会議は終わった。後は人間を誘い出すだけだ
「先ずは皆に集まってくれたことについて感謝しよう」
魔王が貴族達にそう告げた。
その声でここに集まった貴族達の視線は奴に注がれることとなった。
「今回ここに集まってもらったのは知っての通りこれからの魔王軍の事について話し合うためだ。詳細についてはそちらにおられる軍師様が既に考えてくれている」
そう口にした奴は俺に視線を向けた。俺から話せということか。
「紹介されたシェルヴィだ。よろしく頼む」
先ずは貴族達の顔を見てそう自己紹介しておく。俺の名前を知らない奴というのは多いだろう。
ここにいる奴で俺の正体を知っているのはユリ達を除けば魔王だけだ。
「まず初めに謝っておくが俺の本職は別に軍師ではない。だからこそ今から話すことは見当違いの事という可能性も無きにしも非ずというやつだ」
「魔王様は確かに軍師様と口にしておられたが?」
俺を見て怪訝な顔をする貴族の男。
「それは魔王が勘違いしているだけだ。俺は軍師ではない。確かに何度か作戦の提案をした事はないこともないが、それでも俺は軍師ではない」
「作戦の提案というのはどんなものを?」
「そんな大したものでは無い。以前ダークエルフの森を防衛する時に少し助言した程度だ。人間達の動きを読みそれを先に潰す。それに必要な助言を少しばかりな」
俺達は人間達と正面からぶつかれば勝率がそこまで良くないとの話だったのでそれを避けるように動かそうとしたそれだけだ。
「なんと…あの時の作戦を考えた軍師様だったのですか…」
しかし貴族は俺の言葉を聞いて目を見開いていた。
「貴殿があの防衛作戦を提案したと?貴方の活躍は聞き及んでおりますよ軍師殿。何とも素晴らしい作戦だった、とか」
「そんなに素晴らしい作戦だったとも思えないがな」
「いえいえこちらの損害をほぼ出さずにあの人間軍の迎撃を行える者など他にはおりますまい。四天王達もあの作戦は天才的だった、とそう評しておりますよ」
「そうか。なら有難く受け取っておこう」
実際のところそんなに凄い作戦だとは思えなかったが、そこまで評価されているのであれば素直に受け取っておこう。
「そして、軍師殿。此度はどのような作戦を考えているのですか?」
「それなんだがな。まずこれを見てくれ」
両脇に控えたユリ達に目をやる。それを受けたユリとミーナは頷いてから、事前に話し合っていた通り机に地図を広げ始める。
「我ら魔王軍と人間達。その彼我の差というのは決して無視できるものでは無い」
それは俺が今まで感じてきた通りのことだ。俺がこの世界に帰ってきてから見て思ったのだが、今の魔王軍が人間達に勝てるようには到底思えなかった。
なら奴らに勝つためにはどうするか。答えはひとつだ。
「力押しで勝てる見込みがないのであれば策で勝つしかないだろう」
貴族達の顔を見てそう告げる。
俺が出れば力押しで勝てるがそれではつまらん。
「そして策を考えるのだが、大前提として不利な場所で戦っても仕方ない。そこで奴らをこちらが戦いやすい場所へ誘導する」
「と、言いますと?」
「奈落の谷だ」
一人の貴族の言葉に答える。この周辺には奈落の谷と呼ばれる左右を、光を遮るほどの断崖絶壁に囲まれた谷がある。勿論上側を陣取ることが出来ればこちら側は、ある程度一方的に攻撃し放題だ。
更にその上そこには魔物がいてこちらにも地の利がある。これ以上ない立地と言える。
「この谷に軍を投入し人間達を一網打尽にする」
「可能でしょうか?」
「可能だ。何の問題もない。むしろこれで負けるのであればどのようにして勝つつもりだ?地の利があれば多少の地力の差など些事だ」
どう考えても上と下では上の方が優位だ。これで負けるのであれば何をしても勝てないだろう。
「それは…」
「上から岩を落としてもいい。魔法を使ってもいい。誘導できたならば後は煮るなり焼くなり何なりということだ」
「…失礼致しました。そうですよね。流石はシェルヴィ様。指摘する点のない作戦でございます」
「何、普通のことだろう。地の利を得るというのは」
そう告げてから魔王の方に目をやる。
「魔王。それで今回の作戦に投入可能な戦力の程は?」
「はい。1000程の兵は…」
「いや、3000だ」
「え?」
魔王が間抜けな声を出した。
「3000だ、そう言った。1000程度で何をするつもりだ?」
「軍師様…それは…」
「俺が3000と言ったのだ。3000投入出来るようにせよ」
3000でも少ないくらいだがここは一先ず3000にしておく。
「俺たちのやるのはままごとではない。戦争だ。1000程度の兵力で何をするつもりなのだ?チャンバラごっこか?貴様の冗談はつまらん。人間軍を殲滅できる量を投入せよ」
奈落の谷。その全長を考えるのならばその程度が丁度いいはずだよ。
「貴様らが何を考えているのかは知らないが、俺はどんな雑魚とて全力で狩りに行く。その意味が分からない訳では無いだろう?」
そう言って貴族達を見回せば全員目を見開いていた。
何かしら感じるものがあったのだろう。
「理解したのならば全兵力を動かせるようにせよ」
未だに目を見開いて俺の顔を見続ける魔王を見た。
「は、はい…」
「話を理解してくれたようで助かるよ。他に何か言いたいことのある者はいるだろうか?」
俺は念の為この会議室に集まった全員の顔を見た。今回俺が主導権を握っているとはいえ何の意見も聞かないと言うつもりは無い。
「ないのならばこの方向でより詳細に作戦を立てていくが構わないだろうか?」
もう一度そう問い質してみたが誰も声を出さない。
それどころか俺を見て固まっている。
「これが…今の軍師様の貫禄…」
そうやって俺を見ていた貴族の1人が呟いた。
「有無を言わさず納得せるだけの緻密な作戦。何より絶対に成功させてくれるという確信…」
また他の誰かが呟いた。
「これは…勝利の神様ですね…私は今目の前に神を見ている…」
その男は感動に涙を流してただ俺を見ていた。
「今こそ我ら魔族が世界の支配権を略奪する時!皆の者!気合いを入れよ!」
そしてそれを纏める魔王と、それにおぉ!!!と声を上げて賛同する貴族達。この会議室は歓声に包まれたのだった。
遅くなってしまいましたが誤字報告ありがとうございます。




