オプティマス宮殿で育った。至高者オプティマス宮殿は、エルフピラタでは、一番高い世界樹ユグドラシルに直結している大枝の上に建てたられていた」


「エルフピラタは良いところ?」


 メロが尋ねた。


 その質問を聞いた瞬間、暗かったアメリアの表情が明るくなった。


「エルフピラタからはミッドガルドが一望できた。世界は言葉にはできないほど綺麗だぞ」


 アメリアはエルフピラタから見える景色を思い出しているのだ。


「いつも、世界の景色を見ては冒険を憧れていた」


 アメリアがポツリと呟いた。


「お前は。お姫様だったんだろう」


 翔が尋ねた。


 折角一瞬でも和んだアメリアの顔がまた暗くなる。台無しな質問をしたのは一目瞭然だ。メロが目を怒らせて翔を睨みつけた。


 鈍感な翔は「はん?」と睨み返した。


 アメリアは二人の様子に苦笑した。


「すまん。感傷に浸るのは止めにするぞ。私の母は、先の至高者オプティマスの王の娘。私の父は一般人の至高者オプティマスだ。

 それゆえ私は王族ではない。父が誰かは知らん。母は小さい頃に亡くなり、祖父に育てられた。私は可愛がられていたつもりだったが、このザマだ。そうではなかった、と言う事だな。正直言うと、私はいまだに祖父ではなく別の誰かに裏切られたと思いたいのだがな。しかしそんな甘い現実は無いのかもしれん」


 アメリアらしく淡白に説明した。


「お前は偉い奴だな。なかなか自分の生い立ちをそれほど淡々と話せるもんじゃない」


 翔はそう言うとアメリアの頭をグリグリ撫で回した。


「翔は女の子の頭が好きなのか?」


 アメリアは乱れた髪の毛をゆっくりと直しながら不思議そうに尋ねた。


「お前達、女の子は可愛いからついつい撫で回したくなる。しかし頭以外はいろいろはばかれる」


 翔は真面目に答えた。


「翔。気持ち悪い」


 メロは頬をプクリと膨らませて睨みつけてくる。


「何だ? お前も撫でて欲しいのか?」


 翔が手を伸ばしてメロの頭を撫でようとする。


「ダメ! バカ翔。エッチ猿」


 メロは杖で翔の手をブロックしながら叫んだ。


「誰が猿だ」


 翔は怒った顔をして叫んだ。


「お前達を見てると、本当に和むな」


 アメリアは笑いながら言った。


「アメリア。笑顔が素敵だよ。悲しい顔は似合わない」


 メロはアメリアの笑顔を見て嬉しそうに言った。


「ありがとう。メロはいつも健気けなげに明るいな」


 アメリアも嬉しそうに笑いながら言った。


「こいつは、ただ能天気なだけだ。何も考えていない」


「しかし、翔。それでこそ我らのマスコットではないか?」


 アメリアがメロの頭を翔のように撫でながら言った。


「まぁ。マスコットと言う意味なら、可愛い奴だ」


 翔も相槌を打った。


「人を動物みたいに言うな!!」


 珍しくメロが突っ込んだ。メロの頰は最大級に大きく膨らんでいる。


 メロのこの珍しい反応はアメリアの見るところ、翔に褒められたたなめの、照れ隠しと思われた。




☆☆☆




「翔。これからどうするのだ?」


 アメリアが改めて聞いた。


「うむ。それだよな」


 翔が急に真面目な顔になった。


「俺たち三人は、どうやら本当の意味で今日が冒険者のスタートの日と言っても良いだろう。

 そこで今後のためにも俺達の戦力を皆で把握しておいたほうが良いだろう」


「戦力? 格好イイ!!!」


 メロが子供のように叫んだ。


 はしゃぐメロを放っておいて翔は続けた。


「俺は創造師クリエーターになって物を創造する能力がついたようだ。こんな感じだ」


 翔がそう言うと手のひらに小さな石を創造して見せた。


「ほう。便利な魔法だな。無から有を創るわけだな。それじゃあ、きんも作れるのか?」

 アメリアが尋ねた。


(なるほど)


 翔はそれを考えていなかった。


(そんな事を思いつかないとは。錬金術の基本じゃないか)


 翔は自分の迂闊さがおかしい。


「やってみよう」


 翔は金を創造しようと念じてみた。


 しかし、手のひらに金の塊が一瞬出現し、禁則事項と言う文字が手のひらの中で出て輝いている。嫌な感じでMPだけ消費した。


 翔はその不思議な現象に驚いてアメリアと目を見合わせた。アメリアも驚いている。


 翔は試しに手のひらにプラチナを創造してみた。


 手のひらには銀色の金属の球ができた。


「おお。銀はできたのだな」


 アメリアが聞く。


「うむ? こいつは銀じゃないんだ。しかし試しに銀を作ってみようか」


 翔はアメリアの言うように銀を作って見ようとしたが結果は金と同じだった。


「おかしな能力だな。多分高価な物は神々によって創造するのを禁則されているのだろう。ケチな奴らだ」


 翔にかかると神々ですらケチな奴らとなってしまう。


「そんな不遜ふそんな発言は生まれて初めて聞いたぞ」


 アメリアが笑いながら言った。


「太古に神々と争った我々ですらそんな罰当たりな事は言わん」


「まぁそうだな。俺は不遜ふそんに見えるかもな」


(ユグドラシルの神々なんぞレリエルの暴走を止めもしない無慈悲な奴らじゃないか)


