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【7】黒ずきんはオオカミさんを美味しく頂きました

今回も若干R15です。苦手な方はご注意ください。

 ある日気づいたら、オオカミさんと同じ狼の耳が頭に生えていた。

 ようやくオオカミさんと同じになれたのに、嬉しくなかった。


 だってオオカミさんの心は、ぼくにはない。

 狼族になれたところで、愛されない。

 こんな酷いことをオオカミさんにしたのだから、当然だ。

 今更虚しさがこみ上げてきて、全てがどうでもよくなった。

 

 オオカミさんを逃がそうと思った。

 そして、死のうと思った。

 オオカミさんを傷つけた自分が嫌いで、オオカミさんをこんなぼくから解放してあげたかった。

 生きていればぼくはまた、オオカミさんを繋ごうとするから。


 壁に付けられた鎖の先を外す。

 これでオオカミさんは、逃げられる。

 寝てるオオカミさんを置いて、黒いずきんを被り森へ出かけた。


 ――オオカミさん、大好きなのに酷いこといっぱいしてごめんね。

 心の中で謝る。

 後悔するのはわかってたけど、止められなかった。

 直接謝りたかったけど、そうすればオオカミさんはぼくを許してしまいそうだったから、口にはしない。

 恨んで、嫌ってくれたらそれでいいと思う。それだけのことをぼくはしたから。


 罠がいっぱいしかけられた、森の中。

 誰もオオカミさんに近づかないようにというよりも、オオカミさんが逃げられないようにしかけてあった。


 この時間のぼくは、普段なら買い物のために東の方の街へでかける。 

 それを避けて、賢いオオカミさんは西の街へ行くだろう。

 そのルートだけ、罠を一つずつ解除してく。

 怪我をさせる類のものはない。

 ただ、麻痺したり動けなくなるだけのものばかりだ。

 

