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足が痛かった。
今の瀬名 煌にとって、確かなものはそれだけだった。
空は、紫と金を溶かし合わせたような奇妙な色をしていた。雲ひとつない。風もない。どこまでも続く荒野だけが、ただ静かに広がっている。
枯れた草が足首に絡みつき、乾いた土が靴底にまとわりつく。歩くたびに、擦れた足の裏がじくじくと痛んだ。
どこへ向かっているのか。
なぜ歩いているのか。
煌自身にも、はっきりとはわからなかった。
ただ、立ち止まったところで何かが変わるわけではない。だから歩いていた。
頭の中は、空っぽだった。
怒りも、悲しみも、恐怖も、どこか遠くへ置き去りにしてきたようだった。胸の奥にあるのは、薄い霧のような感覚だけ。自分が本当にここにいるのかさえ、少し怪しい。
煌はふと、自分の手を見下ろした。
十七年間ずっとそこにあった、見慣れた手。
特別な力が宿っているわけでもない。何かを成し遂げた手でもない。ただの高校生の、普通の手だった。
そのとき。
視界の端で、白い光が弾けた。
――タイヤの軋む音。
――誰かの叫び声。
――青い信号。
記憶が、断片となって脳裏をかすめる。
横断歩道。飛び出した小さな影。迫ってくる車。考えるより先に、体が動いていた。
怖くなかったわけじゃない。
間に合わないかもしれないと思った。
それでも、止まれなかった。
ただ、そうするしかなかった。
それだけのことだった。
煌は目を細め、荒野の向こうを見た。
記憶の続きを追うのをやめた。今はまだ、それでいいと思った。
遠くに、橙色の灯りが滲んでいる。
街かもしれない。
そこまで行けば、少なくとも何かはある。水か、食べ物か、人か。あるいは、また別の絶望か。
それでも、何もない荒野よりはましだった。
煌は痛む足を引きずりながら、灯りの方へ歩き続けた。
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