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第6話 元獣は悲鳴を上げる

少し短めです。

キリが良かったので投稿しました。

 思案顔をしていた四人は等々つに言われた驚嘆の事実に硬直する。


 人間という単語を知らない少女は四人の硬直した意味が分からず首を傾ける。


『お主等。人の記憶を覗く技術があることを知っておるか?』


「え? あ、はい。死んだ人の記憶も覗くことができるとか」


 死んだ人間はそのまま火葬、もしくは土葬されるのが一般的である。しかし、何らかの殺人事件が起きた場合、その死んだ者の記憶を覗くことで犯人の特定を迅速に行うことができる。


 更に、魔物や亜獣に殺された者などの記憶を覗けば、どんな魔物や亜獣がどんな攻撃方法をとるのか、弱点はどこで、なんなのかということが分かり、それらによる死亡率をかなり減らす事が出来る。


『そう、記憶が覗けるということはその人間の人生を覗けるということじゃ。その人間が生きてきた時に培った経験や知識、友人関係を覗くことができるということ。そんなことができると知った人間の行動。それは……』


 そこでいったん話を切った猫は目足の片方頭にコツン、と置いた。


『人の人生を他の者に移植することじゃ』


 その言葉に四人は戦慄した。それは、人体実験なのではないのかと。


『これが成功すれば、例えば生まれたばかりの赤子に一人分の人生を経験させることができるようになるのじゃ。ここまで言えば、分かるじゃろ?』


 まるで小さな子供に質問をしているような声を出す。


 嘘を言っている可能性もあるが、この猫が嘘を言うメリットがない。到底信じられるような事柄では決してないが、否定する財力が四人にはなかった。


「あんたは、いや、あなたはアイデンという人間の記憶を移された猫、ということなのですね」


『うむ。あの人間共も一応倫理というものを分かっておったんじゃな。まずは動物実験というわけなのじゃろう。そして、その実験は成功し、儂ができたっというわけじゃな』


 少女以外の四人が成程と首を縦に振る。


『しかし、やはり動物。喋ることもできず普通にしていれば成功かどうかもわからぬ。そこで、研究者達は儂、正確にはこの猫に人の脳に直接意識を送信する魔道具を常時使用状態にして埋め込んだのじゃ』


「成程。それでしゃべる猫の完成ってわけね。でも、それならなんであなたがこんなところにいるの?」

『にゃ?』


 アイデンの言っていることがすべて本当ならば、今頃研究材料としてどこかの檻の中にいても不思議ではない。めでたく喋ることができるようになったのだから、その後の経過観察などをする必要もあるはずだと、レティは考え、その考えを素直に口にする。


『うむ。赤髪の嬢ちゃんの言う通りじゃ。しかし、儂も猫だったらよかったが、今は人としての記憶や経験がある。儂こそが〝アイデンという人間〟であるという自覚を持ってしまっているのに、そんな折の中にずっと入っていて耐えられると思っておるのか?』


「まぁ、無理でしょうね。私なら堪えられません」


『じゃろう? ならば、やることは一つ。猫の瞬発力を生かしてまどか脱出。街に潜り込んでしまえば野良猫と区別がつかんからのう。そこから見つからぬようにするのは簡単じゃったわ! わっはっはっは、おっ!』


 猫が高笑いをするという若干シュールな光景を目の当たりにしていると、唐突に猫の首が捕まれ宙に浮く。


 それをしたと思われる少女は無言のままアイデンを四人に差し出すように腕を伸ばす。


「……餌」


『ちょぉおおおお!? なんなんじゃこの娘! さっきの儂の話を聞いておらんかったのか!? 儂は人間じゃぞ! あ、いや、体は人間ではないが、魂は人間じゃぞ!』


「……食べる」


 悲痛な叫びはしょせん食欲の前では無力なもので、猫から発せられる大声に若干顔を歪ませただけで少女の反応は終わり猫は餌になる光景を思い浮かべた。


「あ、あの、それ餌じゃないですよ?」


「……? 肉」


「あ、確かにそうなんですけどぉ」


 話が完全に通じていないことを察したエルは隣にいたリッチェルに助けを求めるように視線を向ける。


『こ、こうなれば、致し方なし! とりゃああああ!』


 雄叫びを上げたアイデンは体を捻り己の首の皮を掴んでいる少女の指から脱出しそのまっすぐに伸びていた腕を伝って少女の額へと駆けていく。


 少女はその猫の突進を避けることは容易かった。ただ、口を開けて齧り付くだけで勝負は決まる。しかし、少女はしなかった。


 今は腹が膨れている、なら食べる必要はない。それに、相手は弱すぎる唯の餌。もし危険ならそれを見た後で良ければいい。


 そうしていると、アイデンは襲うのではなく、額を少女にくっつける。


「……ッ! うがぁああああああ!」


 空を割ろうとするかのように咆哮する少女の叫びはその場にある全ての物を響かせ、震わせる。

 襲うのは膨大な量の情報。頭を抱えながら荒れ狂う少女は情報の濁流により顔を歪ませながら悲痛な声を響かせる。その音量は壮絶であり、とっさに耳を塞いだいた四人の耳にも良く聞こえ、それらも苦痛に顔を歪ませる。