 翔はそう思うが口では黙っている。


「まぁ。神々も神の恩恵もいろいろだ。神イコール善って訳でもない。私も全てうやまえと言うつもりは無いが、自分の職業の神々を罵倒するのは賢明とは言えんぞ。少なくとも職業による神々の恩恵を受けているのだからな」


 アメリアが先生みたいに説教をした。


「ああ。すまん。気をつけよう」


 アメリアの言うことはもっともなので翔は素直に謝っておく。


「しかし創造師クリエーターは芸術家でもあるはず。これじゃどうだ」


 翔は今度は、綺麗な金細工を創造してみた。金でできた女神像だ。大きさは小指の先程の物だ。


 すると禁則もかからずに像が掌の上にみるみる出来上がったのだった。


「翔。凄い」


 メロが賞賛の声を上げる。


「無粋な金や銀などは創造させぬという事なのだな。さすが芸術家肌の神々の恩恵だ。ケチとは違うのか」


 今度は念じて手の平の上の創造した物を全て消去してみた。創造の真逆だ。


「なるほど。作ったものを消すとMPが少しだけ戻るようだ」


 翔はアメリアとメロに説明してやる。


 翔は小さな石ころを出したり戻したりしてみた。いろいろ試してみて創造の法則を理解しようとした。


「創造物を消した時のMPの戻る量は時間とともに少なくなるようだ」


「何とも不思議な能力だな」


 アメリアは翔の魔法に見入りながらつくづくと言った感じで呟いていた。


 翔はアメリアの感嘆の言葉には答えず次は、剣を出してみた。


 大した剣ではなかったかごっそりとMPが減った。


 翔は出した剣を二、三度降ってみた。


「なんとこの剣は振るだけでMPを消費するようだ。剣如きを出して使うのはもったないな」


 翔は試行錯誤の状況を説明した。


創造師クリエーターの能力は相当特殊みたいだ。見た所、魔術で物を創造するよりもいろいろ制約があるようだな」


 アメリアは単刀直入に感想を言った。


 その通りなので言い返すこともできない。


「使い方をよく考えてみないとな」


 翔が答えた。


「俺にはもともと付与魔法の能力があるんだ。こいつも使い方がよく分からんけどな」


 そう言うと翔はしゃがんで道端にある小石を拾った。


 翔は石に向かって大声で念を込めるように話し始めた。


「お前は命じられたら重くなったり軽くなったりしろ」


 言い終わると強く握りしめた。


「こんな感じか。重くなれ。うむうむ。軽くなれ。よし魔法がかかっているな。アメリアもやってみてくれ」


 翔はアメリアに小石を渡した。


「ずるい。メロも」


「お前は待っていろ」


 小石を渡されたアメリアは、重さを測りながら石に向かって命じた。


「重くなれ。おお」


 翔の真似をして言ってみると確かに重くなった。


「軽くなれ」


 そう言ってからその小石をメロに渡した。


 早速小石を受け取ったメロが一瞬ニヤリとするのをみてアメリアは嫌な予感がよぎったが後の祭りだった。


「思いっきり重たく重たく重たく重たく重たく重たく重たく重たく重たく……きゃー」


 メロが悲鳴を上げて前につんのめった。小石が手から弾け飛ぶように落下したのだ。


 小石は派手な破壊音をあげて地面にめり込んだ。


「本当に騒がしい奴だ」


 翔が呆れながらしゃがんで小石に指を置く。


「お前は普通の小石に戻れ」


「翔。こっちの能力の方がいろいろ使えそうだな。早速私の剣や胸当てなどに付与魔法をかけてくれ」


 アメリアはその様子を見て驚きながら言った。


「そうだな。まだこの能力の欠陥が分かっていないのでもう少し待ってくれ」


 翔は言った。


「次はアメリア。お前は以前とどれほど変わったんだ?」


「私は、今、本当の意味で至高者オプティマスになったのだと実感しているところだ。そもそも体が軽くなった。この羽根は飾りなのかと思っていたが、それは全く違うようだ。もう少しレベルが上がれば従姉妹どのと同じように空を飛べるようになるだろう。

 また俊敏性がかなり向上したぞ。私達の剣術の師範がなぜ細剣レイピアを使うのか理由がはっきりした。武器は軽い方がとても扱いやすい。翔の先程の軽くなる付与魔法を是非とも私の防具にかけて欲しい」


「俺の魔法の能力が分かればかけまくってやる」


 翔は笑いながら言った。


「アメリア。お前の能力の向上はステータス全般に及んでいるのではないか?」


「そうなんだ。まだよく分からないが、全ての能力で十パーセント以上の上昇がみられるぞ。それと白魔法が沢山使えるようになった。回復系と補助系が多いな」


「おお。そいつは助かるな」


 翔は珍しく歓声を上げた。


「俺達のパーティーで一番欲しかった能力だよ。復活魔法は使えるか」


「まだ使えんが、至高者オプティマスの王族は皆使えた。いずれ使える様になるだろう」


 アメリアは答えた。


「よし。次はメロ。お前だ。自分の能力を分かる限り言ってみろ」


 翔がメロに命じた。


「少し強くなった。以上」


 メロが偉そうに説明した。ふんぞり返っている。


「お前は馬鹿か? それじゃ説明していなのと同じだろうが。試しにパックでも召喚してして見せろ」


「はーい」


 メロはそう言うとおどけてサッと敬礼してみせた。


「パックおいで」


 メロはそう叫びながら精霊魔法を使った。


 ドバ!!!!


