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「・・・ち」
あれ、誰か呼んでる・・・?
あれ?それ私の名前だっけ・・・。
「にも・・・ち!」
語呂が悪い、違和感。納得できないのに無理矢理させられるような、ああ、そっかこう呼ばれてたんだっけ・・・?
「起きろこのど阿呆面!!」
「ふがっ!?あひふんえふは!!」
罵りの後すぐに鼻を摘まれ呼吸を妨害された!
目の前にはランプに照らされ煌々と光る金色の瞳があって一瞬ドキッとした。いやいや!!ドキッとかしてませんから!あれ、したか!美少年だから!全国の美少年美青年美中年その他美と名がつくものにはときめくものですよ!!それこそ人間の摂理!
ちょっ乱暴に離さないで痛い!!
「あれ、私・・・あ・・・」
やっと我に返ってあたりを見回すと何人かの騎士の人たちとアルベイン様とクロードさんが話合っている。
そしてこっちに気がついたのかまっすぐやってきた。
「“荷物持ち”、すまなかった」
「・・・ええ!?何でいきなり謝るんですか!?謝るのはこっちです!!私倉庫番なのに・・・全然、守れ・・・なくて」
どんどん尻すぼみな声になっていく。
喋るうちに思い出してきた。そうだ侵入者が来て、それで・・・。
「いや、警備の数を増やしてはいたものの当のこの倉庫事態に防犯を施していなかったこと自体が失態だ。非戦闘要員が常駐しているなら余計に気を配るべきだった」
「そんな・・・」
こんなことで、アルベイン様が謝ることはない。
だって、私がもっと注意していれば、もっと強ければ、騎士団の人たちみたいに護身術でも使えればこんなことにはならなかったかもしれないのに。
「“荷物持ち”」
アルベイン様の後ろに控えていたクロードさんが話しかけた。
「はい」
「やつらが何を狙っていたか、わかりますか」
「確か・・・ありったけの精霊石と魔剣をと」
「ふむ・・・先日の搬入を見られていた確率がありますね・・・これは騎士団と一度話を・・・」
ぶつぶつと何事かつぶやきながらクロードさんはそのまま背を向けて行ってしまった。
「今日のところは扉の所に団員を常駐させる。扉の修理は明日レットと話し合ってくれ」
「わかりました。ありがとうございました」
さて、アルベイン様が戻って門番らしき騎士と先輩が最後になったあたりで、やっと直立不動から動けるようになったわけ・・・れれ。
ん、んー?何か、足が動かない。
根っこが生えたように動かないとはこのことだ。侵入者と対面したあたりから力を込めていた足はすっかり筋肉が硬直しきり、前へ進みたいのに進めない!!古典的なギャグみたいな状態になってる。
「お前、何してんだ」
様子がおかしい私に気がついて半身だけこちらを振り向いた先輩が言う。
「あ、足が動かなっあわ!?」
やっと動いた!と思ったら次はバランスを崩して地面へとダイブしてしまった。
とっさに手はついたけど打ち付けたほっぺたとか膝とかが痛い。
「全く、本当に何してんだこのば・・・か」
本当何してんだろ。何してんだろっ
足が震える、手が震える、歯まで震えだした。
何かしゃべりたいのに溢れてくるのは情けないばかりの嗚咽だけ。
倉庫番のくせに守れなくて、それだけでも情けないのに地面に突っ伏して、今更怖かったとかっ本当何してんの私っ
「・・・“荷物持ち”」
「ごめんなさい、ごめんなさいっわたっし守れなくてっ」
先輩の履き古されたブーツとズボンが見える。声が少しだけ近い。
「俺は男を泣き止ますなんてごめんだから、お前で勝手に立てよ」
「う・・・んっ」
「立つまでは、見ててやるから」
ちょっと酷い言葉、だけど声音は優しい。
それに、慰めてくれなくたって、ここにいてくれるんだ・・・優しいね先輩。
いつも虐げられてるし、蹴られるし、叩かれるけど、優しいんだね。
ごめんなさい。ちゃんと、立つから、ちゃんと立ち直るから、少しだけ待っててください。




