第18話 少し悪質なドッキリ
「ふむ、どうして朔夜の部屋から幼馴染君が出てきたのか。ちゃんと説明をしてもらってもいいかな?」
「……」
朝、昨日もぐりこんできた理奈が俺の部屋から出てきたのを詩織先輩に目撃されてしまった。
そんな事もあって、俺は詩織先輩の部屋で正座をさせられているわけなんだけど……
「無言か。良い度胸だ。僕の別荘で不純異性交遊をするだなんて。どうしてくれようか」
「いや、不純異性交遊なんてしてないですって!?」
「信用できるか。高校二年生の男女が一晩同衾して、何もなかったなんて信用できるわけがないだろう」
「……それは確かに」
俺も詩織先輩側の立場だったら信用はしないと思う。
つまり、俺がここで何を言っても詰みと言う事じゃないか?
「失礼します。詩織先輩。一応、朔夜先輩の部屋を見てきました。特にシーツにしみとかは無かったと思います」
「そうか。証拠はしっかり消していると。なるほど」
「なんでそうなる!?」
普通、何もなかったのなら無罪放免にならないのか?
まさか、俺が周到に証拠を消したほうに思考がシフトチェンジするなんて思ってもいなかった。
「だって、あんなにも可愛い幼馴染から迫られたら抑えられなくもなるだろう」
「気持ちはわからなくもないけど、ヤル時と場合を考えて欲しいものだね。サル君」
「呼び方がとんでもない事になってますよ?」
「朔夜先輩……見損ないました」
「ちょっと待ってくれ」
ユアからゴミを見るような目で見つめられる。
今までこんな目でユアが俺のことを見ているなんてことは無かったのに。
こんな冤罪で軽蔑されるなんて御免だ。
「朔夜。諦めて罪を認めたらどうだ? 認めてくれたら、僕もこれ以上は追及しないよ?」
「俺は誓って何もしてません。分別はわきまえています」
「そうかい」
詩織先輩は足を組み替えてため息をつく。
何を言われるのかとヒヤヒヤしたけど、次に彼女は突然笑い出した。
釣られるようにして、さっきまで険しい視線を俺に向けてきていたユアも笑い始める。
「え?」
「冗談だよ冗談。僕は君がそこまで節操がない人間だとは思ってない」
「そうですよ朔夜先輩。信用してなかったらそもそも合宿なんて一緒に来てませんって」
二人はひとしきり笑い終えると、二人でハイタッチを交わしていた。
状況があまり理解できない俺は、その光景を眺めていることしかできなかった。
「ドッキリ大成功と言う奴だよ。そもそも、君も幼馴染君もそんなに積極的なタイプじゃないしね」
「ですです。朔夜先輩も理奈先輩も付き合ってもないのにそんなことをするタイプじゃないですしね」
「ドッキリ……かぁ」
ユアに本当に軽蔑されるようなことが無くてよかった。
流石に、この純粋な後輩に本気で嫌われたらやっていけない。
ガチで泣いちゃう。
「そそ、そう言うわけでもう戻ってくれて構わないよ。次は幼馴染君に同じドッキリを仕掛けるから」
「あ、そう言うことっすか」
「うん、それであの子には朔夜が凄く嫌がってたってドッキリをしようかなと」
「少し可哀そうじゃないですか?」
可哀そうと思わなくもないけど、詩織先輩とユアはノリノリの様子だった。
一体どうしてここまで楽しそうなのかわからないけど。
二人ならやりすぎるという事もないだろうから、いいか。
「朔夜先輩! そうやって甘やかしすぎるとつけあがるんです! 少しはお灸をすえないと」
「そ、そうか」
力強い口調でユアにそう言われては、俺も反論できなくなってしまう。
これ以上邪魔をしても良くないし、俺はそのまま自分の部屋に戻ることにした。
三十分後くらいにエグイ泣き声が聞こえてきたのは、また別の話である。
◇
「詩織先輩……やり過ぎですよ」
「いやぁ~楽しくなっちゃってつい。本当に反省しているよ」
「私も、ごめんなさい。ちょっとやり過ぎました」
あれから、理奈にドッキリを仕掛けたらしい。
そして、理奈が俺の部屋に駆け込んできてずっと泣いていた。
今は泣きつかれて俺の膝の上で寝ている状態だ。
「まあ、反省してるならいいですけど。後でちゃんと謝ってあげてくださいね」
「それはもちろん。どうしようか。今日はもう遊ぶことにするかい?」
「それも良いかもしれませんね。理奈はこんな状態だし。この後勉強会とかしても、ギスギスしそうですね」
この状況では勉強会とかそんな事している場合じゃないだろう。
それに、たまには遊んだって罰は当たらないはずだ。
俺は膝の上で眠っている理奈の頭を撫でながら、考える。
そう言えば、昔もこんなことがあったな~っと。
「わかった、幼馴染君が起きたら教えてくれ。僕たちは朝食の準備とかしておくから」
「わかりました」
「ユアもそんな落ち込んだ顔しないで良いからな。誰にでも失敗はあるし」
「はい。ありがとうございます」
二人は申し訳なさそうにして部屋を出て行った。
すると、膝の上で寝ていた理奈の目が開く。
「やっぱり起きてたか」
「うん、にへへ」
「はぁ、まあいいけどさ」
「朔夜君、すきぃ~」
「はいはい。もう少ししたらみんなの所行こうな」
「うん。でも、もう少し甘えさせて~」
理奈は膝に頬ずりをしながら、幸せそうにしている。
少し、ドキドキするけどそれよりも庇護欲のような何かが勝っているのは、俺が彼女を昔から知っているからなのだろうか。
というか、女性が苦手なはずの俺がどうしてこんな風に理奈に膝を貸しているんだろう。
「まあ、いっか」
難しい事は考えないことにした。
今は、膝で気持ちよさそうにしている理奈の頭を撫で続けるのだった。




