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一人で寝たら危ない

 次の日の昼休み。

 昼食を食べ終えた俺は、一人で校内をうろついていた。

 いつも昼飯を一緒に食べているクラスメイトがいるにはいるのだが、今日は部活の部員たちと学食を食べるということで、食堂に行ってしまった。

 一人で食べると、やたらと早食いになる。昼休みが始まってから5分ほどで食べ終わってしまい、残りの30分ほどを一人で教室に残っているのは居心地が悪いため、こうして居場所を探して徘徊しているのだった。

 校舎内を歩くにしても、上級生の教室のエリアは何となく行きづらい。

 別に1年生が歩いていても向こうは何とも思わないのかもしれないが、特に理由もなく歩き回るのは、やはり気が引けた。

 

 そんなわけで、俺は校舎の外に出ることにした。

 玄関を出ると、段々と暖かくなってきた春の日差しが顔を照らす。

 校舎と校庭の境にある通路に並ぶ数本の桜の木。その向こうにはサッカーをしている男子生徒たちの姿。通路には人の姿はあまりなく、部室棟と行き来をする生徒がたまに歩いているだけだった。

 桜を眺めながら、通路を歩いていく。

 数日前まではまだたくさん残っていた桜の花は、どれもだいぶ散ってしまっていた。

 暫く歩いていくと、フェンスが迫ってくる。フェンスに辿り着いたら引き返そうと思って進んでいくと、通路は右に折れ曲がっていて、校舎の裏へと続いているようだ。

 こんな道があったとは。俺は少しだけ心を躍らせながら、通路を進んでいく。

 数メートル歩くと、フェンスと校舎の壁に挟まれていた視界が開けた。


 そこには、ちょっとした広場があった。

 木々と花壇に囲まれた、ベンチが数個あるだけのスペース。

 庭園というには、地味だけれど、有栖が見たら「さすが私立ね」と言いそうなくらいには、高校には豪華な場所だった。

 人はいない……と思ったら、木の下にあるベンチに、女子生徒が一人座って、コクコクと頷いている。

 それに合わせて揺れる、緩くカールした栗色の髪。


 他でもない北條更紗だった。


 一際大きく頷いたのと同時、首からバキッという音。

 その音に驚いたように、澄んだ青い目が見開かれた。

「……大丈夫か? 凄い音だったけど」

 思わず、そう言うと、北條は気怠そうにこちらを見る。

「向日、どうしたの」

「お前こそ、どうしたんだよ……いつもここで寝てるのか?」

「いつもいるけど、寝てない」

 いや、寝てただろ。

「前に、このベンチで寝てたら、突然有栖が茂みから出てきて、女の子が人目のないところで一人で寝てると危ないわって、言われた。だから本当は眠いけど、起きてる」

 いや、寝てただろ。

「そういえば、北條は、どうしていつも眠いんだ?」

「時差ボケ。日本に来てから、昼間はいつも眠い。夜は目が冴えるから、ネットしてる」

「それ、たぶんもう時差ボケとかじゃないからな……」

 ただの昼夜逆転生活である。

「ちなみにどんなサイト見てるんだ?」

「2ちゃん」

 だからこいつ、最初に話したとき、2ちゃん用語みたいなの使ってたのか。

「……てか、そんなに眠いなら、教室で寝れば良いんじゃないか? 教室なら危なくはないだろ」

 教室で一人で寝るのは、周囲からの視線という意味では少し辛いけど。北條はそんなことを気にしなそうだし。

 すると、北條は少しの間考えてから、答える。

「教室はいろんな人がいるから」

「うるさくて寝られないってことか?」

「うるさい、じゃなくて、ひとの声が気になって、寝られないだけ」

 それを『うるさい』って言うんじゃないんだろうか。

「『うるさい』って、五月の蠅って書くけれど、それじゃ五月の蠅が可哀相。蠅は飛んでるだけなのに。私が眠いだけで、他の人は普通にしてるだけ。だから、私がここに来る」

 北條は長い四肢を大きく反らして、伸びをする。白い肌に、日差しが煌いた。

「何?」

「詩人っぽいなって思って。何と言うか……北條って意外と優しいんだな」

 目つきは怖いのにな。

「……眠いから寝る」

 北條はベンチの背もたれに顔を向けるようにして横になってしまう。薄い耳に日が当たって、赤く見えた。

「有栖に寝るなって言われたんだろ?」

「一人で寝たら危ないって言われた。向日がいるから平気」

 お前が寝てる間、俺はここにいなきゃいけないのか。


 結局、その昼休みは、隣のベンチに座って北條の護衛をすることになった。のだが――。

 途中で北條が膝を抱えるようにして寝始めるものだから、北條の脚の隙間から、青と白の縞々の布がががががが。

 俺は反射的に目を逸らして、後からそれが縞々のパンツ、いわゆる縞パンだと再認識する。

 「誰もいないのだから、臆することはない。この絶景を目に焼き付けろ!」と脳内の悪魔がわめきたてる。やがて理性より悪魔が優勢になり、目が動きそうになる。首が動きそうになる。

 俺は慌てて自分のブレザーを脱いで、静かな寝息を立てる北條の脚にかけてパンツを隠し、悪魔の声を静めた。

 溜息をついて、上を仰ぎ見ると、青い空。白い雲。


 『縞パンの色は空の色』


 そんな言葉が、思い浮かんだ。

お読みいただき、ありがとうございます!!

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