 物凄い音がした。


 見るとメロの周りにパックが何十体も勢ぞろいしている。


 全てのパックがメロと同じように敬礼している。


 大勢のパックが現れて一番驚いているのはメロのようだ。


「メロ。どれぐらいMPを注ぎ込んだ?」


 翔はその様子を見ると尋ねた。


「30ぐらい」


 軽くメロが答えた。


(馬鹿め)


 翔は呆れて天を仰ぐ。


「メロ。MPは最小限で精霊が出てくるのを誘う感じで出すんだ。それで出てこなかったら少しMPを増やすんだ。一遍に30も出すからこんな事になるんだ。お前のMPはこいつらの好物だ、MPがこいつらに行き渡るまでこいつら解放してもらえんぞ」


「ええ? ずっと離れてくれないの?」


 メロは半べそになった。


「しかしメロ。凄い能力の向上じゃないか。昨日も同じぐらいのMPを使って召喚したんだろう。しかし昨日はパックは一匹しか現れなかったもんな」


「翔。助けて。この子達怖い」


 メロが悲鳴をあげた。助けての言葉に弱い翔も自業自得の場合は別だ。


「メロ。サッサとこいつらとゴブリン退治にでも行ってこい。こいつらは仕事をさせんと離れてくれないぞ」


 そう笑って言ったのだった。


「ええ? 嫌だ。パックの群れ気持ち悪い」


 メロは首をブルブル振た。


「こいつらが気持ち悪い事にやっと気づいたか。アメリア。悪いがこれを」


 翔がそう言いながらアメリアに渡したのは地図だ。


 魔術で地図を即席で作成したのだ。


 一瞬でアリスと交信し、ゴブリンの巣や翔が倒してきた雑魚魔物の生息地などの場所を記してある。


「すまんが、俺は付与やら創造やらの魔術はうまく使えん。これらの魔法をうまく使えるように師匠を探して教えを請うてくる。アメリアはメロに付き合ってやってくれ。ついでに自分の魔法の練習もしといてくれ」


「創造魔法は、意外に凄いもんだな。こんなもんをパッと出されると凄さがわかるな」


 アメリアは地図を見ながら感嘆の声を上げた。


「いや。それは魔術で作ったもんだ」


 翔が答えた。


「翔。ユグドラシルではこんなもんをパッと出せるような魔術師などそうはいないぞ。こんな事ができるのに、なぜ創造師クリエーターなどになる必要がある?」


 アメリアは不思議そうに聞いた。


「いやいやいや。創造師クリエーターになったから創造魔術が使えるようになったんだよ。まぁ、元の世界では簡単につかっていたがな」


 翔は何でもないようにアメリアに言い返した。


「お前らしくないな。翔。お前ならいずれ創造魔術ぐらいできるようになったのだろう。つまり、創造師クリエーターの最大のメリットが無意味だと言う事にならないか? 創造師クリエーターの能力よりも魔術による創造の方が制約がない分使い勝手が数段上じゃないか」


 アメリアは問題を指摘した。


創造師クリエーターの能力はまだまだ未知数だ。凄い能力だから、心配するな」


 翔は簡単に答えた。


「アリスとか言う女の子がう言ったのか?」


 アメリアが心配そうに聞いた。


「翔。きもい」


 アメリアの言葉を聞いたメロが急に顔をしかめながら指摘した。


「メロ。お前は、その気持ち悪い妖精供の面倒だけキッチリ見て余計な事を言うな。どっちにしろ、創造師クリエーターはそこそこスペックが高いから今の俺には他の選択肢は無かったのだ。なにより魔術師系になるのはレリエルとの関係からリスクが高すぎるしな。

 そういえば、アメリアにも精霊が見えるんだな」


 翔は改めて聞いた。


「人族には見えないようだな。この大騒ぎなのに皆知らん顔をして通り過ぎて行くな」


 アメリアもおかしそうだ。


「じゃ。アメリア。その騒々しい奴らの面倒を頼む」


「いつもの宿屋で待ち合わせで良いのか?」


「ああ。これを渡しておこう」


 翔はアメリアに報奨金の一部を渡した。


「無駄遣いするなよ」


「ああ。お金を持つのは私で良いのか?」


 アメリアは驚いて尋ねた。


「メロにお金を持たせたら次の日には下らんまがい物の魔道書に変わっている。あいつにはお小遣いをやっているから気にするな。お前も無一文はかなわんだろう。今回の報奨金は山分だ。メロの分と俺の分もお前に預けておく」


「ああ。すまんな」


 アメリアは本当に申し訳無さそうに言った。


「俺は、場合によっては何日か帰れんかも知れん。何かあったらいつもの宿に言づけを送る。じゃあメロを頼むぞ」



☆☆☆



 翔は二人と別れると、馴染みの道具屋に向かった。なぜなら魔法の道具や武具を作る工房なら付与魔術師の情報を持っているはずだ。そしてその道具を扱う道具屋なら工房と取引をしているだろうとの予測からだ。


 翔は、アリスに復活都市の地図を頭に投影してもらいつつ、近道の為に路地裏に入った。路地裏は運悪く人影が無かった。翔は路地裏に入り前後に人影が無くなった。


「「「バム!!!」」」


 何かが爆発するような音が響いた。


《翔様。緊急です。レリエル様が下天されるようです。レリエル様の事は全く知らないフリをお願いします。記憶が残っていると知られると命の危険があります。それから魔術は絶対使わないでください》


 頭の中でアリスの鋭い警告が鳴り響く。


 次の瞬間。あの天使が翔の前に浮かんでいた。


「何だ?」


 翔は、もしも急にレリエルが現れたらどんな風なリアクションをするか常に想定していた。


 レリエルとの再会を頭の中で何百回もトレースして実地に練習もしていた。わざとらしく映らないようにするために、日々本当に驚く人の姿を注視して見ながらそれを真似てメロやアメリアの忠告を受けて演技指導してもらったりした。


