第394話 敗走
「はは……こりゃ、まともにやってたら殺されてたかもしれんな」
もはや生きているとは思えないほどボロボロな状態のバンデルが砂浜に落ちたのを見てガレスは冷や汗を流しました。彼は獣王であり、ガルモ国をまとめる王様。なにより、獣人の中で最強だと言われるほどその身体能力は高く、それを認められたからこそ、今の座に腰を降ろしています。
しかし、自分だけでは手も足も出なかったであろう魔族をほぼ一方的に痛めつけ、戦闘不能にしてしまった。しかも、人間の魔法使いと獣人の弓使いが、である。
「っ!」
そこまで思考を巡らせ、今回の功労者である人間の魔法使い――アレッサが落下中であることを思い出し、空を見上げました。ですが、その瞬間、気絶している彼女を優しく白い包帯が受け止めます。そのまま、ゆっくりと高度を落としてそっと砂浜に横たわらせました。
「あいつ……」
包帯を動かしている人物、精霊王と知り合いの幼い男の子。彼を見ればアレッサを受け止めたのを最後に力尽きてしまったのか、目を閉じてぐったりとしていました。
「おい、ノン! しっかりしろ!
「ノン君、死なないで!」
そんな彼の隣にいる獣人の子供たちが慌てた様子で彼の名前を叫びます。アレッサとグレイクは力を使い果たして気絶。ですが、あくまで魔力切れによるものなのでしばらくすれば目を覚ますでしょう。
しかし、ノンは大怪我を負っているらしく、彼が倒れている場所に少しずつ赤い液体が広がっていきます。このまま放置すれば死んでしまうのは間違いないでしょう。
「おい、船に乗ってる奴ら! 急いで降りてこい! 治療道具もだ!」
その怪我を負わせた要因でもあるため、このまま放置しておくつもりもなく、入り江で静かに停泊している船に向かって全力で叫びます。そこそこの距離はありますが獣人である彼の声量は簡単にその言葉を届けられたようで船の方が一気に騒がしくなりました。
「……」
これで最低限の対処はしました。ガレスはゆっくりと砂浜に転がっているバンデルへと近づきます。遠目から見てもかろうじて四肢がわかる程度にしか体の原型は残っていない彼ですがまだ息はあるようでピクピクと痙攣していました。
「ちっ」
そして、ほんの少しずつ体が治っていくのを見て思わず顔を歪めてしまいます。今は気絶していますがいずれ目を覚まして再び暴れ始めるでしょう。
では、その間、ガレスはどうするのか。決まっています。今の状態を維持すること。そう、言ってしまえば追撃です。
「なんだ!?」
まずは一発、と言わんばかりに右拳を振り上げたその瞬間、背後から感じた殺気に思わずその場から離れました。すると、先ほどまで彼がいた場所に魔法が飛んできて砂浜の一部と死に体のバンデルを吹き飛ばします。
「いやぁ、危ない危ない。まさか魔族にこんな弱点があったなんてね」
吹き飛んだバンデルを空中で誰かがキャッチし、楽しそうに笑いました。その背中には漆黒の翼。肌は青く、ニヤニヤと歪む口からは鋭い牙がチラリと見えます。
「魔族!?」
そう、その正体は新しい魔族。それもノンたちが王都で戦ったヴァアロではなく、見たことのない小柄な魔族だったのです。
「はぁい、獣王さん。こんばんは、申し訳ないけどこのボロ雑巾は返してもらうね。こんなんでも優秀な魔道具職人なんだ」
「逃すと思ってんのか!」
「ボクとしては別に戦ってもいいんだけど……何人かは持っていくよ?」
そう言った小柄な魔族はチラリと気を失っているノンたちを見て笑いました。空を飛べないガレスだけではここにいる全員を守れない。仮にノンたちを守り切れたとしても今度は入江に停泊している旅客船を狙うでしょう。あそこには人間の他に誘拐された獣人も乗っているため、ガレスは悔しげに歯を食いしばりました。
「うんうん、状況判断できる人は好きだよ。じゃあ、また今度会おうね」
「二度と会いたくねえよ」
「もー、そう言わずにさ。近いうちに会うことになるんだから!」
「は? それはどういう」
「じゃあねー!」
意味深な言葉を残した小柄な魔族はガレスを無視してバンデルを持ったまま、海の方へと飛んでいってしまいました。
「……はぁ」
旅客船の方から島に上陸するために積まれた小舟が向かってきているのを見ながらガレスは大きなため息を吐き、ノンの方へと歩き始めました。
感想、レビュー、ブックマーク、高評価よろしくお願いします!




