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 番外編 花見と端午と鯉のぼり

番外編ということで、本編の流れとは関係ありません。

今日だけのお話です。


 

「花見じゃー!」

 ここはソーズの街がすぐ目の前にあるフィールド。

 GWということで、みんなで遅めの花見をしているところだ。

「流石は大自然が売りのソーズだ。こんな桜の木があるなんて」

 ボンズたちは大きな一本の桜の木が生えている小高い丘の上にいた。

 壱殿は日本酒の入った一升瓶を片手に、すでに酔っぱらっている。

「花見じゃー!」

「わかったってば! うるさいオヤジだな」

「なにをいうか! 旨い酒に綺麗な花があれば、それ以上なにがいるというのだ!」

「そうですか……」

 酔っ払いは放っておこう。


 ふと、目をやるとラテっちが桜を見つめている。

「大きい木だな」

「ぼんずー。さくら、きれーだね」

「ラテっちの帽子とおそろいの色だな」

「うん」

 2人で桜を眺めていると、「かたぐりゅま(肩車)して」とラテっちが云い始めた。

 ボンズはラテっちを肩車すると、今度は桜に近付いて欲しいと要求してきた。

 より近くで桜を見たいものと思っていたら――

「んにゅーー!」

 精一杯、腕を伸ばしている。どうやら桜が欲しいらしい。

「ハハッ、流石に届かないな」

 ボンズがラテっちに言い聞かせ、肩から降ろすと頭上から「おーい」と声が聞こえる。

 声のする方へと見上げると、すでにりゅうが桜の木に登っていた。


「わーい! 高いぞー」

「あっ、いいな~」

 楽しそうなりゅうの姿にラテっちは羨ましがる。しかし、ボンズは慌てだした。

「危ないから、早く降りて来なさい!」

 だが、りゅうは全く聞いていない。

「おいおい、落ちたらどうするんだよ」

「ボンズ。そんなに慌てないでSSスクリーンショットでりゅうを覗いてごらんなさい」

「なんで!? 云っている意味がわからんぞ」

「いいから。ほら!」

 ボンズはパチの云われるがままにSSを開き、りゅうを覗きこむ。

「あ! なんか昔のホームビデオを見るようで微笑ましい」

「そうでしょ!」

 しかし、何の解決にもなってはいない。

 そうこうしている内に、りゅうはスルりと桜の木から下りてきた。

「ほい」

 すると、りゅうは小さな桜の枝を2本だけ取っていて、それをラテっちとパチに手渡した。

「わーい。ありがとー」

「あら、気が利くわね。誰かさんとはえらい違いだわ」

「……桜の枝を折るのはマナー違反だと思うな……」

「うわー、台無し! 気が利かない上に幼児に嫉妬して、挙句にダメ出しするなんて、どうしてこう『生きててムダな男』なのかしら」

「そこまで云うか!!」


 パチは桜の枝をラテっちの帽子に飾ってあげた。

「にあう?」

「うん。可愛い」

「テヘッ!」

「それじゃ、私も」

 パチは髪の毛を手ぐしでかきわけ、自分で耳に桜の枝をかけた。

「これでよしっと。どう?」

「お~いいでちゅね!」

「似合うぞ!」

「そうでしょ~。子どもたちはわかっているわ。それにひきかえ……」

「コッチ見んな!」


 この雰囲気をブチ壊したいと思っていた時、なんともタイミングよく壱殿が話に参加してきた。

 しかし、残念ながら話の内容はボンズにとって助け舟とはならず、意味不明なことを云いだしたのだ。

「おい。若い男女がいればアレだよな。アレ!」

「アレってなんだよ?」

「楽しいゲームがあるだろ」

「ゲーム? え……人生ゲームとか?」

「アホか! 貴様の人生など既に失敗して終了を迎えているだろう! 『男女』で遊ぶゲームだ!」

「まだ失敗してねぇし、終わってもいないから!」

 しかし――なんのことだ? ゲームねぇ……

「男女」っていうのが、なにやらセクハラ発言を連想させるような気もする。

 でも、なんだろ?

 王様ゲームは古いか?

 合コン? 4人しかいない上に半分は幼児だけど。

 あ、合コンは「ゲーム」ではないか。


「あのさ……全然わからないんだけど」

「全く……まだわからんのか! 『見合い』だ!」

「うそだー!!」

 見合いがいつの間に「ゲーム」となったのか、いささか疑問だ。

 だが、壱殿はお構いなしに命令する。ある意味で王様ゲームだ。すでに王様が決まっているけど……

「ほら、貴様はそこに座れ! パチは向かい合って座れよ」

「なんと強引な……」

 結局、向かい合わせで座るボンズとパチ。

 それはいいとして、いつの間にかりゅうとラテっちまでもがボンズの横に座っているのが気になる。

「ほら、さっさとと始めろ」

 壱殿の無茶振りが続く。「始めろ」と云っても、何をすればいいのだ?

