第353話 伝手
「とりあえず、船員は確保できたわね。これでケレスカ大陸に行けるわ」
広場での演説が終わり、ノンたちは改めて領主邸へと帰ってきました。ノンが潜んでいた闇ギルド組員を捕まえた後、住民たちは少し不安そうにしながらもブレッドの手伝いを申し出てくれたのです。
特に漁師たちは久しぶりにケレスカ大陸へ行くため、気合十分。戸惑いもまだあるようですが意気揚々と船出の準備を始めました。
しかし、それなりに時間がかかるとのことだったのでノンたちが出発するのは二日後。それまでに冒険者たちが組員たちから情報を得られることを願うばかりです。
「ブレッドさん、他に監視役の奴はいないんですか?」
「ああ、船が来る日は祭りがあるから監視役は一人になる。上町の方は昨日のうちに全員捕まえておいたから私に共有されている情報どおりなら大丈夫なはずだ」
「あとはあの冒険者たち次第ってところね」
ブレッドの言葉を聞いたアレッサは深いため息を吐いた後、テーブルに置かれたカップを手に取ってお茶を一口だけ飲みました。なお、アゼラとミアは大衆の前に出て疲れてしまったのか、この屋敷の客間で休んでいます。
「……いいのか?」
やれることはやった。後は待つだけとなり、少しだけ空気が緩んだその時、ずっと黙り込んでいたグレイクがブレッドを見ながらそう問いかけます。
「どういう意味かな?」
「家族のことだ。結局、情報は何もない。それに捕まえた奴らは下っ端。人質の居場所など教えられていないだろう」
「……」
彼の言葉にブレッドは無言のまま、目を閉じます。確かに闇ギルド組員たちを制圧し、これ以上の被害を出さないようにすることはできました。
ですが、ブレッドの妻や娘がどこにいるのか、今もわかっていません。グレイクの言うように尋問によって確実に家族の情報が得られるとは限らず、何もわからないまま、出発の日を迎えることだってありえるでしょう。
「……いいんだ。覚悟はできてる」
「ッ……そうか」
低い声で小さく答えたブレッドにグレイクは何か言いそうになりましたが彼の覚悟を理解しているのか何も言わずに引き下がりました。
「ノン、一応、この二日間、街から出る人を探っておいて。夜中とかでも反応できるでしょ」
「はい、大丈夫です」
アレッサの問いにノンは特に反論することなく、頷きました。
彼は寝ている間も捜査している包帯の状態を保持、または周囲の魔力感知に反応があった場合、自然と目を覚ますことも可能です。もちろん、反応がある度に目を覚ましていたら寝不足で倒れてしまいますが意識的に深く眠ることもできるため、野営中や今回のように短期間の間だけ警戒するのなら問題ありません。
「あとは私たちがケレスカ大陸に行ってる間にこの街の警備を強化しておかないと」
カップを置いた後、アレッサは難しい顔をしながらブツブツと今後の動きを考えます。可能な限り、情報が闇ギルドに伝わらないように気を付けましたが完全に防ぎ切ったとは断言できません。その場合、最悪の事態を考慮して行動しなければ取り返しのつかないことになる可能性があります。
「考えはあるんですか?」
「一応、ね。もしもの時のために通信系の魔道具を冒険者ギルドで借りたの」
そう言いながら彼女はポケットから受話器のような形をした魔道具を取り出しました。しかし、その顔はどこか浮かないものであり、何か思うところがあるのかもしれません。
「冒険者ギルドで借りたものなら連絡する相手は基本的にギルド相手だ。何か伝手でもあるのか?」
そんなアレッサにグレイクは不思議そうな顔をします。冒険者とギルドは通常、依怙贔屓が発生しないように一定の距離を保つ決まりとなっていました。そのため、冒険者がギルドに個人的な伝手があることはあまりありません。
「ええ、とびっきりのがね……」
「……ああ」
嫌そうな顔をしながら通信機をテーブルに置いた彼女を見てノンは察しました。
「本当に気が進まないけど……王都の西区冒険者ギルドのギルドマスターに連絡するわ」
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