第22話 天災による策略
「誰だテメェ!」
「ぐす……うん? 儂か? 儂はアイデ……いや、モモという! よろしく頼むぞ若人ども!」
ない胸を張りながら腰に手を当てて言い放った子供は異常なまでに小さすぎた。
正体不明の相手に危機感を持つ者もいれば、物語に出てくる妖精なのではないかなどと呑気なことを考えた者もいた。
「お前が何なのか、どういう存在なのかは今はどうでもいい。死にたくなけりゃぁ……」
「死にたくなけりゃぁ……だって?」
「っ!?」
目の前の幼子の口からまるで野生の獣を前にしているかのような緊張感が盗賊達に走った。
だが、すぐに緊張は解けた。なぜならば、モモが発したものは獣と言ってもそこまで強いものではなかったのだ。そして、何より盗賊名だけはありそれなりの修羅場をくぐった経験があったために驚いた理由は、ただその外見との不一致によるものである
「まだ死にたくないじゃろう? まだ生きたいのじゃろう? なら、儂に、否、儂らに任せてみるがいい。いい話を聞かせてもらった礼じゃ。助けてやろう」
下から見上げられているはずなのにその態度は完全に男達を見下しているように見えた。だが、如何せんその外見が可愛らしい人形のような者であるために、誰一人イラつくものはも、また話を聞こうと思う者もいなかった。
「……残念だが、俺達よりも弱そうなテメェの話なんざ」
「なら、お前達よりも弱いが賢い者の話なんてどうだろうか?」
今度は後ろから先ほどの器具類の少女が歩いてきた。その後ろには仲間が連れてきた獣の耳を付けた女がいた。
「お前達の会話から想像していたが、酷いありさまだ。そして、これもまた君達の会話から推察したのだが、これから壮絶な殺し合いが起きるのだろう。それも完全な偶然、いや、必然でか」
何もかもを知っているかのような思慮深過ぎるその赤銅色の瞳にまるで何もかもをさらけ出されそうな恐怖が彼らの全身を駆け巡った。
「だが、お前はこの村で暮らしただけのガキ」
「この村に来ている者達は恐らく斥候。普通なら数十名もいれば十分であるが、この村は例のあの森に近い。恐らく来たのは百人単位だろう。そして、向こう側はきっと攪乱部隊だ。村々を焼き捨てれば調査のために国は兵を派遣する必要が出てくる。そして派遣された兵を叩けば国の兵力を削ぐのが目的だろう」
口をはさむ間もなく一息に言い切った少女の言葉はまるで大人に説得されているかのような心境にさせる力が含まれていた。
「おぉ! お主凄いのぉ!」
「なに、この程度は少し考えれば思いつく程度だ。さて、話の続きだが、お前達は全員合わせてだいたい五十人弱、相手は二百人以上で乱戦になる可能性が高い。なら、少しでも可能性がある方にかけてはみないか?」
「……何が言いたい」
「私に任せるがいい」
胸を張り、堂々とした態度をとる少女は冗談ではなく真剣な眼差しで盗賊達を見る。
「私はお前達を死なせない! まで生を歩ませてやれる! さぁ、どうする! 迷っている時間はないぞ! 従うか、従わないか、今決めろ!」
まだ成人してもおらず少女になったばかりのような子供の気迫に大の大人達は怯んだ。
「……何をすればいい」
「頭! 正気ですか!」
「……いい判断をしたなお前達。よかろう! この私立ちがいるからにはお前達は多少怪我はするだろうが殺されることは断じてないと約束しよう!」
この時、まだ幼き天才が奇跡を起こす始まりの瞬間であった。
一方後ろで控えていたヒデは特に目の前の事を気にしていなかった。
(おなか減ったなぁ)
どこまでいってもヒデは自分主義だった。
隣国と戦争になる噂は時が経つごとに濃くなる一方となっていき、遂にこちらの国の大使が暗殺された事故、否、事件が起きた。
騎士達のほとんどは知る由もないが、それなりに知恵の回る者達はこうなるであろうことを予測していた。
しかし、彼らは騎士であり、兵士である。国に雇ってもらい、高い給料をもらうために命を賭して国を守り、命令に従う。拒否することは人間の社会で生きていくことができなくなる恐れがあるため、誰もが逆らうことができない。
「隊長、目的地が見えてきました」
「やっとか」
今騎士達は国の命令に従って隣国との境にある村へと向かっていた。
戦争を始めるに至って相手の動向を探る拠点の作成、そしてその場所の安全の確保が彼らの任務であった。
こちらはしっかりと戦争の準備をしていると相手を威嚇と牽制をし、敵に責める隙を与えないことを目的としている。
「それにしても大変なことになりましたねぇ」
「お前、それを言うのこれで何度目だ? あと、敬語な敬語」
馬に乗りながら先頭を歩く隊長と並行して歩いているのは同じ隊の仲間である。階級は隊長と一般兵ということで差がかなりある。
騎士とは階級が絶対の社会である。しかし、騎士達は同じ寮で暮らし同じ窯で飯をくらってきた者達のため、その中はほぼ家族同然と言えた。
「分かってますよぉ。公式な場所では言いませんって。いやぁ、しかし、ほんっと俺達の隊長が緩い人で良かったぁ!」
「訓練は辛いけどな」
「アハハハ、ちげぇねぇ!」
一人が笑いだすと連鎖的にその場の全員が笑いを零す。これから戦場の下準備に行く雰囲気には全く見えない。
「お前らぁ、そんなこと言うようなら、訓練の両ふやすぞぉ」
「すいませんでしたぁ!」
その時、その場にいた騎士全員が過去最大の連帯感でもって謝罪の言葉を大声で述べた。
