辺境の村
略称は絶防でお願いします
ここ辺境の村には、本当に何もない
中央からまともに認知されているかすら怪しいし、そもそもこの村が世界の地図のどこに位置しているのかを知っている者などいるのだろうかと思うくらいに誰も来ない
来訪者といえば、いつも月が半分に欠ける頃に胡散臭い行商人が馬車を引いてやってくるのみだ
道具屋から依頼を受けた品を届けた後、どこから仕入れたのか胡散臭い品物を集会場の前で売って帰っていく
村人は二百人程度
農作物を育て、細々と自給自足の生活を営んでいる
唯一の産業があるとすれば、鉱石の採掘くらいだ
といっても大した額で売れるわけではないが、何もしないよりはマシだ
村に宿屋なんてものはない もちろん旅人も一人だって訪れないからだ
行商人も必ず日帰りする
前に上等な酒が手に入った時に一杯やって行けよと引き留めたこともあったがそそくさと帰っていった
あるのは日用品を並べた道具屋が一軒きりで、武器や防具、薬草の類を調達したければ、あらかじめ道具屋のオヤジに頼んで取り寄せておかなければならない
そもそも、なぜこの村で武器や防具が必要になるかといえば、鉱石を集めるときだけ、なぜか魔物が湧くからだ
といってもお金がないので良いものが買えず常にジリ貧なのだが
今ここに集まっている者はみな、ここで生まれ、ここで育ち、迫り来る魔物を叩き潰して生活を繋いできた
村に何もなくても愛着はある
ここの村人は俺によくしてくれるし、代々ここを守ってきた
「ガーランド、そろそろ魔物が来る頃だ。石の採掘が終わったぞ。地上に運ばれてくる」
『石』とは、先ほどから言っている例の鉱石のことだ
「ああ。じゃあ配置に着くか。 みんな!!!行くぞ!!」
そう言ってガーランドは、使い古した愛用の片手剣を取り、防衛団員と急ぎ足で北の砦へと向かった
いつも魔物は決まって北からやってくる
『砦』などと大層な名前で呼んでいるが、端的言えばただの簡易的な木の足場だ
少しでも高所から攻撃するほうが有利だと、防衛団のみんなでこつこつ組み上げた
防衛団は村の若い男たち二十人ほどで構成されている
ガキの頃から一緒に訓練を受けて長い間魔物と戦っている、心の底から信頼している友達で戦友だ
といっても俺だけ少し年が離れてるので初陣は俺のが早かったが
「今回は、どんな奴らが来るのかね」
幼馴染であり、防衛団で副団長を務めるダガーが、片手剣を器用に振り回しながら近づいてくる
「鉱石の量次第だろ」
「でっかい塊じゃないといいけどなぁ」
「大した額で売れないのに、割に合わねぇよな」
「まったく、どこの誰がこんな不毛な石の商売を始めたんだか」
「爺さんの親父の時代からやってるらしいからな。なんなんだろうなほんとに」
そんな軽口を叩きながら前方の森に目を凝らしていると、背後にある村のほうから何やらやけに賑やかな声が響いてきた
「おいおい、今日はすげぇのが採れたぞ!」
「なんだこの塊は、見たこともねぇサイズだ……!」
その浮かれた声を聞いた瞬間、ガーランドの背筋に冷たいものが走る
顔が自然とこわばる
「ダガー。今日はどうやらいつもと違うぞ。気を引き締めろ」
言い終わるか終わらないかのうちに、前方から放たれるわずかな振動を足の裏で感じた
こんなこと前例がない
姿が見ないのになんだこの振動は
一体どんなでかいやつが歩いてやがる
ガーランドの額から汗が流れる
だが弱気になる訳にはいかない
俺がこいつらを引っ張らなくては
ガーランドは自分を鼓舞するように叫んだ
「みんな!今日も生き残れ! いつも通り、片っ端から叩き落とす!」
団員達の叫び声が響き渡る
普段とは格段に音圧が違った
団員達も不安をかき消すように叫び、自らを鼓舞しているのだろう
何事もなくいつも通り何もない村に帰れるといいが
もうすぐそこまで巨大な漆黒の影が無数の群れを率いて感じたことのない殺気を放ちながらこちらへ近づいてきていた
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