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ヤリナオシ 〜ヘイセイ32 世にも可笑しな異世界召喚〜  作者: ジャク


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chapter 11


 間野と俺は日堂たちと合流すると、一緒に待ち合わせの教室に向かった。教室に着くと先にもう友海や桐田たちがついていて、気まずさを感じながら足を踏み入れる。

それから俺は、当たり障りのないような場所にまた位置取って、適当な席に座ってクラスのメンバーが揃うのを待った。



「なるほどな」

 俺は椅子に座りながら背もたれに肘をかけ、ワイワイと騒ぐクラスの奴らを見て呟く。

「大変だったよー」

 友海は言う。

 あの教師の話を聞いた後、間野や日堂、桐田、角屋などのX組の一部の面々は話し合いを行い、またバグ修正に赴くことになった。

 いつも通り、学校周辺の場所を歩き回り、人影を見つけ次第、戦闘を行う。だが今回は一つ試してみようと決まったことがあった。

 それは、今回のバグ修正では、学校内も探索してみるということ。

 この世界に来てから基本的に話を聞くか、待ち合わせの場所とするか、という大してよく知らなかったこの学校をちゃんと調べてみて、ここは安全地帯なのか?それともここでも戦闘が行えるのか?を調査するというのも今回の探索の目的だった。

 始めは学校周辺の探索から行い、角屋がクラス全員に送ったメールにもあった、情報の共有と全員で夕食を食べるという用件もあるため、学校へと移動し、学校内を探索してからクラスの他のみんなと合流する、という流れになっていたそうだ。

 学校に到着してからは、何人かに分かれて校内を探索、人影を見つければ戦闘を行ってみる、ということになり、間野は日堂、里田とともに校内を回っていた。そこで人影を見つけ、戦闘を行ってみたところ混戦状態に陥り、他の2人とも逸れて逃げていた。

 ということらしい、ということを、たまたま近くにいて俺と話をしていた友海から聞いた。

 X組のアイツらも、誰かが先導をして多少結束をしながら動いているんだな。


 教室の角付近を見ると、また桐田たちがバカをやっている。日堂も矢田も乗り気だし、谷田や実野まで参加している。

「懲りないね、あの人たちも」

 友海はしょうがなさそうに、でも楽しそうな表情でバカをやっている男子たちを見つめていた。

 よくよく思えば、友海と直接話をするのは久しぶりだった。それにこの世界に来てからでは初めてになる。

 そして友海から話しかけてきたのだ。

「そういう生き物ですから」

 俺はため息混じりに言った。

 だいぶ久しぶりの直接の会話だし、何より、前科があるため尚のこと緊張する。そういう雰囲気を出さないように、俺は平静を装って喋っていた。

「宗は、大人だよね」

 友海からそう言われ、俺は彼女の方へ顔を向けた。

「え、そうか?」

「うん、そう。出会った時からね」


(出会った時か…)


 俺は初めて友海と話した時を思い出した。



―――



 初めての登校。体育館の前にはクラス表が張り出されていた。


1年B組 田中 宗


 輝かしい日差しに照らされた自分の名前を確認して、俺は入学式へと向かう。新しい始まりっていうのは、何かが起こる根拠などなくたって人の胸を躍らせる。

 期待と不安を抱えて口を噤んだままの入学式は長いとも短いとも思わなかった。

 式後、列を成して教室に移動していく各クラス。

 教室に入って、黒板に貼ってある座席表から自分の席を探して座る。4階にある教室は眺めが良く、日当たりも良さそうだ。

 机にはさまざまな書類。重なった書類の一番上をチラッと確認して、俺は前に視線を向けた。

 視界に入る座席表。色んな名前が書かれていて、それと照らし合わせるように周りを見るとそれはそれは色んな顔をした色んな奴がいたものだ。

 知り合いなんていなかったから、緊張が心の大半を占めていた。だけど、根拠もない何かにちょっと期待する自分もいた。


 様々な顔ぶれを見ていくなか、ふと気を惹かれた女子がいた。

 前原友海。

 それがアイツを初めて見た瞬間だった。


 一目惚れ…、ってほど大層なもんじゃないけど、綺麗で可愛い顔だなって思った。くっきりとした二重の中に込められた黒く透き通った瞳。その目を見た瞬間、一気に引き込まれた。


 それから数日がたち、気になる気持ちも徐々に大きくなりつつあったある日。

 昼休み、俺は日堂とともに昼食をとっていた。俺の席と隣の席を合わせて、俺は持ってきた弁当、日堂は購買の弁当を食べている。日堂と出会ってからも日が浅かったが、会話は絶えなかったし、騒ぐというよりリラックスできて落ち着きがある、楽しい会話だった。