 その成果を活かすのは今だ。もし少しでも間違えると本当にもう一度殺されて転生をし直す事になるだろう。


「「「な。何だ?」」」


 翔は大いに驚いたフリをして叫んだ。


「こんにちは。あんた。本当に普通の男の子になっちゃったのね」


 天使レリエルがニヤリと笑いながら言った。天使レリエルはとても美しかった。四枚の純白の天使の羽が大きく広げられている。


「「「て、天使?」」」


 翔は驚いたふりを続けてその場に尻餅をついて見せた。顔は驚愕で目を大きく開いている。


 しかし翔の今の態度は演技ばかりとは言えなかった。自分が取るに足りない弱小に成ったため、天使の恐ろしいチカラの波動で全身が震えて本当に立っていられないのだ。天使の発する威圧感が心底恐ろしいのだ。


 レリエルはその翔の姿を声を上げて嘲笑を交えていった。


「あんたのその惨めな姿を眺めるのは中々、良い見ものね。あなた名前は?」


 レリエルが聞いた。


「シ、ショー・マンダリンです。天使様。お告げでございましょうか? 死の宣告なのでございましょうか?」


 翔の声は演技をするまでもなく恐怖で震えていた。


「ダメよ。あなたが死んじゃったら、前のスペックに戻っちゃうじゃない」


「天使様。そのお言葉はどの様な意味でございましょうか?」


「ふふふふ。今の言葉は気にしなくても良いのよ。私はレリエル。貴方は復活前の事は覚えているの?」


「ほとんど覚えていません。思い出そうとすると頭に白いモヤがかかったような変な気分になり吐き気がします」


「なるほど。吐き気ね。貴方。レベル4ね。ふふふ。本当に惨憺たるものね。貴方は私に失礼な言葉を吐いた。それが因果でこんな復活をしたのよ。思い知りなさい」


 レリエルが冷たい声音で言った。


「そ、それは申し訳ありませんでした」


 翔は土下座して顔を伏せた。レリエルの執拗なまでの執念深さがおぞましく感じられて、顔をしかめてしまうのを隠すためだ。


 レリエルは嘲笑を浮かべた。


「許すわけないわ」


 その時、レリエルの美しい顔が歪んだ。それははっきりとした憎悪の顔だった。そしてレリエルから恐ろしい電撃が放たれた。


 翔の全身に激痛が走った。


「「「ぎゃー!!!」」」


 翔は大声で叫んだ。


「あははははは」


 レリエルが哄笑した。


 悪魔の様な嘲笑を浮かべながら翔の苦痛で悶える姿を愉快そうに見ている。


(この女。許さん)


 翔がそう思ったとき。


《翔様。ご辛抱を。今、私の本体の転生車輪が、このような電撃は場合によっては記憶を蘇らせる効果があるから放つなとレリエル様に忠告していますので間もなく電撃は止むでしょう》


 アリスのその言葉の通り電撃は間もなく止んだ。


《翔様。気絶したフリをなされませ》


 アリスが忠告した。


「殺したら元も子もないので今日のところはこれくらいにしといてあげるわ。また可愛がりにくるわね」


 そう言うとレリエルは消えた。


(行ったか?)


《はい。転生車輪の本体から、転生の間に戻ったとの連絡を受けました》


「ふー」


 翔は大きなため息を吐いた。


「殺されるかと思ったぞ」


《翔様。良くご辛抱されました。しかしレリエル様の執念深さは尋常ではありませんね》


(レリエルは俺が一人になるのを狙っていたのだな。気づかなかったが、メロがレリエル除けになっていたとは。もう離せないな)


 ひどい目にあったものだ。翔は改めてレリエルの怖さを思い知った。


 今ではあまりにもレベルが違いすぎてまともに顔さえ見ることができない程恐ろしく感じる。


(アリス。レリエルのレベルはどれほどなのだ?)


《私如き道具では天使のレベルなどはわかりませんが、推定でレベル80から90ぐらいでしょうか。転生車輪を持ったレリエル様は更にお強いでしょう》


(先は長そうだな。やれやれだ。あのバカ天使に、今後何度いじめられるか考えるのも腹が立つな)


 翔も次第にレリエルの事が許せなくなってきた。


《あの天使は本当にバカです。やり過ぎと言うことが分からないのでしょう。もしや翔様の寛大なお人柄のおかげで、棄て置いてくれるかも知れないのに。降りかかる火の粉は払わねばならないでしょう》


(お前、俺より怒ってないか?)


 翔が笑い出した。


 とんだ、招かざる客のせいで、大変な目に遭ってしまった。次にレリエルと会う時には、あれぐらいの電撃など平気でありたいものだ。しかし、レリエルが度々出てくるようでは身がもたない。


 もし翔のレベルが少し上がったらあの性格からしたら、翔に何をしてくるか分からない。


 翔は回復薬を飲んで一息ついた。


(あの天使もよほど暇なのか。どうしてここまで俺に拘る?)


