閑話70 WBW決勝トーナメント決勝戦日本代表対アメリカ代表試合直前特番
時刻は現在、フロリダ州マイアミの現地時間で17時。
日本時間は6時を過ぎたところ。
48年振り。WBW優勝を懸けた一大決戦まで2時間を切っております。
試合開始は現地時間で19時。
日本時間では8時丁度の予定です。
決勝戦の舞台であるバンクノート・パークのグラウンドでは今正に、この試合先攻の日本代表がバッティング練習を行っているところです。
前日テキサス州ヒューストンで激闘を繰り広げ、その日の内に移動してきた疲れもあるでしょうが、それを感じさせない打撃音が高らかに響き渡っています。
……この時間は引き続き、WBW決勝戦直前報道特番をお送りしております。
改めまして司会はわたくし、羽澤朗一。
解説としてパーフェクトサブマリンこと綿原博介さん。
第2部からは更にスペシャルサポーターとして、北海道が誇るマルチタレントの大海原遥さんにもお越しいただいております。
お二方、よろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
尚、日本代表決勝戦進出に伴って番組の予定が一部変更されております。
第32回WBWの地区予選から決勝トーナメント決勝戦に至るまでの日本代表の軌跡を、第1部という形で既に日本時間午前0時より放送しております。
番組を見逃してしまった方は、1週間の見逃し配信を行っておりますのでホームページのリンクからご利用下さい。
いやあ、むしろ見逃した方が大半だと思いますよ。
ま、私が日本にいたら興奮で寝つけなかったでしょうけど。
とは言え、それで本番の試合の方を見逃してしまったら本末転倒ですからね。
体調管理に気をつけて試合開始に備えましょう。
それはそれとして。
番組冒頭からご覧いただいている視聴者の皆様は、本当にお疲れ様です。
繰り返しになりますが、試合開始は日本時間8時から。
ご覧のチャンネルにてライブ中継を行います。
また、本放送ではピクチャーインピクチャー方式にてCMを放送いたします。
試合終了まで中継映像を途切れさせることなく皆様にお届けする予定です。
チャンネルはそのままで、最後までご視聴いただければ幸いです。
……さて、綿原さん。
日本代表は後1勝できれば、悲願の初優勝というところまで来ました。
かつて日本代表選手としてアメリカ代表戦に登板されたこともある綿原さんとしては、特に感慨深いものがあるのではありませんか?
そうですね。
大きな喜びと、複雑な感情が入り乱れています。
複雑な感情……と言いますと?
私が出場したWBWでは早い段階でアメリカ代表と当たってしまい、日本代表はそこで敗北して決勝戦まで駒を進めることができませんでした。
48年前の大会も今回も、私は半ば傍観者としてこの大一番を迎えております。
今となっては、そのことに一抹の寂しさを感じてしまう部分もあります。
勿論、それ以上に日本の決勝進出は喜ばしいことです。
かつてなく優勝の可能性を感じており、期待感も膨らんでいます。
ただ、それと同時に恐怖心のようなものもあるのが正直なところです。
もし今大会、このメンバーでさえアメリカ代表に届かないとなれば、あるいは絶望的な気持ちになってしまうかもしれません。
それは……。
いや、これ、私も綿原さんの気持ち分かりますよ。
あの件以来、個人的に贔屓目で見てしまう部分もありますけども、秀治郎選手達がいるこのチームは過去最強の日本代表だという確信はありますから。
そんな彼らですらアメリカ代表には敵わないとなると、ね。
試合前にネガティブなことは余り言いたくないですけど、視聴者の皆さんも共感できる部分があるんじゃないでしょうか。
とは言え、日本代表のスターティングオーダーに名を連ねている選手はいわゆる野村世代が多く、平均年齢は世界的に見ても若い方です。
決勝戦がまだ始まってもいない状況で先のことを考えるのもどうかとは思いますが、今回及ばずともチャンスは何度となく巡ってくるのではないでしょうか。
決勝戦に進出することを以ってチャンスと呼ぶのであれば、その通りでしょう。
しかし、打倒アメリカ代表。そしてWBW優勝となると……。
むしろ遠ざかってしまうのではないかと私は思ってしまいます。
それは、何故でしょうか。
この試合を通じ、アメリカは秀治郎選手達の生きた情報を得てしまうからです。
特に今回大会は野村世代にとって初めてのWBW。
挑戦者としてアメリカ代表に臨むに当たって奇策を用意している可能性が高い。
1度見せてしまったら次回以降は通用しないと考えるべきですし、そうなると新しい武器を生み出さなければならなくなります。
ですが、生半可なものではアメリカ代表には逆効果です。
以前、似たようなことをおっしゃられていましたね。
はい。
私がアメリカ代表戦に登板した際は、新球を携えて挑みました。
勿論、私は秀治郎選手達とは比べるべくもない投手だったので一概には言えませんが、相手もまた史上最強と謳われている当代のアメリカ代表ではありません。
それでも私の新球は即座に対応されてしまいました。
奇策にしても、いえ、奇策だからこそ相応のクオリティが必要不可欠です。
それはその通りだと思います。
ですが、未来のことは分かりません。
後2時間を切った決勝戦の結果もまた。
そうですね。
試合前から悲観的でいては、これから戦いに向かう選手達に失礼でした。
誠に申し訳ありません。
まあ、この一戦に懸かっているものは多いですからねえ。
余計なことまで色々と考えてしまうのも、無理もないことだと思いますよ。
とは言え、試合が始まったら純粋に応援しましょう!
