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・月下の旅路 - エウロパ→さよなら -

 道行くおじさんに『この町で一番良い宿はどこ?』と聞くと『それはもちろん、ホテルエウロパだよ。あそこは仔牛のビーフシチューとミルクパンが絶品なんだ。また食べたいな』と、教えてくれた。


 お値段も町一番だそうなので、ローズお婆ちゃんもきっとそこだろう。

 僕は宵闇の街を歩き、やがて本格的に暗くなってきた頃に、3階建ての見上げるほどに立派な宿屋を見つけた。それがホテル・エウロパだった。


「失礼ですがお客様、当ホテルにどういったご用向でございましょう」

「ここにローズという名前のお婆さんは泊まっていますか?」


「……さあ、どうでしょう。宿帳を調べれば、すぐにわかることですが」


 僕はシャツとズボンだけで他はあまり飾り気のない質素な身なりなので、ホテルのエントランスに入るなり宿のお兄さんに怪しまれてしまった。


 お兄さんは言葉とは裏腹に宿帳を調べもせず、腕を組んで僕のことを観察し始めた。

 どう説得しようかと僕の方も腕を組んで、お兄さんと見つめ合いながら悩んだ。


「あら~……? あらっ、ナユタくんっ!? どうしたの~!?」

「あ、お婆ちゃん」


 けれどちょうどそこに、ローズお婆ちゃんが通りすがって僕に気付いてくれた。

 とても嬉しそうな顔をしてくれる分、僕は申し訳なくなった。


「手間をおかけしてごめんなさいね。この子の身分は私が保証します。さあ、こちらへどうぞ、会いにきてくれて嬉しいわ~」

「ごめん、お婆ちゃん……。実は僕……お別れを言いにきたんだ……」


 エントランスホールのソファー席に移り、明日の馬車に乗れないことをローズお婆ちゃんに伝えた。

 お婆ちゃんはとても寂しそうな顔をして『そう……』とだけつぶやくと、続けてため息を吐いてしまった。


「僕、どうしても今すぐ王都に行かないといけなくなったんだ。僕の依頼人は、とても悪いやつらに今脅かされていて、僕はその人からの依頼を果たすために動いている」

「まあ……そう、だったの……」


「僕は王都にお婆ちゃんがいるって言ったけれど、あれも嘘なんだ。疑われないようにするために、それらしい旅の目的を作って、普通の子を演じていただけなんだ……」


 そう謝罪してもローズお婆ちゃんは驚かなかった。

 僕の嘘なんてとっくにわかっていたかのような、やさしい微笑みを浮かべて、見ず知らずの僕の手を取ってくれた。


「夜が明ける前に、王都に行ければいいのね……?」

「え、うん。どうにかして歩いて行くつもり」


「どうして急ぐの?」

「悪いやつらに見つかってしまったんだ。やっつけたけど、朝の馬車を待っていたら、新たな追っ手がかかるかもしれない」


「まあ、大変……。それで、それはどんな依頼なの~?」

「うん、詳しくは言えないのだけど……。僕の依頼人は、生まれ育った家を詐欺師から取り返したいと、そう言っていた」


 ローズお婆ちゃんからすれば気づくすべもないけれど、リアナ様にとってもフロリーさんにとっても、このお婆さんは同じ時間を過ごした旅仲間だ。

 だからこれくらいは伝えてもいいかな、とそう思った。

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