《いい男に振られたのがよほど腹立たしかったのでしょう。翔様の事が気になって仕方が無いみたいです。今後も要注意です。

 本来、天使が人族に関わるためには神の命令が必要なのです。彼女には自由にミッドガルドに降臨することはできないはずです。そう度々現れることは無いと思います》


(面倒な奴だ。さっさとレベルを上げて、綺麗さっぱりとらんとどうしようも無いか)


 翔は物騒な事を本気で考えていた。



☆☆☆




 翔はいつもの道具屋にやって来ていた。


親父おやじ。教えて欲しい事があるんだが」


「おう。お前には奴隷娘の事で世話になったからな。何でも聞いてくれ」


 道具屋の親父おやじは愛想よく言った。


「俺はこう見えても付与魔法が使えるんだが、我流ではたかが知れているので良い師匠につきたい。親父おやじに聞けば付与魔法のマスターに合わせてくれるかと思ってな」


「おお。付与魔法の師匠に? それなら、ドワーフの付与魔法工房があるからそこに行きな。紹介状を書いてやる」


親父おやじ。すまんな」


「なーに。兄ちゃんには俺の叔父貴もぞっこんだよ。肝の据わった兄ちゃんだと。いずれ名を表す冒険者になるだろうってね」



☆☆☆



 翔は、道具屋の紹介してくれた付与魔法工房に赴いていた。


 そこは『ニダベル工房』と言う名前の工房でドワーフを中心に優れた付与魔法の製品を作っている工房だという。道具屋の親父おやじによるとそれなりに名前の知れ渡っている工房らしい。


 工房の入り口に立つと、金床を叩く金属音が耳を突いてきた。


 いかにも鍛冶屋という感じの外観だ。もちろん中から熱気がもうもうと湧き出ている。


「誰かいないか?」


 金床を叩く音が鳴り響くのだから誰かいるにきまっている。

 

「何だ?」


 ずんぐりした影が出てきた。


『アイム・シューデン。二十九歳。鍛冶見習』


(おお。ドワーフだ)


 翔は初めて見たドワーフに興味深々だ。


「ここはニダベルだな。道具屋の親父おやじに教わってきた。付与魔法の使える職人さんと話させてくれんか?」


 翔は頼んだ。


「付与魔法の先生に? 何の用だ?」


 ドワーフが難しい顔をして尋ねた。


「忙しいところ、迷惑をかける。俺は、冒険者のショー・マンダリンだ。俺にはどうやら付与魔法の能力がある事が分かったのだが使い方が分からない。そこで少しでも付与魔法の使える人に教えを受けたいと思ってやって来たんだ」


 翔が説明した。


「お前さんが付与魔法を?」


 ドワーフが怪訝な表情になる。


「土の恩恵も無さそうな平凡な兄さんなのにな。まぁ、付与魔法師エンチャーターと言うなら、われらニダベリールの住人は無下にはできん」


 そのドワーフはニコニコしながら言った。


「いやいや。俺は創造師クリエーターだ。付与魔法も使えるってだけだ」


 翔は一応訂正しておいた。


「芸術家さんかい。まぁ、それでも土の恩恵を受ける者は我らドワーフの仲間さ」


 そのドワーフは嬉しそうに言った。


(アリス。ドワーフの基礎知識を教えてくれ)


《はい。翔様。ドワーフは、ユグドラシルの根の世界、ニダベリールの住人です。彼等は地中に巨大な洞穴を掘り、住んでいます。ニダベリールにはドワーフの他、ノーム、ドヴェルグなどの種族が住んでいます。ドワーフは見ての通り短躯のずん胴でヒゲを生やし小さいが力強い種族です。妖精のノームに近い種族だと言われており、亜人間と妖精の中間的な種族とも言われています。見た感じが知能が低く見えるため軽く扱う者がいますが彼等は知能が高く器用な種族です。侮ってはいけません》


(誰が理由もなく侮る)


 翔の回答こそが彼の人となりである。理由もなく侮ることも理由もなく敬うこともしない。とは言え基本的に上目線な人間であるがそれは自分を天才だと信じているからだ。


 翔は、ドワーフに連れられて玄関の中に入った。


「兄ちゃんは、付与魔法の使い方が知りたいんだな」


 ドワーフが尋ねた。


「ここに付与魔法師がいるなら話したい」


「あいにく今日は、金鍛きんたん日で、付与魔法師はいねぇな」


 あドワーフが悪そうに言った。


「きんたん?」


 聞き慣れない言葉を翔は聞き返した。


「ああ。金属を槌で打って不純物を追い出す作業の事だ。鍛治の作業の中でも最も重要で一番きつい作業だ。

 しかし道具や武具ってやつらは鍛治士の部分だけではできあがらん。飾り職人の部分、付与魔法師の部分などいろんな工程を経なきゃならん。

 そう言う訳で今日は金属の鍛錬の日でその職人しかいないのさ。付与魔法師の先生が来られるのは月二回ぐらいの周期だな。今度の出勤は来月の七日だ」


 ドワーフはすまなそうに言った。


「そうかい。後十日もあるな。良かったら。誰か付与魔法師エンチャーターの住所なり会えるところなりを教えてくれないか?」


「ああ。付与魔法師エンチャーターの先生達の連絡先はワシは知らんなぁ」


 ドワーフは困った顔をする。


 その時になって翔は道具屋に紹介状を書いてもらった事を思い出した。


「ああ。これを」


 その紹介状をドワーフに渡した。ドワーフは紹介状の中身にさっと目を通すと納得したように頷いて見せた。


「おお。ちょっと待ってな」


 ドワーフは、ニッコリ笑うと中に入って言った。


 どうやら道具屋の紹介状が効力を発揮したようだ。何だかゲームのイベント発生アイテムみたいだと翔は思った。


 翔は待たされている間、入り口の様子を見回した。工房の様子は入り口からは見えないが、金属を鍛錬する音がやかましいほどでさっきのドワーフが言うように金鍛きんたんと言う作業をしているのだろう。熱せられた金属を大きな金槌で打っている姿が想像される。