「お前、まだいたの」

 罠の一つに、あの雄オオカミがひっかかっていた。

 凝りもせずに何度も来る。

「シスカはどうした」

「だから、オオカミさんを名前で呼ぶなって、何度も忠告したよね?」

 本当に学習能力がないオオカミだ。


 しかも引っかかるなら別の罠もあるだろうに、古典的なエサで釣るタイプのやつに捕まっている。

 これオトリの罠で、本命は別のやつなんだけど。

 勘がいいと思えば馬鹿だったりして、この雄オオカミはよくわからない。


 もう薬を作る必要もないし、オオカミさん名前呼びした罪で消してやるところなのだけれど、今回は見逃してやることにした。

 雄オオカミを逆さづりにしてるロープを、いつも持ってるナイフで切ってやる。


「ここで待ってたら、オオカミさん来るよ。そしたら連れてっていい」

「……なんでそんな事を俺に言う」

 何かの罠かというように、雄オオカミは尋ねてくる。


「警戒しなくてもいいよ。もう解放してあげることにしたんだ。でも、ここでぼくに会ったことは言わないでね。色々面倒だし、言うならここで始末するよ」

「……わかった」

 雄オオカミは素直に頷く。

 動物的な勘で、ぼくの方が上位で強いと理解してるんだろう。

 そのわりには何度も歯向かってくるけれど。


 オオカミさんもこういう真っ直ぐな奴が相手なら幸せになれるんだろう。

 まぁ、それを許せるか許せないかは別の話なんだけど。

 そんな事を思いながら、ぼくは少し時間を潰してから、家に戻った。



●●●●●●●●●●


 オオカミさんは、まだ家にいた。

 ご丁寧に、壁に鎖を繋ぎなおして。

「何で……逃げないの?」

 オオカミさんは、ぼくの言葉にそんな事すら思いつかなかったという顔をした。


「逃げてよオオカミさん。抵抗してよ! なんで受け入れちゃうの! ぼくはオオカミさんにこんな……酷い事をしたいわけじゃないのに!」

 自分から逃がすなんてできなかったから、こんなことをしたのに。

 逃げてくれないと、ずっとオオカミさんを縛り付けて、不幸にしてしまう。

 そう訴えているのに、オオカミさんは首を傾げる。


「私はアウルのものなんだろう? アウルがそう言ったんじゃないか」

「っ!」

 オオカミさんは、それでいいというように口にする。

 何もかも諦めてしまってるかのような言葉に、そんな事をオオカミさんに言わせてしまっている自分に、嫌気が差す。


「ぼくは……こんな風にオオカミさんを自分のモノにしたかったわけじゃない。ちゃんとオオカミさんにぼくの事好きになってもらいたかったんだ!」

 叫べば、オオカミさんは目を丸くした。

 今までずっと溜め込んでた想いを吐き出して。

 見当違いな怒りをオオカミさんにぶつけて。

 格好悪いことこの上なかった。


「もういいよ、オオカミさん。解放してあげる。好きなように生きてよ」

 鎖を外す。

 もうオオカミさんは自由だ。

 オオカミさんがどこかへ行ってしまうその瞬間を見たくなくて、自分から家を出た。


 オオカミさんと初めて出会った、あの大岩のところにでも行こう。

 そこで全てを終わらせるつもりで一歩を踏み出したら、ドンと背中に衝撃が走って。

 思わず振り返ったら、口を柔らかいもので塞がれた。


 すぐそこにオオカミさんの顔。

 ちゅっと軽い口付けだったけれど、それはまぎれもなく、オオカミさんからのキスだった。

「……アウルは、私が好きなのか」

 嬉しそうな顔でオオカミさんが聞いてくる。

 そう確認されて、顔が赤くなるのが自分でわかった。

 何か言い返さなきゃと思うのに、オオカミさんからキスされたという事が頭の中をくるくると回って、考えることの邪魔をした。


 オオカミさんの瞳には、ぼくが映っていて。

 ぼくの事を愛おしく思っているような色があった。

 幼い頃と同じように、でも少し違う熱を帯びた視線で見つめてきて。

 トクトクと胸が苦しくて戸惑っているうちに、舌をねじ込んでくる。

 ぼくが教えたやり方なのに、オオカミさんはぼくよりも上手くなっていて。

 いいように翻弄される。


「……オオカミさん?」

 戸惑ったぼくの声に、オオカミさんは笑って。

「私もアウルが好きだ」

 そう言ってくれた。


 オオカミさんは、ずっとぼくにオオカミさん以外の好きな人がいると思っていたみたいだった。

 相手は人間だと思い込んでいて。

 それで身を引いたつもりだったらしい。

 小さな頃からずっと、ぼくはオオカミさんに好きだと言い続けていたのに、それが自分の事だとは思いもしなかったようだ。


「逃げなかったんじゃないんだ。食べられてもいいと思ったからここにいた。それにアウルに好きな人がいても、私がアウルのモノなら関係なく側にいられるだろう?」

 オオカミさんは、そんないじらしい事を言う。


 オオカミさんは、ぼくのことをちゃんと想っていてくれた。

 だから、ぼくのために身を引いた。

 ぼくと同じように、オオカミさんも寂しいと思っていてくれた。

 ぼくだから、逃げないで側にいてもいいと思っていてくれた。


 ……ちゃんと、ぼくの想いは伝わっていた。

 真っ暗闇でどうしたらいいかわからない迷子のようだった心に、温かな光が灯って。

 抑えきれないオオカミさんへの想いが、次から次へと溢れて泣きそうになる。


「っ、オオカミさんはずるいよ……」

 いつだってぼくが何かを仕掛けてるつもりなのに、気がつけばぼくの方がオオカミさんに囚われて、離れられなくなっている。

 分かり辛いけれど深い愛情をくれるから、手放したくなくなる。

 初めて出会った日に何度も振り向いて。

 着いてくるまで、待っていてくれたように。


 オオカミさんがぼくのずきんに手をかけてくる。

 狼の耳を見られるのが嫌で、とっさにその手を止めた。

「アウル、私はどんなお前でも好きだよ。だから、もうこんなもの被らなくていい」

 優しく名前を呼ばれて。

 覚悟を決めてずきんを外せば、オオカミさんが驚いた気配がした。


 今までの研究の事も、自分が狼族になるためにオオカミさんに色々したって事も、全部話した。

 狼族になったところで、オオカミさんの気持ちがなければ意味がないし、例え気持ちが通じ合った今でも、鎖で縛り付けて酷い事をした事実は変わりはしない。

 許してもらえるなんて思ってはいなかった。


「オオカミさん、こんなぼくの事嫌いになったよね」

 いっそ嫌われたいと思ってたくせに、いざとなると軽蔑されるのが怖かった。

「嫌うわけないだろう。アウル、愛してる」

 オオカミさんの口から出るだろう非難の言葉に耐えるように、俯いて唇をかんでいたら、思いっきり抱きしめられて口付けされた。


 心臓が壊れるんじゃないかってくらいに、ドキドキして。

 これは夢なんじゃないかって思った。

 戸惑うぼくの唇を、オオカミさんの舌がこじ開けて。ぼくを求めるようにうごめく。好きだって気持ちが伝わってくる、情熱的なキスに目の前がちかちかとした。


「ぼくも……オオカミさんが大好き。愛してる。ずっと好きだった」

 口付けに答えて、そう告げれば。

 オオカミさんがたまらないというような目で、ぼくを見つめてきて。

 そんなオオカミさんを、いますぐに愛したくなった。


「オオカミさん、食べていい?」

「優しく……な?」

 お願いすれば、オオカミさんは少し照れたように目元を染めてそんなことを言う。

 オオカミさんは、本当に爪が甘い。

 そんな風に煽られたら、優しくできるわけがない。


 可哀想なオオカミさん。

 こんなぼくに捕まって、食べられて。

 でも絶対に、ぼくが誰よりもオオカミさんが好きだから。


「大切にする。もう離さないから」

 そう言って抱きしめれば、オオカミさんは幸せそうに笑ってくれた。

 ちなみにクランツは森で放置。騙されたのかと思って家へ向かえば、アウルが邪魔されないように仕掛けを戻した罠につかまり窓の外につるされて、そこで見ちゃいけない何かを目撃。

 オオカミさんに手を出さないという条件で、アウルからいらなくなった人間を狼族にする薬を譲りうけ、傷心のまま嫁探しの旅へ出かけたようです。


 あざと腹黒ヤンデレショタが、薬盛ったり首輪つけたり監禁したりと、色々やらかした感満載ですが、重ね重ねこんなんですいません。反省してます。

 最後まで読んでいただきありがとうございました!

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