続・天から降り注ぐ絶望
ガーランドは砦の上に立っている
村に出来た最初の砦、
防衛団達と作った南側に位置する砦だ
今は土魔法の石材と聖魔法の魔石で硬質化している
昨夜、防衛団が急ぎ聖魔石での硬質化を進めた
「では、ガーランドさん 呼びますか」
「ああ」
今回は首都で懸命に防衛していた神々の結晶は持ってきていない
竜を呼ぶのはガーランドの剣だ
デイジーが無属性魔法でガーランドが手に持つ剣に、少しずつ魔力を込めていく
剣が淡く青白く光り始める
「デイジー 一気に入れていいぞ」
「はい」
デイジーが両手に力を入れると、濃い青い光が光の柱となって天に昇る
「おそらく、これで来ますね」
「んじゃあ、配置につくか エルダ、行くぞ」
現状、デイジーとガーランドが二大戦力だ
この二人が同時に負傷しては、治療するにも時間を稼げる、竜の目を惹きつける存在がいなくなる
二人を砦の両端に配置し、竜の意識を分散させるのが一つ目の作戦だ
砦は拡張が進んで、今やガーランド達が森を切り開いて作った戦闘場の周りを囲むように、ひと繋ぎになっている
西側の端にデイジー、東の端にガーランドとエルダが立っている
エルダがガーランドの剣に魔法を付与する
中央は大量の魔石を置いて防御を厚くし、聖属性が付与されるよう大弓を改良して配置した
これが吉と出るか凶と出るかは竜次第だ
それぞれいろんな気持ちで空を見上げているのだろう
防衛団、ランカスター騎士団は全員戦闘に参加している
冒険者にも命をかけてもいいものだけ来てくれと言ってあったが、あの日、調査団と共にデイジーがこの村に連れて来た者は皆ここにいる
「エルダ、緊張してるか? まぁお前には怪我ひとつさせねぇからよ デイジーのが心配だな」
返事がない
エルダの顔を見ると、恐怖で固まっているように見える
「エルダ、別に後ろに下がっててもいいんだぞ」
「ああ、ごめん そうじゃなくて、ガーランド、あなたまだ魔法付与した状態でその剣振ってないんでしょ?」
「そうだ」
「あなた、今回はただ斬るだけじゃなくて、付与された魔法飛ばすのよ?出来るの?」
「出来るさ!そりゃあ! なぁ?」
近くにいる大弓担当の防衛団員にガーランドが急に話を振る
「え、団長 試してないんですか?」
「試してないぞ 暴発して竜が来るかもってデイジーに言われててな」
「それはちょっとなかなかですね」
デイジーの指示なら防衛団は何も言えない
と、エルダは聞き覚えのある音が北の空から聞こえてくるのを察知する
「本当に来た」
「おっ 俺ははじめましてなんだよ そういやサラマンド達こねぇな」
羽ばたく音は強くなる
姿が見える
首都を壊滅させた漆黒の竜だ
エルダはデイジーがどんな顔をしてるだろうと気になった
今回はラスターが風魔法で司令官の声を拡散させて、砦の南から指示を伝える
司令官はギルハートだ
「皆、引き付けろ! まだだ 一点を狙え 装飾弾!放て!」
地這竜の鱗から抽出した染料で色を付けた特殊な矢だ
砦に配置された無数の大弓が、上空で旋回する漆黒竜の腹部の辺りを目掛けて矢を射る
バキンッ という音と共に矢が魔法障壁に弾かれるが、作戦通り障壁の一点が緑色になる
「皆!あの一点だ! 打て!!!」
ギルハートが畳み掛けるように叫ぶ
無数の白く輝く矢が、一点に向かって放たれる
全ての矢が、紫と淡い白の光を放って弾かれるように見えたが、一本だけ障壁を突き抜けた
ギャオッ と竜が鳴いた
一本、右脇腹に矢が刺さっている
「エルダ! 行けるぞ!」
矢の一斉照射が二つ目の作戦で、予想以上に順調に運べている
だがそこからが、竜の反撃が始まった
砦に向かい出鱈目に炎の息を放つ
息ではあるが、数珠つなぎの特大の魔弾だ
すると、砦南部に白い光の輪が展開される
デイジーが聖魔法で防壁を貼ったのだ
防壁は破壊されるが、砦は無傷だ
これが三つ目の作戦
デイジーしかできない大業だ
「やるじゃないか!デイジー! エルダ 俺にも魔法付与してくれ!炎でいい!」
ガーランドの剣が赤く燃え上がる
「行くぞ!クソ黒トカゲ!」
漆黒竜に向かって大長老剣を大振りする
炎の刃が文字通り風を切って衝撃波を生みながら竜へ向かって飛ぶ
皆、動きを止めて刃の行先を見ている
一瞬時が止まったかのようにあたりが静まり返った
穴が空いた障壁の一点を通過する
漆黒竜が手で受け止めようとするが、受け切れず右手が切れ落ちる
「おおおおっ!」
皆、目の前で起きたことがよくわからず、ただ声だけが漏れる
「行けるぞエルダ! もっと付与してくれ!」
「わかった!」
そう言って炎魔法を付与してもらおうとした時だった
ガーランド目掛けて漆黒竜が急降下してくる
「おお いいじゃねぇか 俺もサシで戦いてぇと思ってたんだ」
ガーランドも高く飛んで竜に向かって剣を振り下ろす
「おい! うおっ! 掴むな! やめろって!!!」
ガーランドは一振りをかわされ、竜の左手に掴まれる
そのまま竜は天高く登っていく
皆、竜の棲み家に連れて行かれるのかと思った
ガーランドは動けない
おそらく常人であれば握りつぶされているだろう圧倒的な力で掴まれている
「おい!放せって!」
もがくが全く動かない
竜はひたすらに高度を上げたかと思うと、突如急降下を始める
「てめぇ!叩きつけるつもりかよ! まずいなこれ 動けねぇし」
地上が見えてくる
砦だ
まずい死ぬ
ガーランドは覚悟を決める
「すまん、エルダ デイジー 俺負けたかもしれねぇ」
その時だった
閃光が竜の翼を貫く
竜は体勢を崩し、ガーランドを放す
「なんだぁ!?」
ガーランドの視線の先には飛空艇が浮かんでいた
「お前、本当にバカなんだな」
魔法で拡声しているのかガビガビのサラマンドの声が聞こえてくる
「うるせぇこっからだ デイジー!!!!! 聞こえるか!!!!」
デイジーは落下地点の真下まで駆けているのが見えた
「デイジー!風のやつやってくれ! この前の!」
正直ガーランドはいう必要すらないと思っている
デイジーならきっとやってくれるだろうと
竜はまだ羽ばたけずにガーランドの隣で落下を続ける
ガーランドの体が急に浮いた
「おっ 流石はデイジーだ」
空中で竜の真上に来る
「おい、黒トカゲ おめぇがいるとよ デイジーが無理しちまうんだよ」
風が真上から爆発でも起きたかのように吹きつけ、叩き落とされる
「まだ年頃の女の子なんだよあいつは 普通に安心して暮らして欲しいだけなんだ俺は」
ガーランドは頭を下にして柄に手を掛ける
「だからよ、悪いが死んでくれ」
剣が白く光るのを感じる
剣を振りかぶらずに、そのままの勢いで竜の胸に体当たりする
剣は竜の胸に突き刺さっている
落下は止まらない
見慣れた戦場が迫っていた