 玄関は土間だった。その広さは十畳ぐらいだろうか。直ぐ前に板でできた床が見えた。床の高さが五十センチ程もあり上がりやすいように、三和土たたきと言うのだろうか足場があった。


 先程のドワーフは、さっさと上がって奥に見えなくなった。ドワーフの身長が百二十センチぐらいで翔の胸ぐらいの大きさなので、三和土たたきも床もそれなりの高さの段差があるので移動に支障が無いのかと思ったがドワーフは軽快な足取りですんなり上って行った。


 ドワーフと言う種族は見た目よりも俊敏な生き物なのだろう。


 玄関には、装飾のようなものもなく質素な作りだった。


 直ぐに先程のドワーフが戻ってきた。


「兄さん。入りなされ」


 ドワーフがいざなってくれた。


 翔は案内された通り、土間に入って行くと履物を脱いで三和土たたきから板間に上がって行った。


 板間は思いの外頑丈で翔が乗っても軋りもしなかった。


 彼はドワーフについて玄関から奥に通ずる廊下に入って行った。


 彼はドワーフに付いて行き周りの様子を眺め回した。廊下は小さなドワーフの住居とは思えない意外な天井の高さだった。


「以外に天井が高いんだな」


 翔は思った事を口に出した。


「ああ。ここに来るのは我々だけじゃない。それにニダベリールの大洞窟はもっと巨大で小さな住居では我らは息が詰まりそうになるんだ」


 ドワーフはそう説明したが、小さなドワーフの癖にと翔は可笑しかった。


 コの字型の廊下を進むとドアがあり、そのドアの中に通された。


 その部屋は二十畳ぐらいの部屋だった。そこには翔に丁度良い大きさの応接セットがあった。


「兄さん。そちらに座って待ってな。工房の親方おやかたが会ってくれるそうだ」


 親方は直ぐにやってきた。ドワーフの顔などは皆同じに見えて見分けはつかないが、そのドワーフはさっきのドワーフよりよ威厳みたいなものが感じられた。


『リュディガー・ザイフリート。89歳。親方。レベル40』


(凄いレベルだ)


 相手の鑑定結果を見て翔は驚いた。


《戦闘職でも無いのにこのレベルは異常です》


 アリスが教えてくれた。


「お前さんが、ショーさんか。冒険者のルーキーさんなんだって?」


 ドワーフの親方が道具屋の紹介状を読んだのだろう、そう聞いてきた。


「ショー・マンダリンだ。忙しいところすまんな。紹介状にも有ったかもしれんが、俺は復活して間も無いのだが、復活前の記憶が飛んでいてな、レベルは下がるし自分の能力もまともに使えんという状況なんだ。地道に慣れて行くしか無いんだがヒントでもと思ってね」


 翔が説明した。


「何と。そんなに酷い復活障害は初めて聞くな。気の毒な事だな。ショーさんは付与魔法が使えて創造師クリエーターとか珍しい職業なんだそうだね」


「どちらも珍しすぎてうまく能力を制御出来ません」


「だろうな。ニダベリールでも創造師クリエーターなんて職業は初耳だからね。付与魔法にしても珍しい能力だ。あまり能力者がいないので、MPポーションで回復してもらいながらの付与魔法は見ていて気の毒になるからな」


 親方がそう説明した。


「MPポーションで回復? ポーション自体も相当高価だろうに」


 翔は驚いて言った。


「そうだ。付与魔法のかかった道具類や武具が目が飛び出るくらいに高いのは付与魔法師の数が少ない事が一番の要因だよ。それで付与魔法師には無理させるから、皆そこそこで引退するんだな。余計に人数が減る。イタチごっこだね」


 親方は困ったように両手を上げて見せながら言った。


「そんなに忙しい人に話なんか聞けるかな」


 翔は少し不安になって尋ねた。


「そこなんだよ。今、付与魔法師は西隣りの町からさらに西にある町のほうへ出張中さ。彼らは本当に忙しいんだよ。同じところにじっとなんかしてられなくってね。会いたくても会えない。しかし、引退した付与魔法師なら知り合いがこの町にいるにはいるんだが……」


 そこで、親方は口を濁す。


 翔は人の良さそうな親方が口を濁すような者にろくな奴はいないと考えて諦めた。


「親方。そいつぁ。済まなかったね。タイミングが悪かったようだ」


 翔は諦めて言った。


「お兄さんは、気が早いね。確かに、その付与魔法師は、頑固ジジイだが、悪い爺さんじゃないし、何よりも付与魔法の能力は伝説的なほど凄い爺さんだ。話を聞いて損は無いぞ」


 ドワーフの親方は笑いながらそう勧めた。


 翔は、とにかく会って損は無いだろうとの勧めを素直に聞いた。なかなか偏屈そうな爺さんが想像される。


「親方。どこに行けばその爺さんに会えるんだい?」


「ああ。待ってな。俺の親父おやじだから直ぐ連れてきてやる」



☆☆☆



 ドワーフは、一人の小さくなったミイラみたいな爺さんを連れてきた。


「親方。この爺さんかい?」


 翔が尋ねる。


「誰がジジイだ」


 驚いたことに、そのミイラみたいな体から良くそんな声が出せるもんだと呆れるほどの音量でそのミイラ爺さんが言った。


《翔様》アリスが珍しく割って入って来た。《この老人はイングベルト・ザイフリート。第八土曜の蝕にて、魔王ゲズナーを退治した伝説的な英雄の可能性があります》


『イングベルト・ザイフリート。二百九十八歳。付与魔法師。レベル99以上』


 確かに、レベルが振り切れている。しかしそれよりも翔が驚いたのは目の前のドワーフの歳だった。


(二百九十八歳って。レベルも振り切れてるし。しかしこの爺さんは、さっきのレリエルのような威圧感がゼロの干からびた爺さんにしか見えんぞ)


《そこが、この方の偉いところ。この方が本気になって威圧すれば、ここにいる者達は皆、気を失うぐらいでは済みません》


(そうかい。威圧って言うのか。技か?)


