30 食で繋がるのは、魂か、言葉か、愛か
少しして、テーブルには二つのお皿が並んでいる。
一つは黄色い粒に対し、色鮮やかな果肉と少量の肉が入った焼き飯。
もう一つは、少し茶色の部分が見え隠れしている白い粒に対して、適度なサイズに切られた果肉が入った焼き飯だ。
「それじゃあ、食べるか」
「……うん」
俺はマナミの前に草で作ったお茶を置き、席に着いた。
目の前には俺が作った黄色い粒の方が置かれている。
マナミの前には、マナミが作った白い粒の焼き飯なのだが、どこか気乗りしていない。
分からなくもないが、おこげが出来てしまったのは仕方ない話だろう。
マナミに少し教えてから目を離した瞬間、うまく分離しなかった粒が張り付いてしまったようで、フライパンの底で焦げてしまっていたのだ。
最初にしては上出来なのだが、俺が作った料理と見比べてしまっているのだろう。
――マナミも気にするんだな。
俺はマナミを見つつも、両手を合わせた。
「恵まれた命に感謝して、いただきます」
「……いただきます」
マナミとの食事はこれから始まる。
俺は自分の料理に手をつけず、マナミの方を見た。
マナミはスプーンでパラパラとした粒を掬い、じっと見ている。
やはり焦げている部分が気になるのか、躊躇しているようだ。
失敗から学ぶものはある。それが料理なのだが、異世界ではよく分からないので何とも言えない。
マナミは覚悟を決めたのか、ゆっくりとスプーンを口元に近づけていた。
そして、小さな口の中に渋々といった様子でスプーンが置かれる。
マナミの食べている仕草をまじまじと見るのは久しぶりだが、仕草一つ一つが可愛いと思わないように注意が必要だ。
ゆっくりと咀嚼していたマナミは、不意に表情を曇らせた。
当然のようにお茶を手に取り、呑み込むように喉を鳴らせている。
コップを置いたと同時に、瞳には水が溜まっていた。
「……うぅ……クロジが作ってくれるのと、全然違う……」
「マナミ。これ」
「え?」
俺は自分のお皿と、マナミのお皿を入れ替えた。
俺が作ったのはマナミの前に、マナミが作ったのは俺の方に。
マナミは目を丸くして、差し出された料理を見ては、俺の顔を見てきている。
「どうして?」
「マナミはよく頑張った。俺からの労いだ」
俺はそう言って、マナミが作ってくれた焼き飯をスプーンで掬う。
白い粒なのも相まってか、ほのかな明かりに照らされれば真珠のように輝いており、おこげが良いアクセントになっている。
口に運べば、口の中でパラリと解けるように粒は分離していた。
チャーハン風に作らせたのだが、成功はしていたようだ。
マナミの場合、火を通すために少し焼く時間が長かったせいか、だいぶ水分が抜けてしまったらしい。
この種自体はホシムスビで使っていた、米と大して変わらない弾力性があったのだが、水分は考えた方がよかったのだろう。これに関して間違いなく、準備をした俺に落ち度がある。
味に関して言えば、ほんのりと甘さが口の中をほとばしり、ちょっとした苦みがこの甘みにまたよく合う。
俺がごくりと呑み込むと、マナミは心配した様子で見てきていた。
「おいしいな。お世辞抜きで、初めてにしては良くできた方じゃないか」
「本当に?」
「わざわざ恋したい魔女に嘘をつく必要ないだろ。俺は、マナミの作る料理嫌いじゃないからな」
照明するように、もう一掬い、もう一掬い、と美味しく口に運ばせてもらった。
実際、マナミは初めての料理だったようだが、ここまで上手にできるとは思ってもいなかった方だ。
うまい、と何度も笑顔で言ったせいか、マナミは恥ずかしそうにしている。
「マナミ、俺を見てばかりいないで、俺が作ったやつを食べてみてくれ」
マナミは頷いて、スプーンを粒の中に通していた。
スプーンで掬うよりも先に、見てわかるほどにパラパラとした粒の滑らかさ。
スプーンからも見て伝わるパラパラ加減は、予想通りにできていたと言ってもいいだろう。
粒はチャーハンに寄せたくて黄色にしたのだが、果肉や少量の肉も相まってそれっぽく見える。
先ほどまでの拒否感が嘘のように、マナミはあっさりと口に含んでいた。
瞬く間もなく、食べた表情には柔らかな笑みを浮かべている。
頬をとろけさせ、目を柔くほっそりと細めるマナミから窺えるのは、美味しいと受け取れる一言だ。
美味しそうに食べてもらえるのは嬉しいが、むず痒いものでもある。
きっと一人で生きていたら、食を通して笑みを見ることはできなかった。
生き残ることを二人で共通目標としたからこそ、日常のささやかなプレゼントとして見られるのかもしれない。
「すごくおいしい」
「そうか、よかった」
「クロジはどうして、こんなに料理が上手なの?」
「今じゃ趣味で作ってたのもあるけど、元の世界でカエルとかトカゲをただ焼くよりも、多少は見た目をよくしたいのがキッカケだったな」
そこら辺の空き缶で料理したり、殴ってへこませた石を鍋代わりに料理をしたりしていたが、全て黒か茶色なのは味気ないだろう。
筋肉の導きの元、俺は料理すら野生で出来るようになったからまだマシな方だったのかもしれない。
筋肉の気まぐれか、何度か水蒸気爆発で殺されかけたのは今も鮮明に覚えているが。
「……クロジ、元から生き残る素質は高かったのかも」
「マナミ、最近やけに俺の評価が上がってるみたいだけど、何かしたか、俺?」
「気のせい」
いたずらに笑みを浮かべ、美味しそうに食べるマナミには困ったものだ。
俺も食べようと視線を外した時、マナミがじっと見てきていることに気が付いた。
「どうした?」
「その、クロジが主に料理をする召し使いに変わりないけど……えっと、今後も、教えてほしい」
恥ずかしそうに言うマナミは、上目遣いをしている。
そっと吐く息が、どこか嬉しそうに感じる俺は変になったのだろうか。
「魔女様の申し付けだ、断る理由はないからな」
「クロジ。優しい」
俺は一口食べてから、こう口にした。
「――マナミほどじゃないさ」




