5:雨の日はみんなで
さあさあと、静かな音を立てて雨が降る。
この世界で雨が降ることは滅多にないが、時折思い出したように雨は降った。
それなのでいつもは遊びに行く時間でも、子供達は麻耶がいる巨木の下で五人揃って空を見上げていた。
曇天から降り注ぐ雫を見て、楽しげに、嬉しげに、葉に当たる雨音をリズムにして、時折甘いハミングを零して。
麻耶の膝の上に乗った彼らは、今日も元気でご機嫌だ。
物珍しい雨に興味を引かれて、きらきらとどこから落ちてくるか知れない雫をじっと見詰めていた。
「ねぇ、ラージュ。雨ってどこから来るんだろうね?」
こてりと小首を傾げたヒナの、桃色の髪がさらりと揺れる。
膝を抱えて体育座りしている彼の隣に座っていたラージュが、大きな瞳をぱちりと瞬きさせた。
緩く癖の付いた髪は、今日は湿気で少しだけぺしゃりとなっている。
まろい頬に指先を当てて考え込んだ彼は、ぱっと瞳を輝かせた。
「きっとお空の上から誰かがじょうろでお水を流してるんじゃないかなぁ?僕たちみたいに、綺麗なお花が咲きますようにって」
「あ、そうかもな!俺もそんな気がする!野原に咲くあいつらも、俺たちと同じできっと喉が渇くもんな」
ラージュの言葉にすぐに賛成を示したのは、彼とヒナの後ろに立っていたマーボーだ。
二人の首を両腕で包むと、間に顔を突っ込んでにひっと声を出して笑う。
悪戯っぽい笑顔に思わず釣られて微笑を浮かべれば、それまで黙っていたアールが意地悪く笑って彼らの背後に立った。
いつもどおりにトレードマークのマントを靡かせ、腰に手を当てて仁王立ちしている。
神様候補の彼らは頭の花がなければみんな同じくらいの身長だが、花も入れれば一番身長が高いのはアールになる。
彼だけ三つある蕾と花を揺らしながらも胸を張り、自信満々に言葉を発した。
「違うな」
「え?」
「どうして違うと思うの?僕は、お花が好きな人がいるんだと思うよ?」
「俺もラージュの意見に賛成!マヤと同じで、花が好きな奴がいるんだぞ、きっと」
「そうだよ、マヤと同じで、お花が好きな人がいるんだよ」
三人揃っての否定にも、アールは全く怯まない。
彼の性格は天井天下唯我独尊で、ついでにミラクルマイペースだ。
どう答えるのだろうかと展開を見守っていると、指先を振って自信満々に口角を持ち上げた。
「違う!あれは雲がおしっこしてるんだぜ!だから雲から雨が降るんだ」
「えー?じゃあ、雨って雲のおしっこなの?」
「・・・それって、僕たちはおしっこを浴びてるってこと?」
「野原に咲いてる花もか?」
無駄に自信ありげなアールの発言に、三人は一様に眉根を寄せた。
その気持ちは麻耶にもよく理解できる。
雨が雲のおしっこであるなら、雨に当たりたいなんて思えない。
空から降り注ぐ恵みの雫を気に入っている麻耶としては、アールの言葉で浮かんだ嫌な想像に、ひっそりと眉間に皺を寄せた。
するとそんな麻耶の反応を見たピースが、傍観者の立場を脱してアールに近寄り、すぱんとその頭を叩く。
「何をお下品なことを言っているのですか!雨が雲のおしっこなわけないでしょう!」
「なんでそんなん言い切れるんだよ!お前はどうして雨が降るか知ってるってのか!?」
殴られた後頭部を抑えて、若干涙目になりながら牙をむくアールに、ピースは余裕たっぷりな表情を浮かべて腕を組んだ。
怜悧な美貌を引き立てる微笑を浮かべ、こちらも自信満々に胸を張った。
「雨は雲の涙です。太陽を独占できて、嬉しくて泣いてるんですよ。ね、マヤ」
ふふん、と鼻を鳴らしてませた発言をした子供は、淡く頬を染め上げて麻耶の掌に抱きついた。
咄嗟に握り潰さないようにそっと包んで、くすりと笑う。
五人の中で一番精神年齢が高いピースは、発想も詩人のようで、それなのにどこか可愛い。
麻耶からすれば五人の発想はそれぞれ考えたこともないようなものばかりで、とても面白い。
日本人として生きてきた知識から、雨が降る構造くらいは知っているけれど、彼らの話のほうがとても好ましかった。
「あ、ピース!勝手にマヤに触るな!」
「五月蝿いですね、私がマヤにいつ触れようと、私の自由です」
「じゃあ、僕も抱っこ」
「僕も~」
「俺も、俺も抱っこ!」
「お前ら俺様を差し置いてマヤに近付くな!マヤ、俺様を一番に抱っこ!」
さっきまで雨の話をしていたはずなのに、今は夢中でマヤに抱かかえてもらおうと集まってくる彼らの小さな足が、腿の上を刺激してくすぐったい。
しかし落とさないように笑いを堪えて両腕を広げれば、我先にと胸元に体当たりしてきた。
「僕、雨がどこから来るか判らなくても雨の日は好きだな。だって、マヤにずっとぎゅってしてられるもの」
「うん。僕も雨の日大好き」
「外で遊べないのはちょっとつまんないけどな」
「確かにな。でもマヤの腕の中でお昼寝も気持ちいいぞ」
「───悔しいですけど、私もあなたの意見に賛成です。雨の日はマヤとずっと一緒で、私もとても大好きです」
自分たちにいい位置を探すよう体を摺り寄せた神様候補達は、間もなく静かに寝息を立て始めた。
そんな彼らの頭を指に腹を使って一人一人撫でていく。
「私も雨の日は好きだよ。いつもよりずっと、みんなの存在を感じられるから」
雨の音に紛れた呟きは、誰の耳にも届かない。
さあさあと降り続ける雫を見上げて、腕の温もりを強く感じながら、ひっそりと静かに微笑した。