しかし、これもいつもの事なので、隊長は苦笑いをするだけで終わり、誤った当人達も口には少しの笑みが浮かんでいる。
「ははは……うん? 様子が変だな」
村を見た隊長の目に映ったのは普通の村。しかし、隊長は違和感を感じた。
「どうしました?」
「……妙だ、人の気配がない。村とは言え、この時間ならまだ人の声で賑わっているはずだ。だが、今は静かすぎる……」
警戒する雰囲気になるとそれが伝染したかのように先ほどまで笑っていた者達の表情は一変し、真剣そのものとなった。
「おい、何人か偵察に出せ。他の者達は近くに敵、もしくは罠があるかもしれん。警戒を怠るな」
「ハッ! おい、偵察隊を出すぞ! それ以外は敵の存在と罠に注意し、っ!」
男は言葉を最後まで言う前にその動きを止めた。
不思議に思った隊長は男を見やると、視界にいくつもの人影と馬が映った。彼らは全員顔まで覆った暗いローブを被っており、またその全員がじっと騎士達を見ていた。
「おい、お前達、少し話が」
「……」
一人の騎士が話しかけようとすると、ローブを被った者は突然片手をまっすぐ天に向かって上げる。そして、すぐに下に向かって振り下ろした。
「っ!」
ローブの者が手を振り下ろすと同時に彼らは轟音に見舞われた。
進行方向の地面が唐突に爆発し、あちこちから熱に肌を焼けたものの悲鳴や、爆風によって舞い上がった砂埃に目をやられて呻き声を上げる者が現れた。
それを見届けたローブの者は
「クッ! 1班、2班は奴を追え! まだ罠があるかもしれん! 細心の注意を払え! 残りはその場で待機だ!」
「隊長! 村、村を見てください!」
「どうし…‥‥なっ!」
そこには人形が捨てられていた。人の形を歪にしたような肉人形が地面を赤色に染めながらその場にゴミのように捨てられていた。
人の死体が無残な姿で捨てられている。男や老人、女山田年端もいかない子供までもが村の前に捨てられている。
「なんてことだ、こんな、こんなこと」
「なにがあったってんだよ……」
それぞれに悪態をつい怒りの形相となる。
呆然となる仲間達を他所に隊長は冷静に状況の分析をしていた。
(亜獣の中には自分の縄張りを示すためにその縄張りで狩った獲物を目印に使うものがいると聞いたことがある。だが、ならばあのローブを着た者達はいったい……)
未だすべての疑問は解消されてはいないが、いつまでもここで立ち止まっているわけにもいかないため、一先ず低調波今考えられる最善の指示を出す。
「1~5班は俺と共に奴を追うぞ、6班は何か異常があれば伝えろ、では行くぞ!」
馬に乗ったローブの者達は徐々に遠くなっていく。見逃すわけにはいかないので隊長たちは急いで後を追う。
(先ほどの爆発。魔法ではない、なら火薬か? だがそれならいつ点火した? 奴らは手を下に振り下ろす動作しかしていない。何かしたらすぐにわかる。他にも仲間が? いや、まさか帝国のものか!?)
奴らは帝国の差し金で村のあの惨状は我々への宣戦布告のつもりなのではないかと辺りを付けた隊長の顔は徐々に怒りの色を浮かび上がらせた。
「奴らは帝国兵の可能性がある! 一人は必ず生かして捕らえろ!」
「了解!」
怒気混じりの指示にはっきりと答える部下は真っ直ぐに帝国兵と思われるローブの者達を全速力で追いかけていった。
同時刻、王国が爆発の衝撃を受けていると同時に、反対側では帝国が同じ攻撃を受け、皮肉なことに帝国の兵達を統率する隊長も王国の隊長と同じように班を分け、現在は幾人もの兵を連れてローブの者達を追っていた。
(奴らはおそらく王国の人間ではない。王国の者ならば骸をあのようにしておくはずがない。恐らくは雇われた傭兵か……何にしても、村が滅んでいたそのことに問題はない。だが、奴らが王国に知らせれば対策が取られる可能性がある)
彼らは村々を襲い王国の兵士、騎士などを誘き出し圧倒的な力の差で少しづつでも減らし、敵国を撹乱することを目的として動いている。
自分達の国の旗を壊滅した村などに置いておけば相手は既に攻めてきていると思い恐怖し怒るだろう。
自分達はすでにお前達の国に潜んでおり、いつでも大規模な戦闘を内部で起こすことができるのだと相手を挑発し、冷静な判断をさせないようにする。
しかし、そんな村を攻撃するだけの楽な作戦でも危険はある。
彼らは死ぬことに恐怖はない。みな、祖国の為なら死ぬことなどには恐れない。彼らが恐れることは、祖国のために出立したはずなのに何もできずに終わることだけである。
「奴らを絶対に逃すな!」
「ヤー!」
祖国特有の掛け声とともに彼らは威勢よく目撃者に向かって全速力で追いかけた。
自分達のたてた作戦を成功させるために。
「ふふ、そう動いたか。やはりな、人の上に立つ者は頭の回転が速い。尊敬するよ」
死体だらけの街の真ん中で統率下に置いた盗賊の一人から両軍の状況を聞いた頭を包帯で巻き、片耳しかない獣耳を付けた少女が目を閉じながら独白する。
「さぁってと、そろそろ私の出番か」
「……何するきだ、テメェ」
ゆっくりと立ち上がる少女に向かって盗賊の頭が質問をする。
すると少女は口に更なる笑みを浮かべながらまるで近くの安い料理屋にでも食べに行くかのような口調でこう言った。
「なに、ちょっと禁忌を犯してくるだけだ」
そう笑いながら言う彼女の周りには、まだ生きていた小さな生贄達が並ばされていた。