 そんな昼食の途中。俺たちの近くで女子同士の乙女話に花を咲かせていた間野から話しかけられた。彼女とはその時はもう既に知り合っていて、といっても話した回数が多いわけではなかったのだが、間野はそういうのを気にするタイプではなかった。


「ねぇ!宗もそう思うよね!!」

 いきなり話を振られ、俺はなんのことかさっぱりだ。

「…は?」

 頭の中に浮かぶでかいハテナマーク。テンションの高い奴なのはある程度知っていたが、入学して友人ができてから、昼時は毎度この調子だった。

「…なんの話?」

 彼女の声とはテンションの落差が激しい、何の変哲もない声で聞き返す。

「だから!ゆみちゃん!」

「は?」

 それでもなんのことか予想がつかない返答。だけど、ゆみ、という名前が出た時点でその話の先をもっと聞かせてほしかった。

 アイツがゆみ、という名前であることは既になんとなく覚えている。だから素っ気なく返してはいても、内心は何かを期待していた。

 もしかしたら、何か、があるんじゃないかって。前原友海と、近づけるんじゃないか、なんて。

「奈々ちゃん、最初から」

 間野と一緒に昼食を摂っていた角屋が、彼女を冷静にさせる。

「あぁはーい。今ね!ゆみちゃんかわいいよねって言ってたの!!」

「ゆみ、って…」

 俺は言葉の続きを手で補った。掌で前原を指し、視線を変えた顔と目で間野に問う。

 期待に、心臓の鼓動が早まっていった。

「うん、そう!」

 正解ということを頷きでたっぷりと訴えてくる間野。

 それに圧倒されながらも、恐る恐る前原へと視線を移した。

 黙って状況を伺っている彼女と目が合う。

走る緊張感。心臓を発った血があっという間に全身を駆け巡った。自分の見た目や言動が急に気になり出す。

「えと、どうも」

 パッと出てきたのがそれで、とりあえず適当な挨拶を投げかける。笑顔も愛想もあったもんじゃない。無機質すぎる表情。

 その反応が予想外だったのか、前原は吹き出した。

「どう?!ゆみちゃん!!」

 間野が身を乗り出して聞いてくる。さっきにも増して圧がすごい。

「ど、どう…って言われてもな…」

 俺は言葉を詰まらせる。

 なんていうべきか…、そりゃ前原は綺麗で可愛いとは思うし、だから俺も気になった訳だが。こうも注目を集められていると、ただでさえ躊躇するのに尚更下手な答えは返せなくなる。

 純粋に思ったことを伝えるか…、マジレスしすぎて気持ち悪がられるかもしれない。だからといって、素っ気ない対応をするのも変にカッコつけてるように思われそうだし、相手を傷つけてしまうかもしれない。

 ガタガタしたおぼつかない言い方になるのも嫌だしな…。

 俺の返答に注目する角屋、間野、前原などの女子たち、最後に、昼飯を食べる手すら食器から話して腕を組む日堂にチラリと目を向けて、俺は口を開く。

「まあ…、綺麗なんじゃない?」

 俺は簡潔に、こちらの迷いや焦りを悟らせないようにサラリと告げた。「お〜」、前原以外の女子たちがニヤけている。

「な、なんだよ?」

 良い方にことが転がっているのか、悪い方に転がっているのかさっぱりだ。そしてまた前原と目が合う。 口に手を当てて微笑んでいる彼女。


「面と向かって言われると、恥ずかしいね」


 そう言って純粋に笑う彼女にまた心惹かれていく俺だった。


―――


(懐かしいな…)

 俺は瞼を虚ろに開いたまま、どこでもない場所を見つめていた。

 大人っぽいなんて、今思えば緊張で喋る言葉がなかっただけなんじゃないかとも思ったりする。

「一緒に頑張ろ!」

 肩を軽く叩かれ、回想から一気に現在(いま)に引き戻された。

 叩いた友海が俺の顔を覗き込む。傾いた黒髪、より近くで鮮明に映り込んだ綺麗な瞳。また、想いがぶり返しそうになる。

「あ、あぁ」

 そう返答したが、それでも俺はまだ少し、過去という夢に浸っていた。

 「また後でね」、別のグループへと向かっていく友海。

(…そういえば、あの時も)

 彼女が肩を叩いてくれたことを遅れて意識し始めた。右手がゆっくりと左肩に近づいていく。

ドキドキと嬉しさと、名残惜しさが残ったこの感じ。

懐かしい。


 …過去という夢に、あの時からずっと浸り続けている。


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