表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劣化コピーの召喚者ー追放から、積み重ねで最強になるー  作者: クロミ
第二章 最底辺からの出発

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

6

 翌朝、南門には六台の荷馬車が並んでいた。護衛は八人。大剣を背負った女や二本の短剣を腰に下げたエルフ、重装備のドワーフ。全員、場数を踏んでいるのが見てわかった。


 その中でセナだけが、明らかに場違いだった。古びた装備、安物の剣、若すぎる顔。


 何人かがセナを見たが、特に何も言わなかった。興味がないのか、どうでもいいのか…たぶん、その両方だった。




 街道へ出て半日後、最初の襲撃は突然だった。


 風を裂く音。


 矢が飛んできた。


「盗賊!」


 誰かが叫ぶ。


 護衛たちが即座に動いた。


 セナも剣を抜く…だが、体が止まった。


 ギルドの依頼とは違う。魔物を倒せば終わりじゃない。守るものがある。


 馬車


 商人


 他の護衛


 どこへ立つべきか、どこを見ればいいのか。何もわからなかった。


 その隙に、一人の盗賊が馬車へ向かう。


「邪魔!」


 横からの衝撃、セナの体が押し飛ばされた。大剣の女――レイアが、セナの前へ飛び込んでいた。重い一撃で盗賊が吹き飛ぶ。そのまま次の敵へ向かう。振り返りもしない。セナは息を呑んだ。今、自分は完全に足を引っ張っている。胸の奥が冷える。周囲を見ると、エルフの男が木の上から矢を放っている。ドワーフが馬車の側面を固めている。全員、自分の役割を理解して動いていた。だがセナだけが、何もできていない。




 そのとき、目の前に、大柄な盗賊が現れた。斧を持っているその男と目が合った。それは紛れもなく人間だった。


 ゴブリンじゃない。


 野犬でもない。


 人間。


 セナの喉がわずかに鳴った。剣が、重い。この剣を、人へ向けていいのか…そんな考えが、一瞬だけ頭をよぎる。次の瞬間、斧が振り下ろされた。つい体が動いた。


 考えるより先に。


 横断歩道で飛び出したときと、同じだった。


 斧が地面を砕くき、セナは横へ跳んでいた。その瞬間、レイアの足運びが脳裏に浮かぶ。


 低い重心。


 踏み込み。


 セナは同じように動いた。完璧ではない。でも、一瞬だけ懐へ入れた。


 剣を振る。


 盗賊の脇腹を浅く裂いた。


 男が怯む。


 だが倒れない。


 まだ立っている。


 セナは次の一撃を出せなかった。躊躇した。その瞬間、風切り音。矢が盗賊の喉を貫いた。


 男が崩れ落ちる。


 木の上のエルフ――フィンが、次の矢を番えていた。




 戦闘が終わったあと、セナは自分の手を見ていた。少し震えている。人を傷つけた。それが正しかったのか、まだわからない。


 でも、あのとき動かなければ、守れなかった。それだけは確かだった。




 近くで呻き声がした。そちらを見ると、御者の腕に矢が刺さっている。血が流れていた。


 セナは反射的に膝をついた。そして魔力を流す。教会で覚えたヒールは包み込むように。押しつけるのではなく、流し込む。


 淡い光が滲んだ。


 御者が息を呑む。


「……痛みが引いた」


「完全には治せません」


 セナの額から汗が落ちた。魔力消費が多い。


「でも、血は止まります」


 御者はしばらくセナを見て、小さく頷いた。




 レイアが横を通り過ぎる。


「次は最初から動け」


 短い声だった。責める声ではなく、事実だけを置いていくような声。


 セナは頷いた。


「はい」




 二度目の襲撃


 三度目の襲撃


 少しずつ、セナは動けるようになっていった。


 フィンの視線の動かし方。ドワーフの立ち位置。レイアの踏み込み。


 全部を見る。


 全部を体へ刻む。


 最初はただ真似るだけだった。でも繰り返すうちに、少しずつ意味が見えてくる。なぜそこへ立つのか。なぜそのタイミングなのか。戦場全体が、少しだけ見えるようになっていた。




 夜営の焚き火の音が静かに響く。セナは毎晩、火を見ながらその日の動きを反芻した。


 剣を受けた角度。


 踏み込み。


 呼吸。


 何ができて、何が足りなかったのか、考えているうちに、火の暖かさが少しだけ心地よく感じられる瞬間があった。それが安心という感情なのかは、まだよくわからなかった。




 その夜、いつものように焚き火の前で今日1日の動きを反復していると、その隣へフィンが腰を下ろした。


「最初の日、お前ひどかったな」


「自覚はあります」


 フィンが笑う。


「今は少しマシだ」


 焚き火が爆ぜる音がして、しばらく沈黙が続いた。

それからフィンが言った。


「最近、深淵の王の軍勢がまた国を落とした」


 セナは顔を上げた。


「ローエンの西側だ。焼かれた村から難民が流れてきてる」


「……本当にいるんだな」


 気づけば、そう口にしていた。


 フィンがちらりとセナを見る。


「噂だと思ってたのか?」


「どこか遠いところの話みたいだった」


 フィンは焚き火を見つめたまま言った。


「俺も最初はそうだった。でも焼けた村を見ると、嫌でも現実になる」


 火が小さく爆ぜた。


 セナは炎を見つめた。


 深淵の王。


 まだ顔も知らない。何者かも知らない。でも確かに、どこかで人が死んでいる。街が壊れている。その現実だけが、焚き火の熱と一緒に胸へ落ちていった。

お読みくださりありがとうございます!


「面白そう!」

「もっと読みたい!」

「応援してるよ!」


と少しでも思ってくれたら↓の★★★★★を押して応援していただけると嬉しいです!

ブックマークもお願いします!


あなたの応援が、更新の原動力になります!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