表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋した魔女の中で生きる  作者: 菜乃音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/35

35 いつかの記憶と、貫く想いを胸に

「結構深いんだな」

「でも、大魔女様がいる場所は大体把握できた。あとは――」


 マナミと一緒に大穴の深層へと下降していた。

 マナミがそう口にした時、眩い光が下から登ってきたんだ。


「なんだこれ! まずいっ、マナミぃいい!」

「……クロジ!」


 光は物理的にあたり、繋いでいた手が離れてしまった。

 自然落下していく中、無我夢中でどうにかマナミに手を伸ばした、伸ばしたはずなのに……。




 どのくらい気絶していたのか。

 目を覚ませば、そこは真っ暗な空間だった。

 感覚で空間と分かるのは、体が知っているからだ。


 俺は仰向けで浮かぶ体を起き上がらせ、ふと手を見た。


「はっ! マナミ! どこだ!」


 どこを見ても真っ黒で、何も見えない、何も感じない。

 先ほどまであった温もりだけが手のひらに、マナミの存在を伝えているだけだ。


 もう一度目を閉ざしても、何も聞こえない、音一つ拾えない。

 叫んだ声の反響すらも、感じない。


 あの光が悪さをしたのは、間違いないだろう。

 俺がマナミを探そうとした、その時だった。


「クロジ」

「……ああ、俺だ」


 後ろを振り向けば、そこには魔女(マナミ)が居た。

 先ほどまでいなかったはずのそこに、魔女が居る。


 そっけない返事を、魔女に返した。


 ショートの黒髪で髪留めのないワンサイドテール。

 艶やかな白い肌。

 黄緑色に輝く瞳。


 首元が開き気味のローブに、ストールを首元に付けた合わせ着。

 どう見ても、知らないマナミだ。


 真っ黒な空間の中を浮くようにして、魔女は俺の方を見ている。


「クロジ。ここにナトゥーラ様はいないみたい」

「そうだな。見た感じ出口はなさそうだし、大魔女様もいないな」


 上を向いても、下を向いても、横を向いても、俺の周りにあるのは全て真っ黒な空間だ。


 ふわふわと浮く体のコントロールこそ難しいが、筋肉型水泳をすれば問題ないだろう。

 ふと気づけば、魔女は誘うように手招きをしていた。


「クロジ。こっちから魔法の気配がする」

「確かに魔法をそっちから感じるな」


 魔女についていこうとした、その時だった。


「ごめんね」


 突如として、魔女は俺に手を向けてきたんだ。

 向けられた手のひらには渦巻くように黒い何かがあり、マナミの言っていた力に類似している。


「謝る必要はないさ。だって、お前魔女だろ?」

「何言ってるの? 私は魔女だけど、マナミ」


 まったりとした声を口にする魔女は、失礼なものだ。

 マナミを何も理解していない。前提として、マナミは最初に返事をした時点で俺に魔法を撃ってくる。

 大穴前にあの話をしようが、大魔女の前であっても、マナミが魔法を撃たないことはない。この場で魔法を使えないとしても、俺に撃つためだけの魔法は持ってきただろう。


 そもそもの話、この空間にいる時点で、俺の体が重くないのはおかしい話だ。

 俺は魂が未だに蝕まれているにも関わらず、魔女が出てからは筋肉が焼きつかなくなったのだから。


「気づいてないんだな。一応言っておくけど、マナミは地上からぶち抜かない限り、この場所じゃ、十分に魔法は使えない。俺はそれを知ってる」

「私には二つの魔法があるって言ったでしょう? あっちは使えないけど、クロジを贄として捧げるくらいなら、破壊の魔法を使えば――」

「破壊の魔法か。何度も言わせるな、それは存在しないって言ってんだよ」


 魔女が会話を聞いていたみたいだが、その会話とは決定的な間違いがあった。

 マナミはあの力を制御できない。そして、あの力、と言っていた時点で魔法の正体を知らない。


 だけど目の前の魔女、マナミの皮を被ったものは――軽々しく制御できているし、そもそも破壊を前提とした魔法であることから根本が違いすぎる。


 魔女は動揺した様子で、後ずさりしていた。


「……いつから、それを」

「お前が最初に俺の前に現れた時点で、マナミじゃないのくらい見抜いていた。恋をしたい魔女を間違えるほど、俺は安い筋肉じゃないからな」

「とぼけるな! 私が聞いているのは――」

「なぜ『記憶』を持っている、とでも聞きたいか?」


 魔女は図星だったのか、瞬時に黙った。

 とはいえ狂気じみた雰囲気を纏っているあたり、予想外の展開なのだろう。


「今の俺自身は忘れているさ。でも、筋肉が教えてくれたんだ。マナミの魔法を……そして、その姿である形もな。■■■って言えば、お前がまぎれもなく偽物の証明だ」

「なぜ、現状の貴様がその名を!!」


 魔女が距離を詰めてきた。

 だけど遅い。俺は既に、拳を構えている。

 引いた拳は、周囲の空間を歪ませ、伝えてくるんだ。

 そこに――マナミは居ると。


「これは始まりじゃない、始まりを迎えるための軌跡だ。何度繰り返したって、何度忘れたって、この拳が全てを繋げ、貫く。――返してもらおうか、大魔女。俺の知るマナミをなぁああ!!」


 俺は声を張り上げ、躊躇うことなく拳を振りぬいた。

 拳は魔女を貫き、周囲を歪ませるほどの弾圧が空間に伝播した。


 悪夢を俺に見せたところで、俺はもう迷わない。

 今までなら、筋肉が教えてくれなければ、迷っていたかもしれないが。


 真っ黒な空間に亀裂が入り、割れた硝子のように砕け散った――。


「――クロジ。クロジッ!」

「……ああ。マナミ、おはよう」

「おはようじゃない。心配したよ」

「そう言いながら、確認で魔法を使おうとするなよ」


 目を覚ませば、涙目で覗き込んでくるマナミの姿があった。

 この場だけなら、マナミが再現性の無い魔法を使えないのは知っている。

 マナミは俺が目を覚まさないとでも思ったのか、ぽろぽろとほんのり温かな粒を顔に落としてくる。


「私、さっきまで怖い夢を見てた。偽物に裏切られる、怖い夢……」

「俺も、同じような夢を見てた。でも、マナミじゃないのはすぐに分かったよ。だって、マナミはこんなにも優しいからな」


 そう言って笑い合いたかったのだが、そうはいかないみたいだ。

 周囲には時間や空間が混ざり合ったような世界が生まれており、菌を取り囲むように衛星のような物体が数個ほど周りに浮かんでいる。


「……其方らは、かの試練をものともしない」

「マナミ、話は帰ってからだ」

「――大魔女様」


 どうやら俺たちは既に、大魔女の目の前まで来ていたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