 それ以前に、やりたくはないぞ。

 すると――

「いやいや~、ボンズがこげなベッピンさんを連れてくるとはのぉ」

「え? 既に始まっている上に、りゅうが父親役なの? 明らかに無理があるよ」

「うちの()がおせわになってまちゅ」

「ラテっちがオカンかよ! だから無理あるって」

「しかし、ボンズのようなひきこもりのオタ警備で、本当にいいのかのぉ~心配じゃ……」

「なんてことを云うの! 言葉を選びなさいよ!」

「うっっちゅ!」

「どうした? ラテっちばーさんや」

「あ、父母ではなく『祖父母』の設定だったのね。もう無茶苦茶だ……」

「じびょうの、おだんご・のどつまりがあっか(悪化)しまちた」

「それ持病じゃない。突発性のものですから!」

「おぉ、せめて一目だけでもボンズと花嫁さんが並んでいるところをみたいものじゃのう」

「そうでちゅね。りゅうじいちゃん」

「もうやめーーーー! ストップ! もう中止!!」

『えー!』

「リアルなんだよ! 幼児は大人しくお団子食べていなさい」

 りゅうとラテっちは横でブーブー云っている。

 でも、放っておく!

「うーん」

 パチが悩んでいる。そういえばさっきから喋っていない。

「……どうした?」

「いや、もしも将来『ヒモ』と結婚する事になってしまったらどうしようと、思わず想像してしまって……」

「無駄なことはやめなさい」


 話題を変えようと、かしわ餅を用意するボンズ。

「ボンズ、お団子のおかわりか?」

「ん? これは花見用のお団子とは違うものだ。今日は『子どもの日』だからな。この日のためのお餅なんだぞ」

「今日はぼくたちの日なのか!?」

「そうだぞ」

「子どもはなんでも好きなことをしてもいい日なんだな!」

「お~、しゅごい()なんでちゅね! ぼんず、おちゅわり(お座り)!」

「おもちゃ買ってくれ!」

「おやつも~」

「こらっ! 『子どもの日』だけど、わがままを云っていい日ではないぞ! それにラテっち。『お座り』はないだろ!」

「おかちいでちゅね」

「おかしくない!」

 全く、パチの影響でも受けてきたのかな……


「まぁ、おもちゃではないけど、男の子にはプレゼントがあるんだぞ」 

 そういってボンズは武者兜を取り出し、りゅうに被せた。

「子どもの日といっても正確には『端午の節句』――男の子が健康に成長しますようにってお願いする日でもあるんだ。だから、その兜はお守りのようなものだ」

「そうなのか。ありがとな! ボンズ!」

「さぁ、被ってみせてくれ」

 早速りゅうは武者兜を被った。

「うん! かっこいいぞ!」

「すごいぼうち(帽子)でちゅ!」

「おぉ! よかったな! チビッ子!」

「素敵よ、りゅう」

「エヘヘ!」

 照れくさそうに喜ぶりゅう。

 りゅうがこのように子どもらしいところを見せてくれると、妙な安心感が生まれる。

 なぜなら、時折「子どもらしくない」一面を見せるから。

 いや、「子どもらしくない」というよりも、まるで「悟っている」かのような、表現しがたい一面を見せるからだった。


 喜ぶりゅうのおかげで空気が和む。

 そして、話題が完全に逸れて安堵するボンズがいた。

 のんびりと景色を眺めていると、ソーズの街門付近にNPCノンプレイヤーキャラクタープレイヤーが鯉のぼりを立て始めている。

「いいなー。こいのぼりだ」

「いいなー」

「へぇ、風情があるな。せっかくだし、近くまで見に行くか」

『うん!』


「近くで見ると結構大きい鯉のぼりだな」

「たくさんいるね!」

「そうだな」

 ラテっちが短い首を後ろに反らして、鯉のぼりを見上げている。

 頭の重みで後ろに倒るのではないかと思ってしまう姿は、笑いを誘う。

「りゅうも同じように見上げているのかな?」

 そう思った時には既に手遅れだった。

 りゅうがいない。


「うんしょ! よいしょ!」

 りゅうは鯉のぼりの支柱をよじ登り、一番上の大きな鯉のぼりに飛び乗ってしまった。

「なにをしているのぉぉ!!」

 風に揺られる鯉のぼりにまたがり、満面な笑みを見せるりゅう。

 その姿にラテっちは羨ましがり、ボンズは動揺し、「降りてきて!」と叫び続ける。

 ボンズの声を聞いたパチが様子を見に来た。

「あら、随分と楽しそうね」

「楽しくないよ! 危機だよ! 早く降ろさないと……」

「本当に心配性ね」

 すると、支柱と鯉のぼりを繋いでいた紐の結びがほどけた。

 緩かったのか、はたまた風のせいか、りゅうが乗ってしまったせいかはこの際どうでもいい。