《翔様の世界ではそのような現象はありませんか? ユグドラシルでは高いレベルの者は自然と威圧感を身に付けるものです》


 アリスと話している微妙な雰囲気を察知したのかギロリとイングベルト・ザイフリートが翔に鋭い視線を向けた。


「少年。お前は少々変な感じの奴じゃな」


 イングベルト・ザイフリートが怪訝な顔で言った。


 老人の声が雷鳴のように聞こえるのは老人が喋ると恐ろしい気迫が少し漏れている為の様であった。


 工房の親方は、流石にレベル40もあるからか平然としているがそれだけで翔は威圧に当てられて気分が悪くなる。


「イングベルトさん。悪いが、ちょっと防御壁を張らせてもらうよ。あんたの威圧にやられそうだ」


 翔はそう言うと魔法障壁を構築した。


「ほう。見たことのない魔法を使う奴じゃ。それほどの魔法を使えてレベル4とはほんに怪しい奴じゃな」


 そう言いながら爺さんの体から威圧感が溢れ出し始めた。


「と、父さん。勘弁してくれ」


 すぐに工房の親方が辟易した様に言う。


「ワシは、敵わんから席を外すぞ。これはウチの親父おやじだ。頑固ジジイだがあんたは大丈夫そうだ。後は頼むな」


 そう言うと、工房の親方は、爺さんの威圧感から逃げるようにサッサと出て行った。


 翔は、爺さんが威圧感を高めるに従って魔法障壁を加重して行くがそろそろ限界だ。MPの減り方もバカにならない。


「イングベルトさん。勘弁してくれ」


 翔は、両手をバンザイして許しを請うた。


「たぶん信じられんと思うが、俺のレベルは天使に下げられちまったのさ。レベル4はその影響さ。俺は異世界から転生させられてきた」


 翔がそこまで言うと威圧感がスーと緩められた。恐ろしい爺さんだ。


理由わけを話してみろ」


 イングベルト・ザイフリートが尋ねた。


 翔は堪らず一部始終を説明した。


権天使アルヒャイのレリエルか。夜の天使。転生天使だったか」


 イングベルトは意外ほどに博識だった。さすがに三百年近くも生きて来た怪物爺さんだけはある。


「随分と大物に睨まれたものじゃな。少年」


「あんなバカ天使が大物とは思えん、神器が少しばかり厄介だがな」


「面白い少年じゃ。天使が神器を持てばそれこそ無敵だろうが。そんなのを相手にどうすると言うのだ?」


 イングベルト・ザイフリートは聞いた。


「俺にはあいつが無敵とはどうしても思えんが、今の俺では全く敵わないのも事実だな。どちらにせよ復讐などバカバカしいと思っている。俺は転生してきたこの世界を楽しみたいだけだ。鬱陶しい天使は追い払えるなら有難いが」


 翔は本心を言った。


「レリエルの事はともかく。ワシにどうしろと言うのかの」


 イングベルト・ザイフリートが訪ねた。


付与魔法エンチャーター創造魔法クリエートも俺の世界では存在しない魔法なんで、使い方の初歩を教えてもらおうと思って来たんだ」


 翔はここに来た本来の目的を説明した。


「初歩程度でいいならすぐに教えてやろう」


 イングベルト・ザイフリートは気安く応じた。


付与魔法エンチャーターには、二つの制約がある。一つは素材だ。素材には相性みたいなものがあって付与できたりできなかったりする。付与できる素材は大抵高価だ。もう一つの制約は付与魔法の属性ステータスだ。ステータスが低いと強い魔法は付与できない」


「素材と付与魔法の相性はどうやって知ればいい?」


 翔が尋ねた。


「やってみれば分かる」


 イングベルト・ザイフリートは笑って答えた。


「付与魔法が失敗したらどうなる?」


「その素材は洗いに出さないと再び付与ができなくなるの」


「洗い?」


「そうだ。洗い師という職業がある」


「そうすると、付与魔法には同じ素材に付与魔法を二度かけられないという制約があるんだな」


「そう言えばそれも制約かもな。あまり当たり前なので制約とは思っていなかった。それに素材によってはいくつか付与魔法を多重にかけることも可能な物も存在するしな。しかしそんな素材はとても高価じゃ。

 付与魔法のかけ方についても知りたいか?」


「ああ。お願いする」


「付与魔法は最初、条件を設定する。条件は何でも良い。条件無しという条件でもよい。条件が満たされた時に生じる効果なり現象ななどをイメージして範囲をつくるような感じで魔法を貼り付ける。その範囲以外はその現象が他を邪魔しないように魔法を付与するような感じで魔法をかけるのがコツじゃ」


 イングベルト・ザイフリートはさらりと説明した。


《翔様。貴重な情報を得ることができました》


 アリスが言った。


(そうだな)


 翔が答える。


一方創造師クリエーターは、物理法則をオーバーライドさせる感じで魔法をかけるとワシは古い書物で読んだことがあるの。物理法則は世界で統一されておるもんじゃが、創造師は無理やりオーバーライトで好きなように物理法則を変える事ができると言う事だが………。