「がぁ……ウグ……」


 叫び声が徐々に小さくなるも少女は地面に横たわり未だなお痛みに悶えている。


「おい! お前、何をした!」


『知識を移したのじゃ』


「知識だと!? そんなことが……」


『できる』


 知識を移す。言葉にすればいたって単純であり何ら難しいことではない。しかし、それを実際に行うというのは普通ならば有り得ないことだ。


 もしそれが成功していれば、師匠や弟子、学園へ行って学ぶことをする必要性が無くなってしまう。


『最も、この知識を移すという行為は人間にはきかん』

「なに?」


『知識を儂に移すことができた研究者達は成功を喜び、嬉々として人間にも適用した。だが、人間の知識を人間に移した途端、そいつは発狂しながら死んでいったよ』


 今は猫になってしまった哀れな人間、というより人間の知恵をつけた人間は隣で悲鳴を上げる少女の事を放置しながら淡々と事実のみを言う。


『ま、当然の結果じゃ。すでに知恵のある者が外から無理矢理詰め込まれれば壊れるのは当たり前の事じゃな』


「テメェ、一応は人の知識が詰まってんだろ! なら、なんでこんなヒデェまでが出来やがる!」


 怒りに任せて怒鳴り散らしながらギデはアイデンを掴もうと手を伸ばしたが、アイデンは華麗に手を避け水のそばに移動した。


『お主はなにを言っておるんじゃ? 別に死んでしまっても問題なかろう?』


「アイデンさん!?」


 心底不思議そうに首を傾けるアイデンという名前の動物は視線をギデからエルに変える。


「人を殺してはいけません」


『お主もか。なら聞くが、何故人は殺してはならんのじゃ?』


「倫理的な行為とは到底思えないからです」


『その倫理もお主達人間が考えたことじゃろう? それにわざわざ儂ら獣が従わなければならない理由が何処にある?』


「あなたは人間です。体が猫でも、人間の知恵が宿っているなら、あなたは人間です。人間なら、人間の倫理にしたがってください」


『儂は猫じゃ。少しばかり知恵が回るただの猫。それ以上でも以下でもない』


 エルとアイデンが会話はいつまでも平行線のまま終わりが見えない。


「……ッ! ちょ、ちょっと、大丈夫!?」


 一人と一匹がにらみ合っている中、隣で苦しんでいた少女が呻き声を上げなくなり、さらに身動き一つするようには見られない。


 レティは純然たる人ではないが、助けられた恩人が倒れたことに焦り少女に近づこうとしたが目の前にアイデンが移動し通ることを許さなかった。


『止めるのじゃ。儂が殺したのを無駄にする気か?』


「無駄にしてあげるのよ」


『たわけ。良いかお主等。ここは獣の世、殺し殺される世界じゃ。人間の考え方は通用せぬ、早く捨てるがよい。さもなくば、その若き体で人の世を終わらせることになるやもしれぬぞ』


 可愛らしいその猫の姿が恐ろしいものに見えた四人は息を呑む。脅迫でもされているかのように体が動かなくなってしまった四人はアイデンの行動を注視する。


『この世界、この小さな森の中では恨み言も、言い訳も、遺言も、命乞いも、懇願も、請願も、何の意味もない。意味を持たない、理解されない。それがここなのじゃ。分かったか? 人間』


「よくわかったよ、人間」


『にゃ?』


 急に自分の頭に何かがのっかったのを不思議に思いすぐに目の前の四人ではないことに気が付き後ろを振り返る。そこには、死んでいるはずの青い髪の少女が起き上がっていた。


「なるほど、いろいろと理解できた気がする、否、理解させられた気がする……のじゃ」


 流調な口調で会話をしながら起き上がった少女の手には猫がいが、それは頭を掴まれているのに微動だにしていない。


「あ~、こんにちは、否、こんばんわじゃな、人間。儂は人ならざる、獣ならざる者、名前のない名無しじゃ。よろしく頼むぞ、名有り達よ」


 先ほどまでの緊迫した状態が殺伐とした状態へと変えたのは不敵に笑みを浮かべる耳と尾を持つ可憐な人外だった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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