第342話 人質
「人質……」
この屋敷にはいくつかの魔力反応があります。その中にこの寝室で見た家族写真に写っているブレッドの妻と娘もいると思っていました。
「ああ、一年もの間、魔道具職人はこの屋敷に住んでいたから娘も懐いていて……妻と娘に小旅行を提案したんだ」
「旅行、ですか?」
「二人にはリフトが完成してから見せるのはどうだと提案されてな。だから、リフトが完成する直前にナーティの街を離れて別の場所に旅行しに行ったんだ」
そして、その旅行の内容を決めたのは魔道具職人だった。色々な場所に行ったことがあるからブレッドよりも旅行にふさわしい場所を知っていると言われ、喜んで任せたそうです。
「確かにリフト完成日になっても二人が帰って来なかったのは不思議だった。だが、あの男は予定よりも早く完成してしまったと嘘を吐いて最後の最後まで私を騙し続けた。気づいた頃には妻も娘もどこにいるかわからない状態……本当に、駄目な夫だ」
きっと、その男はブレッドに伝えた旅行先とは違う場所に妻と娘を連れて行ったのでしょう。ブレッドは頭を抱えて項垂れてしまいました。
「多分、犯罪に加担しただけなら隙を見てどこかの冒険者ギルドに密告していただろう。でも、妻と娘の命には代えられなかった……もう、私は男の言いなりになるほかなかった」
「ブレッドさん……」
「男が最初に指示したのは旅客船を持つ住民から船を買い取ることだった。言われるがままに住民から旅客船を買い取り、男に渡した」
「まさかそれを使って」
「ああ、最初からこの街を拠点にしてケレスカ大陸から攫ってきた獣人を奴隷商に売るのが目的だったんだ」
もし、それが本当だとしたら魔道具職人を名乗る男はどこまで読んでいたのでしょう。しかし、その真相がどうであれ、その男の目論見通り、ナーティの街は支配されてしまったのです。住民に一切、バレることなく。
「獣人を攫ってきた後、崖下にある洞窟に獣人たちを閉じ込めて違法奴隷商が到着するのを待つ。そして、そのまま獣人たちを奴隷として売り払い、私にその半分の資金を渡してきた。『これからもよろしくお願いします』と笑って」
「なんて……酷い……」
「それから数年……最初は一回につき、一人とか二人しか連れて来られなかった獣人も今では多い時は十人ほどになっている。半年前には子供の獣人も捕まえられたと喜んでいた」
きっと、それがアゼラとミアなのでしょう。故郷で襲われたのが約一年前。それから半年ほどケレスカ大陸内で過ごし、船に乗せられてハーニンド大陸へ。そして、奴隷商の馬車に乗せられて、事故に遭い、ノンたちと出会った。
もし、アゼラたちと出会わなければノンたちはナーティの街には来ず、今もなお、ブレッドは罪悪感と情けなさによって心を痛めつけられながら悪事に加担していたことでしょう。
「じゃあ、あのお祭りも何かわけが?」
「祭りが開かれるのが丁度、ケレスカ大陸から旅客船が帰ってくる日だ。住民たちに旅客船が動いているのを見られないようにするために注目を下町の中央へ集めている」
まさか祭りさえも獣人誘拐のために仕組まれたことだとは思わず、ノンは奥歯を噛み締めました。ですが、まだ聞きたいことがあったため、必死に怒りを抑えてブレッドの方を見ます。
「海路が封鎖されたのは魔族の襲撃を恐れてでしたよね? 今まで、旅客船が沈められたことはありませんか?」
「……いや、ない。海の魔物に襲われたことはあったらしいけど、魔族は一度もない」
「……わかりました」
用意周到な計画。獣人を攫う目的。上町で見た男たちの雰囲気。そして、魔族に襲われない旅客船。
「闇ギルド」
そう、魔道具職人の男は闇ギルドの人間。確たる証拠はありませんが一度、対峙したことのあるノンはすぐにその答えに行きつきました。
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