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・月下の旅路 - 旅仲間→スパイス -

「お婆ちゃん、もうだいぶ遅いけど紹介したい人がいるんだけど、いいかな……?」

「今? こんな時間に……?」


「そう、こんな時間だけど僕の依頼人を紹介しようと思って。……でもお婆さんが望まないなら、僕は彼女をここに招かない」

「気になるに決まってるわ。貴方の依頼人は、今どこにいるの? どうやってここに呼ぶのかしら?」


「うん、僕の依頼人の名前はフロリー・ロートシルト。旅の間、僕たちとずっと一緒にいたんだよ」

「まあ……まあ怖いわ~、ふふふっ。あ、あら~……っ?」


 あちらの世界から、フロリーさんは僕に自分自身の返却を要求した。

 すると彼女は薄紫に輝く蝶となって馬車室の中に現れ、そして蝶は正装したフロリー・ロートシルトの姿となった。


「まあ……っっ?!!」

「フロリー・ロートシルトともうします、ローズウッド夫人。このたびはわたしとナユタ様のために、馬車まで出して下さる寛大なご厚意に、心より感謝いたします……」


「まあっ、まあまあまあっっ、素敵!!」


 普通ならひっくり返るような驚きの事態を、ローズお婆ちゃんはサーカスでも楽しむかのように手を叩いて喜んでくれた。


 刺激的なハプニングが旅を思い出深く彩る。

 僕たちにとっては必死なこの危険な旅も、彼女にとっては旅を彩るスパイスだった。


「さて……。危険な旅に巻き込む以上は語らなくてはなりません。聞いて下さいますか、わたしたちの事情を……」


 フロリーさんはそう前置くと、母の他界から始まる己の身の上話と、僕と出会ってからの一連の出来事をお婆ちゃんに語った。


「まぁ~っ、許せないわ~、そのエドマンドって男っ! 男ってっ……男っていっつもそうっ! そういう男って、女をなんだと思っているのかしらっ! そもそも、女が財産を相続できないだなんてっ、そんな法律おかしいじゃないの~~っっ!!」


「お、お婆ちゃん、ちょっと怖いよ……落ち着いて……」


 お婆ちゃんは同じ女性としてフロリーさんの境遇に憤慨してくれた。

 ただでさえお喋りなお婆ちゃんだから、こういった身の上話がとても好きだったみたいで、お婆ちゃんは眠くなるまでフロリーさんと語り明かしていた。



 ・



 ローズお婆ちゃんが眠ると、御者席のお兄さんが口を開いた。


「ナユタ様もどうかお眠り下さい。王都まで私が責任を持ってお送りいたしますので。そしてフロリー・ロートシルト様のご実家を取り戻した暁には、ぜひフロリー様と当ホテルをご利用下さい」


 話を聞いていた御者さんも感情的になって、ロートシルト家を乗っ取った悪者たちに憤慨してくれた。

 彼は僕たちの事情に無関心かと思っていたから、彼の善意の言葉が嬉しかった。


「ところで御者さん。このお婆ちゃん、何者なの……?」

「それは私の口からは伝えかねます。1つ言えるとすれば、婦人がとてつもないお金持ちであることくらいしか」


「それは説明されなくてもよくわかっているよ……」


 フロリーさんの様子を見てみると、喋り疲れたのかもう眠ってしまっている。

 鬱憤を吐き出せたからか、なんだかいい寝顔だった。


「しかし許せませんな、そのエドマンドという男……っ。喪が明ける間もなく、内縁の妻を連れ込むとはっ! そんな男、天罰が下ればいいっ!」


 ローズお婆ちゃんと同じようなことを言う御者さんに僕は笑い、ご厚意に甘えて眠ることにした。

 エドマンド一家のような悪党もいれば、その悪行に憤慨し、馬車まで出してくれる立派な人たちもいる。


 1度は人間に絶望した僕だけど、彼は僕たちを裏切らないと、そう信じてみることにした。


『安心なさい。もし怪しい動きがあれば、私がどうにかするわ』


 いや……!

 そう言われるとかえって眠れなくなるから、余計なことしないで、リアナ様……!


 僕のことはいいからお身体をもっと大切にして!


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