第363話 深夜
アゼラがスキルに目覚めたかもしれないと話し合った日、アゼラはいつものように割り当てられた客室で寝ていました。もちろん、子供のため、一人では寝かせられないとノンとミアも一緒の部屋で寝ており、大人組のグレイクとアレッサは左右の客室を利用しています。
彼が使用しているベッドの近くには相棒となった子供用の大槌。まだ真新しく、使い込まれた様子のないそれですが、きっとこれからアゼラは毎日のように振り回して手に馴染んでいくことでしょう。
「……」
しかし、ふとアゼラは目を開けました。そして、不思議そうに首を傾げます。彼は眠りが深い体質であり、一度眠ると起こすのが大変だとミアに小言を言われるほどでした。
「なん――ッッッ!!」
そんな自分が朝にもなっていないのに目を覚ました。思わず、声が漏れかけた時、凄まじい悪寒が彼の全身を襲います。
「こっ、れ……」
マズイ。マズイ。マズイ。マズイ! マズイ!!
これまでに経験したことのないほどの嫌な予感。その衝撃は頭に鋭い痛みが走るほど。しかし、アゼラはそれすら気にする余裕はなく、ベッドから跳び起きて隣のベッドで寝ているノンへと駆け寄りました。
「ノン、起きろ! 起きろって!!」
「ん? アゼラ?」
「やべえんだ! わけわかんねえけどやべえ!!」
「え?」
ベッドを何度も叩きながら大きな声でノンを起こすとアゼラはとにかく危険が迫っていることを訴えます。そのあまりの剣幕にノンは寝起き特有の眠気が吹っ飛び、思考を停止させ――急いで包帯を伸ばして客室の窓を粉砕しました。
「どっちから!」
「向こうだ!」
ノンは窓枠に手をかけながらアゼラに質問するとアゼラは窓から見える水平線を指さします。その間も包帯はどんどん伸びていき、どんな危険が迫ってきてもいいようにふよふよと海上を漂っていました。
「ッ!?」
そして、これまでに感じたことのない強大な魔力反応が水平線の向こうから迫っているのを感知します。その反応は恐ろしいほどの速度でノンたちが乗る船に迫っており、数秒と経たずに襲うでしょう。
「師匠とグレイクさんを起こして甲板へ!」
そう言い残してノンは窓の外へと飛び出します。魔力循環によって強化された脚力で蹴られた窓枠は粉々に砕け、思わずアゼラは顔を庇ってしまいました。
(間に、合えッ!!)
漂っていた包帯を前方に集め、ありったけの魔力を注ぎ込みます。大量の魔力を受け取った包帯は光輝き、巨大な盾を船の前に作り出しました。その直後、巨大な盾が一瞬で木っ端微塵に砕け散ります。強大な魔力反応がノンの盾に直撃したのでしょう。
「ぐっ」
包帯の残骸が宙を舞う中、それに紛れるように禍々しい魔力の残滓がノンの頬を掠めます。その魔力に少しだけ覚えがありました。そう、王都で戦った魔族の男が放った闇魔法です。
(でも、この威力は!?)
しかし、地下水道で打ち破った闇魔法と比べ物にならないほどの威力でした。ノンの包帯は魔力を注げば注ぐだけ頑丈になり、そう易々と敗れません。事実、以前に魔族の魔法を突破した時は表面の包帯が焼け焦げただけでドリル本体は砕けませんでした。
でも、防いだ。あれほどの砲撃を防ぎきったのです。あとは包帯を船に引っかけて帰れば――。
「――まだ来るぞ!!」
「ッ!?」
後ろからアゼラの絶叫が響き渡り、ノンはハッとすると同時に魔力感知に先ほどと同じ強大な魔力反応が引っかかりました。
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