 1つ云えることは、目の前でりゅうを乗せた鯉のぼりは、風にのってそのまま空へと飛んでいってしまったことだった。


 この光景に、流石のパチも顔が青ざめている。

「…………夢ね」

「頼むから現実逃避しないで!」

「いいなー! いいなー!」

「よくない! ラテっち、空飛ぶタタミを出してくれ!」

「ふみゅ! あれでもないこれでもない、あれでもないこれでもない……あった~! 【ぷかぷかたたみ~しかもにじょう(二畳)】」

「追いかけてくれ」

「らじゃ」

 3人はタタミに乗り、りゅうの後を追いかける。

 飛行速度はタタミの方が速く、すぐに追いつくことができた。

 近くまで飛ぶと――

「わーい!! すごいぞー!!」

 りゅうはメッチゃ喜んでいた。

「そこまで子どもらしくならなくても! なんでこんなにギャップが激しいかなー!」

「おう、ボンズ。すっごく楽しいぞ!」

「そんなこと云っている場合じゃないだろ! 落ちたらどうするんだ」

「大丈夫だって!」

「すでに大丈夫じゃないから!」

 それにしても、いくら小さい子どもとはいえ、鯉のぼりに乗れるか? 

 確かに、この世界に存在するものは重さに対して曖昧な部分もある。

 それは、だっこしても重く感じないのに、鎧の重さで雪に埋まるといった「この世界に存在するもの」に重さが適用されるものと考えていた。

 番外編だからか? 許されないぞ! こんな展開! 

 タタミを鯉のぼりのすぐ側まで寄せる。

「さぁ、飛び乗るんだ!」

「ふにゃっち!」

 ラテっちまでも鯉のぼりに飛び乗ってしまった。

「そっちじゃない! りゅうに云ったの!!」

「うわーい!」

 メッチャ楽しそう。2人仲良く鯉のぼりにまたがり、空を飛んでいる。

 しかし――パチから、

「ねぇ、このタタミってラテっちのスキルだよね……」

「…………聞きたくない」

「ラテっちがいなくなったってことは……」

「やめて! 聞きたくないー!!」

 案の定、タタミは急降下しだした。

『のあああああああああああああああああああああああ』

 絶叫するボンズとパチ。

『わっちゃー!!』

 りゅうとラテっちが鯉のぼりで追いかけようとするも、追いつけるわけもない。

 無理やり態勢を変えたおかげで、順調に飛んでいた鯉のぼりまでもが落ち始めてしまった。

 結局、みんな仲良く落下していったのである。


『うひょーー!!』

 落下しながらも全く緊迫感のないチビッ子2人に対して、人生を諦めかけ始めるボンズとパチ。

『終わった……』

 2人が覚悟を決めた時――

 突然、鯉のぼりとタタミの落下速度が緩やかになるのを感じた。

「へ?」

「え? え? どうして??」

 不思議がるボンズとパチ。不思議というよりも困惑している。

「間違いない! 落下速度が低下している」

 そのままゆっくりと降りていき、4人は無事に地上へと降りることができた。


「――どうなっているんだ??」

 何が起こったのか理解できない。

 ゲームの設定? ゲームでは高いところから落ちても無事なのと一緒なのか?

 などと、考えていたら――


「貴様ら、いったい何をしているのだ? ワシだけ残してつまらんではないか!」

「壱殿……まさかアンタが?」

「まぁなんだ……『次回をお楽しみに!』――という所だな!」

「なにそれ!?」

「そんなことよりも、続きだ! 花見と端午の節句は始まったばかりだぞ!」

『わーい!!』

 喜ぶチビッ子たち――『たのしかった! またとびたい!』とまで云う始末。

「勘弁して……」

 パチは精根尽き果てている。杖に身をゆだね、今にも倒れそうだ。

 ボンズも同様だった。

「……もう、疲れたよ。それより、もう危ないことしちゃダメだぞ!」

『はーい』

 あまり反省の色は見えないが、今日はこの2人が主役だから勘弁しておこう。


「あのー……」


 突然後ろから、NPCノンプレイヤーキャラクタープレイヤーが話しかけてきた。

「うわっ! ビックリした! なんですか急に……」

 ボンズが尋ねると――

「鯉のぼりを弁償してほしいのですが……」

「…………分割できますか?」

「できません」


本当はもう一話をはさんで投稿したかったのですが、こどもの日までに間に合いませんでした。そのため、番外編ですが一部だけ本編に影響する場面を出しています。次回も読んで頂ければ嬉しいです!

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