第343話 懇願
「闇ギルドだって?」
「あ、えっと……」
思わず呟いたその言葉をブレッドは聞き逃しませんでした。一瞬、どう誤魔化そうか思考を巡らせたノンですがこれだけはっきりと聞かれてしまったため、それは無理だと判断して短く息を吸います。
「実は以前、王都で闇ギルドが魔族に加担してるのを知ったんです」
「なっ!? 魔族は人族の敵だぞ!?」
あまりに突拍子もない話に彼は立ち上がって叫んでしまいました。そして、今の時刻を思い出して慌てて口を噤みます。幸い、魔力反応に動きはないため、ブレッドの大声は聞かれなかったのでしょう。
「その時は魔族が王都に入り込んで大惨事になる寸前でした」
「入り、込んだ……じゃあ、どうやって追い返したんだ? 相手は不死の存在だぞ」
「転移魔法陣を利用して入り込んだのでそれを使って元居た場所に送り返しました」
「それは……できるのか? いや、できたから今も王都は無事なんだろう」
頭では理解している彼ですが、感情はまだ追いついておらず、僅かに手が震えていました。そして、ハッとしてノンへと視線を向けます。
「もし、闇ギルドが魔族に加担してたとして……どうして、あの魔道具職人が闇ギルドの一員だって思ったんだ?」
「街で見かけた怪しい男たちが前に見た闇ギルドに属する男たちに似てたんです。あくまで雰囲気だけですが」
「ッ……じゃあ、魔族を追い返したのは君なのかい?」
「師匠と一緒に、ですけどね」
王都の地下水道での戦い。正直、ノンとアレッサが魔族を追い返せたのは奇跡でした。あの場にノエルがいなければ転移魔法陣は使えなかった。ヒュドラの毒刃でノンが死んでいたかもしれない。アレッサがノンのサインに気づかず、憲兵から逃げ続けていた可能性もあった。なにより、あの魔族の男が最初から本気で戦っていれば勝負にすらならなかったでしょう。
(本当に闇ギルドが仕組んだことなら魔族がいる可能性も考慮しないと)
ノンたちはケレスカ大陸に行くためにナーティにやってきました。もし、闇ギルドが関わっているというのなら魔族の存在は無視できません。いえ、そもそも、獣人誘拐そのものがお金目的ではないとしたら?
「闇ギルドの目的は……人間と獣人の中に亀裂を入れること?」
ボアレで話題に出た人間と獣人の外交問題。あの時は人間の奴隷商が子供の獣人を違法な手段で手に入れたことが問題視され、獣人が人間に対して抗議するかもしれない。そう考えていました。
しかし、闇ギルドが獣人の怒りを人間に向けるために獣人を攫い、奴隷に落としていた場合、最悪、獣人とも戦争が起こるかもしれません。そうなったら魔族、獣人から攻められ、人間は今度こそ終わりです。
「いや、それは……あり得るのか?」
「はい、その可能性はあります」
考えすぎかもしれません。ですが、魔族を王都へ転移させるためにヒュドラの毒刃やあの厄介な魔道具を下っ端と思わしき三人組に渡すほど闇ギルドは本気でした。お金がいくらかかろうとも魔族が有利になるように動いているとしか思えません。
この仮説が正しかった場合、お金以外の目的で獣人を誘拐している。そう考えるのが妥当です。
「ブレッドさん、今回の一件、思った以上に慎重に動かないと取り返しのつかないことになるかもしれません」
「……ああ、そうだな」
ノンの言葉に意気消沈とした様子で頷くブレッド。無理もありません。獣人誘拐に加担している罪悪感。人質に取られた家族の心配。そして、獣人との関係に対する不安。今の彼にはそれらが重くのしかかり、今にも潰れてしまいそうなのでしょう。
「大丈夫です」
だからこそ、ノンはブレッドの前に立ち、手を差し伸べます。顔を上げた彼はきっと、優しく微笑む幼い少年を見たことでしょう。
「僕たちが何とかします。だから、これ以上、誰も傷つかないように協力してください」
あまりにも小さな手。目の前に立つ少年が自分の娘よりも幼いとブレッドはその手を掴む直前に気づいたのです。
「……ああ、頼む。頼むっ」
それだけ余裕がなかったのでしょう。ノンの手を掴んだ彼はそう懇願するしかありませんでした。
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