2:雛菊の『ヒナ』
麻耶は掌の上で腰をふりふりしながら機嫌よく踊っている神様候補に目を瞬かせた。
ちなみに現在他の面々は日光浴という名のお昼寝中だ。
普段なら彼もお昼寝の時間だが、今日に限って眠くないらしい。
頭の上の桃色の雛菊の花弁を揺らし、にっこにっこと満面の笑みを浮かべている。
「今日の僕はー、マヤと二人きりなのー♪幸せ一杯、胸いっぱい♪ついでにおなかもいっぱいぱい♪」
思わず突付きたくなるようなまろやかな頬をした彼は、花と同色のショートカットの髪も揺らした。
ふくふくのほっぺに満開の笑顔。
綺麗に弧を描く眉と、くるくると変わる表情が特徴の彼は、雛菊の『ヒナ』と名前をつけた。
自分でも判るほど命名のセンスがない麻耶だが、一応名前の意味はある。
雛菊のヒナと、日向のヒナ。
小春日和を思わせる素直な性格の彼は、五人の中で一、二を争う甘えん坊だ。
自作自演のダンスが終わりに近づいているのか、先ほどからちらちらと麻耶を上目遣いで見てくる彼に破顔する。
誉めてくれと期待するキラキラした眼差しは純粋に愛らしく、くるっと回ってお辞儀したヒナの頭を指先で撫でた。
「凄いぞ、ヒナ!素敵ダンスが出来たね」
「素敵ダンス?素敵で無敵!お歌は上手?」
「上手、上手。ヒナはお歌もダンスも上手!」
くりくりと指先で撫でれば、嬉しげに顔を綻ばして両手で人差し指にしがみ付いたヒナは、キャーキャーと奇声を上げた。
いつまでも裸で居させるわけにいかないと与えられた力で作った服を着させているのだが、デフォルメされた犬がプリントされているTシャツと、デニム生地のショートパンツはヒナによく似合う。
本当は野球帽みたいなキャップもかぶせたかったのだが、頭の上の雛菊にそれは断念した。
子供の頃夢見た動く人形が実体化したみたいだが、実際に彼らは意思を持ち表情豊かで面白い。
彼らの感情の機微により、頭上の花も咲いたりしぼんだりととても忙しいものだ。
一度悪戯が過ぎる彼らを本気で叱った時は、花弁が全て落ちてしまい本気で慌てた。
今はお昼寝している中で、ヒナとスリートップで喧しい悪戯っ子たちの落ち込みようにこのまま枯れてしまうのではないかと思ったが、今は風に揺れている。
強制的に私をこの地に縛り付けた男の説明では、感情の機微によるものだが、枯れるなど滅多にないので悪いことをしたらきちんと叱っていいと言われているので、きちんと躾をしている。
言葉以上に雄弁に語る花を見るのは、実は密かに最近の楽しみの一つでもあった。
ちなみに現在麻耶の指先にぶら下がり遊んでいるヒナの機嫌はとっても宜しい。
頭の花は満開で、仄かな輝きを見せていた。
感情が昂ぶると光を発する不思議植物に構造がどうなっているか気になるが、調べようがないので触れるだけに留めている。
麻耶の『力』と光と水とで成長する彼らは、神様候補という不思議生物なのだから気にしてもしょうがないのだろう。
「マーヤ、マヤ、マヤ、大好きだー♪」
嬉しくて仕方ない、とばかりの満開の笑顔でヒナは麻耶を見詰めてくる。
瞳には愛しさや嬉しさなどの正の感情が浮かび、いたって幸せそうだった。
そんな彼を指先にぶら下げたまま、麻耶もくすりと微笑む。
始めこそ泣き暮らしていたが、この世界は中々に居心地がいい。
「ヒーナ、ヒナ、ヒナ、大好きだー♪」
稚拙なリズムに合わせて謳えば、目を丸くしたヒナが、くしゃりと表情を崩して笑った。