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9.国府田未紀 自然の道理


 国府田未紀ボクはフィルムカメラで風景を撮影することが好きな女の子。

 デジタルではなくフィルムにこだわる理由はお父さんの影響なんだけど、話すと長くなるのでまたの機会にするよぅ。

 ボクは高校がっこうでも休日でも、日がなシャッターチャンスを狙っていて、去年までは常に撮影していたんだよ?

 でもね、今年、厳密に言うと、五月の終盤から、一切撮影ができなくなっちゃった。

 と言うのも、撮影する暇がないの。

 いつも、誰かに巻き込まれて、自由がないの。

 要するに、最近のボクはちょっとついてないんだよぅ。

 突然カラオケボックスでのバイトの手伝いをさせられたことから始まって、夏休み初日の早朝には、『海の家』まで拉致らちされたり、みんなの前で赤ちゃんみたいに抱き抱えられて開脚させられたり……そんなことの連続だよぅ。

 そうだ、布団で押し潰されたりなんてことも毎日だよぅ。


 そのついてないことを実行してくる犯人が、鈴城姫風かっかで、ボクはどうにか一矢報いようと逆襲したけど、相手を間違えて逆に板へはりつけにされちゃったよぅ。

 バイト中にも関わらず、「海の家」の裏手にて、現在地上から五メートルの高さに居るんだよぅ。

 地味に酷いよぅ。

 高所恐怖症だから目が回りそうだよぅ。

 降りたいよぅ。

 あ! 「海の家」裏口から出てきた鈴城くんを発見!

「助けてよぅ!」

 ……へ?

「鈴城くんてば!」

 ……あれ?

 と、通り過ぎって行っちゃったよぅ!?

「鈴城くんスルー!?」

「イエス」

「バッチリ聞いてるよぅ!? スルー酷いよぅ!」

 鈴城くんがキョロキョロと左右を見回してるよぅ。

「気のせいか」

「上! 上だよぅ!」

 再度鈴城くんがキョロキョロと上下を見回してるよぅ。

「……ボク田星からやって来たボク田さんの声が聞こえたけど、うん、気のせいかな」

「今ボクとバッチリ目が合ったよね!? 気のせいじゃないよね!? ボク田星でもなんでも良いから降ろしてよぅ!」

「仕方ないなぁ。ちょっと姫風を呼んでくるから小一時間くらい待っててね」

「それ事態の悪化だよぅ!?」

 あぁ……鈴城くんが「海の家」の中へ入って行っちゃったよぅ。

 と思ったら、今度は灰田くんが外のポリバケツへゴミ捨てにやって来たよぅ!

「灰田くん助けてよぅ!」

 灰田くんがボクを認めてギョッとしたよぅ。

「国府田……楽しいか?」

「楽しい訳ないよぅっ!!」

「そうか」と頷いた灰田くんが辺りをキョロキョロと見回してから、こう言ったよぅ。

「ここだけの話だが、俺は国府田に言っておきたいことがある」

 前置きした灰田くんが続けるよぅ。

「俺は……女性恐怖症なんだ」

「へ?」

「だから、女が俺を見ると、俺は気持ち悪くなる。顔が良いからと気安く声をかけてくる女が気持ち悪い。傍に居られるだけで気持ち悪くなる。そのせいで女を寄せ付けない俺は、学校でホモ疑惑が出ている」

「灰田くんはホモじゃないの?」

「ああ」

 新事実発覚だよぅ。

「だが、国府田、お前だけは違った」

「ど、どう言うこと?」

 意味がちょっと解らないけど、もしかして、これは、こ、告白をされちゃうパターン!?

「国府田と一緒に居ても気持ち悪くならないし、話していても気持ち悪くならない」

 やっぱりこれは告白されるパターンだよぅ……ど、どうしよう。

 ボク、灰田くんのことを男の子として見たことがないよぅ。

 友達としても、好きでも嫌いでもないから告白されたら困るよぅ。

 それに告白のシチュエーションが、十字架に手足をくくりつけられたボク(地上から五メートルの位置)とポリバケツの蓋に視線を落とすアンニュイな灰田くんの構図はイヤだよぅ。

「国府田とは一緒に居ても苦痛じゃないと気づいた時『これは……』と俺は思ったんだ」

 灰田くんが地上から五メートルの位置に居るボクを見上げる。

「ボクに対して……ど、どう思ったの?」

「お前には――女を感じない」

 …………? ……! !?

「龍太郎! なにサボってんだよ!」

「あ、悪い」

 佐竹くんに呼び出された灰田くんが「海の家」へ戻ってしまったよぅ?

「と、突然自分語りされた挙句告白されるかと思ったら性別否定されて言い逃げされたよぅ!?」


 ――一時間後。


「楽しそうね」

 下から声が……?

 目を向けると、黒い日傘を差した青いビキニ姿の相庭梨華ちゃんが居たよぅ。

「んあ? あ、り、梨華ちゃん助けてよぅ!」

「声をかけられるまで爆睡していた人間の台詞せりふとは思えないわね」

「あ、あははは」

 もう笑って誤魔化すしかないよぅ。

「ビキニライン丸見えよ?」

「嘘!? そ、その恥ずかしい情報は要らないよぅ!!」

「嘘よ」

 …………はっ!?

「そ、そんなことより助けてよぅ!」

「見返りは?」

「え!? えとえと」

 ボクが困惑している間に梨華ちゃんが室内へ戻っていっちゃった。酷いよぅ。

 数分経つと、代わりに紫苑しおんちゃんがゴミを捨てに現れたよぅ。

「……紫苑ちゃん助けてよぅ」

 ボクを見上げた紫苑ちゃんが目を丸くして驚いたよぅ。

「わわっ! 未紀お姉ちゃんがはりつけにされてるっ!? お兄ちゃーん! 未紀お姉ちゃんを助けてあげて!」

 紫苑ちゃんに呼ばれた鈴城くんが、

「なんだって? 国府田さんが磔に? 解った! 今僕が助ける!」

 白々しい感じで裏口へ現れて、あっという間に磔を解き、高所から下ろしてくれたよぅ。

「……紫苑ちゃんとボクの扱いに天と地ほどの差があるような?」

「HAHAHA」

「外人ぽくオーバーリアクションで笑って誤魔化すのは酷いよぅ」

「しぃゲフン紫苑と国府田さんを比べるのも烏滸おこがましい」

「お、おこ?」

「あ、『烏滸がましい』って言うのはね――」

「嬉しそうに教えようとしなくても知ってるよぅ! 『 身の程をわきまえない』とか『生意気だ』とか『バカげている』って意味だよぅ!」

「国府田さんは烏滸おこがましい!」

「酷いよぅ!?」

 このフレーズが余程気に入ったのか、鈴城くんの中で「烏滸がましい」が一時的にブームとなり、ことあるごとに「烏滸がましい」を連発してた。


 それはそれとして――


 今日のことでボクは一つ理解したよぅ。

 イジメは良くないよぅ。

 みんなもやっちゃダメだよぅ?


 追伸――


 この日の夜からボクは日焼けの痛みと夜間中格闘して、一週間先まで熟睡できなかったことは想像に固くないよぅ。




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