 物を創る能力ではないというのがミソだな。ワシもそれ以上は説明できんな。創造師クリエーターは洗い師なしに物理法則のオーバーライトが可能かんじゃないか」


《翔様。付与魔法、創造師クリエーターのこの話を聞けただけでも凄くラッキーでした。これらの情報は世界樹ネットでも無いものです。付与魔法の神髄なのではないでしょうか》


 珍しくアリスが何度も割って入ってくる。相当興奮しているようだ。それだけイングベルト・ザイフリートの話が斬新なのだろう。


「俺は、たぶん何にでも付与がかけられるし、それを何回でも付与できるんじゃないかと感じるんだが?」


 翔が感じたままを言ってみる。それから翔は試しに使った創造魔法の結果なども説明してみた。


「お前さんの創造師の能力からすると、創造師は物理法則をオーバーライトできるが常にMPを消費する。付与師は物理法則をオーバーライトできないがMPを消費しない。二つの能力があればその長所を同時に補える可能性があるな」


 イングベルト・ザイフリートは、そう言うと笑った。


「本来あらゆる魔法は一つの奇跡の能力だ。工夫や鍛錬次第でどのようなことも可能なのかもしれん。ワシの初歩の講義も適当に聞いておいて自分でよく工夫するのじゃな」



☆☆☆



 伝説の付与師イングベルト・ザイフリートとの邂逅はこんな具合であった。イングベルト・ザイフリートは何か疑問が生じたらまたいつでも来いと言って笑っていた。


 伝説的な偉人であるはずなのにとても気さくな人物だった。


 翔は『リダベル工房』を後にして、一人になった時、レリエルが出てこないか心配して周囲を見回したりしたがアリスが言っていたようにそう度々レリエルは出て来れないようだった。


 安心した翔は、イングベルト・ザイフリートの教えを反芻してみていろいろな戦い方考えてみた。


 正直、付与魔法も創造魔法もどんな魔法かまだ良く分からない。しかしイングベルト・ザイフリートの付与魔法の使い方はとても参考になった。


 翔には、付与魔法と創造魔法の使い方に一つアイデアがあった。そのアイデアは、戦士ダグに冒険者ギルドで酷い目にあった時に生まれたものだ。


 高度なレベルの者と同じような破壊力とスピード、さらには熟練度などのすべての能力を付与魔法と創造魔法をうまく応用してそれらのスキルを擬似的に創れるのではないかというのが翔の発想だった。


 例えば、ボクサーと同じ精度でヒットするグラブを創造魔法と付与魔法で作ることが可能ならそのグラブを付けるだけでそこそこのボクサーになれる。


 そこまで都合の良い道具は創れないだろうが頭を絞れば良い道具を作る事ができるだろう。


 工夫次第で、翔だけでなくメロやアメリアも相当戦力アップが期待できる。


 翔は創造魔法と付与魔法を使って何か出来ないか試してみることにした。


 最初にアメリアのための剣を創ってみることにする。


 先ず硬さだがチタン合金が良いだろう。魔術で創ってみる。


 チタン合金は硬くて軽い。これだけでもこのユグドラシルでは貴重な武器だろう。


 次に攻撃力をアップさせてみよう。試しに付与魔法をかけてみる。イングベルト・ザイフリートに教わった通りに付与魔法をかけた。


 最初に条件。剣を鞘から抜いたらと条件にした。攻撃力をプラス百してみるが失敗だ。

 創造魔法で攻撃力がアップしやすくなる法則をオーバーライトする。もう一度付与魔法で攻撃力をプラス百してみる。また失敗だ。まだ翔のレベルが低過ぎるからだろう。創造魔法で攻撃力をさらにアップしやすいようにオーバーライト。MPが10も消費される。付与魔法で今度は攻撃力プラス五十してみる。ギリギリ成功だ。これでまででMPは20も消費してしまった。


 次にボクサーのグラブの発想で剣を自由に操れるようにする。創造魔法で操りやすいようにオーバーライト。付与魔法で軽くする。さらに創造魔法で操りやすいようにオーバーライト。今度は、剣を操作すると加速するように付与魔法をかけた。


 この後、剣を折れないようにする付与魔法。剣を相手から見えにくいようにする付与魔法もかけた。


 最後にあまりにも剣のデザインが見すぼらしいので綺麗に装飾する。金と宝石なども配した。なかなか素晴らしい出来だ。


 MPが12しか残っていない。少しやり過ぎた感がある。魔術師失格だ。


 剣は持った感じが木のような軽さだ。レイピアではなく両刃の直刀にした。これは翔の好みだ。軽く操りやすくなるなら強度を考えるとレイピアは不利だからでもある。


 翔は創った剣を振ってみて満足した。剣の経験のない翔が降ってみても、剣の達人のような恐ろしい風切り音を鳴らしてビュンビュン振れる。目にも止まらない早さだ。


 軽いのでクルクル回せる。振ってみて、剣先を常に進行方向に矯正しタイミング的に狙ったところで力がマックスになる付与魔法を思い付いたのでその付与魔法もかけておいた。今日の付与魔法はおしまいだ。


 しかし、最後の付与魔法が素晴らしかった。翔が適当に剣を振ってみただけで、剣は正に恐ろしい斬撃となり、一振り一振りで地面に亀裂を生じさせるほどの攻撃力を見せるようになった。


 翔は満足して、宿に行く道を歩き始めた。

 次はアメリアの防具の改良。メロの防御服の作成。それから自分の武具を作ろうと翔は考えていた。翔の頭には様々なアイディアが浮かんでは消えていった。


011 了

オーバーライトの積もりがオーバーライドになっていたので変更しました。


『上書き』のつもりです。

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