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私は美少女に転生した元男である。  作者: 御上ナモ


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一話 私は美少女にTS転生した元男である。

 沈黙って、うるさいな。

 そう思ったのは13の夏休み。

 蝉の鳴き声も遠く、エアコンの排気音も遠く。

 私はただただ立ち尽くしていた。

 モロだしになった幼馴染のフリチンが立ち尽くしているのを見ながら、私はただただぽかーんとしていた。

 凍りついたアイツの顔がやたら目の奥にしばらくの間、残っていた。



 私は美少女にTS転生した元男である。

 名前は保科羽香奈ほしなはかなという親にもらった立派な名がある。

 幼き頃より『はかな』という名前の割には図太いよね、などという不名誉な言葉をさんざかけられてきたが、私は繊細さを旨とする正統派美少女である。

 そこ、本物の正統派美少女はそんなことなど言わない、とか言わない!

 私がなぜ急に過去を振り返りだしたか。

 なぜこんなに文語調で語っているのか。

 そしてなぜ私は現在キャラにもなくドギマギしながらドアをノックしているのか。

 それを話すには私がこの世に生を受ける瞬間まで、いや、我☆爆誕☆する前、私の前世までさかのぼらなければなるまい。

 あれは珍しい我が高校の平日休み。

 とは言っても私は半分不登校みたいな――いや、見栄張ったわ、まあ完全に不登校だったので一年中夏休みだったけれども。

 なにはともあれ。

 あれはそう、そろそろ寒くなり始めた10月の半ば頃。

 ぞろSNSにハロウィンPUガチャ爆死報告が流れ始めたある早朝のことだった――。

 


 私――いや僕は、夜を徹して、ネット上に吹きこぼれる爆死ツイートにせっせとガチャ結果のスクショ画面をリプするという徳を高める修行を積みながら、なぜだか僕に難癖をつけてくる心無い愚民どもとの壮絶な煽りあいという名のデスロワイヤルを勝ち抜いたばかりだった。

「はい、単発で出ました。証拠の画面録画は固定ツイートをご覧くださいw嫉妬民乙wっと」

 僕は新たにポップしてきたメタル嫉妬民Bにとどめを刺し、『ほうっ』と息をついた。

「あー。もう4時半か。腹減りすぎた」

 そうつぶやきつつ、スマホを置いて伸びをする。

 背骨がコキッと小気味よく鳴り、20秒ほど悶絶した後、僕は財布をもって家を出た。

 うちは両親が仕事で海外を飛び回っており、放任主義なのだ。

 そのせいで男子高校生にしては無駄に家事スキルばかりが上がってしまったのだが。

 そして無事コンビニで軽食を買い終えた僕は帰宅途中もFF外からの刺客との死闘を繰り広げていたのだが、ぼんやりしたトラック野郎に、レットブ○でもないのに空へとはばたく翼を授けられ、気が付いたら――体が縮んでしまっていた!というやつだ。

 ありていに言えば見事にテンプレ乙って感じのトラック転生をかましたわけである。

 まあ実際には自分が生きてるってことに気づいた時には視界も意識も混濁してたので、はっきりとした自我が戻ってきたのは生後半月ほどしてからだったけれど。

 ――なんだかレッ○ブル飲みたくなってきたな。

 まあいい。

 そうして私は前世の記憶を保持したまま美少女に生まれ変わり、一年生の時はギフテッドの名をほしいままにし――。

「……おい、カズキ、シャーペンの芯を2つ持ってな、こうやってコンセントに突っ込んで……」

「……ねえ保科さん!」

「ぬおっ!?青木せんせはトイレに行ったはずじゃ……」

「あれはあなたを引っ掻けるための嘘です」

「あー!いーけないんだ!いけないんだ!先生が嘘ついちゃ、ダメ、で、しょ、ぉ……」

「(無言の圧)」

「……シャス。ウス」

 六年生の時は神童と呼ばれ、全校生徒が私の前に膝を屈し――。

「……保科。お前、次のテストで平均点割ったら臨時で三者面談だからな」

「……カズキ、モールス信号だ。私の背中をトン、とツーで叩いて答えを教えるんだ」

「……ちなみに次のテストは漢字問題だ」

「ちょ!聞いてない!」

「先週既に言ってる。あと教師の前で堂々とカンニングの算段を立てるな!」

 うん!今までの人生は二周目であることをすっごく順調だな!

