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有栖出海はキャラかぶりを許さない

はじめまして、こんにちは。

突然ですが、僕は無表情キャラが好きです。

あまりに好きなので、無表情キャラがたくさん出てくる小説を書こうと思いました。

無表情キャラが好きなあなたも、別にそうでもないあなたも、楽しんでお読みいただければ幸いです。

 高校生活初日。

 二年生以降になると、始業日そうそうテストがあるらしいが、一年生の俺たちは、始業式の後に自己紹介と諸連絡があっただけで、解散となった。

 教室からひとが減っていき、先生が「早く帰るんだぞ」と言って教室を去った後も、しかし、俺は依然として椅子に座っていた。

 帰りのホームルームの後、クラスメートの有栖(ありす)に教室に残るように言われたためである。

向日新(むこう あらた)くん。このまま教室に残っていて。話があるから」

 無表情の彼女はそれだけ言うと、長い黒髪をさらりと揺らしながら、自分の席へと戻っていった。

 有栖とは今日が初対面である。なのにこちらの都合をきかないで随分と図々しい。別に待ってやる義理は無いとも思ったが、特に用もないのでこうして残っている。

 今教室に残っているのは、俺と有栖、その他の女子が二人。

 

 窓際の席に座っているのは、北條更紗(ほうじょう さらさ)

 物憂げなまなざしで窓の外を眺めている姿はどこかはかなげだ。

 外国人の血を引いているのか、目鼻立ちが日本人のそれとは少し違う。白い肌は春の日差しを受けて耀いている。開いた窓から吹き入る春風を受けて、栗色の髪がふわりと揺れた。

 

 もうひとりの女子は、……たしか都筑和子(つづき わこ)と言ったっけ。漆黒のショートカットで、前髪は綺麗に切りそろえられている。背筋を伸ばして本を読んでいる姿は、まさしく文学少女と言った感じだ。

 凛とした雰囲気と、どこか近づきがたい荘厳さが彼女の周りにはあった。


 そんな女子二人を一番後ろの席からぼんやりと眺めていると、有栖は立ちあがり、教卓の前に立つ。

「北條さん、都筑さん、向日くん。残ってもらって悪かったわね」

 有栖は少しも悪いと思ってなどなさそうに無表情でそう言うと、長い黒髪をさらりと後ろに流した。

 ああ、俺以外の二人も有栖が声を掛けていたのか。

「改めて、初めまして。私は有栖出月(ありす いづみ)。よろしくね」

 有栖は腕を組みながら、しばらく俺たちを品定めするように見渡していたが、やがて「ふーん」とつぶやく。

「今日、こうして君たちに残ってもらったのには、理由があるの」

「理由って?」

 興味が無さそうに外を眺めていた北條は、有栖の方を向き、涼やかな声で訊ねた。

 有栖は首をこくんと横に傾けて、問う。

「気付かない? 私たちには共通点がある」

 有栖は俺たちに向かって手のひらをかざし、言い放った。


「私たちは深刻なキャラかぶりを起こしているわ。私たちは全員――無表情キャラよ」


「…………」

「…………」

「…………」


 確かに俺は、無表情だ。それは自覚しているし、他人からもよく指摘される。

 姉からは家にいると「うわっ」とか「お前がいると家の雰囲気が暗くなるんだよ」とか「死人かよ」とか言われる。俺は無表情なだけで、普通に傷つくからやめてほしい。無表情だって、人格は有るのだ。

 しかし、別にキャラ付けとして無表情を意識して行っているわけではないので、キャラかぶりと言われても、困るんだが……。

 俺は有栖に訊ねる。

「キャラが被ったって、俺は気にしないけど……。無表情キャラ? が一クラスに四人いると、何か問題があるのか?」

「問題あるわ、大有りよ。無表情キャラはクラスに一人いるからミステリアスなのよ。ありふれたミステリアスがあって良いわけないでしょう」

「でも――」

 それまで静かに有栖を見つめていた都筑が、そっと手を挙げた。

「有栖さんって、中学の時、むしろよく喋る方だったし、皆の人気者でしたよね。私たちとはキャラはかぶらないのではないでしょうか?」

「お前ら、同じ中学だったのか」

 有栖は溜息の後で、「地元から離れたのに、まさかあなた達と一緒の高校になるとは思わなかったわ」と呟く。続けて、感情を押し殺すような声で

「私は鍛練の結果、やっと無表情を『習得』したの。毎日、バラエティやニコ動の腹筋崩壊タグ付の動画を観続けて、やっと表情を消すことができるようになったのよ。無表情になるために、血の滲むような努力をしてきた。それなのに、……他に同じような人が同じクラスに三人もいたら、私のキャラが立たないじゃない」

 有栖は過去の記憶を振り返るように横目で、爪を噛む。

「えっと、つまり、おまえはわざと無表情を装っているんだな。でも、どうしてそんなことをするんだよ?」

「何でって――」

 有栖はしばらく俺を見つめ、やがて

「そんなの……あなたには関係ないわ」

 長い髪を揺らし、それ以上の質問を避けるかのように後ろを向いた。

 作為なしに無表情である俺としては、有栖の感覚はいまいちわからない。誰とでも分け隔てなく喋れた方が楽しいだろうと思うのだが。

 それができない自分としては、むしろ中学までの有栖のようになりたい。

「とにかく――」

 有栖は首だけをこちらに向ける。

「あなた達はもっと表情豊かにして。でないと、いつまでもあなた達のことを監視し続けるから……わかったわね」

 有栖はそう言い残すと、バッグを持って、教室を出て行ってしまった。

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