ここで改めて、本日の決勝戦についておさらいをしておきたいと思います。
先程も申し上げた通り、先攻は日本代表。
後攻はアメリカ代表です。
日本代表の先発ピッチャーは野村秀治郎選手。
昨日の準決勝戦でロシア代表レナート選手と交錯して登板が危ぶまれていましたが、予定通り先発することが未明に日本代表公式SNSにて発表されていました。
色々な意味で注目の的となってしまっていましたからね。
日本に限ったことではなく、世界的に見ても。
それもあって、かなり早い段階でアナウンスしたのでしょう。
ロシア代表の行為に憤慨していた人々を多少なりとも落ち着かせるために。
いや、秀治郎選手が無事で本当に安心しましたよ。
血の気が引くというのは正にこのことかと思いましたね。昨日は。
一応、試合中は影響を感じさせないプレイを続けてはいましたけど……。
脳震盪ともなると症状が遅れてくる場合もありますからね。
大会医療班の評価でも試合後の病院でのチェックでも脳震盪には至っていないと判断されたということは、昨日の時点で発表されてはいましたが。
日本もそうですけど、大会運営も各国の政府も人心の慰撫に苦慮していますね。
かく言う私も、正直なところ腸が煮えくり返っていますけど。
昨日の危険なプレイは、さすがに野球という競技そのものに対する冒涜と捉えられても仕方のないレベルでしたからね。
更に言えば世界の趨勢を決めるWBW、それも決勝トーナメントの準決勝戦という重要な一戦で行われたことですから。
あのような真似を選手に実行させるような国家が万が一にも世界の覇権を握ってしまったら……と強い危機感を抱いた方も多いことでしょう。
実際、いくつかの国ではロシアに対する抗議デモの申請が何件もなされているようで何かしらの対応を迫られることになりそうです。
恐らくですが、アメリカ大統領による声明に追従する形になると思われます。
確か、昨日の内に日米首脳による緊急の電話会談が行われたんですよね?
はい。異例のことです。
本日行われる日本代表とアメリカ代表の決勝戦の勝者が、今回のような危険行為の再発防止に主導的に尽力することで一致したとの発表がなされています。
アメリカは自国が負けるとは露程も思っていないでしょうが……。
優勝国と準決勝国が協力すれば、大概のことは実現できるでしょうね。
あの疑惑についても話し合いがなされたんでしょうか?
どうやらそのようで、次回WBWまでに今大会に出場したロシア代表選手全員の徹底的な検査を第3者機関にて行うこと。
ドーピング検査の更なる厳格化なども検討されているようです。
成程。
ロシア側はそれに対して何かしら反応しているんですか?
とりあえず、声明は出しているようですね。
ただ、さすがにドーピングによる出場停止の記憶も新しい中でのこの事態ということもあって表立った反対はできないようです。
その代わりに、アメリカ代表選手や日本代表選手に対しても同様に第3者機関での検査を行うように求めるつもりのようです。
まあ、我が国はあの異常極まりないロシア代表に勝ちましたからね……。
超人に勝てるのは超人だけ。
自分達が疑わしいなら他国にも疑わしい選手はいるって理屈でしょうか。
実際、突出した成績を残す超人的な選手が近年何人も出現してはいますが……。
そうは言っても、ロシア代表選手とは違って出自も経歴は明らかですからね。
通常のドーピング検査で陽性になっていなければ、いくら第3者機関で検査したところで何か問題が出てくるとは思えません。
特に疚しいことがなければ進んで受け入れるのではないでしょうか。
それでロシアが納得するのなら、アチラの検査もスムーズに行きますからね。
と言うか、前の出場停止も似たような流れじゃなかったでしたっけ?
そうですね。
自分達がやっているのだから相手もやっているに違いないというのは、陥穽に陥りやすい非常に危うい思考です。
……しかし、世界の趨勢を左右する大会とは言え、全ての日程が消化される前に政治的なあれやこれが取り沙汰されるのは正直嫌になりますね。
少なくとも優勝国が決まるまでは、純粋にスポーツとして楽しみたいものです。
まあ、試合が始まれば自ずと目の前のプレイに集中できると思いますよ。
余計なことを考えている余裕は、アメリカ代表相手にはないでしょうから。
我々も余り本筋から外れた話はしないようにしましょう。
先発の野村秀治郎選手は――。