 ——いや、別に勉強とか本気出せばよゆーだし。小学生の頃の記憶なんて古すぎて覚えてないだけだから、高校生の勉強とかならガチ猛者やから……。

 


 今までの話にたびたび出てきたカズキ、とは今世における我が家、保科家の隣に小学校二年時に越してきたシャイボーイ美浦一輝のことである。

 こいつは一つ輝くという名を持ちながらも、どうにもおどおどしてて頼りない感じのチビだった。

 しかも彼が転校してきたのは小学校二年生の時である。

 カズキは母親を早くに亡くしており、当時から父親との二人暮らしだった。そのうえ父親は外資系の金融に勤めていてそりゃもうべらぼうに忙しい。

 それにより彼の生来のコミュ障っぷりにはパックのけずり節並みの磨きがかかっていた。

 案の定彼はうまく輪に溶け込めず、かわいそうに、いつも暗い顔をして教室の片隅で本を読んでいたのである。

 え?私も精神年齢が違うから輪に入り込みにくかったんじゃないかって?

 ちっちっち。考えが甘いな。私はあまりにも天才だったので、ちびっ子どもにレベルを合わせることなど造作が無かったのさ。

 ——いや、別に私の精神年齢が小学一年生だったとかそういうわけじゃないし。

 でも、保科家(我が城)と美浦家(カズキの家)がガチの隣だったこと。

 私が必殺技の『買わなきゃやだ号泣ローリングonショッピングモールの床』を母上に発動してもなお買ってもらえなかったゲーム機をカズキが持っていたこと。

 そしてカズキが仲良くなってみると意外と話せるやつだということなども相まって、私とカズキはみるみる仲良くなったわけだ。

 ヤツの家は外資系の金融に勤めるエリートパッパを持つだけあってなかなかに羽振りがいい。

 家も豪邸ってほどじゃないが、二人しか住んでないくせに四人家族(飼い犬のマーベラスをいれると五人)の保科家よりも二周りでかいし、なんかオサレ感ただようスタイリッシュなデザインをしている。

 そのうえ、小二にしてアイツの部屋にはマイパソコンがあった。

 私なんて遠距離通信手段は叫ぶか(なぜか愛犬も遠吠えで追従してくれる)、のろしを上げるか(不審火)、防犯ブザーを引っ張るか、しかなかったというのに……。

 まあ、なんやかんやで幼い彼をうまいこと言いくるめ、彼の小遣いで数多の漫画やゲームを購入させた私は、それ以来彼と遊ぶことが増え、中学に入った今となっては、完全に毎日カズキの家に入り浸っている、というわけだ。

 ——いや、別に小四くらいから、なんかみんながよそよそしくなってきたとかやないし。泣いてねぇし……。



 そして今日も今日とて私は今ハマっているゲームのオンライン対戦をしようとカズキの家を訪れていた。

 昨晩、あとちょっとでランクが上がりそうだったのだ。

 だが、母上が美浦家のチャイムを鳴らして来たので三試合粘ってから、窓から帰った(こう言う時のためにあらかじめ自分の部屋の窓は開けておいた)。

 別に関係ないが今でもケツがじんじん痛い。

 しかーし!今日はお泊りセットを持ってきてるのである!

 先週、『あてぃし、お泊りってしたことなくってぇ、あこがれてたのぉ、キュルルン』ってマイマザーとミウラファザーに言っておいたからな!

 しかも『別にゲームしたいとかじゃないし!ゲーム関係ないし!』と言っておいたから、我がマザーも『……ほら、考えすぎですよ。なんだかハカナは最近学校でのこと話してくれないですし、むしろ少しくらい色気づいた方がいいんです』とか、ミウラファザーも『いや、そちらがいいのならうちとしては別に……」とかいいながら快諾してくれたし!

 小四くらいの時に、カズキの父親に『……あまり、息子に変なことを吹き込まないでくれないか』と遠回しに嫁入りを勧められながらもらった合鍵で扉を開けて玄関に入る。

 ぽーいと靴を蹴っ飛ばしてずかずかと美浦家に上がり込んだ私は、冷蔵庫を開けてオレンジジュースを取り出した。

 そしてボトルのまま口をつけて飲む。

 ごきゅごきゅ、とデカいペットボトルの四分の一くらいを飲み干した私は深く息をついた。

「ふいー。いくら八月とはいえ、熱すぎるだろ……」

 今は中学二年生の八月である。

 外ではセミがミンミン狂騒曲を奏でてるし、おっそろしいことに本日の最高気温は四十二度。

 一瞬家の外に出て7歩歩いてドアを開けるだけなのに汗が吹き出してくる。

 普段なら美浦家のでかい4Kテレビで4、50分ほど(勝手に録画している)深夜アニメを見てから2階のカズキの部屋へ上がるのだが、背筋が汗っぽくて流石に人ん家のソファには座りにくい。

 そのとき、天啓が舞い降りた。

「そうだ。カズキ誘ってプール行こ」

 私は涼しくて楽しい。

 カズキは私という最強美少女とプールに行けて楽しい。

 WIN&WINってやつだな!

 そうと決まれば善は急げ。

 まずはカズキの部屋へのスニークミッションの開始だ。

 こちらスネーク、任務を開始する……。

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