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恋した魔女の中で生きる  作者: 菜乃音
第二章

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40 見えているもの、聞いているもの

 マナミと国についてから、しばらくして俺は一人で行動していた。

 行動したというよりも、今目の前にいる男に相談を吹っ掛けにきたからだが。


「まさか、ワレェイに申し出とは。貴様も頭が高くなったものだな」

「エルリッシュ王と俺じゃあ、さほど背丈変わらないだろ」


 相手は当然、エルリッシュ王だ。

 エルリッシュ王の居る間に入るなり、次から次へと連絡係なる兵士が出入りしていたのだが、俺が強引に乱入して止めた形になっている。


 エルリッシュ王からすれば、これくらいは遊びにもならない、とのことで受け入れてくれたようだが。


 玉座のある高い位置から降り、俺と同じ高さで会話をするのは考慮してくれているのだろうか。


「なに、同じ位置で眺めねば理解できぬこともある」

「先の相談以外何も言ってないんだが? 全てを見透かしていそうだな」

「魔女や貴様の件、ワレェイに見据えぬこともあろうよ」


 エルリッシュ王は来ることくらい分かっていたようだが、用件や相談事までは分からないらしい。

 そもそも、俺が相談するような柄に見えなかったのだとか。


「魔女めに望むこと、それ自体は云わずとも理解できよう。だがな、それは貴様自身の思い上がりにすぎん」


 俺ではなく、内装から連なる吹き抜けた南の方を見て口にするエルリッシュ王。


「ワレェイが貴様の友人として話に乗るのなら、そんな戯言を考えるのは貴様らしくない、とすぐにでも断罪していよう」

「俺らしく、ない?」


 俺は疑問しか浮かばなかった。

 エルリッシュ王には、マナミのあの力を制御するためのキッカケの後押しになりたい、そんな相談というエゴを口にした。


 だけどエルリッシュ王からしてみれば、それは些細な問題の他ならなかったみたいだ。


 気づけばエルリッシュ王は空間から剣を抜き、剣先を俺に向けてきている。


「以前、筋肉自体は失った、と貴様は言ったな」

「覚えていたんだな」

「思い上がるではない。民の報告、その全てはワレェイ自身が本になって記している」

「さすが、国を治めている王だけはあるな」

「愚問だ。王だけがあっても民が無くして意味はなさん。王が全てを仕切らぬとも、この島の民なら強さこそ人並だが、子に託して生き残ることはできよう。ワレェイが手を下さねば生き残れんようなら、それこそ魔女が先手を打っていように」


 俺は、エルリッシュ王を知らなかった。

 それこそ思い上がりと罵られてもおかしくないほどに、俺は見えていなかったんだ。

 エルリッシュ王が全てを治めているからこそ、この国の住人各々が動いているとばかり思っていた。


 言われてみれば彼らは、俺が見てきた範囲だけでも各々が最適な判断をし、時間という概念こそないが、その日のうちにできることをやっていたのだ。

 それは誰かに命令されたとかではなく、自分たちが生き残るための行為だった。


「以前の筋肉……妄想信者と呼ばれた貴様が見たら、今の貴様を何と指す」


 見据えたように空間という名の鞘に剣を収めるエルリッシュ王は、裁定を終わらせたのだろう。


 さり気なく口にした……以前の筋肉。エルリッシュ王には、見えているのだろう。


「魔女を諦めたのか、って聞いてくるだろうな」

「だろうな。貴様は確かに魔女を見ているが、自分を見失った、ただの愚か者よ」


 愚か者。それほどまでに、今の俺を簡単に現しやすい言葉が無いと言えるわけだ。

 俺はマナミこそ見ているが、自分を見ていたかと聞かれれば、間違いなく否と言える。それくらい、俺は俺を蔑ろにしてしまった。


 ――筋肉と話せないから? 違う。


 俺は元から筋肉と話していたというよりも、筋肉と通じ合っていただけだ。

 筋肉が話していた……俺が妄想していた、ただ単に信仰していただけにすぎない。

 少なくとも、記憶こそ持ってきてくれたが、それ以上の関わりはほとんどなかった。


 生きるため、生き残るため、その為の知恵を筋肉が感覚的に身に付けさせてくれただけだから。


 マナミに心配された時、素直に受け止めなかった俺は何を考えている。


 俺が悩んだ様子を見せると、エルリッシュ王は鼻で笑っていた。


「ようやっとその顔を見せたか」

「え?」

「ワレェイには妹がいてな。恐らく……貴様の悩みなら奴の方が誰よりも親身になってくれよう」

「確か、エルリッシュ王の妹って、マナミの妹でもあるよな?」

「魔女めから聞かされていたのか? 貴様、余程愛されているではないか」


 冗談なのか本気なのか不明な発言をするエルリッシュ王。

 俺は確かに、マナミのあの力自体、感情が起因としている可能性があると先に提示した。

 そうなれば魔法に近しい者、同じ魔女なら話を理解しやすいのだろう。


 この島にはマナミ以外だと大魔女しかいないが、他の魔女の話をする必要があったのだろうか。


 さり気なく、マナミに愛されている、と間接的に言われたせいで思考が落ちつかない。だからこそ、見落としているものもありそうだ。


「……貴様は、クロジよ。魔女めを、マナミをどう思う? 絶島の魔女こそ、貴様をよく思っているが、今の貴様は生き残る目的を分け与えられた傀儡(くぐつ)にすぎん」


 俺は血が滲みそうになるほど、拳を握りしめた。

 別にエルリッシュ王を恨んでいるとか、憎んでいるとかではなく、俺を見抜いているその目に狂いは無いと知ったからだ。


 ――俺は、俺は……。


「変わらないさ。魔女に恋をしたい。マナミに恋をしたい。だけど、だけど、マナミじゃないと、俺の目的は達成されないし、達成したくないんだ」

「ならば、相談する相手はワレェイではなく、魔女自身にすればいいことよ。身飾りこそ分からぬが、親身になる相手を蔑ろにするほど、あやつも劣ってなどおらん」

「すまなかったな、忙しいところを邪魔した」

「貴様の戯れ、あの魔女に比べれば優しいものよ」

「……マナミに何かされたのか?」


 守らぬ奴に道理など効かん、とさり気なくエルリッシュ王が口にするあたり、マナミは時間を守らない挙句に何かしでかしているのだろう。


 今思えば、マナミが国に出向くのも呼ばれた日ではなく、マナミの気分次第だ。

 その気分の日に出向くとなれば、マナミが用件を貫き通す強引なことは起こしそうでもある。


 エルリッシュ王の苦労が絶えないと思いつつも、俺は気が楽になった。


「そろそろ魔女めも来よう。貴様は南西の件もある、外の者とはいえ良い報告を期待している」

「ああ。この相談料は行動で返してやるよ」


 この日、俺はエルリッシュ王に相談したのは何よりも間違いではなかったと、胸を張って誇れたんだ。

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