小噺2
*活動報告での再録です。
「マヤー!マヤ、マヤ!」
「はいはい、どうしたの?」
座っている麻耶のスカートの端をぐいぐいと引っ張る、エレモフィラ・ラケモサそっくりな花を咲かせる少年に視線を送る。
今日も軍服のような服装に、赤いマントが映える彼の名は略してアール。
生え際から黄色、橙、赤と変化する不思議な色の髪は、今日は自由に靡いている。
ヒナたち他の四人に比べれば随分と凛々しい顔立ちの彼は、今日も無駄に高笑いが似合っていた。
「聞いてくれ!俺様とピースのハゲと比べたら、俺様のほうだよな?」
「え?」
相変わらず主語が抜けた内容に、小首を傾げる。
彼は想いが先行しがちで、時々会話が難しい。
そんなアールの後ろから、上品な白薔薇を咲かせた少年がうんざりとした顔で姿を現した。
生えてきた少年達の中でも一際秀でた美貌を持つ『ピース』は、僅かにピンクがかった髪を腰まで伸ばしている。
冷静沈着で理論的な彼と、感情先行型のアールの仲はまさしくライバルと呼んで差し支えないもので、今日の一戦が始まったのかと漸く展開が理解できた。
「適当なことをマヤに言うのは止めてください。私は禿げてませんし、そもそも言葉が足りてない。これではマヤを困らせるだけです。───マヤ、聞いてください。彼は頭の花の分だけ自分の方が背が高いと言うのですが、そこは身長にはカウントしませんよね?」
「いーや、あるね。俺様のほうがお前より上だ」
「いいえ、あなたが私より上のはずがありません。百歩譲って同じです」
判定を頼んだ割には、麻耶を放って喧々囂々と言い合いを始めた二人に苦笑する。
麻耶からしたら、二人とも同じくらい小さい。
何しろ掌に簡単に乗せれるサイズだ。これで身長がどうのと言われても困る。
確かに花を含めれば、五人の中でただ一人三つ花を咲かせるアールが一番高身長だが、花を抜けば全員同じくらいだ。
つまりどんぐりの背比べ。五十歩百歩でしかない。
しかし本人達は必死になって顔を赤くして言い合っている。
まろい頬が赤く染まるのは大層愛らしく、サイズがもう少し大きければ抱きしめたいくらいだ。
「私はアールもピースも同じくらい好きだよ」
「っ、俺様も、マヤが大好きだぜ!」
「わ、私もです。違います、私のほうが大好きです!」
「いーや、俺様!」
「私です!」
とりあえず身長から話を逸らすべく、一番敏感に反応してくれる話題を振れば、案の定二人はきりきりと柳眉を上げて論議し始めた。
状況は全く変わってないが、身長差について答えを出すのは難しかったので仕方ない。
いつもの仲良し喧嘩をにこにこと見守りつつ、残りの三人に身長の定義でも聞いてみようとひっそりと心に決めた。